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自然を相手に、1年に一度の収穫 【リンゴ、サクランボ、モモ】


近年の気候の変化により、果物の生育状況も変わっている。果物の生産が盛んな山形県東根市でも、今年はサクランボとモモの収穫適期が大幅に早くなった。一方で、リンゴの色づきは遅れている。農家は、変わっていく自然環境の中にあっても、果物が一番おいしい時季に消費者に届けたいと、丹精込めてつくっている。

変わる収穫期

山形県東根市では、リンゴやサクランボ、モモ、ラ・フランス、ブドウなど、多くの種類の果物が生産される。最上川が流れ、蔵王山や月山、朝日岳などの山々に囲まれた内陸部の山形盆地にあり、寒暖差の大きい気候は果物の生産に適し、味の良さには定評がある。穏やかで、台風や大雨による被害がほとんどない地域だ。
「けれど、近年、温暖化が進んでいるせいか、果物の生育状況がずいぶん変わってきました」と、東根市で40年近く果物をつくってきた平沢英幸さんが、最近の変化を教えてくれた。平沢さんは、生活クラブ連合会と提携する「JAさくらんぼひがしね」のリンゴの生産者、「丸友りんご生産者組合」の組合長だ。リンゴの他に、生活クラブには出荷しないがサクランボとモモもつくっている。

例えばサクランボの「佐藤錦」という品種は、以前は6月中旬から下旬にかけて収穫していた。それが今年は6月上旬に早まった。そのうえ、双子果が多かったと言う。双子果とは、二つの実がくっついたもの。花芽がつくられる時期に高温が続くと、めしべが2本に分かれて受粉するため双子果となる。市場には出回らず、出しても低価格だ。「昨年は、7月中旬から、最高気温が35度前後の日が1カ月以上も続きました。双子果ができる花芽が多くつくられたのです」。高温はリンゴにも影響を与えている。「夏に高温が続く年が多くなり、収穫したリンゴが以前に比べて短期間で軟らかくなってしまいます」
 
丸友りんご生産者組合の組合長、平沢英幸さん。東根市で40年以上、リンゴをつくり、気象の変化を感じてきた
JAさくらんぼひがしねは、生活クラブにリンゴ、サクランボ、モモを出荷する。大富営農センター長、山口貴紀さんは、「今年はサクランボとモモは、自分たちが経験したことがないぐらい収穫時期が早い年でした。組合員に届ける時期については、今年の2月に、生活クラブと協議して決めましたが、特にサクランボはあまりにも生育が早まってしまい、計画通りに届けることができませんでした」と振り返る。

モモも生育は早かったが、8月から9月にかけて品種を変えて収穫し、組合員に届けることができた。逆にリンゴの「ふじ」は、気温が下がらないため色づきが進まない。
「自然の中で育つ果物は工業製品ではありません。その年の気象条件などによって、生育が早まったり遅くなったりと、計画通りに出荷できない時もあります」と山口さん。「生産農家は、一番おいしい時季にたくさん食べてもらいたいと思いながら果物をつくっています。それにこたえられるよう届けることができればと考えています」。果物の収穫は、生産者と消費者、どちらにとっても1年に一度のことだ。両者をつなぐ山口さんは、常にそのことの重みを意識する、と言う。

 
JAさくらんぼひがしねの大富営農センター長、山口貴紀さん。管理はリンゴの樹(き)の様子を見ながら手作業で進めます。今年は色づきが遅れているようです

リンゴ生産者の挑戦

JAさくらんぼひがしねが生活クラブに出荷するリンゴの品種は、「紅玉」「王林」「ふじ」の3種だ。そのうち、王林とふじの全部と紅玉の一部を、「丸友りんご生産者組合」が生産する。同組合は1976年、東根市でリンゴを生産する農家が集まり結成された(当時・丸友りんご出荷組合)。

その頃、それまで主流だった品種の「国光」や紅玉は、単価が下がりつくられなくなっていた。60年代から農産物の輸入自由化が始まり、バナナなどの果物が海外から大量に輸入されるようになると、まずリンゴの消費量そのものが大幅に減った。加えて、甘く保存ができる品種のリンゴ、ふじが開発されたため、栽培の主流がそちらに移っていったことによる。

リンゴといえば紅玉、というほど生産量が多かった東根でも、栽培をやめる農家が相次いだが、紅玉は紅(あか)い色がきれいで、地元では「べにだま」と呼ばれ、愛着のある人は多い。サクサクとした食感の、さわやかな酸味を好む消費者もいた。この品種を残したいと願う「丸友りんご生産者組合」と生活クラブが出合い、市場からは消えかかっていた紅玉の取り組みが始まる。組合員は生食するだけではなく、独特の酸味を利用して、ジャムやアップルパイなどの菓子の材料に使い、楽しんできた。

また、同組合は、組合員と交流を続ける中で、農法などについても話し合いを深めていった。そのひとつが有袋で栽培していたふじを、無袋で栽培する取り組みへの挑戦だ。リンゴに袋をかけておき、収穫が近くなってから時期をみて外すと、日の光が一気に当たり、リンゴがきれいに色づく。それに比べ無袋リンゴは見栄えが悪く、市場ではほとんど流通していなかった。だが、無袋リンゴは有袋のものより糖度が高くおいしい。組合員は見栄えよりも味を評価し、生産者にとっても袋をかける手間が省ける。双方の思いが一致し、無袋での取り組みは今も続いている。
甘くて香りのよい王林。ふじが実るためには王林の花粉が必要だ
 
シナノゴールド。甘みと酸味のバランスがよく、身がしまっている
 
無袋でつくる、甘みがのったふじ

果物づくりを一筋に

10月初めの園地。王林、シナノゴールド、ふじの収穫を待つ

平沢英幸さんの園地には、植え付けてから50年が過ぎ、大きく枝を広げたリンゴの樹(き)が並ぶ。「親父の背中を見ながらリンゴの栽培を続けてきました。除草剤は使わず、有機質肥料を使い、土づくりに力を入れています。農法は変わることはありませんよ」。父親の康幸さんは初代の組合長、英幸さんは3代目だ。
園地には50年以上、実をつけてきた樹が並ぶ
 
サクランボもモモもつくる英幸さんの1年間は忙しい。1月から3月にかけてはリンゴの剪定(せんてい)の時期。「今年は過去にないぐらい雪が少なく作業は進みましたが、春先の水不足が心配でした」。4月になるとふじが花を咲かせる。ふじは自家受粉しないため、他の品種の花粉が必要だ。園地のあちこちに王林の樹がある。王林は独特の香りがする甘いリンゴだ。「受粉は自然任せです。野生のミツバチが手伝ってくれますよ」

6月上旬までには、リンゴの1回目の摘果を済ませる。「6月はサクランボの収穫です。それまでにモモの摘果も終えたいので、5月は31日では足りません」と笑う。7月の2回目の摘果後、9月末までモモの収穫が続く。除草剤を使わないので、下草刈りも夏の仕事だ。9月下旬から、太陽の光をまんべんなく当てるため、「葉摘み」、リンゴをくるりと回す「玉回し」と作業を進め、紅玉、王林、ふじの順に収穫する。

完熟したふじには「蜜」が入る。リンゴの熟成が進むにつれて、酵素の働きにより果糖やブドウ糖が芯を中心にたまるアメ色の部分だ。甘みと酸味のバランスが十分にとれた完熟の目安のひとつで、ふじやスターキングに見られる。収穫後時間がたつと、果肉に吸収されてなくなってしまうものだ。
この蜜の入り方も変わってきたと英幸さん。「気温が上がるとともに、蜜が入る時期が遅くなってきました。そのうえ、以前は2月ぐらいまで残っていましたが、このごろは年内になくなってしまいます」。蜜は果肉に吸収されていくので、リンゴのおいしさに変わりはない。

果物の生産者は、気候の変化を受け入れながら、1年に一度だけ収穫する果物を、手塩にかけてつくる。平沢さんは「自分の思い通りにならないことが多いです。手間暇かけて育てても、その年の気象状況により出荷量が減ってしまうこともあります」と言う。「でも、ものづくりがきらいではないですから」と、自然相手の仕事を毎年繰り返し続けてきた。消費者に一番おいしい時に食べてもらいたいと願いながら、日々、園地に向かう。
 

 
ふじの太い幹に、野生のミツバチが巣をつくった。さかんに花粉を運んでいる

 
撮影/田嶋雅已
文/伊澤小枝子
 
『生活と自治』2024年12月号「連載 ものづくり最前線 いま、生産者は」を転載しました。
 
【2024年12月20日掲載】
 

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