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生協の食材宅配【生活クラブ】
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熟練の技術と、人の手の感覚と【伊達巻、グチ蒲鉾、桜えびさつま揚 他】


こめや食品は、静岡市東部、駿河湾に面する由比にある、生活クラブ連合会の魚肉練り製品の提携生産者だ。不必要な食品添加物を使わず、蒲鉾(かまぼこ)やちくわなどの消費材を作る。中でも根強い人気を誇るのが伊達巻(だてまき)。40年以上もの間、「正月にはこの伊達巻がなくては」と組合員に愛されてきた。すり身の扱いに熟練した職人が生地を作り、焼き、巻く工程まで手作りで仕上げ、新年の食卓を彩る。

「伊達巻」の始まり

1本1本、竹製の鬼すだれに巻かれた伊達巻

伊達巻の焼き上がりが近づくと、こめや食品の工場内には、甘く香ばしい匂いが漂い始める。こめや食品では、11月に入ると暮れにかけて、生活クラブ向けに10万本以上の伊達巻を作る。

こめや食品が生活クラブと出会ったのは1979年。当時、同社は築地市場などでも伊達巻の製造会社として知られ、正月用の伊達巻ばかりではなく、そば屋に納品する伊達巻や小さいサイズのものを、1年を通して作っていた。製造の中心を担っていたのは、現在の代表取締役、川崎光一朗さんの父である光一さん。生地の練り方など、日々、おいしい伊達巻を作るための研究に余念がなかった。
そんな光一さんが生活クラブを知り、食に対する考え方や、組合員が積極的に活動に参加している姿に興味をもつ。交流を重ねる中、それまで使っていた着色料や保存料を添加せず、リン酸塩を使わないすり身で、新しい伊達巻を作ることになった。試行錯誤を繰り返し開発した伊達巻の最初の利用本数は2万6千本。通常の取引先の2倍以上に達し、光一さんはとても驚いたという。

光一朗さんは、当時光一さんがよく言っていたと、次の言葉を紹介する。「この伊達巻を作ったのは確かにこめやです。けれど、組合員が議論を重ね決めた自主基準や活動があったからこそ、このような材料や作り方の消費材ができました。だから生活クラブの伊達巻の半分は、組合員が作ったものです」。組合員は自分たちがこめや食品と開発した伊達巻を、責任をもって伝え合い、利用を呼びかけた。そこには、生産者と組合員で、消費材を作り使い続けるための原点があった。
 
こめや食品の代表取締役、川崎光一朗さん

原料のすり身は「無リン」

伊達巻は魚のすり身と卵、砂糖が主な原材料だ。生活クラブが伊達巻を開発するに当たり、こめや食品に伝えた条件は三つ。合成着色料や保存料などの添加物は使わず、リン酸塩を添加しないすり身を使い、簡素な包装で流通することだ。

食品添加物について、生活クラブには「安全性に不安のあるものや、不要なものは使わず、必要な場合は最小限の使用にとどめ、すべてを公開する」という原則がある。開発を始めた頃の市販の伊達巻は、色をきれいに見せるための着色料や安価な甘味料、保存料など多くの添加物が使われていたが、それらを使わないこととした。

一番の課題はすり身だった。すり身は、59年にリン酸塩を添加した冷凍すり身が開発され、その利用が増えていた。リン酸塩は食品添加物の一つで、すり身の弾力性を保ち保水性に優れ、塩や砂糖よりも保存できる期間が長い。また、魚肉の質に左右されず一定程度の品質のすり身を製造することができる。しかし、食品として摂取した場合、体の中でカルシウムの吸収を抑制する働きがある。過剰摂取には注意が必要だ。そうしたこともあり、生活クラブでは、独自の自主基準により、リン酸塩の練り製品や加工肉類への使用を禁止している。

だが、食品表示法では、すり身に使われるリン酸塩はすり身の原料の一つとしてみなされる。製品化した時に含まれるリン酸塩が微量で、製品に対してはその効果を発揮しないと判断されれば表示は免除される。製品への添加の有無は、表示を見ただけではわからない。

職人の仕事

こめや食品の伊達巻の製造は、スケソウダラのすり身を擂(す)る作業から始まる。すり身は米国の大型漁船で漁獲し、すぐに加工したものだ。日本人の技術者が乗船し、こめや食品指定の品質のすり身に加工する。光一朗さんは、「米国の水産物の資源管理はとても厳重で、今のところ、新鮮で品質の良いすり身を安定して手に入れることができている」と言う。

すり身を擂る作業は、厚さ10センチメートルほどの、御影石でできた臼で行う。御影石は熱を伝えにくく、中の材料は夏でも外気の温度の影響を受けにくい。工程は3段階。まず、すり身をそのまま擂る「空擂(からず)り」、次に塩を加える「塩擂(しおず)り」、さらに卵や調味料などの副材料を混ぜながら「本擂(ほんず)り」をする。特に本擂りは、ふわりと焼きあげるため、すり身の中に空気を十分に含ませるように時間をかけて擂る。1時間ほどかけて擂りの工程を行い、できた生地を専用の焼き鍋に入れて焼く。

すり身を擂り伊達巻の生地を作っていた職人の上間真樹(うえままさき)さんが、引き続き焼く作業も行う。焼き釜の火の微調整をしながら臼の中のすり身を確認する作業を何度も繰り返す。

そんな上間さんの姿を見守る光一朗さんは、「伊達巻は、製造する日の温度や湿度、使うすり身の状態によって、擂る時間や副材料を入れるタイミング、焼く火加減など、工程一つ一つの調整が必要です。経験や磨いた感覚を元に、擂りから焼きまでを、決まった一人の職人が行います」と教えてくれた。上間さんは、現工場長の柴原豊さんより、今の仕事を引き継いでいる。

こめや食品では、ちくわや蒲鉾も製造する。「グチ蒲鉾はグチ(イシモチ)独特の弾力を出す技術が必要ですし、ボタン竹輪(ちくわ)はボタンの花のような模様が出る焼きかげんが難しいです。それぞれに熟練の職人が作っていますよ」と、光一朗さん。熟練の手作業を継承するのは難しいが、今後もこれらの技術が受け継がれることを願っている。
伊達巻の生地を作る上間真樹さん。ものづくりが好きと、経験と感覚で練り上げる
 


生地を焼き鍋に入れて焼く。焼き加減を見ながら火力の調節を続ける

仕上げは手巻き


 
焼きあがった伊達巻の生地は、竹製の鬼すだれにのせて、人の手でくるりと巻く。本擂りでていねいに仕上げて焼いた繊細な生地は、巻く時に割れやすい。焼き上がりが1枚1枚微妙に違う生地の状態を手で確かめながら巻き、きゅっと締める。機械ではできない仕事だ。

その後、鬼すだれに巻いたまま風を当て粗熱を取る。竹製のすだれは、その間も余分に水分が抜けていくのを防ぐ。さらに包装した伊達巻を、独自の方法で一度冷凍する。「これが大事なのです」と光一朗さん。「保存性が良くなるのはもちろん、解凍して食べた時、うまみが口いっぱいに広がりますよ」。冷凍している間に、材料がそれぞれに主張していた味のかどが取れるそうだ。

「私たちは正月用の伊達巻を10万本以上作りますが、組合員の手元に届くのは、そのうちの1本です。1本をおいしく食べてもらうために、質の良い材料を選び、技術を持った職人が誇りをもって作っています」。そこには、時がたっても、少しも変わらないものづくりへの想(おも)いがある。
焼き上がりを手で受けて、鬼すだれで巻く。繊細な生地の味わいを届けるための手作業だ
 
伊達巻作りになくてはならない、竹製の鬼すだれ。作る職人がいなくなり、補修しながら使っている
 
撮影/田嶋雅已
文/伊澤小枝子
 
『生活と自治』2024年11月号「連載 ものづくり最前線 いま、生産者は」を転載しました。
 
【2024年11月20日掲載】
 

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