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和菓子づくりの腕と心で 東京下町発の「マシュマロ」を (株)ミサワ食品【くず餅、黒糖ふがし、苺マシュマロなど】


東京都足立区で下町伝統の菓子類を生産するミサワ食品。和菓子づくりのプロたちが「ギモーブ」を完成させた。

さて、どうつくる?

ミサワ食品取締役割社長の牧野裕司さん有名洋菓子店のパティシエたちがこぞって腕を振るう「ギモーブ」(マシュマロのフランス語)づくりに挑戦する──。この難問にミサワ食品が向き合ったのは4年前。菓子類の共同購入で提携する生活クラブ連合会から「ギモーブが作れませんか」と打診されたのが契機となった。

「すべてがチャレンジ。第一、ギモーブづくりの道具からして手元にないわけで、まさにゼロからの出発です」と同社取締役副社長の牧野裕司さん。しかし「生活クラブの指定原料を使い、パティシエが手づくりした風味を自社工場で再現することに魅力とやりがいを感じました」

早速、当時入社1年目だった緒方大祐さん(現・統括部長)と牧野さん、製菓専門学校出身でギモーブづくりの経験がある社長のめいの3人で、家庭用ミキサーを使った試作品づくりに着手した。

3ヵ月ほど試作を重ね、最初のギモーブ(ホワイトマシュマロ)が誕生。しかし、この製品はゼラチン特有のニオイが気になると指摘され、使用するゼラチンを精製度の高い豚由来品に変更した。牧野さんは言う。

「生活クラブの指定原料を使ったからこそ、3ヵ月間という短期間でオリジナルのギモーブが開発できたのです。国産で、非遺伝子組み換えである点にこだわった原料を一から探そうとしたら多大な労力と費用が必要。こうして手にした品質の高さです。それでも価格は市販の手づくり品を下回っています。これも生活クラブの優位性でしょう」

原料、手仕事、心意気

くず餅職人の田谷寿幸さん(右)がピアノ線を張ったゼリー用裁断機でカッティングミサワ食品では最初の製品に用いたゼラチンを新開発の消費材「苺(いちご)マシュマロ」にも使用。生活クラブの提携先が生産するビートグラニュー糖とはちみつ、いちごパウダーに水あめを加えて生地を仕上げる。いちごパウダーも福岡のイチゴ「あまおう」をフリーズドライにした生活クラブの指定原料だ。コストは若干割高にはなるが、「他の天然香料よりほのかな色づきと香りが断然優れています。味、食感のよさが際立っているとの評価を生活クラブの組合員からいただけるのも原料の品質が高いからです」と牧野さんは笑顔で語る。

本来、ギモーブは卵白を泡立てたメレンゲを使う。だがその方法では工程に一手間かかるため、同社では、水あめとゼラチンとを泡立て、いちごパウダーを加えて生地を仕上げる。市販品は香りや色を補うために香料や着色料を添加した製品も少なくない。
緒方大祐統括部長。5年前、精密機器を扱う商社から菓子業界へ転職
「卵白を使わなくても水あめをメレング状に泡立てるとふんわりした食感になります。ところが当社が使用する水あめでは同じことはできません。低温のままゼラチンと混合すると泡立ちが悪くなり、ミキサーに投入する直前まで湯煎しておかなければならないのです。この手間が生地の仕上がりを左右する重要なポイントになります」と緒方さんは言う。これも遺伝子組み換えの不安がないサツマイモを原料とする水あめを選んで使う苦労の一つだ。

生活クラブの組合員との交流会で「『市販のマシュマロとは違うおいしさ』という感想をもらいました」と牧野さん。スーパーなどで売られているマシュマロは甘さと香りが強く、表面がすべすべしていて形も丸みを帯びている。

「ゼラチンに卵白やコーンスターチ、香料や着色料などを混合してライン化された機械で量産するからでしょう。そうではなくて素材の持ち味を手間と時間をかけて最大限に引き出す、それが国産原料と手仕事を大切にしながら、焼きふやくず餅を作り続けてきた当社の心意気の現れでもあります」

手づくりであるがゆえ──

「苺マシュマロ」の製造を支えるのはシンプルな道具と人の手だ。製造部長の三洋修司さんは「製造ラインを4日間、生活クラブの苺マシュマロ用のレイアウトに切り替えて生産対応しています」と説明する。総勢10人が複数の工程を受け持ち、工場内を大勢が動き回りながら仕事を進める。終盤の工程ではさいころ状に裁断された製品に4人がかりでコーンスターチを混ぜた粉糖をまぶしつつ、ほぐしてはトレーに並べていく。

品質管理を担当する緒方さんは「まだ課題もあります」と手づくりゆえの難しさを語る。一つは製品の選別。ふわっとした質感の生地を裁断する際、形がひずむこともあれば、断面に凹凸が現れることもある。仕上がりは必ずしも均一とはいかない。「目視による選別には個人差があるので完成形の共有をもっと図りたい」と言う。さいころ状にほぐすときにまぶすコーンスターチの量を減らす工夫も課題だ。

そんな緒方さんを「勉強熱心ですべての企画書について確認しながら検証しています。これからも安心して開発を任せられます」と評する牧野さん。緒方さんも「今後も品質と技術のレベルアップをめざしてものづくりの伝統を受け継いでいきたい」と力強く語る。


◆下町菓子作り「余話」


食味向上の知恵

関東では下町伝統の生菓子として知られる「くず餅」だが、麩(ふ)と深い関わりがあるのは案外知られていない。
「素材を無駄なく利用したエコロジカルな食品」とミサワ食品副社長の牧野裕司さん。麩とくず餅は小麦粉の2つの成分であるタンパク質とでんぷん質を上手に利用した伝統食品と言う。麩の主原料は小麦粉を水でさらし、でんぷん質を取り除いて残ったグルテン(小麦タンパク)。水でさらしたときに流れ出たでんぷん質がくず餅の主原料になる。

「利用数量が安定してきたこともあり、生活クラブのくず餅は以前のせいろ蒸し製法に戻しました。すると組合員から『味がよくなった』と大変喜ばれています」

職人の技術で
生活クラブの「黒糖ふがし」は子どもからお年寄りまで幅広い世代に支持されているロングセラーの消費材だ。
ミサワ食品が黒糖ふがしを開発したのは1995年。当初は「試作を重ねてやっと製造にこぎつけたものの、世の中はまだバブル期で駄菓子のイメージがある麩菓子は見向きもされませんでした」と牧野さん。

菓子業界を知ろうと地元をはじめ首都圏各地の同業者の会合に頻繁に顔を出していたころ生活クラブの提携生産者・東京力リントを通して生活クラブと出会い、国産原料100%使用の「黒糖ふがし」開発につながった。
だが国産小麦はタンパク質含有量が少なく膨らみにくい。同社の麩職人が長年の経験を基に研究を重ね、グルテンを多く配合する製法を提案、製品化が可能になった。

地元の提携窓口に
現在、焼き麩も菓子も地域の生産者の廃業が目立つという。全国焼麩組合の加盟数はかつての500社から200社程度に減少した。菓子製造業はラムネ菓子やたまごボーロ、人形焼など単品を製造するだけでは経営が維持できない。廃業の理由は「利益が上がらず後継者が育たないというのが大方の見方です」と牧野さんは言う。

背景には大手メーカーが海外に生産拠点を移し原料調達から生地生産までコストの安い現地で行うことによる価格競争がある。
ミサワ食品では生活クラブの求めに応じ、麩や菓子業界の生産者に声をかけて企画、生産計画などに携わる提携窓口としてほかの消費材開発にもかかわってきた。
そうした努力の積み重ねが自社製造品のほか、車麩や板麩、ワッフル、揚げかきもち、国産果汁のゼリーなど約40品目に及ぶ消費材の開発につながっているといえるだろう。

『生活と自治』2015年2月号の記事を転載しました。

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