穀物関係団体や農務省、協同組合連盟などと意見交換
生活クラブは2010年10月にアメリカを訪れ、トウモロコシのNON-GM種子を開発する種子会社と、開発を継続することで合意を得ることができました(2011年1月12日掲載)。その後、アメリカ訪問団メンバーのうち、生活クラブ連合会の福岡良行専務理事と河野栄次顧問はワシントンDCに向かい、全国農業協同組合連合会(JA全農)、全国農業協同組合中央会(JA全中)とともに、穀物関係団体や農務省、また、アメリカ協同組合同盟も訪問。「非常に有意義な意見交換」(福岡良行専務理事)となりました。(2011年1月18日掲載)
6団体が出席し、日本の消費者に高い関心が
牛や豚、鶏の飼料をふくめて遺伝子組み換え(GM)作物や食品を基本的に扱わないとの方針を定めている生活クラブ。しかし、飼料の配合割合で約半分を占めるトウモロコシは国内でほとんど栽培されていないため、JA全農と提携してアメリカからNON-GMのものを指定して利用しています。ところが、そのアメリカではGMトウモロコシの作付が栽培面積の86%にまで及んでいます。
生活クラブは2010年10月にアメリカを訪れて種子を開発する会社に対し、NON-GMトウモロコシを今後5年間は引き続き利用することを表明。種子会社とはNON-GM種子の開発を継続するとの合意を得ることができました。生活クラブはJA全農グループとともに国内外の需要者にNON-GMトウモロコシの利用と結集を呼びかけていきますが、そのためにもトウモロコシをはじめとした穀物の国際的な市場の動向を把握することが重要です。そこで、イリノイ州やニューオリンズで種子会社やJA全農グループのNON-GMトウモロコシを分別するしくみ(IPハンドリング)を点検したメンバーのうち、福岡良行専務理事と河野栄次顧問はワシントンDCに向かい、JA全農やJA全中とともに穀物関係団体や農務省と懇談を行いました。
10月25日にアメリカ穀物輸出協会の事務所で行った穀物団体との懇談には同協会をふくめアメリカの穀物協会、トウモロコシ生産者協会、穀物飼料協会、小麦協会、大豆協会と実に6団体が出席。GM作物を基本的に扱わずIPハンドリングしたNON-GMトウモロコシを利用する日本の消費者に、アメリカの穀物団体が高い関心を寄せていることがうかがえました。
訪問したメンバーにとって関心の高いNON-GMトウモロコシの生産・輸出について、トウモロコシ生産協会は次のように語ります。
「NON-GMトウモロコシの需要が確実にあるという“シグナル”を送ってくれれば、私たちはそれに応える仕組みを有しています。アメリカはこれまでもそうであるように、今後もNON-GMトウモロコシを安定的に供給できると考えています。その意味でも重要なのは、早い時点からのNON-GMトウモロコシの需要についての“シグナル”です。そうでなければアメリカの生産者にニーズが伝わらず、生産する機会を逸してしまいます」
エタノール生産はピークが過ぎた
またアメリカでは近年、トウモロコシからエタノールを製造する事業が進んでいます。また、投機筋の動きもあり一昨年には飼料が高騰したことは記憶に新しいところです。
穀物団体はトウモロコシの需給動向について、「エタノールを生産するために使われるトウモロコシの需要は2007年~08年がピークで、現在は2015年の生産目標に近づいてきたためにピークは過ぎたと考えています。一方、エタノール生産に伴うトウモロコシの蒸留カスからできるDDGSは2015年に3,500万tできると予測されます。飼料などアメリカ国内でのDDGSの需要を差し引いても約1,000万tがあまる見込みです。昨年度の輸出量は500万tなので、それを倍増させないといけない計算になります。この点に関しては中国をはじめとした東アジアや北アメリカ大陸を中心に世界的に需要が伸びているので、DDGSの余剰分はすぐに吸収されると見ています」と分析します。
13億人の人口を抱えるとともに経済発展の著しい中国の食糧事情に関しては、「トウモロコシの輸入動向について諸機関が分析していますが、見方が分かれています。来年は500万t、将来的には1500万tなど日本に匹敵するくらいの輸入国になると分析するところもあれば、中国はトウモロコシ生産に力を入れているので今後も輸入は少ないと見る向きもあります。ただ、DDGSの輸入は飼料用のトウモロコシを補完するものとして増えると思われます」と話します。
開発が進むGM小麦も話題に
懇談会では生活クラブに対しても、GM作物を扱わない理由やIPハンドリングした飼料の輸入はアメリカだけかなど多くの質問が寄せられました。そして、話題は開発が進められているというGM小麦に及びました。
「アメリカの消費者の9割はGM作物に対して、賛成でも反対でもないニュートラルな意見を持っています。したがって、実際にGM小麦が開発されても消費者には否定されないと思います。生産・流通の立場から考えるとアメリカで小麦の作付面積が減り続けているのは、GM品種が開発されていないためだと思っています。農家は小麦ではなく、GM種子が開発されたことで単収の上がったトウモロコシや大豆の栽培を選択しているのだと考えられます。ですからGM小麦が開発されれば農家が作付ける作物の選択肢に小麦が入り、トウモロコシや大豆に対して競争力を持つことができると期待しています」(穀物団体)
一方、26日に懇談した農務省・海外農業局は小麦の減産について、「GM品種が小麦で開発されていないのが直接的な理由とは考えていません。小麦はEUや東ヨーロッパ、カナダ、オーストラリアをはじめ輸出国が世界に点在しており、アメリカの小麦はコストの面などで常に競争力があるということではないのです」と、穀物団体とは異なる見解を示しました。そして、「世界のなかにはGM小麦を好まないニーズはあると思われるので、開発された場合はIPハンドリングが必要だと考えます。しかし、その場合の経費はNON-GM小麦を選択した側が払うことになると思います」と続けました。
また、異常気象などの影響で昨年のロシアや近年のオーストラリアのように、アメリカで穀物生産に不足が生じた場合の輸出について質問したところ、「万が一、そのような事態になった場合も、政府は穀物市場にはいっさい干渉しません。すべては市場に委ねます。市場にはアメリカの消費者も、海外の消費者もまったく同じようにアクセスできる権利があると考えています」との返答が農務省からありました。この問題については穀物団体にも同じ質問をしましたが、同様の見解が返ってきました。
国際協同組合年の活動で認識が一致
農務省と懇談した同日、アメリカ協同組合連盟(NCBA)も訪問。会長兼CEOのポール・ヘイゼン氏と、国連が2012年を国際協同組合年(IYC)と決めたことについて意見交換を行いました。 国連がIYCを定めた背景には、NCBAがオバマ大統領を通じて働きかけたといわれています。
「アメリカには29,000の協同組合組織があり、NCBAでは毎年10月を協同組合月間としてキャンペーンを行っています。今年はオバマ大統領から協同組合月間を祝う手紙が届きました。IYCについても政府が国内実行委員会を立ち上げることや、2012年が協同組合年であることを大統領が宣言することなどを現在、働きかけています。オバマ大統領がホワイトハウスで宣言をすれば、アメリカだけではなく世界に協同組合組織が重要な存在であることを認識させるきっかけになると思うのです」とヘイゼン氏は抱負を語ります。
日本でもIYCに向けた取り組みが始まっています。昨年8月に経済評論家の内橋克人さんを代表に、国内の実行委員会が発足しました。なお実行委員会にはJA全中とともに、生活クラブ連合会も参加しています。
ワシントンでさまざまな団体と意見交換を行った福岡専務は、次のような感想を述べています。
「NCBAのヘイゼン氏とは、アメリカや日本など各国でIYCへの取組みを進めるとともに、世界レベルでのIYC活動を国連に働きかけていくことなど、認識を一致することができて有意義でした。IYCを単なるイベントに終わらせるのではなく、非営利・協同組合セクターへの共感を高めていくとともに、協同組合の社会問題に対する解決能力を強化していく活動が重要です。また、農務省や穀物団体との話し合いも非常に有意義で、アメリカを訪問した際には今後も意見交換を行っていきたいと思います」