こめ育ち豚─「飼料用米」の生産拡大で、限定生産から全頭生産へ!!
食料自給率向上の先進的な取組みとして全国的に注目を浴びている「飼料用米」。これを使った餌で育てられた「こめ育ち豚」の生産が、さらに拡大することが決まりました。また、「こめ育ち豚」に続けと、生活クラブの提携産地である栃木県開拓濃業協同組合連合会(栃木県開拓農協)は、今年から肉牛に「飼料用米」を使う実験的な取組みを始める予定です。(2008年11月7日掲載)
全頭5%給餌で、09年3月から供給へ
「生活クラブは、平田牧場の三元豚を年間約8万頭食べている計算になります。こめ育ち豚は飼料用を10%混ぜた餌を食べていますが、まだ全頭ではなく限られた範囲での取組みです。これをいかに全頭に行き渡らせるようにするのか。そのためにこめ育ち豚への共感をいかに広めていくかが、食べる側の最大の課題です」
今年6月5日、東京で開かれた 「飼料用米シンポジウム」にパネリストの1人として参加した生活クラブ連合会の加藤好一会長は、生産の拡大もこめ育ち豚の課題のひとつと指摘しました。
平田牧場が、飼料用米を豚の餌に使うようになったのは1996年。庄内地方では、当初、わずかだった飼料用米の生産はその後順調に伸び、最盛期には220ha、1,000tの収穫量をあげることもありました。しかし、食べるお米の2割にも満たない価格のうえ、助成金が減額されるなどの理由で栽培面積は激減、2003年には最盛期の4分の1にまで落ち込んでしまいました。しかし、翌04年には平田牧場と同じ庄内地方にある遊佐町が「食料自給率向上特区」に名乗りをあげ、飼料用米の作付けを開始。これを契機にJA庄内みどり遊佐支店、平田牧場、生活クラブとの間で、飼料用米の作付けと、それを餌の一部に使った「こめ育ち豚」の生産と消費という仕組みが本格的にスタートしました。
もっとも、こめ育ち豚の生産は限定的なものでした。平田牧場の年間生産頭数は三元豚、平牧金華豚など合わせて約16万頭にのぼりますが、全頭に飼料米を混ぜた餌を与えるだけの生産余力がなかったからです。実際、作付けの拡大が進んだ07年でも、こめ育ち豚は3万頭弱にとどまっていました。
そこで、「国内自給運動の推進による肥育豚生産と消費の一般化を目指す」(連合会開発部畜産課の赤堀和彦さん)との観点から関係者の間で協議が行われ、北海道を除く平田牧場の全農場での飼料用米の給餌という方向性が打ち出されました。もちろん、飼料用米の作付け拡大があったことはいうまでもありません。04年に21戸、7haと少なかった飼料用米の作付けはその後、助成金の整備などで拡大。08年には、遊佐だけではなくJA庄内みどりの他地域、宮城県のJA加美よつば、栃木県開拓農協の参加で581戸、330ha、1,974tの生産計画が立てられています。
「自給飼料の到達度を明確にするため、これまでの限定10%給餌から飼料用米の生産量に合わせた全頭給餌(5%給餌)に変更し全体化していきます。これにより、09年3月供給分から加工肉、惣菜用も含め、生活クラブはすべてこめ育ち豚での取組みが可能になります」(前同)
2~3年後には「こめ育ち牛」も供給予定
平田牧場の協力農場は栃木県にもあり、こめ育ち豚の取組みが始まります。これを進めているのが栃木県開拓農協。同農協は今年、飼料用米作付けのために黒磯、鹿沼両市と協議を重ねてきました。その結果、コメ農家6戸と契約、5.5haで飼料用米の作付けが実現しました。
収穫されたコメは、平田牧場の生産計画に沿って三元豚の餌として使われますが、同農協ではその一部を肉牛に使う実験も予定しています。飼料や食料自給率向上に資する観点からの実験取組みです。ただ、肉用牛は肉として出荷されるようになるまでには時間がかかるため、供給されるのは2~3年後になる予定です。
飼料用米の生産拡大の課題はいくつか指摘されています。関係者が共通して指摘していることは「多収穫品種」と「コスト」です。食用米に比較して引き取り価格が安いために、多収穫品種でそれをカバーするかコスト削減に取組まなければなりません。このため、生産者からは国に対して補助制度の継続と拡充の要望が強く出されていました。
それもあってか、農林水産省は今年度から新規に導入する場合、流通や販売などの一部経費に補助金を出すようになりました。ただ、栃木開拓農協はそれとは別に、こめ育ち豚やこめ育ち牛を通して、飼料用米を継続的に栽培してくれる農家との連携を深め、さらに資源循環型農業の取組みを強めることを目指しています。