丸ごと、おいしくいただく!【株式会社 平牧工房】
子どもに人気でお弁当にも便利なウインナーソーセージ。山形県酒田市の平牧工房では、情報公開を徹底しながら「平牧三元豚(ひらぼくさんげんとん)」の生産を支え、そのおいしさを引き出すための試行錯誤を重ねる。
“素性”がわかる原料
ウインナーソーセージは、近年、低価格競争の目玉としてスーパーなどで“特売”される。その原料となる豚肉の約8割は外国からの輸入だ。表示で確認する以外、原材料がわからない状態に加工されてしまうため、消費者の間では「何が使われているのか」と不安の声も聞かれる。
生活クラブのポークウインナーの生産者「平牧工房」はその名の通り、平田牧場の豚肉を100%使用する。銘柄豚としても知られる「平牧三元豚」は、遺伝子組み換え作物や収穫後農薬を使用しない飼料で飼育され、ゆったりした、清潔な肥育環境で育つ。おいしさと品質には定評のある豚肉だ。この豚のウデ肉などの部位や端材が主に平牧工房のウインナーなど加工肉の原料となる。
副原料も素材のよさを引き出すものだけを使う。生活クラブの提携生産者の調味料(真塩、素精糖)、香辛料とエンドウ豆でんぷん、ジャガイモのでんぷん、ポークエキスといたってシンプル。同社製造部長の志田賢さんは「ポークエキスは平田牧場独自の調味料。三元豚の骨を水から煮出してつくるんだ。なぜそこまでできるかといえば、うちは原料になる豚を一から育てているからね」と胸を張る。これらの原料を混ぜ、羊腸に詰めてスモークする工程は家庭で手作りするのとほぼ同じ、わかりやすく明瞭だ。
一般のハム・ソーセージのパッケージには原料原産地の表示はほとんどない。近年は消費者の不安に応えるため大手メーカーもホームページなどで公表するようにはなった。あるメーカーのホームページには「A国、B国と記載しているものは“A国、B国の原材料を生産日により切り替えて使用している場合”と、“A国とB国の原材料を混合している場合”がございます」のただし書きが付与され、多いものは一つの製品に9カ国もの名前が並ぶ。
「輸入豚肉の場合、原産国をどう表示するか、何回も議論になっているようだけど、今日はメキシコ、明日は米国と日替わりなんだから。どこのものか特定するのはとても難しいし、肥育環境やえさも不透明」と志田さんは実態を説明する。
「命を無駄なく」が原点
「平田牧場では、豚の生産から精肉、加工まで一貫して手がけるから豚1頭を無駄なく活用できるんだよ」と志田さん。えさや肥育方法まで指定し独白の仕様で育てられた豚だからこそ、できるだけ無駄にはしたくない。豚の部位ごとの消費量、季節ごとの出荷量にもばらつきが発生するため、余った部分を冷凍保管して加工用の原料とすることで豚肉全体の消費バランスを調整する。加工は肥育される豚の肉をすべて活用するための工夫だ。
「“ウインナーをつくるのに何日かかるんですか?”と聞かれて3、4年と答えるとみんなびっくりするよ」
親豚の種付けから始まり、交配を重ねることで食肉用の豚が生まれ、そこから肥育が始まる。育て終えた豚が肉となり、ウインナーなどの原料になるまでにはそれだけの生命の連なりと年月が必要とされる。
同社加工本部長の幸田祐治さんは「私たちの豚肉加工の原点は、素性確かな平田牧場の豚1頭をいかにまるごと無駄なく使いきるかにあり、“生命をいただく”ことにあると思っています。そこが一般の加工のあり方とは決定的に違います」と言う。いずれ世界的な食料不足の時代が来るかもしれないと危惧する幸田さんには、国産の食材による自給を進めるためにも限られた資源は大切に活用しなくてはならないとの思いがある。
平牧工房では、その意味をもっと食べる側に伝え国内自給をすすめる力につなげていきたいと考え、生活クラブ組合員との交流会にも積極的に出向く。
「知ることで納得し、価値を実感できることはたくさんあります。ぜひ、いろいろな機会を活用して、生産の現場、原材料について知ってほしい」
新たな視点で意見交換を
生活クラブと平牧工房との提携開始は、実は豚肉よりも古く、前身の太陽食品との出会いは1973年。赤くなければウインナーではないといわれた時代に、無添加、無着色のウインナーがほしいと組合員が要望したのがきっかけだった。
以来40年、保存料の除去、遺伝子組み換え対策など、組合員との意見交換の中で試行錯誤を重ねてきた。近年では、牛乳アレルギー対策として乳タンパクを抜き、エンドウ豆でんぷん、ジャガイモのでんぷんに切り替える改善にも取り組んだ。こうして完成したのが現在のポークウインナーだ。
「生活クラブは生産者を育ててくれるんです。スーパーは数字だけみて駄目ならすぐ他のメーカーに切り替える。生活クラブは、こうしてはどうかと食べる側から提案してくれる」と幸田さんは組合員の力に期待する。
原料から製造工程まで情報すべてがわかって、それを組合員自身の意見で変えていけることが生活クラブのよさとして「今後もそうした関係を続けることが重要。生産者も組合員の意見を本気で受け止めていきたい」と話す。
年々厳しくなる経済状況も見過ごせず、食費を削らざるを得ない家庭も多いといわれる。だとすればもう一歩踏み込んだ議論も必要だ。幸田さんは「経済状況、家族構成などを踏まえた世代別の消費材開発なども想定して、組合員にさまざまな角度から話し合ってもらいたい。今の基準を絶対とするのでなく、柔軟にいろいろな選択肢を提案していきたい」と意気込む。
◆皮までわかるウインナー
【羊腸は包装?】
「(ソーセージの表皮部分である)ケーシングはそのまま食べるものであり、最近はコラーゲンケーシングなどアレルギー表示の対象となるようなものもあるので容器包装という位置づけは疑問」「今後内容を確認させていただきたい」。2005年、農林水産省の第22回「食品の表示に関する共同会議」では出席委員と事務局の間でこんなやりとりが行われた。しかし、7年たった今でもケーシングは日本農林規格(JAS)法上、容器包装のままで表示義務はなく、市販品の原材料欄で確認することはできない。羊腸以外には、冒頭のコラーゲンケーシングなど人工の物も使われている。牛や豚の皮を溶かしてつくる天然由来のものではあるが、それでも加工の工程で何が使われるのか、わからない部分が多い。
平牧工房に羊腸を納品している「NORIコーポレーション]では、ニュージーランド、オーストラリア、中国で肥育された羊の腸を用い、処理工程でリン酸塩などの添加物を使わす、情報公開も徹底している。「羊腸も口に入るのだから原材料の一部として扱うのは当然]という平牧工房の考えに基づく対応だ。
【地域の若者、女性が主役】
平牧工房の従業員は100人、正社員の比率が高く、地域の若者に責重な就労の場を提供している。 6対4で女性の割合が多いため、いつ休みや早退が入っても業務に支障をきたさないよう、一人が3部門くらいの仕事に習熟し互いに補いあえるようにするなど、働きやすい職場づくりへの工夫が日々行われている。
品質管理課係長の佐藤とも子さんもそうした女性従業員の一人。こうした社内風土に支えられ、入社以来25年、子育てしながら働き続けてきた。パリッとした天然羊腸の食感、おいしさを味わうポイント、おすすめの食べ方などを聞いた。
【ボイル・ソテーのポイント】
ボイル:強火で沸騰させると腸がやぶれてうま味が抜けてしまうので要注意。中火で5~6分、中を温める程度にゆでるのがポイント。
- ソテー:冷たいフライパンにウインナーと少量の水を入れてから火をつける。水分が蒸発してウインナーからでる油で皮に焦げ目がつくくらい炒めればOK。
【ウインナーとキャベツのサラダ】
春キャベツを使った春らしい一品。
- キャベツは食べやすい大きさに切り、ウインナーは1センチ幅に斜め切りにする。
- マスタード大さじ1/2、水大さじ2、なたね油大さじ2、塩小さじ1/2、こしょう少々、白ワイン大さじ2を混ぜ合わせ、ドレッシングをつくる。
- 塩を加えた熱湯にウインナー、キャベツの順に入れてゆで、2であえてなじませる。
『生活と自治』2013年4月号の記事を転載しました。