無添加加工肉のパイオニア
山形県酒田市にある平牧工房では、平田牧場の豚肉を原料に、添加物を使わずにウインナーやハム、ベーコンなどの加工肉を作る。50年前に無添加のウインナー作りに挑戦してから、製造技術を磨き、流通の環境を整え、生活クラブの組合員の食卓を豊かに彩ってきた。
無添加ウインナーの取り組みへ
専務執行役兼事業本部副本部長の幸田祐治さん
「最初から添加物を使わないで加工肉を作り流通させるのはとても難しく、ハードルが高かったと思いますよ」と話すのは、山形県酒田市にある平牧工房専務執行役の幸田祐治さん。長年、加工肉の製造に携わり、現在は原料の豚肉を生産する平田牧場の専務執行役も務める。
生活クラブが、平田牧場の豚肉で作る無添加のウインナーの実験取り組みを始めたのは1974年。当時は赤く着色されたウインナーが主流で、店舗で売れるのはきれいで色鮮やかな商品だった。しかし着色料や発色剤、防腐剤など、添加物の食品への使用が大きな社会問題となり、不必要な添加物を使わない食品が求められていた時期でもあった。
無添加のウインナーを最初に供給したのは2月。生活クラブの配送センターまでは冷蔵車で運んだが、そこから先は冷蔵設備がない。寒い時期ではあったが、組合員のもとへ届いた時には腐敗が発生したものもあった。無添加ウインナーは温度変化に敏感で非常に傷みやすい。組合員がウインナーを受け取り家庭で保管するまでの温度管理によっては、ボツリヌス菌による食中毒のリスクがある。いくら無添加でもそれでは供給できない。
生活クラブが、平田牧場の豚肉で作る無添加のウインナーの実験取り組みを始めたのは1974年。当時は赤く着色されたウインナーが主流で、店舗で売れるのはきれいで色鮮やかな商品だった。しかし着色料や発色剤、防腐剤など、添加物の食品への使用が大きな社会問題となり、不必要な添加物を使わない食品が求められていた時期でもあった。
無添加のウインナーを最初に供給したのは2月。生活クラブの配送センターまでは冷蔵車で運んだが、そこから先は冷蔵設備がない。寒い時期ではあったが、組合員のもとへ届いた時には腐敗が発生したものもあった。無添加ウインナーは温度変化に敏感で非常に傷みやすい。組合員がウインナーを受け取り家庭で保管するまでの温度管理によっては、ボツリヌス菌による食中毒のリスクがある。いくら無添加でもそれでは供給できない。
だが、あきらめることはせず、課題を明らかにしたうえで、必要最低限の保存料を添加するなど対策をとり、5月より本格的に共同購入を始める。その後、組合員の間では無添加ウインナーは保存食品ではなく生鮮食品であるとの認識が広まっていった。製造方法が見直され、冷蔵配送の仕組みも整えられ、83年、ウインナーソーセージ(現・ポークウインナー)からソルビン酸が抜かれ、無添加となった。
無添加実現のための対策の一つに製造設備への投資がある。その頃すでに、平牧工房(当時・太陽食品)の製品の包装室は無菌状態のクリーンルームだった。「本来なら、無菌室は製薬会社が薬を扱うような場所でしか採用されないのが普通で、食品会社がクリーンルームを持つというのは、大変珍しい時代でした。それだけ早くから、無添加の製品を扱うための環境整備が整っていたのですね」と幸田さん。さらに「温度管理も含め衛生面のルールを決め対策してきたことが、無添加で多くの種類の加工肉を作る今につながっているのです」と言う。
無添加実現のための対策の一つに製造設備への投資がある。その頃すでに、平牧工房(当時・太陽食品)の製品の包装室は無菌状態のクリーンルームだった。「本来なら、無菌室は製薬会社が薬を扱うような場所でしか採用されないのが普通で、食品会社がクリーンルームを持つというのは、大変珍しい時代でした。それだけ早くから、無添加の製品を扱うための環境整備が整っていたのですね」と幸田さん。さらに「温度管理も含め衛生面のルールを決め対策してきたことが、無添加で多くの種類の加工肉を作る今につながっているのです」と言う。
ベーコンを作るためにバラ肉を成形する。加熱時に肉がはがれたり、カットした時に崩れるのを防ぐように整える
バラ肉を漬け込み液に漬け込んだ後、リテーナという金型に入れ、スモークする
スモークチップをたき、ポークウインナーやベーコンをスモークする。チップはサクラとオニグルミ
乳たんぱくも使わない
加工肉の始まりはウインナー。今でも人気NO.1
加工肉の製造では、さまざまな添加物を使いコストを抑え、安価で見た目のいい製品を簡単に作ることができる。
そのひとつがリン酸塩だ。保水性がありプリプリの食感を作り、変色を防ぎ鮮度を保つなどの働きがある。コストを抑えるため原料豚肉の量を減らし、必要以上の副材料を使い、増量する場合にはそれらを結着させ形を保つためリン酸塩が使われる。リン酸塩は過剰摂取するとカルシウムの吸収を阻害することが知られている。増量により肉の風味が薄れる場合は、化学調味料を使い着色料で色を補うなど、加工度が上がるほど使用する添加物の量が増えていく。
平牧工房ではこれらを一切使わない。ポークウインナーは、平田牧場の豚肉と調味料、香辛料を主原料に、つなぎにはえんどう豆とバレイショのでんぷんが使われる。当初、大豆たんぱくが使われていたが、97年、生活クラブが遺伝子組み換え作物を使わないと宣言したことを受け、遺伝子組み換えでない大豆で作る大豆たんぱくを世界中で探した。しかし品質の面で使えるものはみつからず、代わりに考えられたのが牛乳から作る乳たんぱくだった。だが、乳たんぱくに対しても、乳アレルギーがあると食べられないため使わないでほしいと、組合員からは多くの要望が寄せられた。
加工肉の製造では、さまざまな添加物を使いコストを抑え、安価で見た目のいい製品を簡単に作ることができる。
そのひとつがリン酸塩だ。保水性がありプリプリの食感を作り、変色を防ぎ鮮度を保つなどの働きがある。コストを抑えるため原料豚肉の量を減らし、必要以上の副材料を使い、増量する場合にはそれらを結着させ形を保つためリン酸塩が使われる。リン酸塩は過剰摂取するとカルシウムの吸収を阻害することが知られている。増量により肉の風味が薄れる場合は、化学調味料を使い着色料で色を補うなど、加工度が上がるほど使用する添加物の量が増えていく。
平牧工房ではこれらを一切使わない。ポークウインナーは、平田牧場の豚肉と調味料、香辛料を主原料に、つなぎにはえんどう豆とバレイショのでんぷんが使われる。当初、大豆たんぱくが使われていたが、97年、生活クラブが遺伝子組み換え作物を使わないと宣言したことを受け、遺伝子組み換えでない大豆で作る大豆たんぱくを世界中で探した。しかし品質の面で使えるものはみつからず、代わりに考えられたのが牛乳から作る乳たんぱくだった。だが、乳たんぱくに対しても、乳アレルギーがあると食べられないため使わないでほしいと、組合員からは多くの要望が寄せられた。
平牧工房は試作を重ね、2010年、まず子どもが多く食べるポークウインナーから乳たんぱくを除いた。さらに24年1月より、乳たんぱくを使っていたベーコンの製造をやめ、長熟だし仕込みベーコンに統一した。製造技術や熟成期間などを工夫し、乳たんぱくを使わない製法で作るベーコンだ。カツオや昆布、シイタケなど和風だしで作った漬け込み液に長時間漬け込むことで、風味をつけるだけでなく食感も損なわずに済む。同じ部屋で2種類の製法で作ることに比べ、乳たんぱくの混入リスクもなく、効率もよくなった。
「何より、アレルゲンを除いて、家族みんなが同じものを食べることができるようにしたかったのです。別々に調理しなくて済むから手間も省けますね」と、開発を担当した商品開発課の髙橋祐(ゆう)さん。無添加で加工肉を作るプロとしてのこだわりと、食べる人への愛情を持っている。
「何より、アレルゲンを除いて、家族みんなが同じものを食べることができるようにしたかったのです。別々に調理しなくて済むから手間も省けますね」と、開発を担当した商品開発課の髙橋祐(ゆう)さん。無添加で加工肉を作るプロとしてのこだわりと、食べる人への愛情を持っている。
商品開発課の髙橋祐さん
無塩せき無添加の生ハム
もうひとつ、加工肉の製造によく用いられる食品添加物が、発色剤の亜硝酸塩だ。ボツリヌス菌による食中毒を防いだり、豚肉の獣臭をなくすマスキング効果もある。しかし、他の添加物と結びついて発がん物質を作ることが知られている。
加工肉を製造する時に亜硝酸塩を使わない方法を「無塩せき」という。生活クラブの加工肉はすべて無塩せきで、他の添加物も使わない。市販品の中には無塩せきと表示があっても、日持ちを良くするためのペーハー調整剤やリン酸塩、味を調えるためのアミノ酸などの化学調味料など、他の添加物を使うものがある。無塩せきと表示されていても、これらが無添加というわけではない。
生ハムは、調味液に漬けた生のモモ肉を長期間乾燥熟成して作る。もともとヨーロッパの乾燥した冷たい風が吹く冷涼な気候の中で作られる。高温多湿な日本の気候ではカビが生えたり細菌が増えたりするのを予防することが難しく、亜硝酸塩の使用が必要だ。
07年、平牧工房は無塩せきの生ハム製造にも挑戦した。日本で亜硝酸塩を使わない生ハムの製造は難しく、安全性を懸念した組合員の考えにより、一度は断念する。しかしその後5年の月日をかけて熟成の方法を思考錯誤し、無塩せきの生ハム製造の技術を確立した。
「このように、今まで作ってきたひとつひとつの消費材には組合員と紡いできた物語があるのですよ」と幸田さん。23年には、生活クラブ長野の組合員と1年間をかけて開発した「これ好き!スライスソーセージ」と「これ好き!ブロックソーセージ」を登場させた。担当した髙橋さんは、「コロナ禍の中で大変でしたが、市場調査をし、試作を何回も繰り返し、規格、重量、価格、消費材名までいっしょに考えました。こうしてできた消費材への思い入れはとても強いです」と話す。
「原材料が値上がりし、光熱費や輸送にかかる費用も高くなりました。添加物を使いコストを下げて製品の価格を抑えることもできます。でも、自分の家族に自信を持って食べてもらうことができる加工肉を作っていきたいですね」。幸田さんは食の生産者としての心構えを教えてくれた。
加工肉を製造する時に亜硝酸塩を使わない方法を「無塩せき」という。生活クラブの加工肉はすべて無塩せきで、他の添加物も使わない。市販品の中には無塩せきと表示があっても、日持ちを良くするためのペーハー調整剤やリン酸塩、味を調えるためのアミノ酸などの化学調味料など、他の添加物を使うものがある。無塩せきと表示されていても、これらが無添加というわけではない。
生ハムは、調味液に漬けた生のモモ肉を長期間乾燥熟成して作る。もともとヨーロッパの乾燥した冷たい風が吹く冷涼な気候の中で作られる。高温多湿な日本の気候ではカビが生えたり細菌が増えたりするのを予防することが難しく、亜硝酸塩の使用が必要だ。
07年、平牧工房は無塩せきの生ハム製造にも挑戦した。日本で亜硝酸塩を使わない生ハムの製造は難しく、安全性を懸念した組合員の考えにより、一度は断念する。しかしその後5年の月日をかけて熟成の方法を思考錯誤し、無塩せきの生ハム製造の技術を確立した。
「このように、今まで作ってきたひとつひとつの消費材には組合員と紡いできた物語があるのですよ」と幸田さん。23年には、生活クラブ長野の組合員と1年間をかけて開発した「これ好き!スライスソーセージ」と「これ好き!ブロックソーセージ」を登場させた。担当した髙橋さんは、「コロナ禍の中で大変でしたが、市場調査をし、試作を何回も繰り返し、規格、重量、価格、消費材名までいっしょに考えました。こうしてできた消費材への思い入れはとても強いです」と話す。
「原材料が値上がりし、光熱費や輸送にかかる費用も高くなりました。添加物を使いコストを下げて製品の価格を抑えることもできます。でも、自分の家族に自信を持って食べてもらうことができる加工肉を作っていきたいですね」。幸田さんは食の生産者としての心構えを教えてくれた。
撮影/田嶋雅已
文/伊澤小枝子
文/伊澤小枝子
夢を描く準備は整った
左より、平田牧場の酒田京田ミートセンター長の志田賢さん、平田牧場と平牧工房の専務執行役、幸田祐治さん、平牧工房商品開発課の髙橋祐さん
平牧工房の無添加の加工肉の品質を支えるのは、原料肉となる豚を飼育する平田牧場だ。安定して質の良い肉を生産する品種を交配し、遺伝子組み換えでない飼料や飼料用米を使い、清潔で豚が過ごしやすい環境を整え、何より愛情を持って豚を飼育している。
1974年、ウインナーの取り組みが始まり、第1回庄内交流会となる産直視察交流会が開催され、生活クラブの組合員が平田牧場を訪れた。「丸くて長い豚たちが牧草畑のひろがる牧舎に肥育されているのを見ました。明日が出産予定のブーお母さんの大儀そうな姿も見ました。そして数え切れない子豚の群れを。それから良心的な生産者が、いかに良い豚肉を作ろうとしているかを見ました。私たちは、ぜひ、この豚肉を食べたいと思いました」。交流会に参加した組合員の言葉が当時の「生活と自治」に掲載されている。
この交流会をきっかけに、平田牧場の豚肉の取り組みが始まる。組合員は、豚肉の、モモ、バラ、カタ、ロースなどの部位の構成を学習し、流通の方法を検討するなどして、1キログラムのブロック肉を1頭単位で利用することから始めた。肉を切り分ける時、また、ハムやベーコン用に成形する時に発生する端肉は、ひき肉やソーセージ類の材料にするなど、豚1頭分を余すことなく使うという食べ方は今も変わらない。
平牧工房の無添加の加工肉の品質を支えるのは、原料肉となる豚を飼育する平田牧場だ。安定して質の良い肉を生産する品種を交配し、遺伝子組み換えでない飼料や飼料用米を使い、清潔で豚が過ごしやすい環境を整え、何より愛情を持って豚を飼育している。
1974年、ウインナーの取り組みが始まり、第1回庄内交流会となる産直視察交流会が開催され、生活クラブの組合員が平田牧場を訪れた。「丸くて長い豚たちが牧草畑のひろがる牧舎に肥育されているのを見ました。明日が出産予定のブーお母さんの大儀そうな姿も見ました。そして数え切れない子豚の群れを。それから良心的な生産者が、いかに良い豚肉を作ろうとしているかを見ました。私たちは、ぜひ、この豚肉を食べたいと思いました」。交流会に参加した組合員の言葉が当時の「生活と自治」に掲載されている。
この交流会をきっかけに、平田牧場の豚肉の取り組みが始まる。組合員は、豚肉の、モモ、バラ、カタ、ロースなどの部位の構成を学習し、流通の方法を検討するなどして、1キログラムのブロック肉を1頭単位で利用することから始めた。肉を切り分ける時、また、ハムやベーコン用に成形する時に発生する端肉は、ひき肉やソーセージ類の材料にするなど、豚1頭分を余すことなく使うという食べ方は今も変わらない。
豚肉の取り組みを始めてから50年が過ぎる。組合員のライフスタイルや食生活が変わり、ブロック肉に加えてスライス肉を始めたり容量を少なくしたりなど、取り扱う品目数が増えた。複雑になった製造ラインの動線を整理し、効率よく仕事をすすめるため、酒田京田ミートセンターが2023年8月より稼働している。
ミートセンター長の志田賢さんは、「原料の部分肉の入荷からカッティング、包装、段ボール詰めまで、作業は一直線に進みます。以前のミートセンターの3倍の製造能力がありますよ」と胸を張る。工場の屋根に設置された太陽光パネルは544枚。昨年8月は、工場で使う電気量の2割を賄った。施設内には会議室や、WEB交流会ができるように厨房(ちゅうぼう)を備えたスタジオもある。「より多くの組合員と接することができるようになりました。これからの50年が楽しみですよ」と志田さん。組合員と描く夢が続く。
ミートセンター長の志田賢さんは、「原料の部分肉の入荷からカッティング、包装、段ボール詰めまで、作業は一直線に進みます。以前のミートセンターの3倍の製造能力がありますよ」と胸を張る。工場の屋根に設置された太陽光パネルは544枚。昨年8月は、工場で使う電気量の2割を賄った。施設内には会議室や、WEB交流会ができるように厨房(ちゅうぼう)を備えたスタジオもある。「より多くの組合員と接することができるようになりました。これからの50年が楽しみですよ」と志田さん。組合員と描く夢が続く。
平田牧場の酒田京田ミートセンター。2023年8月より、ここでパックされた豚肉が組合員のもとへ届けられている
撮影/田嶋雅已
文/伊澤小枝子
文/伊澤小枝子
『生活と自治』2024年2月号「連載 ものづくり最前線 いま、生産者は」を転載しました。
【2024年2月20日掲載】