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トマトケチャップをかたわらに、提携50年

愛知県豊橋市の加工用トマトの契約栽培農家のほ場。品種は「なつのしゅん」。6月初め、花と実が混在する

愛知県名古屋市にある「コーミ」と生活クラブの提携は、1974年に始まり、今年11月に50周年を迎える。国産原料を使いトマトの味を生かしたトマトケチャップを作り、リユースびんの使用、遺伝子組み換え対策などに取り組んできた。今後、国産原料を安定的に確保するため、自社農場での加工用トマトの栽培や機械収穫などにも挑戦している。

減少する国産加工用トマト

加工用トマトの生産者、白井尚彦さんと品江さん夫妻。「10年前と違って暑くなり、今は空調服を着て作業しています。でもここは海が近くて周りに田んぼがあるので風が吹いてきますよ」
トマトケチャップの主原料は加工用トマトだ。日本における加工用トマト栽培の歴史は愛知県に始まる。1899(明治32)年、食品メーカー「カゴメ」の創業者、蟹江一太郎さんが東海市荒尾町(当時は知多郡荒尾村)でトマト栽培を始めた。当初は生食用と同じ赤みが少ない品種を栽培していたが、やがてトマトケチャップが作られ、洋風の食事とともに広がると、露地栽培で夏に真っ赤に実る加工専用の品種が開発された。温暖な気候の愛知県は加工用トマトの一大産地となり、ピーク時の栽培面積は500ヘクタールにのぼった。

しかし72年にトマトピューレやトマトペーストといったトマト加工品原料の輸入が自由化され、さらに89年には、トマトジュース、トマトケチャップなど製品の輸入も自由化される。安価な原料が自由に手に入るようになると、これまで農家との契約栽培で加工用トマトを購入していたメーカーは、輸入品を使うようになった。トマト農家は他の作物に転作し、加工用トマトの栽培面積はどんどん減り現在は5ヘクタールを割っている。
 
近くを流れる豊川用水から水を引く。1968年に渥美半島を縦断する豊川用水が完成すると、豊橋市は加工用トマトの一大産地となる

綱渡りの原料確保

コーミが生活クラブと提携を始めたのは、ちょうど輸入自由化が始まった頃。外国産トマトペーストを原料として着色料や化学調味料などの添加物を使い、色や風味を補ったトマトケチャップが出回っていた。トマトペーストは、収穫後トマトを6分の1まで濃縮したもの。製品にする時に、水を加え元の濃度に戻す。これらの工程で、トマト本来の味や風味が損なわれやすい。

コーミのトマト加工場は豊橋市にある。近辺の農家が栽培する加工用トマトを収穫後すぐに工場に運び、三日以内にピューレに加工する。ピューレはトマトを3分の1まで濃縮したもの。コーミでは間接的に熱を加える方法で濃縮したピューレを保存し、製品にする時にそのまま使う。トマトの風味や栄養が保たれ、ピューレで作ったトマトケチャップは、生活クラブの組合員にとても好評だった。

しかし、原料や製品の輸入自由化に加え、契約栽培農家の高齢化や後継者不足のため、加工用トマトの生産は減る一方だった。とうとう92年には国産原料が足りなくなり、チリ産のトマトペーストを20%ブレンドしなければならなくなった。

2003年には、大手メーカーのカゴメが県内の加工用トマトの契約栽培事業から撤退してしまう。生産者は意欲を失いさらに減少し、04年の不作も追い打ちをかけ、06年には米国産有機トマトペーストを使わざるを得なくなった。

コーミが、生活クラブに1年間、安定的にトマトケチャップを供給するためには、約1千トンのトマトを必要とする。その後も原料確保には苦労を重ね、約150トンを生産する愛知県内の生産者を守りながら、県外にも契約栽培農家を探した。宮城県のJA加美よつばや北海道の沼田町、茨城県の丸エビ倶楽部(くらぶ)など、生活クラブとつながりのある産地と提携をすすめる一方、山梨県、北陸などにも広げ、なんとか国産原料を確保してきた。

だが、17年と18年には、日照不足や雨不足、猛暑により全国的に不作が続いた。「不作が1年だけでしたら在庫があるので製造を続けることができますが、2年連続となるともういけません」。取締役であり豊橋工場長を務める伊藤宏雄さんが5年前を振り返る。この時は生食用トマトで製造したピューレに加え、米国産有機トマトペーストを使いながら製造を続けた。国産原料に戻すためにも、トマトケチャップを食べ続けてほしいという熱い想(おも)いがあったからだ。
 

コーミの取締役、伊藤宏雄さん。豊橋工場長も務める

機械収穫へ、新たな挑戦

天候や収穫量をにらみながら綱渡りの日々が続く中、伊藤さんは、なんとか国産原料でトマトケチャップを、という組合員の期待に応えていきたいと強く思ったと言う。「生産者の減少や気象条件にかかわらず、加工業者として原料を維持することが絶対だと思いました」

そのためには余裕をもって原料を確保する必要がある。「栽培面積をもう少し広げたいのですが、手摘みでは限界があります。機械を入れれば10倍の面積での栽培が可能です」と、生産本部調達グループ課長の林康弘さん。機械収穫は一度に株ごと刈る。まだ十分に赤くならない実も収穫してしまうので、収穫後、センサーで色を判別し選別する。「赤い実だけを摘む手収穫に比べてロスがありますが、広く収穫できる分、収量がまとまります」。林さんは機械収穫に期待する。 
 
コーミの生産本部調達グループ課長、林康弘さん。契約農家のほ場を巡回し、加工用トマトを守り育てる農家を支えている
20年、コーミは、機械収穫を日本に普及させるため、大手メーカーである日本デルモンテと連携し、丸エビ倶楽部、生活クラブ連合会の4社による「加工用トマト並びにトマトピューレの取り扱いに関する業務連携協定書」を締結する。機械収穫用の品種を栽培し、丸エビ倶楽部のほ場で初めて機械収穫をした。その後、宮城県や北海道、岐阜県などでも行われている。

一方で、自社農場も用意し、手収穫用の「なつのしゅん」と機械収穫用の「日本デルモンテ品種」の二つの品種を栽培し、今年初めて機械収穫を試みる。「農家に頼るだけではなく社員が実際に栽培し、現在の気候に合った農法を探り農家に提案し、収穫作業の機械化も確立したいのです」と、代表取締役社長の川澄亮太さん。愛知県で始まった加工用トマトの栽培を維持し国産原料を使い続けるため、生活クラブとの提携50周年を迎えるにあたり決断した大きな挑戦だ。
 
コーミの代表取締役社長、川澄亮太さん

自信と誇りを

左より、コーミの生産本部調達グループ課長、林康弘さん。加工用トマトの生産者、白井尚彦さんと品江さん。コーミの営業本部課長の田中美千雄さんと同係長の大野僚太さん。二人は組合員との交流会などでトマトケチャップの魅力を伝えている

カゴメが契約栽培事業から撤退した後、コーミは、愛知県から加工用トマトの産地がなくなってしまうのではないかとの危機感を抱き、06年に、生産農家、JA、生協、行政などと共に「愛知県加工用トマト拡大協議会」を設立した。

協議会では参加者が情報共有し交流を深め、消費者との意見交換などを行う。また、反収(たんしゅう)(10アール当たりの収穫量)の多かった契約農家を紹介し表彰する。豊橋市の白井尚彦さんと品江さん夫妻は、5回の受賞歴がある。「白井さんのほ場は雑草もなくきちんと整備されています。必要な時に必要な水やりや施肥をするなど、収量を上げるようにていねいな作業をしています」と林さん。長年、生産者と情報交換をしながら栽培を支えてきた。

白井さんがトマトの栽培を始めたのは15年ほど前。父親が栽培していたこともあり、ノウハウがあった。加工用トマトは露地栽培だ。枝を横に這(は)わせ、収穫は赤く色づくまで待ち、真夏の7月から8月の短期間に収穫する。低い姿勢で作業する重労働だ。「収穫が一番大変です。でも林さんたちとの付き合いがあるし、やめられないです」と尚彦さんと品江さんは声をそろえる。

コーミは生活クラブと提携し、国産原料を使うだけではなくさまざまな挑戦を続けてきた。取り組み当初は市販品と同じように化学調味料を使っていたが、組合員の要望により除いたところ、とても好評で、他メーカーにも影響を及ぼした。容器はチューブではなくびん容器を選んだ。最初はビールびんだったが、使い勝手が悪く広口びんに変更する。1994年、生活クラブが容器の回収、再利用をする「グリーンシステム」を開始するとリユースびんに変え、その後、ユニバーサルデザインのびんに変更した。97年には遺伝子組み換え(GM)作物を扱わないと宣言した生活クラブの方針に沿って、副原料のGM対策を行う。

川澄さんは、「トマトケチャップを通じ、その時々の社会の課題を組合員と共に解決してきました。自信と誇りをもって未来へ手渡せる消費材のひとつです」。これからも共に夢を描いていきたいと言う。

愛知県豊橋市にある工場。1963年から稼働し、グリーンピースなどの缶詰類を製造していた。75年よりトマトピューレの製造も始める
 
豊橋工場近くにあるコーミの農場。手収穫用と機械収穫用の2種類の加工用トマトを栽培する。この夏、初めて機械収穫を行う

撮影/田嶋雅已
文/伊澤小枝子
『生活と自治』2024年8月号「連載 ものづくり最前線 いま、生産者は」を転載しました。
 
【2024年8月20日掲載】
 

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