木を使い、森を守り続ける
まな板や箸、木のおもちゃなど木製品、竹製品を供給する「酒井産業」(本社・長野県塩尻市)は木を使うことで、日本の森林を守ってきた。近年は木のぬくもりを次世代に伝えたいと「木育(もくいく)」にも力を入れる。
木にはハートがある
酒井産業の本社は、森に囲まれた長野県山間部の木曽地方に位置する。古くから漆器の産地で、同社も元は漆器の製造販売業として1935(昭和10)年に創業、来年は80周年を迎える。
漆器に加え、まな板や木製のおもちゃなど白木の製品も手がけるようになったのは、1970年代ごろからという。まだ環境問題や自然保護が声高に叫ばれる時代ではなく、むしろ高度経済成長期を経て大量生産、大量消費が尊ばれ、プラスチック製品が一気に市場に登場してきたころに、あえて「木」にこだわった。
「ここは木曽ヒノキがふんだんにあって、建築用に資材として切り出された後に大量に残る端材をどうやって使おうかと考えた。日本の木を細かいところまで無駄にしないで使いたかった。プラスチック製品のように安い価格では作れないが、木にはハートがある。触ると温かいし、ぬくもりと柔らかみがある。長く使える木製品は傷ができれば、その傷が家族の歴史にもなる」。こう話すのは同社専務の酒井久徳さんだ。
日本の森林からは太平洋戦争中には燃料として、戦後復興期には燃料としての利用に加え、建築用資材としても多くの木が切り出された。
戦後に植林された木々が数十年を経て、ようやく木材として活用できるようになったころ、木材輸入が本格化、木材価格が下落し林業が衰退、山間部の過疎化も加わって多くの森林が放置されるようになった。
人工的に植林された森林は、木を間引く「間伐」を定期的に行うなど、手入れをしていかなければ、樹木が十分に根や葉を広げることができず、大きく育たない。地中に根が張らないと、地盤は安定せず、土砂崩れや土石流など災害の原因にもなる。
割り箸もトレーサビリティー
間伐が行われず、放置された森林が増えている上、たとえ間伐が行われても、間伐された木材の使い道がなければ、輸送費さえ捻出できないため、切り捨てられたまま山に放置される。
酒井産業はこうした変化に対応し、端材利用から間伐材の利用も試み、生活用品などさまざまな木製品を生み出してきた。「社会貢献を続けながら生きてきた会社」(久徳さん)で、端材も間伐材も使い道を探ることで森を守ることにつなげてきた。
生活クラブヘのまな板などの消費材供給は三十数年前にさかのぼる。接着剤や塗料など生活クラブの厳しい基準をクリアするのに苦心してきたという。割り箸もその一例だ。
営業部長の酒井慶太郎さんによると、割り箸は同じ間伐材でも細い1次間伐の木材(樹齢10~20年、直径8~13センチ程度)は節が多いことなどから使用できず、2次間伐の木材(樹齢30~40年、直径12~25センチ程度)を利用。現在は奈良県吉野地方の間伐材などを使って製造している。
「割り箸も輸入品の方が安いが、漂白などに薬剤が使用されている可能性がある。国産の材料を集めるのに苦労したが、口に入れるものなのだから、素性の分かるものを作るべきだと考えた。割り箸だって(生産、流通の履歴が追跡できる)トレーサビリティーのできるしっかりした材料を使うのが、酒井産業の供給する割り箸。割り箸はかつて(森林を破壊する)悪者に見られたこともあったが、国産材の割り箸の利用は森を守る一助になっている」と久徳さん。
酒井産業は現在、木曽地方だけでなく、各地の産地から木材を入手し全国の150を超える協力工場でさまざまな木製品、竹製品を生産、伝統的な木工職人の技術の保存や継承にも貢献してきた。
子どもに木を教えたい
一方、慶太郎さんが生活クラブとの生産者交流会で組合員から提案を受け、消費材となった「ウッドチップ」もある。もともとはパルプの原料に利用されている素材だが、地面にまくことで雑草の生育を抑え、雨によるぬかるみをできにくくするという。木はまだまだ多くの可能性を秘めているらしい。
社長の酒井寛さんは「木曽地方は木を無駄にできない土地柄。もともと日本の民族は木を使って生きてきたわけで、それが途切れたが、またつなげていきたい。つなげる材料はわれわれが作り続けている。日本の森林を守ることに関しては、われわれが一番寄与していると自負している」と語る。
その上で「ただし製品を作っても、買ってくれる人々、使ってくれる人々がいなければ、再び切り捨ての間伐になってしまう。生活クラブをはじめとする生協が積極的に取り組んでくれるのは、とてもありがたい」とも。
さらに、同社が近年、力を入れるのが「木育」だ。林野庁などが市民や子どもに、木に親しんでもらおうと進めている政策で、同社も活動の一翼を担う。
木製のおもちゃの生産者を集めて情報交換し、ラインアップを大幅に改善、0~7歳まで成長に合わせ多くの木製のおもちゃをそろえた。昨年からは長野県内の病院や空港などのキッズスペースで、床や壁を木質化し、木製の大型遊具などを置く「木のある空間」造りも請け負っている。
社長の寛さんは「国産材を使った木製のおもちゃや遊具では日本で一番だと言っていただいている。子どもたちに木の良さを教えたいと積み木作りから始めたが、今のような使い捨ての文化を続けていると、生活は快適になったとしても、精神的に子どもたちがいびつになってしまうのではないかと心配している。今こそ『木育』を進めたい」と話す。
◆生活クラブ連合会も「木育」推進
「木育(もくいく)が林野庁を中心にして本格的に取り組まれるようになったのは、2006年9月に閣議決定された「森林・林業基本計画」に盛り込まれてから。「市民や児童の木材に対する親しみや木の文化への理解を深めるため、多様な関係者が連携・協力しながら、材料としての木材の良さやその利用の意義を学ぶ、木材利用に関する教育活動」と定義された。これにより主に国産の木材利用を促すことを目的とした。さらに翌年に林野庁が策定した「木材産業の体制整備及び国産材の利用拡大に向けた基本方針」で具体的な方向性が示された。
木のおもちゃは300アイテム用意
木育推進の背景には、国内の森林の荒廃、日本向け輸出のための海外の森林の乱伐という問題がある。これらの問題解決の一助となるのが間伐材や、間伐などの手入れがされすに放置されている国内の森林の利用だ。これらの利用によって得られる収入が森林の整備、保全に役立てられ、ひいては環境を守り、災害などから人々の生活を守ることにもつながる。しかし、背景を知らなければ、木製品自体が環境破壊につながっているとの誤解も生まれがちだ。
「環境保護に役立っていると言い続けなければならない」「子どものころから木を使った生活に慣れ親しんでもらいたい」として、酒井産業は木育を推進する中心企業として活動を続けている。既に木製のおもちゃは乳児用を含め約300アイテムをそろえた。中には小学生から中高生に至るまで楽しみながら木に親しんでもらおうと、付属のかんなでヒノキを自分で削り、「マイ著」を作るキットもある。
絵本や年間カタログを発行
生活クラブ連合会もこうした活動に賛同、13年度の総会で、木製品や木のおもちゃの共同購入などを通じて、間伐材の利用を促進し、木育に取り組むことを確認した。
「木とあそぼう! もり うみ こども」と題した木育の絵本を制作、13年から年1回の「木のおもちゃカタログ」を発行し、酒井産業内に生活クラブ組合員専用の問い合わせ窓口を設置、名入れやラッピングなどにも対応している。また木のおもちゃを特集した「LIVELY」の別冊を年4回発行する。
生活クラブ関係では近年、保育や子育て支援を行っているグループが多くあり、こうした活動とコラボレーションできれば、生活クラブの木育はさらに広がりそうだ。
生活クラブ埼玉と酒井産業は10月18、19日の2日間、埼玉県越谷市の「イオンレイクタウンkaze」で開かれるイベント「Act Green ECO WEEK 2014」に、林野庁などが推進する「美しい森林づくり推進国民運動「フォレスト・サポーターズ』」を代表して共同出展し、木育などを呼び掛けます。
『生活と自治』2014年10月号の記事を転載しました。