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注視・熟考・検証  「高市政治の素顔」
―アイドル論的視座からの思索― (下)

中森ゼミ特別企画 トークセッションpart2(下)
アイドル研究家  中森明夫さん
朝日新聞編集委員 高橋純子さん


ふと思い起こしたのは「保育園落ちた日本死ね」という言葉。2016年の流行語大賞に選ばれました。あれから10年、いまはますます「日本」が主従の「主」で国民の暮らしは「従」とでもいわんとする政治が当たり前になりつつあるようです。この現状を中森さんと高橋さんはどう捉えているのでしょうか。(取材2026年6月5日)

「小選挙区制」と「忘れられた政界不祥事」

――高市総理は政府の最大の責務は「国民の命を守ることだ」と折あるごとに明言しています。それには「軍備増強が欠かせない」と防衛装備(兵器)の購入に多額の予算を投じ、米国や同志国との軍事同盟にも熱心ですし、憲法改正にも意欲的と報じられています。そうしたなか、イスラエルと米国によるイラン空爆からはじまった戦闘行為により、日本はエネルギーと食料の安定確保に深刻な影響を受け続けています。今後の高市政権の動きが実に気になります。
 
中森 軍備増強に国家権力の基盤強化、「経済安全保障」の名称で着々と進められる監視と精神の自由の抑圧、インテリジェンス(諜報活動)の強化と仮想敵国を想定した取締り強化のための「国家機密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」(1985年廃案)、「国家情報会議設置法案」(2026年)の制定……。そうした一連の高市政権の動きに疑問を抱き、警戒感と危機感を持つ人は決して少なくないでしょう。ところが、それが選挙結果に現れない。まさにアーキテクチャー(基本構造)の問題です。自民票と反自民票はほぼ半々くらいなのに、自民党が300超の議席を得てしまう。この選挙制度のあり方に問題があるわけです。加えて野党が一枚岩になれないのも大きな要因です。

自民党は石破茂で選挙に負け、高市早苗で勝った。その間、何か自民党に変化があったかといえば何もない。まさに表紙を付け替えただけ。しかし、そのおかげで統一教会絡みの醜聞や「裏金問題」をはじめとする不祥事は忘れ去られた状態になりました。「これでいいのか」「このままでいいのか」と危機感を抱いている自民党議員は少なからずいるでしょう。自民党というのは、本来、党内で活発な議論があってこその政党なんです。それが変質しはじめたのが小選挙区制の導入からだったと言える。

西部邁さんの著書『リベラルマインド』が中島岳志さんの解説付でA&F BOOKSから復刊されました。1994年に小選挙区制に移行したときのことが書かれている。とても良い本です。小選挙区制度なんてものができてしまったら、特に自民党のような与党の中で活発な議論が無くなってしまうと予見した。
実は、小泉純一郎元総理も小選挙区制に反対していました。

小選挙区制導入の立役者は小沢一郎前衆議院議員です。当時はリベラルな識者も小選挙区制に賛成していた。マスメディアもそう。しかし、西部邁はロジカルに考えたらこうなるに決まっていると現在の政治の姿を予測して、的中させたのです。小泉純一郎元総理の場合、郵政選挙がありました。郵政民営化に反対する自民党議員を「抵抗勢力」と位置付け、同じ自民党から「刺客」と称された対立候補を立てた。自民党の公認候補は一選挙区に一人しか立てられませんから、党執行部に逆らったら即アウトになる。小泉元総理はかつて自身が猛反対していた小選挙区制を駆使して大勝利を収めたわけです。

その後、安倍政権は内閣人事局制度を立ち上げ、人事権を支配して霞が関の官僚からの異論も封殺しました。政権に対して野党的スタンスで異論を提起できるのは官僚だったわけです。安倍元総理は内閣人事局制度を上手く使って、自分に良い顔する官僚を優遇した。それが「モリカケ・サクラ問題」の要因の一つでしょう。小選挙区での公認をもらうには執行部の言いなりになるしかない、自民党議員は安倍さんに逆らえない。これが「安倍一強体制」を生んだと言える。中選挙区制時代も派閥争いや金銭絡みなどさまざまな問題がありました。しかし、今となっては小選挙区制の弊害は実に大きい。

法が命じる「愛する心」と「一番病」の政治家

高橋 本当に政治主導という方向性が変な形になりました。官僚組織はプロ集団。その道のプロとしてちゃんと意見を聞けるし発言できる力を有した人たちです。安倍元首相を過度に持ち上げたくはありませんが、彼は官僚をうまく利用していました。ところが高市首相報道によると、所管官庁の官僚からレク(事前説明)すら受けず、資料だけもらって自分で読み込んで勉強しているのだそうです。
 
中森 おかげで「台湾有事」をめぐってあんな発言をしてしまい、明らかに国益を大きく損なってしまいました。
 
高橋 米国大統領とは問題になるようなことはなかったようなので結果オーライかもしれませんが、これまで歴代総理が何十時間とやってきたレクを受けず、自分で勉強すれば何でもできると思っているといいますから、そこにも私は独善めいた危うさを感じます。いま関係省庁の官僚たちが黙っているのは、余計なことを言って首相を怒らせれば「報復」されると恐れているのではないでしょうか。内閣人事局の負の効果です。
 
中森 昨今の国会中継を見ていて非常に虚しくなるのは、嘘でももうちょっとうまい嘘をついてほしいと思うからです。「会員購読などしたくないから週刊文春の記事は読んでいない」と総理は釈明しましたが、そういう人がスパイ防止法を施行し国家情報局の責任者になるわけです。いったいどうやって情報を取る気なのでしょうか。たとえ自分が会員にならなくとも、だれかにチェックしてもらうのは容易なはず。そんな簡単なことすらしようとしない人が国家情報局うんぬんとは片腹痛い話です。
 
高橋 首相は秘書が週刊文春の記事は読んでいなかったから「私が読んで聞かせました」と言いました。実行当事者と見なされていた秘書本人が読んでいないとは考えられないし、本当に読んでいなかったとしたら職務怠慢でしょう。いずれにしても、高市事務所が機能不全に陥っているというお粗末な話なのに、首相自らが読んできかせたなんてことを真顔で堂々と答弁する。聞いていてヘソで茶を沸かしそうになりました。


中森 「国家情報会議設置法案」や、スパイ防止法、国旗損壊罪、国家情報局の強化と。戦前の治安維持法を思わせますよね。この種の批判はいささか紋切型だけれど、現政権こそが紋切型の強権政治に走っているのだから仕方がない。国旗損壊罪を「法律で縛るようなことじゃないだろう」と言い切った自民党議員がいましたが、自民党内のまっとうな保守派はもっと強く意見すべきです。国際的に見ても米国、英国、カナダには国旗損壊罪が無い。国旗に対する敬意を法律によって強制するなんてまともな保守じゃありません。国家への「敬愛」の念も同じ。それは自然に湧き出てくるものですよ。
 
高橋 新右翼運動の旗手として知られた思想家で「一水会」元代表の鈴木邦男さん(故人)に以前インタビューした際、「僕は日の丸も君が代も大事だと思っています。だからこそ、やたらに振ったりヘタに歌いたくない。難しい歌だから、合唱すると絶対に合わないんです。それは君が代に失礼だと思うから、口だけ開けて歌わないこともよくあります。大阪府の教員だったら処分されているかもしれません」と話されていました。「右翼というのは社会の少数派として存在するから意味があるのであって、全体がそうなってしまったらまずい。国家が思想を持つとロクなことにならないんですよ。必ず押し付けが始まりますから」と。いま起きていることはまさに「押し付け」です。国家による日の丸を大事に思うことの「押し付け」。
 
中森 そう。非常に危険で、とんでもない話です。早晩「ホームレスが不快だ」「外国人が不快だ」という話になってきますよ、あっという間にね。
 
高橋 若い人たちは「ルール」に極めて従順と巷間言われていますから、そうなりかねない恐れはあります。
 
中森 率直に言って教育がダメだからでしょう。むろん、学校教育だけじゃありません。だれが「クイズ王」かを競い合うテレビ番組があります。日本の受験秀才はクイズ王なんですよ。正解は1つだけ。用意された正解を重ねるクイズ王だけが「ヒーロー」になれる社会なんですね。
 
高橋 鶴見俊輔さんのいう「一番病」ですね。
問題が間違っていても、一番に「はい!」と手を挙げて答えるのが偉いんだという。
 
中森 受験に最も成功した人は東大法学部に進み、トップクラスは官僚になる。その人たちが1950年代から60年代の日本を豊かにした。なぜかといえば、戦後復興という問いと答えがはっきり分かる命題があったからです。戦争に負けた。焼け跡から雨露をしのぐ家を建て、暮らしを豊かにしていくにはどうするかというはっきりした問いがあり、それに答えを出すのが至上命題だった。しかし、70年代にドルショック、オイルショックがあって低成長の時代になり、80年代にもう一回盛り返したバブル経済は文字通り泡と消え、後は現在に続く失われた時代となりました。かつて「ナショナル・コンセンサス(国民的合意)」という言葉がありましたが、それも今の日本にはまったく見えなくなりましたね。

異質な他者との「出会い」無き「貧しき国」

高橋 答えが無い時代に入った時に問いを立てられなければ衰退すると思います。「お上」が作ったルールを守ることが何より大事だというマインドの人だらけの社会で、イノベーション(技術革新)なんて起きるはずがない。私は「分をわきまえろ」と人に命じる人間を心から軽蔑します。TVドラマ『銀河の一票』で、主人公の父親(与党幹事長)の口癖が「わきまえなさい」なのですが、そういう人たちが、この日本という社会を窮屈にしていると思います。憲法学者の長谷部恭男さんによると、大日本帝国憲法が目指す国家像は「企業体国家」でピラミッド型で、他方、日本国憲法が目指す国家像は「広場」なのだと。広場としての国家だと。最低限の守るべきルールだけがあり、国家は衝突が起きないよう見守るだけ、あとは自由にしてくださいという広場の論理に立っていると。ところが、今は不寛容で、他人の自由は許されないような社会になっているのではないかと感じます。

電車の中がシーンとしているのは日本特有だとよく聞きます。諸外国では公共交通機関の中でぺちゃくちゃしているのが普通だと。実は先日、同僚と会食後、つくばエキスプレスのホームでしゃべりながら待っていたら、私たちの前に立っていた中年男性に「ここは居酒屋じゃないんだから、もうちょっと小さい声で喋れ」と注意されました。大声で騒いでいたわけでないんですよ。新幹線の乗車マナーをめぐっては「においがきつい豚まんを食べるな」とか、座席を倒す時に「一言かけろ」とか「グリーン車に子どもを乗せるな」とか。どれもすべて、人の勝手、自由だろ、と。
 
中森 挙句に「子どもがうるさい」だとか怒りだす。こんな国で子どもの数が増えるわけがない。不寛容な社会で、活気も無くなるばかり。たとえば法律のグレーゾーンを突くようなギリギリの新規事業などすぐに国家に潰される、GAFAからはるかに遠くIT劣等国と成り果てた。根幹には、異質なものを許容しようとしない社会環境があります。


高橋 政治学者の山本圭さんは「民主主義を成り立たせるのに大事なのは、異なった価値観や考え方を持つ他者との出会い」と言います。多くの人が「対話」と言うじゃないですか。民主主義再生のためには「対話が重要だ」と。でも、私も現代社会は対話以前に、他者との出会いの機会が非常に少ないと思っています。階層化が進み、まず自分と似たような階層の人としか出会わない。

小学受験や中学受験をして大学までエスカレーター式に上がっていく。タワーマンションに住んで、遊び場もマンションの中の施設だったりする。トラブルが起きても対話することなく、すぐにSNSにさらしたり、警察に通報したり、他者と出会う機会と経験が急速に消失していると思います。最近では何かあればみんなAIに相談している。AIとのやりとりが対話の要であっても、その実数ある膨大なデータの中からAIがそれらしい回答をしているだけ。民主主義が壊れかけているのは政治家がおかしくなっているからだけではないと私は考えています。
 
中森 それにしても活気付かなくなった日本は面白くないし、未来に希望が持てない。若い人たちのアンケートでそんな回答が多いのもよくわかります。他者との偶然の出会いも希薄となり、自分とは異色な「他者性」が排除されて社会が「清潔かつ均一化」していく。これも実は貧しさの現れじゃないですか。
 
高橋 貧しいと思います。
 
中森 便利になったかもしれないけど。
 
高橋 いや、貧しいですよ。本当に。
 
中森 そこで大事なのは組織名にあえて「生活」という言葉を置いた生活クラブ生協、実はその考え方だろうと。いまこそ「生活」を基盤に置いて生きる協働を立て直していくしかない。いうまでもなく生活は政治と直結しています。今回のナフサショックもそう、消費税の問題もそう。制度として、いわば弱い立場の人たち、シングルマザー&ファーザーや身体の不自由な方々、病傷者や高齢者らが追い詰められるような社会は、まず政治が何とかするしかないですよ。
 
高橋 その、何とかしようという気さえ観じられない政治では先が思いやられるばかりです。


たかはし・じゅんこ
1971年福岡県生まれ。1993年に朝日新聞入社。鹿児島支局、西部本社社会部、月刊「論座」編集部(休刊)、オピニオン編集部、論説委員、政治部次長を経て編集委員。

なかもり・あきお
作家・アイドル評論家。三重県生まれ。さまざまなメディアに執筆、出演。「おたく」という語の生みの親。『東京トンガリキッズ』『アイドルにっぽん』『午前32時の能年玲奈』『寂しさの力』『青い秋』など著書多数。小説『アナーキー・イン・ザ・JP』で三島由紀夫賞候補。近著に『推す力 人生をかけたアイドル論』(集英社新書)がある。


撮影・越智貴雄 取材・構成 生活クラブ連合会 山田衛
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