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「本物のみそ」は生きている

かつては各家庭でつくられることが多かったみそ。 原料、色、甘い辛いなどの味つけもさまざまで地域性があった。 しかし、現代では手軽に調理に使う「だし入りみそ」が主流となった。 そうしたなか、生活クラブと提携する「マルモ青木味噌みそ醤油しょうゆ醸造場」では、「酵母菌が生きたままのみそ」づくりに徹している。

長野市といえば、善光寺の門前町として知られる。いまも昔も地元の人たちは、その歴史ある山寺を「善光寺さん」と親しみを込めて呼ぶ。同市は善光寺平という盆地にあり、この地で生まれ、培われたのが酒やみそなどの醸造業だ。とりわけ「信州みそ」の知名度は抜群で、国内で生産されるみその代表格といえる。

そんな長野市で「本物のみそとは何か」を追い求めてやまないのが、マルモ青木味噌みそ醤油しょうゆ醸造場(マルモ青木)だ。同社の天然醸造みそを仕込む蔵に入るやいなや、発酵した大豆が放つ芳醇ほうじゅんな香りに包まれた。天然醸造というと、ついつい木製のたるで発酵を促す風景をイメージしがちだが、「天然とは人工的に加温することなく、気温や湿度、菌類といった自然の力を借り、みそが仕上がるのを待つという意味です」と、同社技術部長の鈴木晴紀さんは笑顔で話す。

かつては木製の樽を使った仕込みが主流だったが、現在では大手メーカーはもちろん、ほとんどの醸造場がステンレスに切り替えた。ステンレスは洗浄しやすく丈夫だが、表面がすべすべなため酵母菌がすみ着けないというデメリットがある。

これが木樽なら酵母菌がすみ着き、木の風味が自然な風味を生むものの、老朽化してくると樽の内側がささくれ、細かい木片が混入する恐れがある。

「しょうゆのような液体であれば、網でしてささくれを取り除けますが、みそのような固形物では無理があります。そこで、当社ではプラスチックの樽を採用しています。プラスチックは軽くて扱いやすいだけでなく、表面の小さな穴に酵母菌がすみ着いてくれます。これがよい発酵のスターターになるのですが、工場見学に訪れた人からは木樽でなくて残念と言う声があがります。確かに木には趣がありますから、無理のない話かもしれません」

同社の天然蔵には冷暖房設備はなく、窓から自然の陽光が差し込むだけだ。この環境で、約1年熟成させて出荷されるのが生活クラブ生協の「天然醸造100%こうじみそ」だ。

その主原料となる大豆には北海道産のトヨマサリという銘柄を使用し、コメは山形県酒田市のJA庄内みどり、長野県のJA上伊那、JAながのが契約栽培したものを使う。そんな同社の姿勢を「製法だけでなく、原料にまで徹底的にこだわる特異な会社」と評する声が業界内には少なくない。 
① 一晩水に浸した大豆を釜で蒸す。建物の中は夏場は40度を超える暑さだ ② 2トンの大豆が入る蒸し釜 ③ すり潰した大豆、コメこうじ、塩を混ぜる ④ 仕込んだみそを樽に入れ、表面が平らになるように10分ほどかけて職人が上から丁寧に踏み込む ⑤ 天然醸造みそを仕込む蔵。ここで約1年かけてゆっくり熟成させる

白みそブームのかげで

みその種類は原材料や色、風味によって異なり、使うのがコメこうじならコメみそ、ムギこうじならムギみそ、豆こうじなら豆みそに分けられ、さらに見た目の色の違いから白みそ、淡色みそ、赤みそに大別されるのが一般的だ。白みそを好む人が増えた背景には、1970年代の白みそブームがある。

「なぜ、西京みそが真っ白いかわかりますか」と鈴木さん。「白い方が上品なイメージがあって売れるため、発酵が進む前に出荷してしまうのです。なかには薬品を使って大豆を漂白するケースもあります。しかし、当社では薬剤を使わず、皮をむいて白さを出しています」と言う。マルモ青木のみそは時間の経過とともに自然発酵が進む「生みそ」だ。ところが「そちらの白みそを買ったのに、開封したら赤みそだった。工場が間違って赤みそを詰めたのではないか」という問い合わせが寄せられるようになったという。

鈴木さんは年間30回ほど開かれる生活クラブの生産者交流会でも「生きたみその特徴とその変化についてもっと多くの人に知ってほしいと思っています」と必ず話すようにしているという。

発酵食品なのに「熱処理」

熱殺菌していないマルモ青木のみそは酵素が生きている
鈴木さん一押しのみそ汁は、だしをとらずに天然醸造みそをお湯でとくだけという実に手軽なものだ。「確かにだし入りみそは多忙な現代人には便利でしょうが、自分たち作り手としては、あれをみそと呼びたくありません。単にだしをとらずに楽をしたいという理由で、だし入りみそを買うくらいなら、そのまま本物のみそを味わってほしいということです」と訴える。

現行の品質表示基準上では、原料を発酵・熟成させていればパッケージに「みそ」と表示して問題はない。ただし、発酵に要する期間の規定はなく、1週間から10日程度の発酵期間でも出荷できる。これなら熟成のために原料を寝かせる保管場所や製造管理が不要になり、コスト負担が減る。

ただし、そうした製法ではどうしても熟成が不十分になるため、化学調味料などのだし成分を用いた「風味付け」が必要になる。さらに添加したうまみ成分を酵素が分解するのを避けるため、本来は不要な熱殺菌をしなければならなくなる。鈴木さんは「市販品のみそには酵素も酵母菌も存在しないものが多いのが実情ではないですか。それで発酵食品といえるでしょうか」と問いかける。

酵母菌が生きたままのみそを流通させるには、アルコールを添加して菌の活動を穏やかにするか、酵母菌が排出する二酸化炭素を抜くためにバルブ付きの包装容器に入れて流通させる方法がある。さらに冷蔵流通なら酵母菌の活動を抑えられる。しかし、包装容器代や冷蔵輸送によるコスト負担を多くのメーカーは嫌い、熱殺菌されたみそが多数を占めることになる。「熱殺菌すれば容器が膨張しませんし、アルコール添加も不要です。だから無添加表示が可能なのですが、そのみそには酵素が残っていません」と鈴木さん。「熱殺菌で酵素が壊れれば、豚肉を漬けても軟らかくなりませんし、タンパク質がアミノ酸に変わらず、うまみが増すこともありません」

これらの理由からマルモ青木では酵母菌が生き、酵素が残るみそづくりに徹している。

鈴木さんは今後のみそづくりには、地域での資源循環が不可欠であり、それが実現できたら理想的だという。「工場では砕けた大豆などの生ごみが出ます。大豆の皮は、飼料メーカーに引き取ってもらい、家畜の飼料として再利用しています。その他は近くの木質バイオマス発電所から出た灰と混ぜ合わせて堆肥にしています。将来は、この肥料を活用し、たとえ少量でも自社で育てた大豆でみそをつくれたらうれしいですね」と瞳を輝かせた。

みそづくりの神髄は――

JR長野駅から車で約15分のところにある本社工場

マルモ青木では、工場の地下40メートルからみ上げた水で、丹念に大豆を洗浄し、一晩浸水させた後、巨大な釜で蒸す。蒸し上がった大豆をミンチにし、コメこうじと塩を混ぜ合わせて樽に移し、発酵を待つ。いずれも創業当初から変わらない方法だが、現在は大半の工程が機械化されている。

それでも、みそを詰めた樽の上から踏んでは表面を平らにし、空気を抜くのは、いまも人の仕事だ。素人では1時間以上はかかる作業を、熟練の担当者は10分ほどでやってのける。この工程が終われば、樽にふたをして蔵に運び入れる。あとは自然の力頼み、待つしかない。

仕込みを終えた天然醸造みその樽を見やりながら、マルモ青木社長の青木幸彦さんは、しみじみとこう話す。

「どんなみそができ上がるのかは、ふたを開けてみるまでわかりません。理論上、こういうふうになるはずと仮定しても、数多くある菌が自然環境のなかで、人間の想定どおり動くとは限らないからです。先代の社長は『発酵は芸術』と言っていました。最後は、微生物任せというのが、みそづくりの神髄。わたしたちにできることは、微生物が心地よく過ごせるような環境を整え、見守るだけです」

撮影/越智貴雄  文/平井明日菜

◆「安全・安心」の根っこ

豆腐に納豆、みそにしょうゆといえば、わたしたちの日々の暮らしに相当縁が深い食品だ。しかし、その原料となる大豆が国内でどれだけ生産されているかを考えると、その縁は限りなく幻想に近いものになってしまう。

農林水産省の調べによれば、2015年における日本の大豆自給率(カロリーベース)は7%と実に低く、必要量のほとんどを米国、ブラジル、カナダ、中国からの輸入に頼っているのが実情だ。ただし、輸入大豆の用途は搾油用が中心で、食品原料用に限ってみれば大豆の自給率は25%まで高まるという。

そうはいっても、食品原料となる大豆の7割強が米国、カナダ、中国からの輸入品である以上、永久に入手できる保証はない。おまけに遺伝子を操作した食用大豆の品種(GMO)も開発されていると聞けば、とても安閑とはしていられない。さらに深刻なのは搾油用(油脂原料)として輸入され、脱脂後に家畜の飼料原料に用いられる米国産大豆の8割以上がGMOに変わってきているという点だ。

この背景には大豆のタネを自社の農薬とセット販売し、タネの特許権を盾に農家にタネと農薬を買わせ続けたいという多国籍企業による「種子支配」への懸念があると指摘されて久しい。本来は多種多様な生命の起源であるタネの開発が独占ないしは寡占状態に置かれるとすれば、それは生命の弱体化に通じる「暴挙」に等しい振る舞いというしかない。

だが、残念ながら種子の供給をだれかに支配される怖さについての社会的な共感は培われにくく、日常的に穀物の恒常的な輸入依存構造への不安をリアルに感じ続けるのも難しい。そうした怖さや不安を少しでも解消していくには、穀物生産の担い手を国内で増やしていくしかないが、それも一朝一夕にいかないばかりか、しきりに赤信号が点滅しているのが現在の日本だ。

だからこそ、国内における食品原料の持続的な生産と安定確保に向けた政策が求められるはずなのに、それに逆行する動きが相次いでいる。近年、日本の「食」の現状を語るとき、多くの人が「とにかく安全・安心が第一」と力説するようになった。その意味するところは、製造工程で食品添加物や化学調味料を使わず、原料の生産履歴が明らかで、化学合成農薬や化学肥料の使用量が抑制されたものということだろう。まったく異論はない。

ただし、願わくは拙稿をお読みくださった方には「主原料が国内でつくられていること」を今後は安全・安心の最優先項目に入れていただきたい。今号紹介したマルモ青木味噌醤油みそしょうゆ醸造場のみそは、安全・安心の条件を満たした正当な発酵食品だ。同社は1967年に生活クラブと提携し、この51年間ひたむきに伝統製法を守ってきた。 


撮影/魚本勝之  文 /本紙・山田 衛


『生活と自治』2018年10月号の記事を転載しました。

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