小さな卵に託す、 語りきれないメッセージ

2023年に完成した新鶏舎。ケージの天井が高くゆとりがあり、通路は風が流れる
2022年に高病原性鳥インフルエンザが発生し、深刻な被害があった「生活クラブたまご」。多くの支援と連携でこれを克服し、24年より、飼料の自給を進めるため子実(しじつ)トウモロコシの給餌を始めた。民間で唯一、国内で採卵鶏の育種改良を行っている後藤孵(ふ)卵場の純国産鶏、「さくら」と「もみじ」に取り組んでいる。
冬の感染症と、夏の暑さと
卵の価格高騰が続いている。円安による輸入穀物飼料や輸送費の値上がりなどによる影響もあるが、特に深刻なのは鳥インフルエンザだ。「発生があった養鶏場の鶏は殺処分をしなければなりません。元の通りに生産できるよう鶏の羽数をそろえるまでに時間がかかり、その後の卵の価格に影響が出ます」と話すのは、埼玉県深谷市にある生活クラブたまごの代表取締役専務、工藤一さん。東京、神奈川、埼玉など8地域の生活クラブに鶏卵を提供する、生活クラブ連合会の提携生産者だ。

「生活クラブたまご」の代表取締役専務、工藤一さん
生活クラブたまごでは、2022年12月に鳥インフルエンザが発生し、19万4千羽を殺処分した。卵を産む採卵鶏は、孵卵場でヒナにかえり育雛(いくすう)農場で育成されてから養鶏場に運ばれるが、ちょうどこの時期、孵卵場ではヒナをかえす準備が進んでいた。しかし生活クラブたまごでは受け入れられる状況になく、やむなくつき合いのあった他の養鶏農場に飼育の協力を求めた。
打撃は深刻だったが、多くの支援を得て復旧作業を進め、1年後の23年12月には新鶏舎が完成する。予定していた全ての鶏舎に鶏が入り、鶏卵の生産が徐々に回復していった。「鳥インフルエンザは、明確に防ぐ手段はありません。さまざまな方面の方々からの協力や、組合員の支えがあり、鶏卵の供給量は少しずつ戻ってきています」と工藤さんは振り返る。
打撃は深刻だったが、多くの支援を得て復旧作業を進め、1年後の23年12月には新鶏舎が完成する。予定していた全ての鶏舎に鶏が入り、鶏卵の生産が徐々に回復していった。「鳥インフルエンザは、明確に防ぐ手段はありません。さまざまな方面の方々からの協力や、組合員の支えがあり、鶏卵の供給量は少しずつ戻ってきています」と工藤さんは振り返る。
鶏は暑さに弱い。汗をかくことができず、体温調節が難しいためだ。生活クラブが鶏卵の共同購入を始めた1970年代は、開放鶏舎が鶏にとっては最も過ごしやすい環境だった。しかし気候が変わり、ここ数年、最高気温が35度を超える日も珍しくなく、生活クラブたまご岡部農場がある深谷市では、最高気温が40度を超える日も出ている。
鶏舎の中が暑くなると鶏は食欲がなくなり、38度を超えると死んでしまうこともある。鶏舎では暑さ対策として、強い日差しを遮るためにカーテンをつけ、吸気用の大きなプロペラを設置し、風がまっすぐ流れるような設計にした。26度以上になると温度センサーが反応し、ミストが出る。「昨年はあちこちで40度を超えましたけど、ここの鶏舎の中が38度を超えたのは二日間だけでした」と工藤さん。外壁に井戸水をかけるなど、夏の間、鶏が少しでも過ごしやすいようにと対策を考えている。
鶏舎の中が暑くなると鶏は食欲がなくなり、38度を超えると死んでしまうこともある。鶏舎では暑さ対策として、強い日差しを遮るためにカーテンをつけ、吸気用の大きなプロペラを設置し、風がまっすぐ流れるような設計にした。26度以上になると温度センサーが反応し、ミストが出る。「昨年はあちこちで40度を超えましたけど、ここの鶏舎の中が38度を超えたのは二日間だけでした」と工藤さん。外壁に井戸水をかけるなど、夏の間、鶏が少しでも過ごしやすいようにと対策を考えている。
鶏を健康に育てまるごと利用
岡部農場では、120日齢の鶏を入れ、550日齢ぐらいまで飼う。生活クラブの独自基準に従った餌を食べさせ、卵だけでなく、卵を産み終えた親鶏もふんも全部余さず利用する。
餌は、遺伝子組み換え作物の混入を防ぐため分別管理されたトウモロコシや大豆かす、飼料用米などが中心だ。昨年は、主食用米の不足を背景に、その作付けが増え、飼料用米の生産量が減少した。そのため、30%の配合だった飼料用米を、8月より15%に減らした。その分、トウモロコシを増やしたせいか、黄身の色が以前より濃くなったそうだ。卵の黄身の色は与える餌によって変わる。餌を調整して黄身を一定の色に保つ方法もあるが、生活クラブたまごは、鶏の成長に合わせて配合を変えるだけだ。
餌は、遺伝子組み換え作物の混入を防ぐため分別管理されたトウモロコシや大豆かす、飼料用米などが中心だ。昨年は、主食用米の不足を背景に、その作付けが増え、飼料用米の生産量が減少した。そのため、30%の配合だった飼料用米を、8月より15%に減らした。その分、トウモロコシを増やしたせいか、黄身の色が以前より濃くなったそうだ。卵の黄身の色は与える餌によって変わる。餌を調整して黄身を一定の色に保つ方法もあるが、生活クラブたまごは、鶏の成長に合わせて配合を変えるだけだ。

卵の黄身の色見本。米の配合が多いと黄身は白っぽくなり、飼料用米が15%の現在は、7と8の間ぐらい


配合飼料の主な材料。黒麹(こうじ)は腸内環境を整え、消化を良くする

茨城県にある「JA全農くみあい飼料」から運ばれる配合飼料。季節ごとに、また鶏の成長に合わせて配合された餌が届く
24年より埼玉県産子実トウモロコシの給餌を始めたのも、自給率をあげる試みだ。配合するトウモロコシの10%を1カ月だけ、輸入ではなく埼玉県産に変えている。日本ではこれまで飼料用トウモロコシといえば、茎も葉も一緒に刈り取り発酵粗飼料とするのが一般的で、実だけを収穫して使う子実トウモロコシは、全量輸入に依存してきた。近年、北海道では子実トウモロコシの利用とそのための栽培が進んでいるが、本州ではまだ広がってはいない。工藤さんは地元の農家と協力して生産量を増やしていくつもりだ。
卵を産んでいた鶏は、550日齢を過ぎると一斉に部屋から出される。鶏舎内は水洗い、消毒、修繕などが行われ、一定期間をおいて新しい鶏が入る。産卵を終えた鶏は「親鳥ひき肉」として、生活クラブに提供される。
排出される鶏ふんも産業廃棄物にはしない。発酵させ肥料として、「JA庄内みどり」遊佐支店の大豆部会、埼玉県の「沃土(よくど)会」の野菜の生産者など、生活クラブの提携生産者へ届けられている。
鶏は生き物なので、利用する側の都合に関係なく卵を産み続ける。組合員に安定利用を呼びかけるが、休み週にはどうしても余りが出てしまう。「毎年8月には配達の休み週があります。昨年はその間に50トンの卵が産まれました。卵は専門の冷蔵庫に保管し、10月に入ると練り製品の提携生産者の『こめや食品』へ運びます。そこで正月用の伊達(だて)巻が作られるのです」と、工藤さんは休み週に産まれる卵の利用方法を紹介してくれた。
卵を産んでいた鶏は、550日齢を過ぎると一斉に部屋から出される。鶏舎内は水洗い、消毒、修繕などが行われ、一定期間をおいて新しい鶏が入る。産卵を終えた鶏は「親鳥ひき肉」として、生活クラブに提供される。
排出される鶏ふんも産業廃棄物にはしない。発酵させ肥料として、「JA庄内みどり」遊佐支店の大豆部会、埼玉県の「沃土(よくど)会」の野菜の生産者など、生活クラブの提携生産者へ届けられている。
鶏は生き物なので、利用する側の都合に関係なく卵を産み続ける。組合員に安定利用を呼びかけるが、休み週にはどうしても余りが出てしまう。「毎年8月には配達の休み週があります。昨年はその間に50トンの卵が産まれました。卵は専門の冷蔵庫に保管し、10月に入ると練り製品の提携生産者の『こめや食品』へ運びます。そこで正月用の伊達(だて)巻が作られるのです」と、工藤さんは休み週に産まれる卵の利用方法を紹介してくれた。
純国産鶏「さくら」と「もみじ」
卵を産む採卵鶏は、その親(種鶏)や祖父母(原種鶏)、さらに曾祖父母(原原種鶏)の代から交配と選抜を繰り返してつくられる。日本の気候風土や食文化に合うように幾世代にもわたり国内で育種改良された鶏が純国産鶏だ。
日本の鶏卵はほぼ国産といわれている。採卵鶏が日本で産卵した卵、という意味では国産だ。しかし、岐阜県各務原市(かかみがはらし)に本社がある後藤孵卵場の代表取締役社長、日比野義人さんによると、日本では、採卵鶏の曾祖父母に当たる原原種鶏のほとんどを輸入に依存し、国内で育種改良された純国産の採卵鶏は4%にも満たないという。生活クラブたまごで飼育する採卵鶏が、この4%に含まれる純国産鶏「さくら」と「もみじ」だ。
日本の鶏卵はほぼ国産といわれている。採卵鶏が日本で産卵した卵、という意味では国産だ。しかし、岐阜県各務原市(かかみがはらし)に本社がある後藤孵卵場の代表取締役社長、日比野義人さんによると、日本では、採卵鶏の曾祖父母に当たる原原種鶏のほとんどを輸入に依存し、国内で育種改良された純国産の採卵鶏は4%にも満たないという。生活クラブたまごで飼育する採卵鶏が、この4%に含まれる純国産鶏「さくら」と「もみじ」だ。

純国産鶏「もみじ」。褐色の卵を産む。「さくら」は白い羽で、さくら色の卵を産む

若い鶏が産む卵は小さく、日齢が増えて体が大きくなるにつれ卵も大きくなる。Sサイズから78グラムのLLサイズまでがパックに入る

「生活クラブたまご」の橋本万理さん。もみじを飼育する鶏舎の管理をしている。「みんな、わが子のように接しています」

「生活クラブたまご」取締役事業部長の酒井宏樹さん。「歴史のある鶏卵生産を伝えていきたいです」
さくらともみじは、1942年創業の後藤孵卵場でつくられている。60年代にヒナの輸入が自由化される前は、同じような孵卵場が約1400軒もあった。しかし自由化後は、少ない餌で多くの卵を産む外国産鶏種が普及し、孵卵場の多くは採卵鶏業者やヒナの輸入代理店へと変わっていった。現在、民間で採卵鶏の育種改良を行うのは後藤孵卵場1社のみだ。海外での鳥インフルエンザの発生や物流の混乱などでヒナを輸入できない事態が発生すると、十分な鶏卵の生産・供給はできなくなってしまう恐れがある。

「後藤孵(ふ)卵場」の代表取締役社長、日比野義人さん(左から2番目)と、姫研究所で純国産鶏の育種改良に携わる皆さん(撮影:伊澤小枝子)
日比野さんは、「種を守り、育種改良を繰り返したさくらともみじが産卵した卵の取り組みが、本当の意味での鶏卵の自給につながります」と言う。
生活クラブたまご(当時は「鹿川グリーンファーム」。2013年に社名を変更)が、後藤孵卵場の純国産鶏を導入し始めたのが90年。95年には、それまで導入していた外国鶏のヒナのすべてを、さくらともみじに切り替えた。この取り組みは生活クラブの他の鶏卵の提携生産者にも広がっている。
後藤孵卵場が育種改良を行う「姫研究所」が岐阜県可児(かに)市にある。ここでは、原原種鶏の選抜が繰り返され、原種鶏、種鶏がつくられる。育種の元となるヒナも原原種鶏の選抜により産まれ、種が途絶えないようにするためにも重要だ。
姫研究所は多治見市に近く、生活クラブたまごがある深谷市と同じように暑い。「いずれ暑さにも強い鶏が生まれるでしょう」と、日比野さんは育種改良の将来に期待する。
日比野さんは、「種を守り、育種改良を繰り返したさくらともみじが産卵した卵の取り組みが、本当の意味での鶏卵の自給につながります」と言う。
生活クラブたまご(当時は「鹿川グリーンファーム」。2013年に社名を変更)が、後藤孵卵場の純国産鶏を導入し始めたのが90年。95年には、それまで導入していた外国鶏のヒナのすべてを、さくらともみじに切り替えた。この取り組みは生活クラブの他の鶏卵の提携生産者にも広がっている。
後藤孵卵場が育種改良を行う「姫研究所」が岐阜県可児(かに)市にある。ここでは、原原種鶏の選抜が繰り返され、原種鶏、種鶏がつくられる。育種の元となるヒナも原原種鶏の選抜により産まれ、種が途絶えないようにするためにも重要だ。
姫研究所は多治見市に近く、生活クラブたまごがある深谷市と同じように暑い。「いずれ暑さにも強い鶏が生まれるでしょう」と、日比野さんは育種改良の将来に期待する。

後藤孵卵場では、有精卵を孵化させながら、純国産鶏の育種改良を進めている(写真提供:後藤孵卵場)

原原種鶏をケージ飼いし、産んだ卵を検査して鶏の選抜を進める(撮影:伊澤小枝子)
撮影/田嶋雅已
文/伊澤小枝子
文/伊澤小枝子
『生活と自治』2026年8月号「連載 ものづくり最前線 いま、生産者は」を転載しました。
【2026年8月21日掲載】
ニュース記事、読みもの記事は、掲載時点の情報に基づいて制作しています。掲載後の状況の変化により、記事内で紹介している内容が現在の状況と異なる場合があります。掲載から時間が経った記事をお読みになる際は、あらかじめご留意ください。
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