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コメへの関心は前政権とともに去りぬ? 新政権は「生産コスト(原価)」を軸とする補償制度の検討を!

東京大学大学院特任教授 鈴木宣弘さんに聞く



西条八十の詩に「母さん、僕のあの帽子、どうしたんでせうね? 」という一節があります。「原子力潜水艦の導入も選択肢から外さず」と臆することなく、堂々と胸を張って答弁する現防衛大臣のお姿をテレビのニュースで拝見していたら、ふと冒頭の一節が浮かんだ次第です。「前農林水産大臣、あなたが放出した、極めて積極的に出し尽くそうとされた、あの備蓄米はどうしたんでせうか、いまどこにあるのでせう?」と問うてみたいと思ったのです。かの大臣の熱意に満ちた決断と超迅速な対応で政府備蓄米は大量放出されました。しかし、いまなおコメの小売価格に大きな変化は見られません。それどころか、政権が変わり、前政権が高々と掲げた増産の旗印も輪郭が揺らぎはじめたようで、いまや「需要に見合った増産」と言い換えられるようになりました。この「需要」が予測数値を示唆しているのか、それとも「事前予約」のような確定値を意味しているのかは寡聞にして承知しておりませんし、何やら煙に巻かれたような気分です。それにしても、せっかく高まった持続可能な日本の「農」と「食」への社会的な関心は、前政権とともに去りぬ?ということでせうか。それではあまりに残念、困りものです。そこで東京大学大学院特任教授の鈴木宣弘さんに、いまだからこそ求められる農政転換について聞きました。

大規模化とスマート化への過度な期待より生産コストに注目すべし

――石破茂政権から高市早苗政権に変わりました。何やらコメに関する社会的な関心の高まりも、前首相と前農水大臣とともに去ったとの感が否めません。前政権から引き継がれたのは「コメを増産すればいい」、その決め手は「農地集約による大規模化と機械化・スマート化」という基本方針です。この背景には農業の担い手はとにかく大きいことが望ましく、中小規模の農家まで支援する余裕はなく「そんな無駄なことはできない」と言わんばかりの政治姿勢が透けて見えます。新農水大臣は「需要に見合った生産」を強調していますが、「増産」の方向は否定せず大規模化・スマート化の方針は踏襲するようです。もはや石破前首相が何をしようとされていたかを振り返ってみたところで詮無いことかもしれませんが、その点を踏まえながら前回に続いて農政の現状と今後の課題についてご意見を伺えれば幸いです。また、鈴木さんは農業者人口の減少がもたらす日本の「食」の危機に言及されています。平均年齢69.2歳の現状を考えると、10年後には農業従事者が日本から姿を消しても不思議はないと警鐘を鳴らし続けてこられたわけです。そうした危機的状況を打破するには可及的速やかに現役の農業従事者の営農を支えつつ、次世代を育てるための農政転換を進める必要があると思いますが、その点についてもご意見ください。

「コメの増産と農家の経営危機に備えるセーフティネットの必要性を前政権は認識していたのは確かです。しかし、持続可能な稲作と増産を同時に成り立たせるにはどうするかとなったとき、耕作面積を拡大するとともにIT(情報通信技術)を活用したスマート農業を推進しつつ、輸出振興を図るという志向が強化され、そういった努力をしている人だけに限定した所得補償という捉え方が当然視されるようになっています。そんな強固な思いを現政権も引き継いでいます。このままでは増産して価格が下がった場合には、さらなる規模拡大とスマート農業の推進が求められるだけになりかねないでしょう。そうしたなか、マスメディアが大規模化とバイオテクノロジーとスマート化に成功した大規模農家を時代の申し子のように取り上げています。むろん、そうした農家の創意工夫と努力には敬意を表しますが、それはどこでも誰にでもできることではないのです。それは2025年現在、日本の水田の平均経営面積は1.2ヘクタールという統計が示す通りです。また、50ヘクタールから100ヘクタールの経営規模を誇る北海道旭川市の農家に聞くと『規模拡大とスマート化による増産・輸出は非現実的』と言います。なぜなら、生産現場にとっては経営規模の大小にかかわらず、たとえ大規模化・スマート化で原価(生産コスト)を抑えられたとしても、出荷価格が原価割れのままでは持続可能な経営のための所得確保はままならないからです。そこを度外視しておきながら『やれ増産だ。ほれ輸出だ』と言われても『ハイ、そうですか』といくはずがないのです」


――政府には生産原価を下回った場合どうするかという視点がないと?

「確かに収入保険とナラシという制度があるにはあります。収入保険もナラシも、過去5年間の平均売上高が基準収入として設定されており、それよりも今年の収入が減った場合、収入保険では、その81パーセント、ナラシでは9割90パーセントが補償されます。いずれも、基準収入は、過去の売上高の平均ですから、農家のコストをカバーする水準かどうかは関係ないのです。特に、売り上げが傾向的に減ってきていたら、基準収入は「底なし沼」のように減ってしまい、経営のセーフティネットにはなりえません。そもそも、基準が「売上高マイナス費用」でなく、売上高ですから、今回のように費用が2倍近くにも増加して赤字が出ていても、その分がまったく勘案されないのです。要するに政府には生産原価をカバーするという肝心要の視点がないということです。だから、大規模農家からも『収入保険なんか使えない』『今回のコスト高で何の役に立ったのか』という悲嘆の声が少なからず聞こえてくるのです」

1万トンでも無理があるのに50万トン規模の輸出が可能か?

――1990年代から30年間、生産者米価は下がり続け、最近では、玄米1俵(60キロ)が1万円を下回るような状況になっていました。農家にとっては持ち出し続きの実に受難の時代だったわけですね。

「そうです。令和のコメ騒動を経た現在でも頑張れば60キロ9,500円で作れるとの意見もあるようですが、北海道の大規模農家でも『60キロ2万3,000円から2万5,000円は必要』と言います。それくらいの販売価格でないと持続的な経営は困難になると聞きました。それくらい生産原価がかかっているということです。彼らはスマート農業に関しても『夢みたいな話ばかりが飛び交っている。自分も試験的にやってみたが、使える技術は限られると実感した』と異口同音に話します。区画を広げるにしても、水を張るために水平にするだけでも容易ではないのが実状で、各水田を仕切っている畦(あぜ)をなくして広げるにしても限界があるそうです。輸出促進も簡単ではありません。増産して、たとえ50万トン余っても輸出に回せば問題ないと豪語する人もいますが、輸出を1万トン増やすのがどれだけ大変なことかをわかっていらっしゃるのかと申し上げたい。短粒種と長粒種の違いはありますが、日本のコメはタイ米の8倍ぐらいの値段です。しかも世界のコメ市場で短粒種(日本産)の割合はわずか数パーセントを占めるに過ぎないのが現実です。それを一気に50万トン輸出に回すなど、突拍子もない意見ですし、国際相場よりも大幅に高いコメをわずかな輸出補助金を付けただけで、50万トン単位で出せるはずがありません」

――農地集約を進め、複数個所に位置している「分散錯圃(さくほ)」状態にある水田をまとめてしまい、水をほとんど張らずに育てた苗ではなく専用品種の籾(もみ)を作付けする「乾田直播(ちょくは)」であればコスト負担の低減につながると喧伝(けんでん)されています。ただし、除草剤の使用量が増えるというデメリットがあることは前回伺いました。それに加えて水資源の涵養(かんよう)に支障をきたす恐れも出てくる気がします。「危機」とまで称される気候変動を考えると、大規模集約した農地での「乾田直播種」や「単一品種栽培」には、ひとたび何かが起きれば一網打尽の壊滅的被害が起きうるリスクを抱えている気がします。

「言うまでもなく水資源涵養へのリスクは災害リスクにもつながるでしょう。近年は気象が安定せず、これまで予期できなかったような土砂崩れや河川のはんらんなどの災害が多発しています。そうしたなか、一気に単一品種を作付けすれば全滅の恐れが出てこないとは言い切れません。多品種・多品目を域内分散で栽培していることが危険の分散にもなっているのは間違いないからです。やはり、種の独占支配につながりかねない単一品種大規模栽培にはリスクを伴う点にも目を向ける必要があるでしょう。簡単に農地集約といいますが、これまでも区画整理のかけ声はあってもが容易に進んでいないのが実状なのです。土地の起伏が激しかったり、分散したりしている水田を一気に均(なら)して平地化して集約するなど日本の土地条件を考えても無理があります。日本では分散錯圃の水田を数百筆(=枚)集めて100ヘクタール。オーストラリアは眼前の1区画が100ヘクタール。頑張って規模拡大すれば海外と競えるとの主張は空論というしかありません。そんなことより、この四半世紀以上も続く「コメの原価割れ構造」の是正こそ急務なのです。それなくして農業者人口の減少に歯止めをかけることもできないでしょう。政府は生産者米価が生産コストを下回る事態が常態化し、農家の大半が高齢者だけとなり、今後5年以内に離農者が相次ぐのが確実な状況を認識していたはずです。にもかかわらず、実のある対策を講じてこなかったわけです。それが一転、急に価格が上がったから増産と言い、今度は『需要に見合った生産』と言い出しています。そこには米価が下がっても農家が安心して経営を続けていくための生産コストを基準とした補償制度を構築するという姿勢は一切感じられません。そのビジョンが示されれば、農家も頑張ってみようかという気持ちになるでしょうが、依然として一つ年を取れば離農する人が増え続けているのが現実です」

求められる生産コストが軸の補償制度 進む「地産地消」の仕組み

――「10年後には農地の3割が担い手不足」に陥るという予測まであります。

「そんなレベルの話じゃありません。もっと急速に農業者人口は減り続けています。コメ専業農家に限らず野菜や果樹の農家もです。長期にわたる後継者難です。この現実を変えるには、まず第一にコスト割れしない価格で販売できる仕組みを整えることであり、原価と出荷価格の差額を補てんする仕組みを国レベルで立ち上げる必要があります。農業をやりたいという人は決して少なくありません。とりわけ有機農業か自然栽培に挑戦したい20代から30代は二人に一人の割合と農水省が発表(2025年7月「新規就農をめぐる現状と課題」)しています。しかし、実際に踏み出せないのは農地と技術、資金と機械とかの設備、販路の確保のめどが立たないからです。国レベルでは、新規就農者がどこかの農業法人で働いた後に「独立」するまでの5年間に限り、毎年150万円を助成する制度があります。とはいえ、その5年が切れると離農してしまうケースが多いわけです。それではいけません。茨城県石岡市のJAやさとは農業をやりたいという若者を受け入れ、農地を提供するとともに技術指導も担い、農機も貸し出し、生活クラブ生協も含め六つの生協と組んで「ぜったい売れるようにする」と販路も用意するシステムを導入しています。

同様の仕組みは市町村レベルでは岩手県九戸村にもありますし、京都府亀岡市は市長が努力を重ね、農地を確保し有機農業の学校も開設しました。農機ステーション(共用倉庫)を建設し、そこから必要な農機はすべて借りられるようにしています。販売先はコープ自然派です。ここは徳島でも農協と市町と生協が連携していて、技術は農協、販路は生協という形で頑張っています。大阪の泉大津市や東京の世田谷区が始めたように、いざというときに食べられなくなるのは都市部という視点に立ち、各地で頑張っている農家を支えるために農産物を買い取るという動きも顕著になってきました。兵庫県明石市は年間予算が大赤字だったにもかかわらず、「とにかく地元の子どもを守らなきゃいけない」と給食無償化に取り組み、子ども関連予算を2倍に増やしました。当初は「アホか」と批判もされたようですが、結果的には出生率も上がって商店街が活性化、地域経済循環が回り始めて税収が増え、財政赤字が解消したと聞きました。そういう「子ども・いのち・食料を守る政策」に基づいた仕組みがより広がることが重要なのです」

――なるほど。生産コストをベースにした所得保障と持続可能な生産のための「地産地消」の実践が食料の持続可能な生産と供給のカギになるということですね。

「1次産業はいうまでもなく「いのちの産業」であり、地域の暮らしと産業を根底から支えてくれています。それが都市への人口集中で見えにくくなり、実感しづらくなってきました。かなり深刻な事態だと私は受け止めています。周知のように地方の駅前商店街の多くがシャッター街どころかゴーストタウンのようになってしまっています。大手量販店のモールやディスカウントショップが郊外に盛んに出店し、そこだけが潤うようなスタイルが定着してきました。コミュニティ(地域共同体)があって、そこでだれもが安心して暮らせるというエリアがますます崩壊させられているというか……。ヨーロッパ、イタリアやフランスには大規模店舗法を定めて規制をかけ、地域の人びとが「地場産品」を食べたり、使ったりすることで商店街を支える意識が強く働いています。そうして安心して暮らせる地域を次世代につないでいこうとしています。一方、日本もそうですが、米国の地方も崩壊局面に入っています。

日本は国民生活も貧しくなってきていて、この30年弱で年間所得が150万円も減るという貧困化が進みました。この状態を変えることがまず大事です。その一助として現農水大臣は「おこめ券」を配布するとおっしゃっているようですが、失礼ながらそんな小手先の解決策ではなく、財政出動こそ必要なのです。コメでいうと小売価格が3,500円であれば60キロで生産コストを踏まえた出荷価格は2万5,000円ぐらいになります。それを小売価格2,000円から2,500円で販売した場合、その差を財政出動で補てんしても予算規模は1兆円かかるかかからないかになるというのが、私の試算です。その政府支出を高いと見なすか、国民の生命と財産を守るためには安いと捉えるかが、いまの政治に問われているのです。生産者の持続的生産と食料の安定確保を支え、消費者も支援するための財政出動です。これが食料安全保障の要諦でしょう」
 
 

「出口調整」に注力すれば食料自給率は49パーセントに上昇する!

――食料安全保障と食料を活用した社会保障との一体化?

「そうです。そこに公的資金を注入する、財政出動するということです。仮に増産が進み、2万5,000円が保障されるとなると生産過剰に傾く可能性が高くなります。備蓄は間違いなく安全保障コストですからせめて300万トン。日本で消費されるコメ約700万トンの半分近い水準の備蓄は食料安全保障のために必要なコスト負担です。小麦やトウモロコシは圧倒的に輸入依存で備蓄していないわけです。仮に輸入の小麦に変えてコメを使ったパンや麺にする、輸入小麦を国産米に全量を置き換えられる「出口調整」に注力したら、それだけで自給率が49パーセントまで上がることが試算してみてよくわかりました。トウモロコシの代わりに飼料用米、コメを油脂原料にもするなどしてコメの用途を広げれば大きな変化が期待できます」

――それが「需要に見合った生産」の一つの姿ですよね。ところが、現政権の農水大臣からは「コメ余り」を恐れているかのように「需要に見合った生産」という言葉を口にされているような印象を受けます。そうしたなか依然としてコメの高値が報じられ、マスメディアは価格動向だけに注目しているようです。

「それだけ買値引き上げを競争して買った人がいて、JAも概算金を追加払いせざるをえなくなりましたからね。60キロ3万円以上の水準です。まぁ、民間業者は3万5,000円と聞いています。競争が異様に加熱した結果というしかありませんが、市場原理最優先で政府が適切な介入をしなかったことの大きなツケ回しと言えるのではないですか。もしも「コメ余り」の事態に至れば、今後は自家消費米と縁故米は作っても『出荷はしない』と言う農家が増えても不思議はありません。下手をすれば、一気にやめてしまうという最悪の事態も想定できます。だからこそ、農家が安定的な経営を続けられることを前提にした、生産コスト(原価)を軸とした所得補償制度を構築し、消費者の望む適正価格と生産者にとっての適正米価の差額を財政出動で埋める農政転換に政府は着手すべきです。それが「おこめ券」の配布とは、まさにお茶を濁すとはこのことかと失望を禁じえません」


撮影/魚本勝之 取材構成/生活クラブ連合会 山田衛
 

すずき・のぶひろ
1982年、東京大学農学部農業経済学科を卒業し、同年、農林水産省に入省。 15年ほど主に貿易問題、国際交渉担当などを担った後に退職。 1998年、九州大学農学部助教授、大学院農学研究院教授を経て、2006年9月から東京大学大学院農学生命科学研究科教授(農学国際専攻)。 2024年から同特任教授。『農業消滅――農政の失敗がまねく国家存亡の危機』(平凡社新書)、 『貧困緩和の処方箋――開発経済学の再考』(筑波書房ブックレット)、『協同組合と農業経済――共生システムの経済理論』(東京大学出版会)『世界で最初に飢えるのは日本――食の安全保障をどう守るか』(講談社+α新書)、『マンガでわかる 日本の食の危機――迫る飢餓・・・・・・「質」も「量」も崖っぷちの現実から大切な命を守るために』(方丈社)、『このままでは飢える!――食料危機への処方箋「野田モデル」が日本を救う』(日刊現代)、『食の属国日本―命を守る農業再生』(三和書籍)など著書多数。近著に文春新書『令和の米騒動 食糧敗戦はなぜ起きたか?』講談社α新書『もうコメは食えなくなるのか』がある。

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