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[本の花束2025年3月]日々の暮らしの 場面は世界そのものだし、すべてはその地続きにあるもの 作家・梨木香歩さん


鳥や植物のこと、日々の暮らしのことがきめ細やかに綴られるエッセイ『歌わないキビタキ』。
おだやかな表現の中にも通奏低音のように響くのは静かな〝覚悟〟のようなもの。作品に込められた思いを梨木香歩さんにお聞きしました。

──梨木さんにとって、自然はどのような存在だったのですか?

周囲に自然環境があまりない地方都市に育ったので、子どものころ、絵本で見るような草花っていったいどこにあるの?と思っていたんです。だから、たまに行く母の田舎で山の中を一人で歩くのがとても好きでした。一人なのに、一人じゃないような不思議な孤独感。それは子ども心にも、とても必要な、沁み込んでくる感じがありましたね。あの不思議な感覚は、今の私が使える語彙から探せば、自然の精霊との出会いのようなものだったのでしょう。

──『歌わないキビタキ』というタイトルが、とても印象的です。

キビタキは、繁殖期は体のオレンジ色がかった黄色がひときわ鮮やかに目立つし、堂々と鳴いているときはオペラ歌手がアリアを歌うような華やかさです。
けれどもそんな時期は1年のうちのほんの短い数日です。それ以外のほとんどの時期は、体も黒味がかって、あまり目を引かなくなるような気がします。でも、人生の大部分はそういう時間のほうが長いのですから。そんな地味な日々を、どう過ごすか、ということだと思うのです。

──介護や病気のこと、戦争のこと。おだやかな日常の描写に挟み込まれる重い現実。そのコントラストも見事です。

お茶碗を洗ったり、洗濯をしたりというような、日々の暮らしの一場面は、世界そのものだし、すべてはその地続きにあると思っています。何か改まって社会のことを考えよう、というよりも、森を歩いているときにちょっと水たまりを飛び越えたり、茂みの中に入り込んでいったりするような感覚で、普段の自分の場所から歩いて到達できる場所に向かう。そのように人類全体が抱えているものごとも考えたいと思っています。

──必ずしも思い通りにならない人生にどう向き合っていくか。作品を通して静かな覚悟が生まれていく感覚があります。

暴風雨の中でとにかく凌いでいるうちに、なんとか逃げ道を見つける、雨が小止みになり、風が止むのを待つ、という感じでしょうか。打って出ようという積極的な姿勢ではないけれど、ある種の静けさの中にいるような、そんな心境かもしれません。

──盛りの季節を過ぎ、人生の秋から冬へと向かう中で、大切なことがあるとしたら何でしょう。

若いころは、道を作ることに必死でした。書きたいものだけを書いていきたいと思っていましたから、時に摩擦となっても、どうしても嫌なものは嫌だと譲らずにきたと思います。でもそれは、何かを得て勝ちたいという闘いではなく、ここで譲ってしまったら自分の魂は損なわれてしまう、という切実な危機感ゆえだったと思います。

──自分の意に染まないことを受け入れ続けることが戦争に繋がっていくというような表現もあり、ドキリとしました。

特に今は、世の中の流れに加速がついていますから、あっと気づいた瞬間にはもう思わぬ方向に向かってしまっていることもあるでしょう? その恐さを、最近は文学そのものにも感じることがあります。

──文学にも?

本を読むということは、その本の作者の内界に、一度どっぷりとダイブしてしまうということ。でも今、その内界が、あまりに無防備に上へ下へと広がっている気がして。ある人には居心地の良いものでも自分にとってはヘドロの海をかい潜るような経験になるとしたらとても危険です。でも、自分が求めている答えが得られなくても、苦しくてもここをくぐり抜けねばならないという確信のようなものに支えられることも多いと思います。読書とは、結局、そういう自我を自分自身で作り上げることなのだと思いますね。

──この不確実な世界の中で、自分の魂を損なわないために、大切なこと、より美しく慕わしく思えることは何でしょう。

自然の営みですね。鳥や植物、昆虫などの生活を垣間見ること。
自分もまた、そういう自然の一部なのだと信じること。感じることなのでしょうね。

──ありがとうございました。

 
インタビュー: 岩崎眞美子
取材:2024年11月
イラスト:鈴木佳代子

●なしき かほ/1959年生まれ。小説に『西の魔女が死んだ 梨木香歩作品集』『僕は、そして僕たちはどう生きるか』『椿宿の辺りに』など。その他の著書に『水辺にて』『岸辺のヤービ』『やがて満ちてくる光の』『よんひゃくまんさいのびわこさん』などがある。

 
『歌わないキビタキ 山庭の自然誌』

●梨木香歩 著
●毎日新聞出版
(2023年9月)
●19.4×13.4cm/280頁
図書の共同購入カタログ『本の花束』2025年3月3回号の記事を転載しました。

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