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坊勢は魚介の宝庫で「しあわせの島」


 
兵庫県漁業協同組合連合会と生活クラブ連合会の提携は10年に及ぶ。兵庫県漁連に所属する漁協の一つに瀬戸内海に浮かぶ小島の坊勢(ぼうぜ)漁協があり、多彩な魚介が取れる。兵庫県漁連と坊勢漁協はタッグを組んで生活クラブ組合員の食卓を彩り、漁師の収入安定にもつながる消費材の開発に取り組んでいる。

島のハンディを乗り越える

快晴の8月下旬、瀬戸内海は穏やかで船の上では漁師が一人で網を上げている。取れた魚はハモやヒイカ、シズ(イボダイ)など。一回の水揚げはけっして多いとはいえないが、小型底引き網漁は、網を小一時間引いては上げる漁を1日に10回ほど行なう。

「大ハモが取れている。今年は水揚げがなくて心配していたから良かった」と、坊勢漁業協同組合・総務部長の竹中達彦さんは胸をなでおろす。

坊勢漁協は姫路市から船で約30分行った瀬戸内海東部の家島(いえしま)諸島・坊勢島にある。家島諸島は大小44の島々からなっており、漢数字の四十四は「四たす四」とも見え、「し」と「し」を合わせて「しあわせの島」と呼ばれている。その中でも坊勢島はもっとも漁業がさかんで、港あたりの船の数は日本一を誇る。小型底引き網漁ではタイやヒラメ、エビ、カニなどが取れる。生活クラブで扱う消費材、「瀬戸内海産真鯛(まだい)切り身」「瀬戸内海産舌平目」「瀬戸内海産すずき切り身」の原料は坊勢漁協で取れた魚だ。

瀬戸内海産でも本州側の明石で水揚げされる「明石たこ」や「明石鯛」は知名度が高く、神戸や大阪など大消費地に近いので販路には事欠かない。しかし坊勢漁協は取れる魚介が豊富でも、島に魚市場がないなど、流通にハンディがある。水揚げされた魚は漁協が買い取り、出買船(でがいせん)と呼ばれる船で本州に運び、姫路や神戸、明石、岡山の魚市場に出荷している。

「坊勢は漁業が主産業の島です。私たちは魚にこだわり、増やしていくために1978年と早くから『育てる漁業』に取り組み、ヒラメやメバルなどの稚魚を育成して放流しています」と、坊勢漁協・参事の上西典幸さんは明かす。ヒラメなどは大きくなるまで育てても、泳ぎ回るので他の漁協が取る可能性がある。そのため回遊魚を育成する漁協は全国でもめずらしいのだが、坊勢漁協の漁師は「ヒラメなどは確実に増えている」と言い、育成事業に力を注いでいる。

また、兵庫や大阪の海沿いでは「くぎ煮」づくりは春の風物詩だが、原料となるイカナゴの主産地の一つが坊勢漁協だ。時季になると飛ぶように売れる魚だが、持続可能な漁業をめざす坊勢漁協は以前は1カ月半あった漁期を、今年は11日間に短縮するなど資源管理を徹底している。
左から兵庫県漁連の西本広幸さん、坊勢漁協の竹中達彦さん、竹中太作さん、上西典幸さん、岡田守人さん、兵庫県漁連の張伸さん


小型底引き網で取れた魚介を仕分ける
 
専用の器具でハモをつかみ、大きさで分ける

手間がかかり売れない大ハモ

そんな坊勢漁協だが漁師は2002年度をピークに、4分の3の約450人に減っている。水揚げも小型底引き網漁は最盛期には年間14億円以上あったものの、最近は半減しておりけっして楽観できる状況ではない。そこで漁協は坊勢の魚のおいしさを多くの人に知ってもらおうと、15年から本州側に「姫路まえどれ市場」を開設して新鮮な魚介でつくった食事の提供や直売を始めた。19年には80人乗りの見学船を導入して、底引き網漁を間近で見られる企画を実施するなど、坊勢の魅力を積極的に発信している。

「取れた魚を見学船に運び、参加者に種類ごとに魚介を分けてもらいます。それを船上でさばくと、魚を食べられなかった子どもが『おいしい』と言ってくれるのです」と、竹中さんは坊勢の認知度向上や魚食普及の手応えを感じている。

毎年7月を中心に行なわれる大阪の天神祭や京都の祇園祭では、ハモが欠かせない食材になっている。白身で淡泊な味わいが関西の人に好まれるのだが、一尾に3000本以上の小骨があり、「骨切り」という技術を要しないと食べられない魚だ。坊勢漁協はハモの主産地の一つで、8月中旬頃には1キロを超える大ハモが取れることで知られている。しかし、大ハモは肉厚で食味がよいにもかかわらず、「骨切り」の手間がかかり過ぎることから市場価格が下がり、漁師の収入は芳しくなかった。

この問題に対し坊勢漁協が所属する兵庫県漁連は、自前の水産加工センターで大ハモを原料とした「瀬戸内海産はもカツ」を開発。生活クラブは「あまり利用されていない魚の有効活用につながる」と共同購入することを決定した。

ちなみに水産物は、鮮魚での流通には限界がある。大漁だった際は価格が暴落して漁師の収入は上がらない。缶詰や冷凍品を製造する水産加工業があることで取れた資源は有効活用され、漁師の収入安定につながる。水産加工センターは兵庫県に水産加工業が少なかったことから、漁師の収入を考えて兵庫県漁連が20年以上前に設立したものだ。

兵庫県漁連・流通加工部長代理の張伸(ちょうしん)さんは次のように語る。
「大ハモは水揚げ後すぐに坊勢漁協で生け締めにし、船で加工センターに運びます。加工センターは坊勢島には近い姫路にあるので鮮度は『折り紙つき』です。骨切りは専用に開発された機械で、食感のよい2ミリ幅で的確に行なっています」

ハモはエビやカニ、タコなど漁で取る魚介を食べてしまう。一方、ハモをエサにする魚が少ないことから、ハモは増加傾向にある。消費材として食べることは漁師の収入だけではなく、水産資源の保全にも役立つという。
ハモはどう猛で生命力が強く、水揚げされても長く生きている
 
冬は底びきの漁具を変えてエビやカニをねらう


へ先に飾りをほどこした漁船も

漁連と漁協の連携プレー

アカエイは肉厚で重くぬめりもあって、さばくのは容易ではない
 
ハモと同様に漁師を困らせているのがアカエイだ。アサリなど二枚貝を食べてしまう、いわゆる「食害魚」である。かつては漁村などで刺し身や煮つけで食べられたり、欧州ではフィッシュ・アンド・チップスの原料にも使われたりするが、あまりなじみのある魚類とはいえない。そこで兵庫県漁連の加工センターは唐揚げにすることを考えた。アカエイは脂が少ないので唐揚げとの相性はよい。ただ座布団くらいの大きさのものもあり軟骨も多く、さばくのはすべて手作業で時間がかかる。それでも取れたらすぐ生け締めにするなど漁師に協力を得ることで、エイ特有のアンモニア臭を抑えることができた。そして、18年に兵庫県で開催された生活クラブと兵庫県漁連の水産交流会で組合員試食に供された。

「プリッとした身の食感が、組合員の方に好評でした。アカエイを消費材にして継続的に食べることが二枚貝などの資源保護にもつながることを理解いただき、ありがたいと思いました」(張さん)

兵庫県漁連との水産交流会は、新型コロナウイルスの流行もあって今年度5年ぶりに開催された。消費者と漁業者が困っていること、望むことなどを話してお互いを知り、それぞれが相手のために何ができるかなどを考える機会となった。

坊勢漁協・組合長の竹中太作さんは役職を引き受ける前は、小型底引き網の漁師だった。「昔はアナゴもたくさん取れた」と振り返る。船を動かす燃油も高くなり漁師の経営は厳しく、「後を継いでほしい」と子どもに言うのをためらう人が多い。
それでも坊勢漁協には、漁師の収入安定を考える兵庫県漁連との密接な連携がある。その後景には生活クラブの組合員がいる。消費材の「兵庫県産ひいか」や「兵庫県産てんじく鯛の唐揚げ」など、スーパーでは見ることのない製品の原料産地は坊勢漁協で、食べることが「しあわせの島」の漁師の暮らしに確実につながっている。
 

撮影/高木あつ子
文/本紙・橋本 学

魚を育む豊かな瀬戸内海に

褐色で細長いのはヨウジウオ、白いのはタチウオ。タイやタコのチリモンも

兵庫県漁連は瀬戸内海の水質改善に取り組んでいる。1955年頃から水質汚染が瀬戸内海で問題になり始めた。生活や工場の排水が原因で、70年に水質汚濁防止法、73年に瀬戸内海環境保全臨時措置法(以下、瀬戸法)ができるなど規制が始まった。以来、水質は大きく改善したものの、93年から窒素やリンも規制の対象になって瀬戸内海に変化が起こりだした。魚が減り、ノリが色あせてきたのだ。

「徹底した休漁など資源管理をしているのに水揚げが回復しない。どうしたらよいかと焦りました」と、兵庫県漁連・指導部広報担当課長の西本広幸さんは振り返る。
兵庫県漁連や国などの研究機関が水質を調べたところ、窒素やリンが不足し魚介にとって貧栄養の状態であることがわかった。
「窒素やリンは畑でいえば肥料にあたるもの。これらを栄養として植物プランクトンが増え、それを動物プランクトンが食べて、さらに魚類が食べることで海の生態系は成り立っているのです」(西本さん)

瀬戸内海を守ろうとした規制が、魚にとって育ちにくい環境をつくってしまったのだ。再び魚のすめる海にもどすため兵庫県漁連は他の漁連や漁協とともに、署名活動を行なった。そして2019年には兵庫県が窒素やリンが不足しないように条例で下限値を設け、21年には瀬戸法が改正されて窒素やリンが供給できるようになった。現在は各海域で水質に合わせた改善が進められている。

兵庫県漁連に所属する漁協も、魚がすめる環境づくりに取り組んでいる。山の栄養が川から海に届くように植林をしたり、坊勢漁協は魚のすみかとなる人工漁礁を設置し、海域を禁漁区として守っている。
「イカナゴやチリメン漁で大量のプラスチックごみが網に入ります。漁協の負担で処理せざるを得ません。プラスチックは海に捨てたつもりはなくても、海にたどりついているのです」と西本さん。瀬戸内海は外海からの流入が限られるため、プラスチックごみは陸から入ってくるものが多いと考えられる。街での人々の行動が影響しているのだ。

兵庫県漁連は子どもに魚や海に関心を持ってもらおうと、「チリメンモンスター(チリモン)」と呼ばれる企画を実施している。イワシの稚魚を塩ゆでして干したのがチリメンジャコだが、イワシの中には、イカやタコなど他の生物も交じる。これがチリモンだ。規格外としてよけられたチリメンジャコからチリモンを探す企画は、子どもに大人気だ。チリモンをはじめ海岸のクリーンアップ大作戦、底引き網漁見学など、兵庫県の生活クラブ都市生活との連携が進んでいる。

海の栄養以外にも気候危機による海水温の上昇や、ダム建設による砂の減少、埋め立てによる藻場(もば)の消失など、海を取り巻く環境は厳しさを増している。子どもたちが楽しく魚や海を知り、多種の魚がすめる瀬戸内海を取りもどす意識が高まることを兵庫県漁連とともに期待したい。

 
撮影/高木あつ子
文/本紙・橋本 学
 
『生活と自治』2023年11月号「新連載 ものづくり最前線 いま、生産者は」を転載しました。
【2023年11月20日掲載】
 

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