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[本の花束2025年4月] 戦争は、ただ一つの物語を強制する 画家・アンドレ·レトリアさん


ポルトガル在住の画家アンドレ·レトリアさんが、ジャーナリストで詩人でもある父·ジョゼさんと共作した絵本『戦争は、』。一見平和な私たちの日常に忍び寄る「戦争」の影について、来日したアンドレさんにお話を伺いました。

──この絵本が生まれた背景を教えてください。
 
この本の背景にあるのは20世紀の戦争です。詩人である父が書いた言葉がまず先にあり、それにインスピレーションを得て私が絵を描きました。ポルトガルでは長く独裁政権が続き、60年代から70年代にかけてはポルトガル領だったアフリカの独立戦争がありました。父の世代は戦争を肌身で感じる経験をしています。ですから父は常に世界で何が起こっているかを敏感に観察していましたし、私もその影響を受けています。そして今、世界が再びきな臭くなっていることを感じています。

──知らないうちに日常に忍び寄る戦争の影。とてもリアルです。
 
20世紀の2回の世界大戦はヨーロッパで起きました。しかし今、その記憶は失われ、歴史は書き換えられ、再びまた同じ道に進んでいるような……。そんな不安を描くことで、読んだ人の心を揺り動かし、目を覚まさせるような本にしたかったのです。今、ウクライナやパレスチナで起こっているできごとの生々しい映像や情報は、私たちを苦しめ、不安にさせていますが、この絵本では、戦争の生々しさを押しつけるのではなく、仲介者のように伝えていけたらと考えました。構成は非常に精密に考えられたものです。完成までに4年かかりました。

──4年間もこのテーマに向き合うのは苦しくなかったですか?

この4年「戦争」というテーマにしっかりと潜って多くの調査や研究も重ねて作ってきたので、大変苦しい日々でした。しかし、作る側として対峙しなければと思っていました。本が完成して緊張感から解放され、正直なところほっとしています。

──「戦争は、物語を語れたことがない」という捨てられた本の山のシーンが印象的です。

ここで言いたかったのは、戦争はただ一つの物語しか語らないということです。議論も矛盾も自由も好まない。自分たちとはそりの合わない物語を廃棄し自分たちの物語を強制するということを示しています。

──「戦争は、日常をずたずたにする。『進行していますね』と耳元でささやかれる病気のように」というシーンも……。

最初はちょっとした不調と思っていても、少しずつ免疫力が下がって、気づいたときには内臓までやられてしまっている。
病気がそうであるように、過去の戦争の記憶を失っているこの社会は免疫力が下がった状態なのだと感じます。そんな状況の中で戦争を進めていく政策が、少しずつ入り込んでいく。気がついたときにはもう取り返しがつかない。戦争の時代を生きていた父も、私も、戦争が一度始まったらもう何もできなくなるということを知っています。だからこそ、何かおかしいぞと思ったその瞬間に注力してほしい。
そういう瞬間は、必ずあったはずでしょう?

──戦争は、私たち自身の無関心や怠惰が起こすものだということを突きつけられます。

この本には、顔の見えない人物が登場します。戦争を起こす人たちのことです。でもそれは「人間」の形をしています。つまり私たちが何とかできる人たちだということです。私たちは自分たちにそっくりなその人間たちを見張っていなければいけないのです。絵本の最後は、再び冒頭に戻るシーンで終わりますが、それは、戦争が終わっても、再び同じものが始まっていくということを表しています。
戦争はもう二度と起こらないという期待を持ち続けるには、同時に、戦争が再びまた繰り返されることへの不安を持ち続けなければいけないのだと思います。

──戦争は天災ではなく、人間が起こすもの。止められるのも私たちしかいないのですね。今日はありがとうございました。
 
インタビュー: 岩崎眞美子
通訳:木下眞穂
取材:2024年11月

●アンドレ・レトリア/画家。1973年リスボン生まれ。グルベンキアン賞、ブラチスラバ世界絵本原画展金牌、ボローニャ国際絵本原画展でのイラストレーションやデジタル(アニメーション)賞など受賞多数。

 
『戦争は、』
●ジョゼ・ジョルジェ・レトリア 文/アンドレ・レトリア 絵/木下眞穂 訳
●岩波書店 2024年4月
●23.6×19.2cm/62ページ
●小高~大人
図書の共同購入カタログ『本の花束』2025年4月3回号の記事を転載しました。

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