プルシアンブルーによる生椎茸の放射能低減実験について報告します
生活クラブでは2015年5月より、生椎茸の放射性セシウム低減化のためのプルシアンブルー処理実用化実験を、3生産者(木更津市椎茸生産組合、(有)丸エビ倶楽部、中伊豆椎茸部会)にて行なっていました。その経過と実験結果について報告します。
東京電力福島第一原発事故により放射能汚染の被害を受けた生椎茸
生椎茸などのきのこ類は元々、微量元素をたくさん吸収しやすいという性質を持った食材です。それが、滋養にあふれ栄養豊かな、きのこ類ならではおいしさにつながっています。しかし2011年の東京電力福島第一原発事故による放射能汚染が起きると、その性質が仇となってほだ木などに吸着した放射性セシウムを集めてしまうことになりました。そのため事故直後には、放射能検査で生椎茸から高い値が出る例も見られたのです。
今回の放射能低減化実験は、2014年の森林総合研究所による技術研究での実績報告にもとづき、生椎茸を栽培する原木をプルシアンブルーという薬剤の溶液に漬けてセシウムの低減効果を調べ、実用化の可能性をはかる目的で行なわれました。
3生産者と共同で低減化の実験を行ないました
実験は、木更津市椎茸生産組合(千葉県)、(有)丸エビ倶楽部(茨城県)、中伊豆椎茸部会(静岡県)の3生産者に協力をいただき、森林総合研究所や薬剤メーカーの助言を得ながら進めました。3地区共に事前の協議や調査、打ち合わせを経て、2015年5月から実験を開始しました。
実験は、それぞれの地区で試験区を10に分け、プルシアンブルーを植菌時に適用する区、収穫1回目の浸水直後に適用する区、収穫2回目の浸水直後に適用する区など、試験区ごとに細かく条件を分けて行ないました。ほだ木の中にはかなりサイズの大きいものもあり本数も多いため、1本ずつプルシアンブルー溶液の漬け込み槽に入れ処理をしていく作業には大きな苦労が伴いました。収獲および測定は、地区により同年12月~2016年10月にまでおよび、大がかりな実験となりました。
1年以上におよぶ実験でしたが、結果としては残念ながら、このプルシアンブルー薬剤処理による明確な放射能低減効果は得られませんでした。実験に参加した生椎茸の3提携生産者と実際に栽培した農家のみなさんには多大な協力をいただき感謝いたします。助言をいただいた森林総合研究所の根田仁先生と平出政和先生、実験に終始参加してご指導いただいた福島大学客員教授の服部俊雄先生にも感謝の意を表します。
生活クラブは今後も放射能低減のための取り組みを続けます
本実験は、生活クラブの「放射能汚染に立ち向かう生産者を支援する基金(生産者支援基金)」から費用を充当しました。生産者支援基金は、放射能検査の結果が国の基準値以下ではあっても、自主基準値を超えて消費材の供給を停止した場合に、生産者に補償を行なうために設置した生活クラブ独自のしくみです。しかし幸い、最近では自主基準値を超える消費材は出ていません。このため現在では、放射能汚染を減らす活動を行なう生産者に対してもその費用を支援しています。
また生活クラブでは、「食べものからの内部被曝はできるかぎり少ないほうがよい」という考えから、東京電力福島第一原発の事故以来、これまでに9万件を超える国内屈指の放射能検査実績を積み重ねてきています。その検査実績に基づき、2016年4月からは、放射能の自主基準値をさらに大幅に引き下げました。また、ベビーフードや粉ミルクなど子育てを応援する品目をそろえた「すくすくカタログ」に掲載する食品については、すべて「不検出」を自主基準としています。より厳しい基準を適用することで、さらなる食の安全を目指しています。
今回の低減実験は明らかな結果にはつながりませんでしたが、今後も生産者と共に、放射能低減の可能性を探り、食の安心・安全につながる取り組みを続けていきたいと考えています。
【2017年2月14日掲載】