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[本の花束2025年1月] 翻訳は、作品の中で語る人たちの「声」を立ち上げる作業 翻訳者・斎藤真理子さん

翻訳者・斎藤真理子さん
(著者撮影:尾崎三朗)

近年急激に注目を集めている韓国の現代作家たち。話題作の多くを翻訳する斎藤真理子さんの『韓国文学の中心にあるもの』から、激動の時代を生き抜いた韓国の人々の記憶と体験が小説に与える影響について、お話を伺いました。

──日本で韓国文学への関心が高まる大きなきっかけとなったのが、斎藤さんが訳した『82年生まれ、キム・ジヨン』でしたね。

フェミニズムをテーマにした小説が韓国でベストセラーになっていると聞き、読んだらとてもおもしろかったので翻訳したのですが、日本でもこんなに売れるとは思ってもみませんでした。当時は世界中で「#MeToo」の声が挙がり、それまで言語化されなかった女性たちの声がどんどん可視化され始めたころ。時代のカーブにぴったりと合致したのだと思います。ひとつのテーマをコンセプチュアルに押し通した作品で、読んだ人が自分を投影できる仕組みになっていたのも優れていたと思いますね。

──本書ではそのような時代背景や、朝鮮戦争、南北分断、軍事政権の抑圧などの歴史的背景も、韓国文学を読み解く「背骨」として詳しく解説されていますね。

私は1980年、大学時代に在日コリアンの友人らと第二外国語に朝鮮語を入れるよう大学に要請するサークルを立ち上げ、その仲間たちと朝鮮語を勉強していたのですが、その年に起こった光州事件などで自分と同じ年代の学生たちが警察に殴られ連行されるような映像をテレビで見てショックを受けました。
そのような歴史の「骨」を意識せざるを得ない現実が、常に韓国、朝鮮半島にはあるんですね。
その体験が根底にあるからこそ、韓国の文学や映画には、世界に「栄養」を与えられる何かがあるのかなと思います。

──ハン・ガンのノーベル賞受賞もそれが理由かもしれませんね。

彼女は光州で生まれ育った人で、子どもの頃ソウルに転居した直後に、光州事件が起こったのです。それまでは社会問題を前面に出した作品は書いていなかった彼女ですが『少年が来る』は光州事件を真正面から描いた力作です。歴史の風化に抗い、追悼するだけではなく、これからみながどう生きていくか、未来の人たちに向けて書いている気がします。

──翻訳された『少年が来る』の英題は『Human Acts』。その意志がより伝わります。

それまでの韓国の作家たちは、歴史の中で翻弄された人々の不条理を書いて書いて書き続けてきたと思うのですが、ハン・ガンの世代の作家は、それを大きく俯瞰して描くことができたと思うのです。もちろん書くために膨大な資料や証言などの記録を元にしているわけですが、ハン・ガンという人はその個々の人々の身体が感じた痛みを、歴史的、社会的な痛みと接続させる場にいる。そんな感じがします。

──虐げられ抑圧された人々の思いを自分の身体を通して言葉として伝える。斎藤さんの翻訳にも同じ力を感じます。

私はとてもそこまでのことはできませんが、ただ、翻訳で大事なのは、作品の中で語っている人たちの「声」を立ち上げる作業です。声を発する人のことだけではなくその声を聞く側のことも考えなければいけない。
「翻訳は強力な読書である」と言った人がいますが、私もそう思います。とにかく読んで読んで、くり返し読んだことをアウトプットしている気がします。

──小説を通して多くの人たちの声を聞くことで、私たちもまた心を修復している気がします。

子育てや仕事で、生きるのが精一杯で、本を読む余裕がないときもありますよね。でも、そんなときにも読書は常に発動している。日々の体験の中で、かつて読んだ人々の声が、本を読んでいるとき以上に生き生きと語りかけることもある。一度読んだものは人間の内部に消えずに残るし、どんなものでも無駄にならない。そう思うと、人間ってすごいなって思いますね。

──発動する読書。その言葉に力づけられます。今日はどうもありがとうございました。

 
インタビュー: 岩崎眞美子
2024年9月(取材後一部加筆)

●さいとう まりこ/1960年、新潟市生まれ。2015年『カステラ』で日本翻訳大賞受賞。2020年『ヒョンナムオッパへ』で韓国文学翻訳大賞受賞。『ディディの傘』『別れを告げない』など訳書多数。著書に『本の栞にぶら下がる』など。
『増補新版 韓国文学の中心にあるもの』
斎藤真理子 著
イースト・プレス 
初版:2022年7月 増補新版:2025年1月
●18.8×12.8cm/368頁
 
図書の共同購入カタログ『本の花束』2025年1月3回号の記事を転載しました。

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