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対話から始める平和への道 ~遠回りに見えても~


横須賀海軍施設沖の軍艦の視察(写真:生活クラブ神奈川)

「共生と非戦の立場を貫き、平和で公正な社会をめざします」。生活クラブ連合会が、連合憲章に基づき掲げる「生活クラブ2030行動宣言」の重要目標の一つだ(7ページに関連記事)。共に生きるとは何か。争わずにどう合意していくのか。各地域の生活クラブは、その意味を考えながら具体的な活動を展開する。今回紹介するのは、生活クラブ神奈川、生活クラブ都市生活、生活クラブ京都エル・コープの活動事例。そこに共通するのは、自分らしく生きるための「対話」の場づくりであり、話し合いながら社会に働きかけていく、一人一人の行動だ。

生活の中の米軍基地

神奈川県の在日米軍施設・区域の面積は、沖縄県、青森県に次いで全国3位。原子力空母の排水や戦闘機の爆音などで注目される基地の他、生活圏内にありながら市民が気づきにくい施設も多い。そこで、生活クラブ神奈川の環境・平和委員会は、県内の米軍基地や関連施設を視察する「ピースリングツアー」を行っている。ローカルパーティ(地域政党)「神奈川ネットワーク運動」と共催で組み立てたツアーで、同団体が地域の市民団体との調整や案内役を担う。

昨年は、横浜・横須賀コースを視察。観光客でにぎわうみなとみらい(横浜市西区)からスタートし、米軍の物資を陸揚げする巨大ふ頭や「思いやり予算」によって建設された在日米軍家族の居住地区などを回った。

「特にインパクトがあったのは、ヨコスカ平和船団のボートに乗船したこと」と話すのは、生活クラブ神奈川・副理事長の佐野めぐみさん。市民団体が、横須賀海軍施設沖を出入りする駆逐艦や巡洋艦、潜水艦を定期的に監視している。「湾岸戦争の口火を切ったミサイルが、まさにこの海から輸送されたものだと知って、戦争がいきなり自分の問題になった」と言う。

今年7月にはキャンプ座間を含む県央コースを視察した。参加した組合員が県内各地でそれぞれの活動を広げることがねらいだ。「でも、一番の目的は友達や家族など身近な人同士、平和について話し合うこと」と佐野さん。「近隣の米軍基地や施設に関心を持つことがきっかけになればと考えています」

奪わない食がつくる平和


ケニア交友会を講師に招いてのオンライン講座(写真:生活クラブ都市生活)

生活クラブ都市生活(本部・兵庫県西宮市)は、「食べることから始める平和」をテーマに活動する。きっかけは2019年に沖縄県で開催した生活クラブ連合会研修。名護市辺野古のキャンプ・シュワブや焼失前の首里城を訪ね、国の政策によって地域の人々が分断される現状や沖縄がアジアの民衆交易の要だったことを再認識した。当時の理事長が、研修の報告を兼ねて平和について話し合う場を持ちたいと活動が始まった。

20年はオリーブオイルを通じてパレスチナ問題を考え、21年には関西で独自に取り組む消費材、ケニア産紅茶の利用が現地の女性の自立や教育現場の改善につながることを学んだ。消費材への興味関心から参加した組合員にとって、縁遠く感じる平和の活動が実は誰にでも参加できる身近なものだと気づく機会になった。

2年続けて海外に注目した後、昨年は国産鶏種「丹精國鶏(くにどり)」を取り上げ、国内自給について考えた。この活動を担当する菊田宏子さんは、「私たちも加害者になっていないか。安易な輸入により産地の食べ物を奪ってはいないかを考えることが目的」と説明する。

福祉担当の理事でもある菊田さんは、「福祉国家といわれるデンマークでは、小さいころから常に『あなたの意見はどう?』と聞かれ、自分の問題として考えることを身につけていくといいます。そう聞いたとき、福祉って相手のことを考えて共生することなんだと胸に落ちました」と話す。

戦争が起きていなければ平和なのか。誰もが安心して暮らすことのできない社会は平和とはいえないのではないか。そうした視点を持って活動を継続していくと言う。

体験のシェアから


「歩いて出会おう、東九条」フィールドワークの様子(写真:生活クラブ京都エル・コープ)

「ゆっくり学んでいく場がほしかった」と話すのは、生活クラブ京都エル・コープの坂尻美妙さん。専門委員会「こつこつ平和部」の委員長を担っている。平和や人権について頭ではわかっても、何をしたらいいのかとモヤモヤしていた3年前、理事会が主催した「戦争の語り部 村上敏明さん お話し会」に参加した。70年間誰にも語ることのできなかったアジア・太平洋戦争の過酷な体験を対面で聞く会では村上さんを取材したショートムービーも上映され、この企画の参加者を中心にこつこつ平和部が立ち上がった。

平和部の最初の企画は、村上さんのショートムービーを製作したジャーナリスト、伊藤詩織さんの話を聞く会だ。伊藤さんの性的暴行被害の裁判を応援してきたメンバーの協力で実現した。さらに、女性への性暴力の問題から日本軍「慰安婦」の問題へと平和部の関心は深まった。アジアのさまざまな地域に少女のころ負った深い傷を抱えて生きる女性たちがいる。そうした女性たちと交流し、証言を聞く活動をするメンバーを迎えて、活動をシェアする会も行った。

昨年からは「歴史から学び、いまを見つめる」フィールドワークを始めた。京都には朝鮮半島にルーツを持つ「在日コリアン」の集住地区が多く存在する。第1回はその一つ、宇治市ウトロ地区の平和祈念館の見学会を行った。ルーツの異なる人々に対する偏見と差別から「ネトウヨ」の若者が放火事件を起こした現場も見学した。第2回は東九条地区の街歩き。在日コリアンだけでなく、さまざまな理由で被差別部落から移り住んできた高齢者も多く住む地域だ。

こうした活動の報告とともに、平和と人権をテーマに安心して話し合える場をつくっていることも平和部の特徴だ。カフェを借り、顔を合わせて話すこともあれば、オンラインを活用して次にどんなことをしていきたいか、情報を交換する方法も取っている。坂尻さんはこう話す。

「京都は歴史の街ですが、なかったものにされてしまいそうな新しい歴史もあります。死刑制度など別の視点でも、平和と人権についてこつこつ探りながら学んでいくこの形を、続けられたらいいなと思っています」
★『生活と自治』2023年8月号 「生活クラブ 夢の素描(デッサン)」を転載しました。
 
【2023年8月30日掲載】
 

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