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改正漁業法施行から半年 いま、日本の沿岸漁業は――(上)

【対談】福岡県宗像市宗像漁協・桑村勝士組合長 生活クラブ連合会・加藤好一顧問

2020年12月1日に施行された改正漁業法により、アジ、サバなどの特定魚種の漁獲可能量(TAC)に基づき、船舶ごとの漁獲量を制限する漁獲割当(IQ)が導入されました。今回の法改正に対し漁家の間には「資源管理の徹底という意味では一歩前進だが、大きな船舶を保有し、装備も最新式の大資本漁業と中小資本、家族経営の漁家の漁獲量の違いは明白。大資本に有利な法改正とみることもできる」という警戒感が広がっています。今回は、沿岸漁業の中でもたくさんの漁船が稼働している福岡県宗像市の宗像漁協を訪ね、桑村勝士組合長に生活クラブ連合会の加藤好一顧問が改正漁業法の影響について聞きました。
 

スーパー向けは需要増。高級魚は大苦戦

桑村 2020年6月から宗像漁協の組合長を務めている桑村です。福岡県の職員で水産行政に携わっていましたが、離職して漁師として生きる道を選びました。今日はよろしくお願いします。

加藤 今回はご多忙中に貴重なお時間を頂戴し、ありがとうございます。生活クラブ連合会顧問の加藤です。早速ですが、宗像漁協に加入している漁業者の平均年齢はどのくらいですか。

桑村 正確な数値はわかりませんが50代後半くらいでしょうか。全国的には若い漁協だと思います。当漁協は六つの漁協が合併した組合です。もとは鐘崎漁協単独で他の5漁協を合わせた事業規模がありました。基幹漁業は中型巻き網、フグの延縄、イカ釣りなどですね。近年ではアナゴの筒漁、アマダイの延縄(はえなわ)、一本釣り関係など多岐にわたっています。組合員数は約400人で鐘崎だけで約200人。2020年の漁獲水揚げ金額は約25億円でした。直近5年の年間漁獲量は約3500~5300トンですが、主な魚種であるブリやアジは減少しています。トラフグもよくありません。魚価も新型コロナ感染拡大の影響で低迷し、対前年比90パーセントを切る水準です。特に高級魚系がガクッと落ちていますから、主に高級魚を漁獲している漁師はかなり厳しい状況に置かれています。

こうしたなか、スーパー等の鮮魚需要はあまり落ちていないようです。私も2020年春まではイカ釣りに出ていて、あるスーパーに直接納品したとき、担当者から「(販売量は)対前年比を超えている」と聞きました。ただ、三密回避で人を集中的に張り付けられず、少ない人数で仕事をこなさざるを得ず、バックヤードは大変だったそうです。

加藤 船の燃料代も上がってきているそうですね。

桑村 はい。短期的な価格の変動はありますが、近年は総じて値上がり傾向が続いています。こうした事態に対応する政府のセーフティネット事業は確かにあります。漁業者の積立金を使い、過去の平均価格から何円以上価格が上昇したかで支援金を給付する制度があり、その中でやりくりをしていくので、何とか影響が緩和されていますが、現状の高止まりが続くと漁業経営は圧迫されます。

資源管理のための枠組みづくりには賛成

加藤 それでも平均年齢50代後半という国内屈指の若さを今後も維持できますか。

桑村 これからが厳しいというのが正直なところです。とりわけ漁船漁業を主体とする鐘崎地区が、いちばん厳しい状態に置かれると思います。鐘崎の沿岸漁業は小舟で出て行って、ちょっと獲って帰ってくるという、いわゆる「沿岸漁業」という言葉からイメージされる形態ではありません。実態的には中小資本漁業なのです。一人乗りの一本釣り漁業でも、漁場は沖合であり、漁船規模や装備がしっかりしていないと安全操業できません。小型船であっても設備投資が大きく、中小資本漁業の性質を有しているのです。たとえていえば、鳥取の境港や千葉の銚子みたいな漁業基地機能が沿岸漁業の単独漁協に乗っかっているような、沿岸漁業としては特異な構造の地域なのです。

一人乗りの漁船でも、玄界灘の相当遠い漁場にまで出漁します。50マイル(約80キロ)沖合に出ることもままありますし、30〜40隻でイカの魚群を朝から追いかけ、片道3時間半かけて日帰りしたりもします。個人で資本を投下し、経営規模を大きくしてきたからやれてきました。これまではそれは正解だったと思います。しかし、資源状態が悪くなり、魚価も下がってきて、これまで成功してきた業態からの構造転換を迫られている。これからが正念場ということです。

加藤 宗像漁協で中小資本型漁業が発展したのはいつ頃からですか。

桑村 1965年頃からでしょう。1949年に戦後漁業法が制定されましたが、戦後の食糧難や雇用のため、沿岸漁場に漁船が過密になりました。そのため漁場紛争が頻発し、減船して漁村の過剰人口を緩和する政策が採られました。沖合・遠洋漁業への転換政策です。沿岸にあふれた船を沖合や遠洋に転換して減らしたのです。これで日本漁業全体として生産は伸びましたが、沿岸の零細漁業は依然として生活レベルが低い状態でした。

こうしたなか、国に「農林漁業基本問題調査会」が設置され、1962年の漁業法改正がありました。それに合わせるように「沿岸漁業等振興法」という今の沿岸漁業振興に関わる基本の法制ができます。漁港や漁船装備などの漁業を営むための基盤を整備し、高度経済成長の流れに乗って沿岸漁業の底上げと沿岸漁民の生活向上が進められました。当時、鐘崎地区は中型巻き網を改めて導入。高度経済成長で魚が売れている流れに乗って、一気に成長しました。それが鐘崎発展の歴史です。福岡市という鮮魚の大消費地を抱え、漁場も良いという好条件の中でずっとやりくりしてきたのですが、そういったひとつの歴史的な流れが終焉(しゅうえん)したのだと思います。


今回の改正漁業法には漁船別に漁獲割当量を定めるIQ制度の導入が盛り込まれましたが、ポイントはそこではありません。今回の改正の目玉は、生物科学的に再生産が持続する数値目標を定めたことにあります。大資本が有利だとか、そういう問題ではないのです。まずは水産資源管理をしなければどうにもならず、この点について多くの漁業者に異論はありません。そのために、大資本から零細経営まで、応分の管理を分担するということです。

一時的には窮屈でもそれが最終的にはすべての漁業者のためになるのです。乱獲だけが水産資源の減少要因ではありませんが、乱獲が原因ではないわけではない。資源減少要因は複合的でケースバイケースだと思いますが、人為的に改善できる漁獲量の厳格なコントロールに制度が踏み込んだことは一定評価できるのではないでしょうか。ただ、資源回復のための休漁は、漁業経営に直接影響しますので、何らかの経営支援策とセットで考える必要があるのはいうまでもないでしょう。


加藤 とはいえ国内の漁業者だけが対象というわけにはいきませんから、そうは簡単にいかないのではないですか。

桑村 そうですね。国内を動かしていくのと合わせて外国にも圧力をかけていかないといけません。それにはどうやったら管理できるかというノウハウを私たちが作らなければならないのです。まずは見本となるような実効性を私たちが示し、こうすればうまくいくからと中国・韓国・北朝鮮に「あなたたちはできないのですか」と行為を促す必要があります。そうしたノウハウを作っていくための枠組みができたことはメリットとして評価したいです。

漁業者の知識と技能を消費者に直接伝えたい

加藤 実際に実効性が上がるのでしょうか。24時間監視するわけにもいかないですよね。

桑村 そこはデジタル化が必須だと思います。データの耐改ざん性・透明性を実現するブロックチェーン技術を用いるなどして、信頼性と精度を高めるしかないと思います。その際に注意すべきは、一人も落伍(らくご)者を出さないことと、得られた事業情報の管理を徹底すること。沿岸漁業者の一人乗り船でも無理なく安心して使える仕組みの開発に、ベンチャー企業と共同で2021年度から着手する予定です。

加藤 漁業者が資源管理を進め、これを補助事業などで政府も支援することに合わせ、もうひとつ見落としてはならないのが、流通消費のあり方をどうするかという課題でしょう。魚の価値を的確に判断できる人が減り、食べ方も一元化された結果、いわゆる魚離れが進んだ側面もあると思います。
 

桑村 ご指摘の通りです。ただし、それもピンチとチャンスが背中合わせだと捉えるべきです。考えてみてください。魚の扱いに関するノウハウを一番持っているのはだれかといえば、漁業者でしょう。だとすればデジタル技術を活用して、私たちがユーザーに直接営業をかければいいのです。鐘崎の魚にQRコードを付け「お買い上げいただきありがとうございます。こんなレシピがありますよ」と動画で紹介するなどの工夫もできます。こういったアイデアはすでに巷(ちまた)にあふれていて、個人漁業者の直販などは実証化も進んでいます。しかし、課題は、それをいかに社会全般の向上を目指すレベルで実行するかという点にあります。

当然、デジタルにいきなり飛べるわけではありません。だから、まずはごくごく小さくやってノウハウを取得したら広げるという繰り返しになります。そこにデジタル技術を抱き合わせていくのが次の展開だと思います。たとえば、小さなブースでもよいので、私たちの水揚げした魚を少しずつ販売しながら来訪者と対話を重ねることから始められたらいいと考えています。
 
加藤 漁業者と消費者との対話を重ねる産直ですね。

桑村 産直というと市場外流通をイメージしますが、必ずしもそうである必要はありません。水産物は好不漁の波が大きく、産直は需給調整のリスクが高い。卸売市場の仕組みはそういう水産業特有の構造的な課題にうまく対応したシステムなのです。せっかくよい仕組みがあるのですから、それを活かさない手はありません。既存流通のしくみと連携しながら、漁業者から消費者へ魚の良さを伝えていく。それが広い意味で魚の需要増につながると思います。そのキーとなるのが、デジタルトランスフォーメーションです。

加藤 実にいい取り組みだと思います。今日はありがとうございました。とても勉強になりました。
 
撮影/魚本勝之
取材構成/生活クラブ連合会 山田衛

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