組合員とともに育てる 余分な化学物質を使わない心地よさ
生活クラブは合成洗剤ではなく、せっけんのみを共同購入している。どうしてせっけんなのか、その良さはどこにあるのか。長年、せっけん利用を呼びかけてきた生活クラブ組合員の能勢富美子さんと、子育て世代のせっけん派、富塚恭子さんが生産者のヱスケー石鹸(せっけん)営業部長の小林衛さんと語り合った。
手荒れの原因は?
能勢 以前は私も合成洗剤を使っていました。そのころは娘の手がガサガサ。知り合いに言われてせっけんに替えたらすっかりきれいになりました。当時は原因が何かなんてまるで考えられなかったです。
富塚 私も母の手がすごく荒れていた記憶があります。それほどひどかったんだと思います。私自身も栄養士だったから職場で合成洗剤を使っていて手がすごく荒れていました。皮膚科に行っても仕事をやめるしかないと言われていました。母もそうだったし水仕事をしているからあたりまえ、仕方ないとあきらめていましたね。
小林 洗剤業界が大きく変わったのは1985年ごろです。この年に厚生省(当時)の生活衛生局家庭用品安全対策室が79年から行っていた健康被害病院モニター報告を発表したのですが、84年まで6年間、皮膚障害の原因の第1位は毎回合成洗剤だったんです。当時、合成洗剤にはほとんど直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(LAS)が入っていました。その後、メーカーはこれを抜いた製品を開発したのですが、そのころ、一斉にコマーシャルのうたい文句が「手にやさしい」に変わりました。
富塚 なんとなく覚えています。
小林 手荒れの原因は実はLASだったんですよと告白しているようなコマーシャルですよね。でも、成分のことまで説明しないから、消費者は素直に新しいものができたと喜んでいました。
能勢 「無リン」洗剤もそうです。80年ごろ、箱に大きく「無リン」と書いたものが登場したでしょう。
小林 琵琶湖の富栄養化が問題になり、合成洗剤に入っているリン酸塩が原因だとわかりましたからね。リン酸塩だけに矛先が向けられましたが、ほかにも心配な成分は多いんです。
能勢 99年には、有毒性がある化学物質を指定してその排出量の届け出を義務付ける制度(PRTR制度)ができましたよね。その中には合成洗剤成分が6種類(現在は9種類に増加)も指定されていて、やっぱりねと思いました。
増えるアレルギーと化学物質
富塚 私がせっけんを使い始めたのは妹の出産がきっかけでした。「布おむつを使いたいからせっけんにしたい」と言われて調べたんです。デザイナーをしている妹の夫は「1回でも合成洗剤で洗ったらオーガニックコットンの意味はないよ」と言います。それまで何も知らなかったからすごく印象的で、全部せっけんに変えました。心配したほど抵抗感はなく、手荒れはなくなるし汚れ落ちはいいし、そのとき初めて手荒れの原因は合成洗剤だったと気付きました。
能勢 私も自分の実感が最初にあって、それが何かを知りたくて調べているうちにせっけんの魅力にはまりました。ほとんどの合成洗剤に含まれる蛍光増白剤が、ライトをあてると光ると言われても、最初は「なんで光っちゃいけないの?」と思っていました。調べてみれば、これは汚れを落とす成分じゃなくて白く見せる染料。傷口にあてる医療用のガーゼや口に触れる紙コップには使用が制限されていることも知りました。それからは知りたいことが次々にでてくるし、知ったことは伝えなければと使命感も生まれました。赤ちゃんのものを蛍光増白剤入り洗剤で洗っている人がたくさんいます。
小林 LAS、リン酸塩と問題があることを明らかにして一つ一つ成分を変えてきたのは、能勢さんたちの運動の成果ですよ。それでもいまだに肌荒れに悩む人は多く、アレルギーやアトピー、花粉症の人も増えています。それらはきっとどこかでつながっているんじゃないかと思うんです。
能勢 暮らしの中の化学物質はどんどん増えています。合成界面活性剤や蛍光増白剤もそうです。影響しているんだと疑っています。先日、環境省が、子どもたちの成長に化学物質がどう影響するかを調べる疫学調査を開始しました。ようやくそこに気付く人が増えてきてよかったと思います。
自分にあった方法で
富塚 でも、せっかくせっけんに切り替えた友人が、梅雨に入ったら部屋干しが臭うといって合成洗剤に戻してしまったんです。せっけんが体にいいと実感した人は工夫しようとするでしょうが、そうじゃない人には難しいですね。洗濯って毎日のことだし、できれば手間をかけたくないんです。
能勢 部屋干しで臭うのはタンパク質が残っているからです。予洗いやつけ置きで汚れをしっかり落とすといいと思います。面倒なら酸素系漂白剤を入れて洗うだけでも殺菌効果で臭わなくなります。対処法はいろいろありますし、それを伝えていくしかないでしょう。人によっては合わないこともありますから、押しつけはだめですが。
小林 メーカーとしても、水に溶けやすくしたり、粉がとばない工夫をしたりと、この間、ずいぶん改善を重ねてきました。化学物質を入れさえすれば、使いやすくするのは簡単です。でも環境や人への影響を考え、それはだめというのが生活クラブの考え。だから私たちも化学物質を使わずに何ができるか、工夫を重ねています。
富塚 手荒れに悩んでいる人に食器も固形せっけんで洗えるよと伝えてみようと思います。
能勢 一度挫折してもまたちがう方法を試してみて、その中から自分のスタイルや体に合ったものを見つけられればいいですよね。
小林 83年に合成発泡剤を抜いた歯磨き剤の開発をしたことがあります。チューブの中で固まってでてこないという問題が発生したのに、組合員のみなさんは自分たちの意見でつくったのだからと返品せず使い切ってくれました。私たちの原点はそこにあります。これからも共に考えていきたいです。
能勢さんのワンポイントアドバイス
少し面倒でもできれば「つけ置きか予洗いを」と能勢富美子さん。作業着、泥汚れなど汚れのひどいものを、バケツなどに粒状せっけんや酵素系漂白剤(炭酸塩でも可)を溶かした液をつくり、つけておくのがつけ置き洗い。せっけんを入れる前に水だけで洗濯機を回しておくのが予洗い。これをするだけで随分仕上がりがちがうのだそうだ。
能勢さんは「各家庭の汚れものの度合いや量に応じて洗濯の仕方を調整できるよう、自分の家の洗濯機の機能をある程度知っておくこともポイント」とも。洗濯機に任せっぱなしではなく、機能を使いこなせるようにすると工夫の幅が広がるという。ヱスケー石鹸のせっけん類は溶けやすい工夫がされているので、あらかじめ湯に溶かさなくても洗濯槽に入れた衣類の上にパラパラとふりかければ大丈夫。洗濯物の容量は守り、できれば少なめにするときれいに仕上がるという。
◆せっけんあれこれ Q&A
Q 無添加せっけんと粒状せっけんのちがいは?
香料も炭酸塩も入れず、純せっけん分99%のものが「無添加せっけん(針状)」、針状にすることで粉立ちを抑える工夫もされている。これに炭酸塩と香料を加えたのが「粒状せっけん」。油汚れやタンパク質由来の汚れに強い炭酸塩を加えることによって洗浄力をパワーアップさせている。香料も入っているのでビギナーには使いやすい。
ただ、能勢富美子さんは「通常の汚れであれば『無添加せっけん』でも十分ですし、毛糸洗いなどにはむしろこちらの方が適しています」という。炭酸塩は単独の消費材としてあるので別に購入し、無添加せっけんをベースに、汚れがひどい場合にはこれを加えるなど状況に応じて使い分けることもできる。
Q 黄ばみをなくすには?
「黄ばみの原因はもともと蛍光増白剤なんです」とヱスケー石鹸の小林衛さんは言う。蛍光増白剤は、長時間太陽にさらされると黄色くなる性質があり、これを使っている衣料品や蛍光増白剤入り洗剤で洗ったものを、せっけんで洗うようになると、残留した成分により黄ばみが目立ってくる。もともと無蛍光の衣類をせっけんで洗っている分には、通常、黄ばみや色あせはないそうだ。
そうは言っても黄ばみが気になるとき、能勢さんがすすめるのが煮洗い。ステンレスの鍋や洗いおけに水2~3リットル、粒状せっけん大さじ1、酸素系漂白剤大さじ2を入れて溶かし、そこに衣類、ふきんなどを入れ、ふきこぼれないようにとろ火で1分以上煮る。火を止め冷めてからよくすすげば劇的に白くなる。すすいでからはすぐに干すのがポイント。生地が傷みやすいので毛や絹には向かない。
Q 黒カビ予防は?
洗い上がった衣類に黒いものがつくことがある。これは洗濯機の黒カビ。せっけんや洗剤の溶け残りから発生するので、まずはよく溶かすこと、さらに洗濯機を乾燥させるため洗濯後はふたをあけておくのもポイント。発生したら月に1回程度、酸素系漂白剤で洗濯機を洗浄すれば防げる。
『生活と自治』2014年8月号の記事を転載しました。