ヨーロッパでのNON-GM大豆へのチャレンジ 「GMフリー欧州会議」報告
5月6日から8日まで、ドイツ・ベルリン市で「GMフリー欧州会議」が開催されました。世界60か国以上から約400人の消費者・科学者・生産者・自治体の議員・職員らが集まり、各国におけるGMフリーをめざす取組みについて、活発な情報交換・意見交換が行なわれました。生活クラブ生協連合会の代表をはじめ、日本からも9人が参加しました。
GM = Genetically Modified 遺伝子組み換え
GMO = Genetically Modified Organism 遺伝子組み換え作物
GMフリー = 遺伝子組み換えのない
NON-GM = 遺伝子組み換えでない
(2015年9月8日掲載)
NON-GM大豆の確保が、ヨーロッパでも大きな課題に
ヨーロッパでは、日本のように大豆を丸ごと食べる料理はあまり見かけません。しかし、肉と乳製品が重要な位置を占めるヨーロッパの食卓は、大豆を抜きには成り立ちません。食肉も、ソーセージをはじめとする畜肉加工品も、そして、牛乳・チーズをはじめとする乳製品も、それらの生産にとって大豆粕(大豆油を搾ったカス)が必要不可欠です。高たんぱく源である大豆粕は、家畜にとって不可欠なエサなのです。
大豆がヨーロッパで広く栽培され普及するようになったのは、140年近く前の1873年に行われたウィーン万国博覧会がきっかけでした。当時この万博に出展した日本が、ヨーロッパに初めて大豆を紹介したそうです。しかし、第2次世界大戦で各地が戦場と化したヨーロッパは、戦後、アメリカから大豆をはじめ穀物を支援物資として大量に輸入したことで、大豆の自給率が大きく低下してしまいました。
現在、EU全体の大豆輸入量は、南米からを中心に約1,330万トンにもおよび、自給率は約3%しかありません。(日本は輸入量340~400万トンで、自給率は約6%)。近年、輸入する大豆のほとんどがGMであるため、NON-GM大豆の入手が二重の意味で困難である状況は、ヨーロッパも日本も同じです(総量の不足、価格の高騰)。こうした厳しい状況なか、ヨーロッパにおける驚くべき2つのチャレンジが、紹介されました。
大豆の自給率回復へのチャレンジ/ドナウ大豆協会
NON-GM大豆の入手が困難になるなか、事態の改善に向けて、国を越えた取組みがヨーロッパで始まりました。「ドナウ大豆協会」(*1)が2012年に設立され、ヨーロッパ域内で自給した大豆を流通させる共同事業が開始されたのです。フランス、ならびにドイツをはじめドナウ川(*2)流域の15ヵ国・150企業が、この協会に加盟しています。
同協会の理事長によれば、「ヨーロッパ全体が必要とする大豆粕のうち、NON-GMの需要は15%だが、域内で生産されているのはまだその3分の1に過ぎない。しかし、域内の大豆生産量は急激に増加しており、2025年には自給率を50%まで高めることが可能だろう。」とのことでした。
NON-GM大豆(粕)を確保するための、着実な取組みが始まっていました。オーストリア大使館で開催された歓迎レセプションは、さながら「ドナウ大豆協会」主催の商談会のような雰囲気でした。
(*1) 「GMフリー欧州会議」の主催者。主催者はほかに、「欧州政府GMOフリー地域ネットワーク」と「GMOフリーNGOと科学者のネットワーク」。
(*2) ドイツ南部に端を発して南東方向に流れ、東欧など10ヶ国を通って黒海に注ぐ大河。
GM大豆を一掃できた国/ルーマニア
もう一つの驚きの動きは、ルーマニア政府がGM大豆を一掃したことです。
ルーマニアでは1990年代まで、GM作物の栽培・流通に関する規制がありませんでした。その結果、大豆・トウモロコシ・ビート(てん菜)・じゃがいもなどのGM作物の栽培面積が、一時は計50万ヘクタールにまで広がりました。とくに大豆は、99%がGMだったそうです。
そのルーマニアが、GMに関する政策を大転換するきっかけとなったのが、2007年のEU加盟でした。GM作物はEUに輸出できないと判断したルーマニア政府は、2006年にGMの生産を禁止する政策に変更しました。それまで6~7万ヘクタールも生産していたGM大豆についても、生産が禁止されました。EUに加盟する以上、GMでは販売先を失うため、国家的に政策を大転換して全ての農地から一斉にGM大豆を強制的に排除したとのこと。違反者には罰則を課したことによって、現在のコンタミ(GM混入)率は0%だそうです。信じがたい話ですが、一度はGM一色の農地になっても、再びNON-GMに戻すことができるという事実を知ったことは、衝撃でした。
EUの今後のゆくえは?
2015年4月2日に、新たなEU指令(412)が出されました。「EUすべての加盟国の合意にもとづいて、GM対策を決定する」というこれまでの統一的な政策から、この新たな指令によって、「EU加盟国は、各国独自の判断でGM作物の栽培を禁止できる」という政策に変わりました。「GMフリー欧州会議」では、この政策をめぐる議論がなされました。
新たな指令は、各国の権限が強化されたように聞こえますが、じつは一方で、「Opt Out(選択的離脱)」を認めるべきという議論がすすめられているそうです。つまり、各国独自の判断で、「禁止する」ことも、「EUで未承認のGM作物でも輸入を許可できるようにする」ことも選択可能になるというのです。EU加盟国の足並みがそろわなくなる恐れが指摘されています。今後のEU各国の動きを注視する必要があります。
日本の運動を紹介しました
日本の参加者は、2日目のワークショップで日本の運動について発表しました。生協からは、木村庸子さん(生活クラブ千葉・理事長)がGMナタネ調査活動について、牧幸子さん(グリーンコープくまもと・理事長)がGMOフリーゾーン運動について紹介しました。子どもたちが安心して暮らしていける食べものと環境を残していくために、おおぜいの市民参加で活動を10年近く続けていることを、参加者にアピールしました。
今秋には、消費者のためのGM表示をめざす日米韓・国際シンポジウムの開催を日本で予定しており、生活クラブ連合会も共催団体の一つとして参加します(詳細案内は後日)。引き続き、GMのない世界をめざす国際連帯の取組みをすすめていきます。