「非遺伝子組換えナタネを守って!!」
1997年から「食」の非遺伝子組み換え(NON-GM)化に取組み、独自開発した食品(消費材)から組み換え作物(GMO)を可能なかぎり追放してきた生活クラブ生協連合会では、食用なたね油の原料として使用していたカナダ産ナタネにGMOが混入する危険性が高まったため、これを西オーストラリア州産に変更。これまで4回にも及ぶ「西豪州NON-GM菜種ミッション」を実施し、組合員や職員、食用なたね油の生産者の(株)米澤製油からなるメンバーが産地視察や生産農家との交流を重ねてきました。
今回のミッションは2008年6月5日から11日の日程で企画され、3名の組合員代表をはじめ、NON-GMナタネの流通を担うJA全農、(株)米澤製油、生活クラブ連合会の総勢13名が参加しました。(2008年7月18日掲載)
西オーストラリア州の農務大臣と意見交換も
今回のミッションの団長となった生活クラブ連合会の福岡良行専務理事は、その目的を次のように話します。
「生活クラブはJA全農を介し、現地のコーペラテイブ・バルク・ハンドリング社(Co‐Operative Bulk Handling、略称『CBH』)という穀物会社からNON-GMナタネを購入しています。すでにオーストラリアの連邦政府は遺伝子組み換え(GM)ナタネの商業栽培を認めていますが、CBHと提携する農家がある西オーストラリア州はモラトリアム(一定期間の栽培禁止)を継続しています。しかし、それも今年の12月24日まで。これが終わればNON-GMナタネは手に入らなくなり、生命操作された作物を口にせざるを得なくなる可能性があります。ですからミッションの目的は、NON-GMナタネを安定的かつ継続的に入手していくために、西オーストラリア州のGMをめぐる情勢や今後の動きを把握し、関係機関により強い働きかけをすることにありました。さらに今回は『モラトリアムの10年延長』を求めている現地のNGOの環境保全協会と交流し、生産農家とも率直に意見交換しています。もちろん、現時点では農場から出荷されたNON-GMナタネの分別流通に支障がないことも点検しました」
オーストラリアのGMナタネをめぐる動きは複雑です。州の権限の強い同国では、連邦政府は商業栽培を容認していますが、野党労働党の主導する各州政府はGM反対の立場を崩さず、商業栽培を認めないモラトリアムを定めてきました。ところが、昨年11月には東オーストラリアのビクトリア州とニューサウスウェールズ州がGM栽培の「解禁」を宣言。南オーストラリア州政府はモラトリアムの継続を決定しましたが、今年の春からは東部の2州でGMナタネが商業栽培されるようになったのです。
こうしたなか、「12月24日まではNON-GMの旗は降ろさない」という西オーストラリア州政府。その今後を占うカギを握る人物のキム・チャンス農務大臣をミッション・メンバーは訪ね、モラトリアムの継続を求めるとともに「干ばつや根腐れ病などにも強いナタネを遺伝子組み換え(GM)技術ではなく、従来の品種改良で作り出してほしい」と強く要請しました。これに対し、大臣は「西オーストラリアを環境に配慮した農業を推進していく州にしたいと考えていますし、来年の総選挙で労働党が勝てば、GMの商業栽培を禁止する措置は継続されるでしょう」と回答するなど、モラトリアムの継続に前向きな姿勢をみせました。
現地生産農家は、GMナタネへの期待も
それでも不安は消えません。選挙の結果は予断を許しませんし、生産農家の心も大きく揺れているからです。2年続きの干ばつや根腐れ病の発生により、西オーストラリア州のナタネ農家は精神的に疲弊し、経済的にも痛手を負いました。これがGMナタネへの期待を生み、「GMでもNON-GMでも顧客の希望するものを育て、少しでも収益性を高めたい」という空気が支配的です。今回のミッションのメンバーとしてナタネの生産農家との意見交換会に参加した生活クラブ連合会・消費委員の若林裕子さんは、次のように語ります。
「日本に輸入されたGMナタネが自生していることを農家や関係者に報告し、GMナタネを栽培すると在来種と交雑することで従来の生態系が破壊されることも説明しました。GM作物を開発したモンサント社は農薬のメーカーで、そのセット販売による利己的な利潤追求と種子の支配が目的であることも懸命に伝えましたが、なかなか共感してもらえません。それどころか、“日本の代表的な油脂会社は年間200万tものカナダ産ナタネを輸入しているし、それには多くのGMナタネが含まれている。日本人はこれを容認して喜んでGMナタネのなたね油を食べているではないか”という意見や、なかには隔離して作付すれば問題ないという農家やNON-GMのプレミアはいくらにしてくれるのかと聞く農家もいました。本当に腹が立ち、悔しくて仕方がありませんでしたが、その度に反論しました。私たちは生活クラブの組合員30万人、家族を含めて100万人の代表として何度も何度も『後悔しない正しい選択をしてほしい』と農家に訴えました。」
生活クラブの購入量の増加が、解決への第一歩
モラトリアムの期限を前にカウントダウンに入った州政府。とにかく生産効率を高め、少しでも収益を上げたいとの理由からGM導入も視野に入れた生産農家。こんな状況にありながらも、CBHは「生活クラブの組合員の意向は十分承知している。たとえ州政府がGMの商業栽培を解禁しても、私たちは生活クラブと米澤製油にはNON-GMナタネを届ける努力を続けていきたい」と明言してくれています。むろん、課題がないわけではありません。連邦政府は2003年に「遺伝子組み換え技術を採用しなければ、豪州とニュージーランドを合わせ、年間20億豪㌦(※2060億円)以上の経済損失が生じる」という研究報告書をまとめ、さらに今年5月には「GM油糧種子とGM小麦により、今後10年間は毎年10億豪㌦(※1030億円)の増収が可能」と発表。これがGM推進派を勢いづかせていることはいうまでもないでしょう。
ひとたびGMナタネが導入されれば、NON-GMナタネと交雑し、在来種を駆逐してしまう恐れがあります。そうなればNON-GMだけを分けることは非常に困難になり、仮に分別できたとしても流通段階での混入(コンタミネーション)が発生する不安も高まります。これを防ぐには栽培から出荷までの徹底した生産管理と分別流通を可能にする新たな仕組みの導入が求められますが、それには大がかりな費用負担が必要です。
昨年、日本はオーストラリアから15万tのナタネを輸入していますが、生活クラブがCBHから購入しているNON-GMナタネは4000t(0.3%弱)にしか過ぎません。この桁違いの差を少しでも縮めていくことが「食」の不安を消していくこと、疑わしきは口にせずの《予防原則》を守っていくことでもあると、生活クラブ連合会の福岡専務は提案します。
「現在、生活クラブがCBHから購入している西オーストラリア州産のNON-GMナタネは年間4000tですが、これを5000tにして食べ支える。これが課題解決の第一歩でしょう。現時点での分別流通に問題はありませんが、いまの生活クラブの年間購入量では一棟で3万tが保管できるCBHの倉庫を専用にすることができません。すぐに3万tというわけにもいかなくとも、諦めずに徐々に利用をあげていくしかないと思います。同時に、年間770tが生産されている国産ナタネの自給の灯を消さないこと。今後もおおぜいの組合員の計画的かつ持続的な予約共同購入の力で、地球規模の「食」のNON-GM化を進めていきましょう」
※2008年7月現在の1豪㌦=103円で計算