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生協の食材宅配【生活クラブ】
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「福求」から「福幸」ヘ

もはや東日本大震災は。“過去の出来事”残像になったのか。「とにかく経済成長」、五輪の東京開催で「日本に活力」の声ばかりが高まるなか、岩手県宮古市の重茂漁業協同組合は自治の精神で復興への歩みを続ける。

重茂漁協総務部長の北田敦夫さんは津波で自宅を流出した。だが、家族は幸い全員無事で「当時はまだ高校生だった次男が、たまたま家にいてくれたのが大きかった。そうでなければ老親2人を避難場所へ連れていくことはできなかったはず」と胸をなでおろす。

北田さんは被災当日から漁協本部に詰め、同漁協参事の高坂菊太郎さんらと組合員の被害状況の把握に努め、不眠不休の支援を続けた。現在は漁協本部から車を使って40分ほどの距離にある仮設住宅に家族全員で暮らす。あの日から3年、「ようやく宮古市内に自宅を再建することになった。長男の勤め先の近くに宅地が人手できた」とほほ笑む。

高坂さんも自宅が津波にのまれた。「かろうじて家の枠組みだけが残った2階部分から洋服タンスを運び出すのが精いっぱいだった」と当時の様子を思い起こす。

同居していた90歳の父親も妻も飼い犬のポチも無事だったのが「何よりありがたい」。だが、避難所にポチは連れていけない。そこで宮古市内の知人に預けたが「寂しかったせいか、ひねくれて性格が荒くなって戻ってきた。それが仮設で一緒に暮らせるようになったら、元の温厚なポチに戻った」と喜ぶ。

高坂さんも被災後2週間は漁協本部を片時も離れず、自分のことはひたすら後にして組合員支援に全力を尽くした。「そんなの当たり前。漁業者あっての漁業協同組合」。高齢の父との同居という事情もあり、仮設住宅への入居が優先的に認められていたが、「被災し家を無くした組合員全員が仮設に入居できるまで自分は絶対入らない」という姿勢を最後まで貫き通した。

やれることは自力で

保有する山林を自ら切り崩し、被災2年後から自宅再建を目指したのは、同漁協副組合長の山崎義広さん,当初は周辺から「どうかしたか!?」とからかわれもしたが「国や市の動きを待っているだけでは駄目。自力でやれることはやる」と山の宅地造成費用の2000万円を金融機関から個人で借り受け、新たに造成した1000坪の土地を1坪約230円で宮古市に売却した。「親族はもちろん近隣の漁師仲間に一刻も早く自宅を再建してもらいたい」の一心だった。

山崎さんが造成した土地を購入した漁師たちは、だれもがワカメ漁とコンブ漁用の作業場を真っ先に作り、住まいとなる家屋敷の建設は後回しにした。そこには「今後も海で暮らしを立てたいのであれば、家は当面仮設で我慢。仕事場の確保が最優先」という同漁協組合長の伊藤隆一さんの考えへの強い共感がある。

自宅建設費と土地造成費、合わせて約5500万円の借金を背負った山崎さんだが、「これも重茂のワカメをしっかりコンスタントに食べ続けてくれた皆さんの力があってのこと.今後も私たち重茂漁協の水産物を一人でも多くの人に食べてほしい。それが私たちの復旧・復興への支えになっているのを忘れないでほしい」と訴える。

復旧は海からの福ある重茂の暮らしを今後も求める「福求」であり、復興は重茂の未来にさらなる福と幸をもたらす「福幸」と信じる同漁協は、漁協関連施設の再建も急ピッチで進めている。

漁協の経営を根本から支える直営事業の定置網漁船が入港する重茂港には、修復を終えつつある岸壁に船をつり上げる2基のクレーンを新設。震災前は800隻以上あったワカメ、コンブ、ウニ、アワビの各漁に用いる和船(小型漁船)も、津波で大半が流出したが、これまでに614隻(2013年10月現在)を確保、組合員全員に行き渡るようになった。

壊滅的な被害を受けたサケのふ化養殖場は昨年再建、震災前より延べ床面積を3割広げたアワビ養殖場の建設工事も進んでいる。
「頭が痛いのは音部漁港(宮古市」と高坂さん。音部漁港には被災翌年の2012年にワカメ・コンブの加工場が再建されたが、依然として堤防や岸壁の整備が追いつかず、昨夏の台風では停泊していた和船が危うく沖に流されそうになった。「コンクリートと労働力の確保が遅々としてはかどらない。焦りだけが募っていく」と困惑気味だ。

設備投資と固定資産税

新たな施設や船に課税される固定資産税も深刻な悩み。新設した設備には利益が出ようが出まいが、固定資産税が課税される。
スピード感のある復旧には政府や地方自治体の復興援助資金を活用するしかない。これにより漁協や漁業者の自己負担は9分の1となるが、新築した建物や船には固定資産税がかかる。つまり、後の払いが大変となり、殊のほか重い負担になる場合も少なくない。

「復興支援の助成制度を使えば自己負担は確かに少なくていい。でも、固定資産税などの払いは必要で、被災者の財布を直撃する。何とも悩ましく、切ない話だと思う」(高坂さん)

これまで重茂漁協が復旧のために使った設備投資は130億円(うち自己負担13億)、さらに自己資本を投入した設備投資が2億円あり、債務総額は15億円になるという。震災直後の11年度に計上した欠損金7億9000万円は、現在3億6000万円になったが、現状の年間生産額は震災前の7割の水準にとどまる。

このまま収入滅が続けば漁協経営の厳しさは着実に増す。「いま求められているのは新たな品目の開発と展開。それで収入増をはかることができないとなると「組合員の暮らしと漁協経営は危機に直面せざるを得ない」と重茂漁協業務部次長の後川良二さんは言う。

この難局を乗り越える打開策として、後川さんは「春いちばん(早採りわかめ)」の出荷拡大策を考案、提携先の生活クラブ連合会に提案した。「春いちばん」は本格的なワカメ漁前の毎年1月から2月にかけて収穫され、同漁協が年に1度の「お楽しみ」として首都圏や関西方面に出荷。その柔らかさと上品な風味が評判を呼び、しゃぶしゃぶ用ワカメとして知られるようになった。
「漁協内部の議論ではウニやアワビを前面に出してはどうかという意見もあったが、私は『春いちばん』の出荷拡大を最優先にしたかった。なぜなら、養殖ワカメは重茂の暮らしを支え続けてくれた中心的な水産物だから」

生活クラブ連合会では、定置網で水揚げされた鮮度の高いゴマサバを原料とする缶詰の開発を重茂漁協に打診、「復興支援さば味付缶(醤油)」の共同開発が実現した。
重茂で水揚げされるワカメ、コンブ、ウニ、アワビの漁の利益は組合員に優先的に振り分け、定置網漁業の収益で経営を支えてきた重茂漁協だが、20隻あった定置網船の半数を失った。まさに死活問題ともいえる定置鋼船の半減だったが、幸い網は一巻き残った。同漁協参事の高坂さんは言う。

「そろそろ大地震が来ても不思議はない、せめて定置網の一つくらいは高台に保管しようという老練な船頭の感がさえた。とにかく定置網漁を再開してもらおうと、生活クラブの組合員が定置網船3隻分の建造資金を全額贈呈してくれた。本当にありがたかった」

生活クラブ連合会は、2011年から実施している「東日本大震災 被災地支援カンパ活動」を通して集めたカンパ金のうち、5000万円を重茂漁協に寄贈し、「震災の津波で流出した20隻の定置網船に変わる新たな定置網船建造に充ててほしい」と要請した。

これに応えた重茂漁協は3隻の定置網船を建造、昨年までにすべての船が稼働した。「定置網船の建造資金の提供をはじめ、生活クラブ、とりわけ地元岩手の組合員と職員には、被災直後から物心両面で多大なる支援をしていただいた。その温かな心に少しでも報いたい。多少の無理は承知で応えたいと、サバの缶詰の協同開発にチャレンジしてみようと決めた」と、後川さんは抱負を語る。

こうして実現した「春いちばん」と「さば味付缶」の共同購入。はたして両者が重茂の人びとの「福求」から「福幸」への願いをかなえ、生産と消費を結ぶ懸け橋となるか─。
それは生活クラブ35万人の組合員の利用結集にかかっているといえそうだ。

ワカメの簡単レシピ


◆ともに被災した生産者が協同


2011年3月11日、岩手県宮古市を流れる閉伊川をどす黒い濁流がさかのぼった─。大津波は街をのみ込み、さながら暴れ回る魔物のように街を破壊した。そこのありさまをとらえた宮古市役所から撮影した映像をごらんになった人も多いだろう。
 
宮古市役所の対岸に岩手缶詰(本社・釜石市)の宮古工場はある。何という幸運だろう。魔物は工場を直撃せず、高さ30センチほどの流れとなって通過した。 それでも生産ラインは使えなかった。黒い濁流には重金属や油が含まれ、専門業者に徹底洗浄を依頼しなければならない。缶詰の原料が入った冷凍庫も被災し、 もはや使い物になる原料はなかった。

 「原料も資材もない。皆が避難して働き手もいない。技術者の確保もままならない。これが被災直後の現実」と岩手缶詰宮古工場長の金澤寿弘さん。こうしたなか、2ヵ月後には操業を再開、内陸部で津波の被害を受けなかった盛岡工場から原料を回してもらい、人員体制の整わないなか、ユーザーからの注文に懸命に応えてきた。

岩手缶詰は生活クラブと提携する日本果実工業(日東工)の協力工場として、生活クラブとつながる。こうした関係性を今度は重茂漁協とも培い、ともに宮古市で被災した者同士で「復興」を目指していこうというわけだ。開発されたサバの缶詰の原料には、重茂漁協の定置網船が宮古港の市場に水揚げしたゴマサバを使用。生活クラブの組合員カンパで建造された定置鋼船の活躍を応援するとともに重茂漁協の経営を支える力となる一品だ。原料のゴマサバの価格が市場入札で決まるため、岩手缶詰はコスト変動のリスクを抱えるが「被災者同士の支え合いを何より大切にしたい」と重茂漁協業務部次長の後川良二さんは期待する。
 

『生活と自治』2014年1月号の記事を転載しました。

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