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[本の花束2026年7月]「戦争と平和」に新しく出会い直す文学の力 児童文学研究者 宮川健郎さん

「戦争と平和」に新しく出会い直す文学の力

戦争の中で生きた人びとを描く作品のアンソロジー『戦争がわたしたちを見つめている 戦争文学セレクション』全3巻。日々戦争のリアリティが増す今、私たちはどう読むべきなのか。編者で、児童文学研究者の宮川健郎さんにお話を伺いました。


──「戦争がわたしたちを見つめている」というシリーズタイトルが、とても印象的です。

この本は戦後80年という節目の昨年に出版されました。
80年の間、日本は一応は戦争をしていなかったわけですが、世界では常に戦争が起こっていました。
特にロシアのウクライナ侵攻以降は、戦争がより身近なものとして顕在化してきた印象があります。まさに、戦争に取り囲まれている。そんな中で、私たちが戦争をどう見つめ返すことができるのか。戦争を直視するのは簡単ではないけれど、どんな勇気をもらったら、私たちは戦争を見つめ返すことができるだろうか。それがこのアンソロジーのモチーフになりました。

──シリーズ1巻目『少年が見た戦争』の冒頭作、三木卓さんの「夜」。描かれる不穏な空気は、今の私たちの不安に重なります。

ソ連軍が国境を破り目前に迫っているらしい。大人たちは動揺しながらも、すぐには来ないから今は寝よう、と言うけれど、子どもたちは寝られず、寝床の中で目を凝らしている……。今の私たちが読めば、終戦直前の満州が舞台の話だとわかりますが、本作ではただ、少年たちが、歴史が動くその瞬間を感じている。この本の「入り口」にふさわしい作品だと考えました。

──誰もが知る有名作から、知る人ぞ知る逸品まで読めるのも、アンソロジーの魅力ですね。

私たちは案外、全部未知のものだと読めないんです。この作品は知っている、この作家は知っている、というものがまずあって、既知のものを頼りにようやく未知のものにたどり着けるような気がします。

──教科書で読んだような有名作でも、他の作品との並びで読むとまた違う印象が残りますね。

同じ作品でも、子どもが読むのと大人が読むのとでは違うと思いますし、一度読んだものを時間をおいて再び読んだときの発見もあると思います。難しいと思ったら、飛ばしてもいい。
時間を置いて、また出会うという読み方もあると思いますから。

──戦争や平和のこと。たとえ今は伝わらなくても、再び出会い気づくことはきっとありますね。

私は、文学というのは、見慣れたものを見直す仕事だと考えています。戦争のことをどう伝えていくかということは、子どもの文学がずっと考えてきた重要なテーマでしたが、この80年の間に、戦争や平和は語られすぎて、不思議なことに「見慣れた」ものになってしまっているんですね。それを「見慣れない」新しいものにしていくのが文学の仕事。このアンソロジーも、そんな「文学の力」を発揮できる構成にしたかった。
 
──戦争そのものを描いた作品ばかりではないのも、おもしろいです。

宮沢賢治の「烏の北斗七星」などは、いわば戦争のイデア、観念に入り込んだ作品ですし、三崎亜記の「鼓笛隊の襲来」も、この本の中で読むと戦争文学としての意味が生まれますが、単体で読むとそうは読めなかったかもしれません。一つひとつの作品が持つ力以上のものを引き出せるのがアンソロジーのおもしろさであり、意義だと思います。今回は、戦争というものを改めて見直させてくれる力を持ったものを、あくまでも作品本位で選びました。

──戦争の空気が色濃くなってきた今、作品がよりリアルに感じられるようになりました。

そうですね。企画段階では、一応は平和の中にいる子どもたちに、戦争のことを伝えたいと思っていたのです。ですが、作品の内容を現実味をもって感じ取れる時代になってしまった。
残念なことに、この本がとても切実なものになってしまったな、と思いますね

──作品を読んでいると、今の自分と子どもだった自分の目線が交差するようです。

私は昨年、70歳になりました。
70歳の現実を生きている自分がいるけれど、自分の中の一つ下の層には中年期があって、さらに下には青年期や子ども時代がある。それらはすべて地層のように重なっていて、体の中から失われていくものではないんですね。私は、子どもの文学を読むことを仕事にしているので、毎日、自分の地層のボーリング作業をしている感じで、日々、子ども時代と出会い直しています。

──かつての自分と対話しながら、戦争と平和に新しく出会い直す。今の時代に大切なアンソロジーですね。今日はどうもありがとうございました。

インタビュー: 岩崎眞美子
著者撮影:尾崎三朗
取材:2026年4月
イラスト:鈴木佳代子

 

●みやかわたけお/1955年東京都生まれ・立教大学文学部日本文学科卒。同大学院修了。宮城教育大学助教授等を経て、武蔵野大学名誉教授。一般財団法人 大阪国際児童文学振興財団理事。著書に『現代児童文学の語るもの』『物語もっと深読み教室』など、編著に『日本の文学者54人の肖像(全3巻)』など多数。
『戦争がわたしたちを見つめている 戦争文学セレクション』全3巻

『戦争がわたしたちを見つめている戦争文学セレクション全3巻』
●小学校高学年から
●宮川健郎 編
●汐文社(2025年3月)
●各19.5×13.5cm/202 ~ 214頁

【収録作品】

『少年が見た戦争』
茨木のり子「わたしが一番きれいだったとき」
杉みき子 「春さきのひょう」
たなべまもる「そして、トンキーもしんだ」
長崎源之助 「大もりいっちょう」
古井由吉「赤牛」 ほか

『こわされたまち』
原民喜 「夏の花」
峠三吉 「原爆詩集」
壺井栄「石臼の歌」
大野允子 「つるのとぶ日」
三崎亜記 「鼓笛隊の襲来」
佐多稲子 「乾いた風」
宮川ひろ 「おはじき」

『戦火のあとで』
いぬいとみこ「川とノリオ」
太宰治「未帰還の友に」
遠藤周作「カプリンスキー氏」
あまんきみこ「すずかけ通り三丁目」
那須正幹「The End of the World」 ほか

 
図書の共同購入カタログ『本の花束』2026年7月4回号の記事を転載しました。
 

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