使い捨て時代を「リユース」魂で
生活クラブのびんのリユース事業を担う「トベ商事」の営業所は、埼玉県との境に位置する東京都足立区にある。敷地内で、何台ものフォークリフトがびんの入ったケースや圧縮したペットボトルの積み下ろしを行っていた。
トベ商事(本社・東京都北区)でのリユースびん洗浄はこんな工程をたどる。
作業所内に運び込まれたびんはベルトコンベヤーに載せられ、洗びん機へと自動的に送り込まれていく。びんは45度ないしは55度の温水、80度のアルカリ水、60度のすすぎ水、常温水の5種類の水で洗浄されるという。これらの洗びん作業によって、外側のラベルが取り除かれ、びん内の汚れも除去される。
さらに洗浄ラインでは汚れが残っていないかを担当者が目視で2回点検する。合格したびんはケースに入れられ、ロボットアームで自動的に積み上げられ、フォークリフトで保管スペースに運び出される。点検には4人、洗びん工程全体では12人の社員が担う。
こうした点検専用ラインを保有し、さまざまな種類のびんに対応できる「はん用ホルダー」や紫外線による滅菌ラインを備えているのが、同社のリユースシステムの最大の特徴。1日の処理能力は最大2万5千本とされる。
生活クラブは調味料やジュースなどのびんをリユースする「グリーンシステム」を導入している。トベ商事は生活クラブ関連だけで月間約35万本、その他の事業所を合わせ月間45万本前後のびんを洗浄し事業者に戻している。
現在の月間40万本超のリユースは、1990年代に比べると2割ほど少ないが、これだけ大規模なびんリユースを担う業者は首都圏では見当たらないという。
一連の工程を見ていて気になったのは、洗浄前のびんに付着したままのラベルだ。空びんを戻す前に、生活クラブでは組合員にラベルを剥がして戻すよう呼びかけているが、半数近いびんにはラベルが付いたままだ。
創業120年余の老舗
リユースとは何なのかと同社社長の戸部昇さんに聞いてみた。
「食器にしたって衣服や下着にしたって何度も洗って使うのがあたりまえでしょう。食器を毎回捨てていたら大変なことになります。リユースは人間生活の基本的な活動ではないですか」
トベ商事は、1893(明治26)年の創業から120年余りの歴史のある老舗で、戸部昇さんは4代目社長だ。同社の中心的事業は各行政から委託された容器包装材の分別処理で、売り上げ全体の6割を占める。ほかに産業廃棄物などの中間処理や資源化、びんのリユースなどを手がける。
社員は160人ほどで、うち障害のある人が40人。障害者の雇用率が都内一だったこともあるという。
初代社長の戸部初五郎さんが創業当初、一升びんなどの空きびんの回収・販売を始めた。たるから一升びんへと容器が変わり始めたころで、国内で製造されるガラスびんの数は限られ、輸入ウイスキーの空びんが高値で売れた時代だったという。
回収したびんを洗って再商品化するリユースを始めたのは、3代目社長の戸部栄二さん。1960年代半ばだった。
最初はびんを1本ずつ手洗いしていたが、その後、洗びん機を導入し作業を自動化した。
トベ商事は、生活クラブが94年に始めたグリーンシステムを立ち上げ当初から支え、規格の続一やびんの軽量化にも対応してきた。この四半世紀の共同作業について、戸部昇さんは「リユースを続けるためには避けて通れない道だった」と振り返った。
止まらない負のスパイラル
「いま、リユースびんは非常に不利な状況にあります」と戸部さんは苦境を語る。
ペットボトルやレトルトパウチ、紙パックなどの使い捨てのワンウェイ容器に優位性があるからだ。
もともと、食品容器としてのびんは保存性が高く、リユースすることで実体経済のなかで循環し、環境負荷が小さいという大きなメリットもあった。
対して使い捨てのワンウェイ容器は自治体がごみ処理に多額の税金をかけざるをえない致命的な弱点を持っている。さらにワンウェイ容器はびんに比べて中身を詰めるのにも時間がかかり、充てん効率の悪さがネックとされてきた。
ところが、充てん技術の進化によって現在では、ぴんと遜色のない充てんスピードになってきたという。
おまけにワンウェイ容器は軽くて割れにくい。対してびんには重くて割れるという弱点があり、高齢化社会では敬遠されがち。また製造や輸送、保管にエネルギーやコストをより多く使う点もびんのデメリットだ。
これらの事情から、90年代半ばまではトベ商事の売り上げ全体の80%前後を占めたびんのリユース事業が5%弱にまで落ち込んでしまっているのが実情だ。
ここまでリユース事業が縮小したのは、食品メーカーなどが缶やペットボトルを使うようになったからだけでなく、調味料などをびんに詰めるパッカー業者がリユースびんを使わなくなったからだという。
リユースびんを使う場合、汚れが付着していたり、傷が入っていたりするびんを除去するための人員確保が必要となり、当然コストもかかる。
また、調味料など中身を詰める工程で、新しいびんであれば10万本に1本割れるか割れないかの確率しかないが、リユースびんの場合は2~3本は割れるリスクが避けられないという。
戸部さんは「循環型社会をつくるうえで、びんのリユースの方がよいとわかっているのに、新びんを使ってワンウェイで捨ててしまう、あるいはペットボトルに切り替えて工場の無人化を進める負のスパイラルが進んでいるのです」と現状を憂う。
リユースは教育にも役立つ
いくらびんを洗浄して再商品化しても、事業者が使わなければリユースのしくみは回らない。
「かつて、たるがびんに代わったように、びんがペットボトルに代わるのは時代の大勢です。いまや容器のリサイクルが主になっていますが、それでもびんのリユースも無くならないようにも思います」(戸部さん)
今年2月、タイを訪れた際、戸部さんはごみ捨て場を見学してがくぜんとした。
ワンウェイ容器がポンポン捨てられ、ごみの山になっていた。戸部さんは「これでは人間が滅びてしまうのではないか」と危機感を持ったと話す。
「人間には教育や規律が必要。びんをリユースすることは非常に教育的であり、世界の格差是正や平和にもつながるはずです」
日本発リユースびんの文化をアジアやアフリカに伝えることは、人類にとって大きな貢献になる可能性を秘めているのかもしれない。
◆ペットボトルの「卵」
文/本紙・山田 衛
「簡単便利、安くておいしい」という言葉をめぐり、職員仲間と激しく意見を交わしたのは、いまから30年ほど前。当時、生活クラブの共同購入は「不便で面倒。高いが納得のいくうまさ」という世間の評価が定着していた。月1回の申し込みは組合員と職員が手集計。集金も職員が共同購入グループ(班)のまとめ役の班長宅を回っては、布製のみそ袋を使って集めた。
牛乳、卵、コメに豚肉、牛肉にスルメイカにタラコといった冷凍魚などの基礎素材中心の品ぞろえ。かつお節に昆布といっただし類と塩にしょうゆ、みそなどの調味料さえあれば「あとはほかで買えばいい。それも消費委員会の市場調査の一環」と言い切る組合員が多かった。
大きい単位で共同購入し、組合員が分け合ったから、余計で過剰な包装は不要だった。しかし、1980年代のバブル経済期に入ると環境問題への関心が強まり、牛乳パックの廃棄や調味料やジュース類の空びんの「使い捨て」を見直そうという機運が組合員間に高まった。
これが契機となって立ち上げられたのが生活クラブの「グリーンシステム」だった。その後、生活クラブは他生協とも連携し、過剰包装と容器の使い捨てを意識的に抑制する「リデュース=廃棄物削減、Reduce」、容器の再使用循環である「リユース=Reuse」、さらに再生利用の「リサイクル=Recycle」の「3R」を合言葉に資源循環型の実現に努めている。
ところが、容器のリデュースとリユース、とりわけリユースが危機的な状況に直面している。
確かに高齢者が多くなった社会では重くて割れやすいガラス製のびんは敬遠されがちだろう。プラスチック製のチューブ容器が普及したこともあり、その便利さを手放しにくいと考える人が少なくないのもうなずける。
それでもガラスびんの再利用を推進しつつ、その価値を社会に浸透させ続けていきたいと望む生活クラブの組合員は多い。
その再生利用事業を担うトベ商事社長の戸部昇さんは「プラスチック製の容器の利便性を受け入れつつも、世界的に見ても貴重品であるびんを手放してはいけない。その価値を守り続ける暮らしとそれを支える私たちの仕事が次世代に安心して暮らせる地球を残す道と信じている」と訴える。
右の写真はペットボトルのひな形(=卵)で、どんな形状にも加工可能だ。これなら保管スペースが少なくて済むし、必要なときに必要な数を工場内で製造できるため、飲料メーカーの支持は高い。これでは回収、輸送、洗浄、保管と手間と金がかかるガラスびんの再利用が嫌われても無理はない。
ここにも簡単便利、安くて、にばかり流されがちな「使い捨て社会」を固定化しようとする強い力の存在を感じる。
『生活と自治』2016年6月号の記事を転載しました。