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とびきりの生乳を原料に【パスチャライズド牛乳、生乳100%ヨーグルト 他】


 
2019年、生活クラブの組合員による消費材再開発活動で、生乳100%ヨーグルトが誕生した。原料乳は提携酪農家が生産する質の良い生乳だ。一昨年のロシアによるウクライナ侵攻以降、輸入飼料の価格が高騰し、酪農家は厳しい経営状況にある。生活クラブは緊急カンパや基金を設立して支え、酪農家は稲WCS(稲発酵粗飼料)に取り組むなど、飼料の自給へ向けて挑戦をすすめている。

ヨーグルトに注目

「生乳100%ヨーグルトは2019年にデビューしました。生乳を乳酸菌で発酵させただけの、酸味を抑えたヨーグルトです」と話すのは、新生酪農管理部営業グループの土谷恭子さん。生活クラブ連合会の連合消費委員会に設置された「ヨーグルト類再開発チーム」のメンバーとともに、ヨーグルトの再開発にあたった。再開発のために新生酪農の千葉工場を訪れたメンバーを迎え、ヨーグルトの製造工程を紹介し、乳酸菌の学習会などを重ねてきた。
ヨーグルト類再開発のきっかけは、16年に行った「L's選定品」の利用点検の結果だった。「L's選定品」とは、誰もが日常よく使い、新しく加入した人にも勧めたいものとして組合員が選定する消費材だ。選定品については、総務省統計局の家計消費支出データを参考に、日本人の平均世帯当たり利用量の40%以上とする目標を設定している。プレーンヨーグルトは人気があり利用が多い消費材だが、なぜかこの目標を大きく下回っていた。

日本の牛乳の消費は1996年をピークに減少するが、その代わりにチーズやヨーグルトなどの乳製品の消費が順調に伸び、今ではヨーグルトは年間一人当たり10リットル以上の消費がある。これは、牛乳の消費にせまる支出額だ。それに比べ、生活クラブではヨーグルトの消費はそれほど伸びていない。そのため再開発チームはその原因を調べ、新しいヨーグルトの開発に取り組むことにした。
 
新生酪農管理部営業グループの土谷恭子さん。「生乳100%ヨーグルトは、『生乳をそのまま食べる』をコンセプトに開発しました」

組合員が選んだ乳酸菌

生活クラブが取り扱う乳製品の中でも、プレーンヨーグルトの開発は84年と古く、40年もの長い間多くの組合員に支持されてきた。「でも酸っぱいと感じて利用しない人も多いのです」と土谷さん。「長く食べ続けている人はジャムやはちみつを添えて酸味を調節しますが、市販の酸味の少ない製品に慣れていてそのまま食べる人は、酸味が強いと敬遠するようです」
そこで再開発チームは、酸味を抑えて毎日おいしく食べ続けられるヨーグルトを新たに作ることにした。生乳に乳酸菌を加えることで、生乳に含まれる乳糖が分解されてヨーグルトができる。脱脂濃縮乳などを加えて硬さを調節する場合もあるが、市場調査を行った結果、脱脂濃縮乳を使わず、生乳100%を原料にしたヨーグルトが販売されており、おいしいと評価を得ていることがわかった。再開発チームは、酸味が少ないことに加え、パスチャライズド牛乳の原料となる生乳のみを使い、その品質や生乳本来のやさしい甘みを生かしたヨーグルトを作りたいと、より具体的な目標を定めた。

まず乳酸菌の学習会を行う。そこでは、乳酸菌にはさまざまな種類があり、組み合わせにより、ヨーグルトの酸味、粘度、滑らかさなどを調節できることを知った。使用する乳酸菌を変えたヨーグルトの試食を重ね、望むような酸味や舌触りが得られる乳酸菌を選んだ。

「免疫力アップなどの機能性を持った乳酸菌の使用も考えたのですが、再開発チームは、パスチャライズド牛乳を乳酸菌で発酵させただけの、生乳の風味や栄養がそのまま残るヨーグルトを作りました」。土谷さんは、それまであった「プレーンヨーグルト」「脂肪と酸味をおさえたプレーンヨーグルト」に加え、生乳100%ヨーグルトが誕生し、組合員がそれぞれの好みに合ったプレーンヨーグルトを選べるようになったという。
 
生活クラブ連合会ビジョンフード推進部農畜産課の鈴木猛さん。「酪農家は生乳の提供を続けるために、稲を利用した飼料の自給に取り組み始めました」
生乳を搬入した後、調合タンクに入れた後、殺菌後などの各工程でサンプリングし、成分検査、微生物検査などを行う
 
原料の生乳。均質化、殺菌後、乳酸菌を添加して発酵させ、生乳100%ヨーグルトを作る
液体状の生乳と乳酸菌のミックスを容器に入れ、約43度で3時間から5時間をかけて発酵させる

酪農家の危機

生乳100%ヨーグルトは、千葉県長生郡睦沢町にある新生酪農千葉工場で作られる。原料乳はパスチャライズド牛乳の原料と同じ、質の良い生乳だ。提携酪農家は、生菌数、耐熱性菌数、大腸菌群数などで、一般より厳しい基準をクリアした生乳を提供するため、牛の健康状態に気を配り、牛舎の環境を整えるなど、日々の努力を続けてきた。現在、その酪農家の経営が危機的状況にある。

日本の飼料の自給率は約25%。配合飼料に含まれるトウモロコシや大豆粕(かす)は、ほとんどを輸入に頼り、価格高騰が続く。特に、2022年のロシアによるウクライナ侵攻後、国際情勢や円安、原油価格上昇による輸送コスト拡大のための飼料価格高騰が著しい。コロナ禍により外食産業が低迷し、休校で給食がなくなるなどしたため、牛乳や乳製品の需要が激減していた時期でもあった。さらに、酪農家は乳牛から生まれた雄の子牛を肉牛用に販売するが、飼料が高騰し肉牛肥育農家の買い控えが増えたため価格が下がり、収入が見込めない。

「経営が苦しくなる一方で、高齢化が進み、後継者が育たない酪農家は相次いでやめていきました。飲用乳の乳価は22年と23年に1キロ当たり10円ずつ上がりましたが、赤字が解消された程度で十分ではありません」と、生活クラブ連合会のビジョンフード推進部農畜産課の鈴木猛さん。酪農経営は厳しい状況が続いているという。

生活クラブの提携酪農家も経営困難に直面していることに変わりはない。生活クラブ連合会は、組合員に「酪農応援緊急カンパ」を呼びかけ、「牛乳応援基金」を設立した。鈴木さんは、「緊急事態のため早急な支援が必要でした。多くの組合員の支えが、酪農家の励みになっています」と話す。

稲をまるごと飼料に

千葉県東金市で酪農を営む伊藤良已さん。厳しい酪農運営が続くが、水田で「稲WCS」の栽培に挑戦している
 
「うちでは牧草のほとんどを輸入していますが、少しでも自前で用意できたらと稲WCSに取り組んでいますよ」と、千葉県東金市で伊藤牧場を運営する伊藤良已さん。10年ほど前より粗飼料の自給に取り組む伊藤さんは、生活クラブが提携する生産者団体、新生酪農クラブの組合員だ。13年、東金市と地元の飼料会社と協力して「東金市稲WCS生産機械利用組合」を立ち上げた。機械利用や作業を共同で行ない、飼料作物の生産拡大を目指している。稲WCSとは、米粒が完熟する前に穂と茎葉を刈り取り発酵させた粗飼料で、乳牛用の牧草の代わりにする。

伊藤さんは酪農家だが元々稲作もしており、現在は主食用米を17ヘクタール、生産組織で請け負う飼料用稲を13ヘクタールの水田で栽培する。さらに3ヘクタールで自家用の飼料用稲を栽培し、刈り取り後、一つ250キロのロールを1年分作り、1日に1ロールずつ乳牛に食べさせる。56頭の搾乳牛の他に育成牛と乾乳期の牛を合わせると90頭ほどの牛の世話もする。「稲作と酪農で1年中忙しいですよ。経営はやっと赤字にならない程度に戻ってきています。でも東金市には酪農家が7、8軒ありましたが、今はうちともう1軒になってしまいました」。それでも、給餌は全部、長男の良明さんに任せていると笑顔を見せてくれた。

パスチャライズド牛乳やヨーグルトを生産するためには、新鮮で良質な生乳が必要だ。できるだけ牛乳工場に近い場所で酪農が続けられることが重要になる。生活クラブの乳製品の原料乳を提供する酪農家が、酪農の未来を見据えた挑戦を続けている。

撮影/田嶋雅已
文/伊澤小枝子

生乳の風味をそのまま

生活クラブの牛乳の取り組みは、牛乳をまとめて安く購入することが始まりだった。利用しているうちに、価格の決め方や、製品の乳脂肪などの成分が調整されることを知ると、製造や流通に疑問を持つようになった。

1978年、生活クラブは、酪農家による原料乳の生産から牛乳製造、流通までが明らかな牛乳を得るために、地域の酪農家と共同で、千葉県長生郡睦沢町に新生酪農を設立する。79年より「自前の牛乳工場」を稼働させ、成分無調整牛乳の製造を開始した。

その後、牛乳の殺菌温度にも注目する。日本では、生乳に含まれる菌をすべて死滅させる130度2秒間殺菌(UHT)が主流だ。しかし生活クラブは、88年より牛乳の風味や栄養素を壊さず安全に飲むための必要最小限の殺菌方法の、72度15秒間殺菌(HTST)に変更する。牛乳を生鮮食品として流通する品質管理と、質の良い生乳を提供する酪農家の努力により実現したパスチャライズド牛乳だ。

酪農家が生産する生乳は、風味を生かしたさまざまな乳製品の原料として使われる。84年、脱脂濃縮乳と生乳を半分ずつ使い、乳酸菌で発酵させた「プレーンヨーグルト」が誕生した。脱脂濃縮乳は、生乳から脂肪分を抜いた脱脂乳を、熱をかけない方法で水分を飛ばして作る。抜いた脂肪分はクリームとしてアイスクリームの原料となる。

当時のプレーンヨーグルトは充てん前に発酵させるタイプのため、硬さを調節する役割をするゼラチンが加えられていた。その後、充てん後に発酵させるタイプに変更してゼラチン使用をやめた。乳酸菌は今でも当時と同じ、しっかりとした酸味が得られるものだ。原料も作り方も変わらない酸っぱいプレーンヨーグルトは、40年もの間、組合員に愛され続けている。
もう一つのプレーンヨーグルト、「脂肪と酸味をおさえたプレーンヨーグルト」は、生活様式や嗜好(しこう)が変わり、酸っぱいヨーグルトが苦手な組合員のために作られた。乳脂肪が0.4%に抑えられ、マイルドな味わいのヨーグルトだ。さらに生乳100%ヨーグルトが登場した。

ヨーグルトの栄養は、良質なたんぱく質と吸収率の良いカルシウムを含む栄養バランスに優れた牛乳と同じだ。生乳のたんぱく質は消化される時に免疫調整機能や感染防御機能、整腸作用など健康維持のための力を発揮する。乳酸菌の働きで牛乳を発酵させるヨーグルトは、これらの機能を持ったまま、消化吸収が良く保存性のある発酵食品に生まれ変わる。また、牛乳を飲むとおなかがゴロゴロするという人がいる。その原因の乳糖は、乳酸発酵と、ヨーグルトに含まれる乳糖分解酵素が腸内で働くため減少し、気にならなくなる。

提携酪農家が生産する生乳の風味と機能性を損なわない方法で作られる乳製品が、生活クラブの自前の工場で生まれている。
 
撮影/田嶋雅已
文/伊澤小枝子


『生活と自治』2024年6月号「連載 ものづくり最前線 いま、生産者は」を転載しました。
【2024年6月20日掲載】
 

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