【放射能検査なるほどコラム】教えてハカセ! ③「線量限度」について知ろう
自然界にも存在し、福島第一原発以後は東日本の各地で線量が上がった放射能。その限度量について「1ミリシーベルト」とか「20ミリシーベルト」など、いろいろな数字を聞きますが、どう考えていけばいいのでしょう。ハカセに聞いてみました。
化学物質の環境基準より
実はかなりゆるい放射線の基準
---放射線って目に見えないし、危険度が把握しづらいですね。そもそも人が受ける放射線量に基準ってあるんですか?
国際放射線防護委員会(ICRP)というところが出している勧告が、国際的な基準になっています。その中では、一般の人への放射線量(公衆被曝)の指標を、平常時は「年間1ミリシーベルト以下」としています。レントゲン技師など、仕事で放射線を受けることがある人(職業被曝)に関しては「年間20ミリシーベルト」です。
---この「1ミリシーベルト」というのはどういう理由で決まってるんでしょうか?
ざっくり言うと、放射線による発がん率のデータから決まってるんです。この「年間1ミリシーベルト」という線量は、1年間に1ミリシーベルトの放射線を浴びると、確率的には2万人に2人ががんになって、そのうち1人ががんで死亡するという数字なんですね。発がんリスクの許容量として、社会的にそれぐらいは認めても仕方ないのでは、とICRPが設定している数字です。
あとは、自然界に元々ある放射線から被曝する自然被曝の平均値が、日本では年間1.2ミリシーベルト、世界平均は年間2.4ミリシーベルトぐらいなので、これを大きく超えないということで「年間1ミリシーベルト」が決まっている部分もあります。
でも「2万人に1人ががんで死亡する確率」という放射線の許容量の基準は、実は化学物質の基準よりはだいぶゆるいんです。例えばベンゼンなどの化学物質の環境基準は、「10万人に1人」を目安にするのが国際的なルールなんです。つまり、化学物質より、放射線のほうが5倍もゆるく設定されているんですね。
---それは知りませんでした。
原発事故後、一般人の線量限度は
「年間20ミリシーベルト」に
しかも、東京電力福島第一原発事故の後、国はICRP勧告の「緊急時における基準値」を適用して、一般の人の許容量を「年間20ミリシーベルト」までゆるくしました。これは、平常時だったら放射線や原子力の仕事についている人の被曝の基準と同じです。化学物質より100倍もゆるいことになります。
---一般の人でも、福島原発事故後だからそれまでの職業被曝の基準まで浴びても仕方ない、という考え方なんですね。
国は今、年間20ミリシーベルトを基準として、それを下回る地域に対しては避難勧告を解除しています。年間20ミリシーベルトまでなら、放射能を浴びるとしても、子どもを含む一般の人が帰還してもよいだろうということ。元々一般の人の平常時の線量限度が「年間1ミリシーベルト」であることを考えると、驚くべきことです。
先ほど、「年間1ミリシーベルト」という量は、「2万人に1人」ががんで死亡する確率だと言いました。しかし、「年間20ミリシーベルト」となると、これが「1000人に1人」まではね上がります。1000人と言えば、少し大きな小学校の生徒数ぐらいの数字。つまり、その小学校の誰か1人がんで亡くなる可能性がある。ちょっとショッキングな例えですが、それぐらいひどい方針なんです。年間20ミリシーベルトのところに住むというのはそういう意味のことだと、あらためて認識しておいた方がいいと思います。
生活クラブでは住宅支援の継続などを求める署名活動や
甲状腺検査活動に取り組んでいます
---その帰還方針に伴って、自主避難している方への住宅支援が2017年3月で打ち切られようとしていることもニュースになっています。
はい。それに対し、生活クラブでは、原発事故避難者の住宅支援の継続などを求めて、「原発事故被害者の救済を求める全国運動」に参加し、署名活動などに取り組んでいます。2016年10月には、全国の生活クラブから集まった70,703筆の署名を国会に届けました。「全国運動」全体では、署名の総数は19万筆を超えました。
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また、福島第一原発の事故による放射能汚染から子ども達を守る活動の一環として、全国各地で組合員の子どもの甲状腺検査も実施しています。この検査活動と、福島県が県民に対して行っている甲状腺の結果を比較できるようにして役立てる意味もあります。一般的には事故から5年以降に放射線によるがんの発症率は高くなるということもあり、生活クラブでは2020年までこの検査活動を継続することを決めています。
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原発事故から5年以上が経ちますが、原発自体の状況はもちろん、それに伴ういろいろな問題がまだ現在進行形です。あの爆発が起こった頃に、子どもが雨に濡れてしまったとか外で遊ばせてしまっていたなど、その影響はわからないものの、ずっとそのことが気にかかっているお母さんも多いかもしれません。過去のこと・遠い場所のこと、と流してしまわずに、現在起こっていることとして常に考えていきたいですね。
【2016年12月26日】