日本各地に広がる遺伝子組み換え(GM)ナタネの汚染
今年の春、全国で行われたGM(遺伝子組み換え)ナタネの自生調査では、1,061検体から37のGMナタネが検出され、日本各地でGMナタネの汚染が進んでいることが改めて明らかになりました。7月12日に行われた「2008年GMナタネ自生調査報告会in名古屋」の様子を中心に報告します。(2008年7月31日掲載)
NON-GMナタネがますます入手困難な状況
今、日本は食用・飼料用のナタネの8割をカナダから輸入していますが、カナダで2007年に作付けされたナタネの84%は遺伝子組み換えです。つまり、多くのGMナタネが含まれた食用油が日本人の食卓に出回っているのです。NON-GM(非遺伝子組み換え)ナタネについては、これまで日本はオーストラリアから輸入してきましたが、今年の春より東オーストラリアの2州政府がGMナタネの商用栽培を解禁。南オーストラリア州はGMモラトリアム(期限付きの栽培停止措置)の継続を表明し、同じくGMモラトリアムを実施してきた西オーストラリア州政府が今後どのような決断を下すのか、動向が懸念されています(生活クラブの西豪州NON-GMナタネミッションについてはコチラをご覧ください。)。
日本の食用ナタネの自給率は0.04%。2008年度産を最後に農家への助成金が打ち切られることになっているため、ナタネの自給率をゼロにしてはならないと、生活クラブでは助成金の存続を求める署名活動を行ってきました。今や世界で風前の灯となりつつあるNON-GMナタネを絶やさないために、国内外を問わない活動が必要になっているのです。
GMナタネの自生は改善されていない!
生活クラブが「遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン」(以下、いらない!キャンペーン)や全国の他生協とともにGMナタネの自生調査を始めたのは、2005年春のことです。日本ではGMナタネの商業栽培は認められていませんが、横浜や名古屋、福岡など全国のナタネの積み降ろし港の周辺で、GMナタネのこぼれ種が自生したり、また日本固有の在来ナタネや他の野菜とGMナタネが交雑する可能性が指摘されていました。実際に調査を始めてみると、港湾ばかりでなく、搾油工場や飼料工場の周辺、トラックの輸送経路の路肩や中央分離帯などで多くの自生ナタネが見つかり、さらには遠く離れた住宅地でも発見されるなど、その汚染は確実に広がっていることがわかっています。
7月12日(土)には、今年で4年目となる「GMナタネ自生調査報告会」が名古屋市内で開催されました。主催は「いらない!キャンペーン」と、遺伝子組み換え食品を考える中部の会。生活クラブのほか、九州のグリーンコープ、関西のきらりなど全国の生協や、独自に調査を行っている農民連食品分析センター、そして今年は京都学園大学ナタネ調査隊の学生たちも参加し、会場は200名を超える人びとの熱気であふれていました。
集会では、いらない!キャンペーンの天笠啓祐代表が、今年の春、全国で行われたGMナタネの自生調査についての報告を行いました。今年は北海道から鹿児島県まで、全国29都道府県で調査が行われ、総検体数1,061のうち37検体でGMナタネの陽性反応が見られました。そのうち、ラウンドアップと呼ばれる除草剤に耐性のある検体は26、バスタという除草剤に耐性のある検体は12。昨年とほぼ変わらぬ数字に、天笠代表は「この調査結果から、GMナタネの自生は改善されていない実態が浮かび上がってくる。在来種との交雑や汚染の広がりが現実味を帯びてきた」と、危機感をあらわにし、「バイオ燃料ブームによってトウモロコシや大豆のGM作付けが広がり、日本国内のコーンスターチメーカーは一部GM化を決定するなど、日本の消費者はもはやNON-GM作物の選択の余地がない状況に追い込まれている」と指摘しました。
生活クラブからは、生活クラブGM食品問題協議会座長の赤堀ひろ子さんが生活クラブグループのGMナタネ調査について報告。「今年、北海道から大阪までの15の単協が調査を行い、全国で633検体のうち、茨城、千葉、静岡、愛知の4県の合計12検体に陽性反応がありました。そのうち、茨城の検体はラウンドアップとバスタの両農薬に耐性を持ち、自生したGMナタネ同士が交雑してできた可能性があります」。こうしたGMナタネが発見されたことに、会場からは驚きの声が上がりました。赤堀さんはまた、「今年は神奈川県の調査に地元の高校生が参加するなど、若い世代にもGM作物に対する関心が広がっていることがわかりました。これからも消費者が結集し、GM作物に関心を寄せていることをアピールしていくことが大切」と訴えました。(生活クラブの今年のGMナタネ自生調査についての記事はコチラ→)
内陸部にもGMナタネが侵入
報告会では、長年、名古屋港や四日市港周辺でGMナタネの自生調査や西洋ナタネの抜き取り活動などを行いながら独自にGM作物の研究を続けてきた遺伝子組み換え情報室の河田昌東さんが、今年の4月には愛知県豊川市内でもGMナタネが見つかったと報告し、「内陸部にもGMナタネは侵入している。懸念していたことが現実に起こりつつある」と、警鐘を鳴らしました。続いて、京都学園大学バイオ環境学部の金川貴博教授は、科学者の間でも遺伝子組み換え技術について健全な議論が行われない状況を危惧し、「私たちの生活の安全性を脅かすGM作物を阻止できるのは、消費者しかいない」と集まった人々を激励しました。
さらに、自生ナタネの抜き取り活動などを行ってきた種子ネットの入沢牧子さんは、トウモロコシ用検査キットを使って一般市場に出回っている食用のスイートコーンを調べたところ、GM陽性反応が出たという事実を明らかにしました。入沢さんは「飼料用コーンや栽培用の種子だけでなく、食用のコーンにもGM汚染が広がっています。ぜひ、各生協の生産者にも呼びかけて、GMトウモロコシの検査を行ってほしい」と、ナタネと同じようなことがトウモロコシに広がっていると訴えました。
報告会の最後には、「政府に対して、消費者が選択できるよう、食品表示の改正を求めること」「生物多様性を守ることができるよう、カルタヘナ議定書国内法の改正を求めること」「自治体に対しては、GM作物が栽培できないように、条例を制定するなど実効力のある規制を求めること」「企業に対しては、GM原材料の排除を求めること」を集会のアピールとして採択し、この集会の成果を2010年に名古屋で開かれるCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)につなげていくことを確認ました。
報告会終了後、生活クラブ神奈川の鈴木優子理事長は、「最後のGMトウモロコシの報告は特にショックだった。種子も含めて多面的なGM作物の調査を考えなければいけない。これからさらに行政や企業への働きかけを強化し、少しでも多くの人びとと危機感を共有していかなければ」と感想を述べていました。