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[本の花束2023年1月] ルーツを知るということは命の原点を知ること フォトジャーナリスト・安田菜津紀さん

フォトジャーナリスト・安田菜津紀さん(著者撮影:©️Dialogue for People)

フォトジャーナリストの安田菜津紀さんが、日本に暮らす様々な外国ルーツの人々にインタビューした『あなたのルーツを教えて下さい』。
一人ひとりの生身の言葉から見えてくるこの社会の姿とは?
安田さんに伺いました。

──安田さんが「ルーツ」について考え出したのは、お父さまがきっかけだったそうですね。

私が中学2年のときに亡くなった父が、韓国籍だったことを知ったのは、高校生のときでした。それまで自分は日本で生まれた日本人だと何の疑問もなく思っていましたから、自分のアイデンティティがフリーズしたような気持ちになりましたね。

思えば私が幼いころ、いつも忙しかった父が珍しく絵本を読んでくれたことがあったんです。
でも、いつも読んでくれている母とは違って、父の読み方はとてもぎこちなくて、イライラした私は「何でお母さんみたいに読めないの? お父さん、日本人じゃないみたいで変だよ」って言ってしまって。それがどれだけ残酷な言葉だったのか、当時の私は何もわかっていなかった。あのときの父の顔は、一生忘れることができません。

父はなぜ、家族であり娘である私にすら自分自身の根幹に関わるルーツを語ってくれなかったのか。そういう疑問から、自分のルーツを探る旅が始まったんです。

──本作でも多様なルーツを持つ方が登場していますね。本作でも多様なルーツを持つ方が登場していますね。

たとえばジャグラーのちゃんへん.さん、ジャーナリストの中村一成さんも在日コリアンですが、私とはまた違うそれぞれの体験があります。ルーツとは何か、と一言ではとても言えないのですが、その「一言では言えない」こと自体がとても大切なことだと感じます。

ロヒンギャルーツのカディサさんのお話から難民の方たちの置かれた苦難の状況は見えてくるけれど、「ロヒンギャの人は~」といきなり大きな主語で一般化はとてもできない。

ルーツを知るということは命の原点を知るということ。まず目の前に生きている一人ひとりと出会ってほしい。そんな思いで本をまとめました。

──残念なことに、多様なルーツの裏には、同じだけ多様な差別や偏見があることも伝わります。

社会を揺るがす大きな事件が起きたとき、その不安を解消するために矛先がマイノリティに向くのは、歴史上何度も起こってきたことです。安倍元総理の襲撃事件の際、一部の朝鮮学校では子どもたちを早く帰宅させる指示をしたそうです。実際に朝鮮学校や生徒を標的にしたヘイトクライムも起きていて、不安が常に日常につきまとう生き方をしている人たちがいます。

その不安に気づかずにいられるのは、マジョリティの特権だと思うんですね。

──本書の最後は、日本の入管制度下で理不尽な亡くなり方をしたウィシュマさんの事件で締められています。私たちの無関心と差別の行き着く先に彼女の死があることを痛感します。

日本政府が管理する施設で、マイノリティの外国人に対するここまでひどい人権侵害が行われてきたことに衝撃を受けた人も多いと思います。

知らなかった、で済ませてはいけないと、多くの人が国会前で抗議行動をして、不十分な入管法の改正を止めさせたことはひとつの希望だと思っています。

──今現実にある差別や偏見とどう向き合い、変えていくかを読者も問われていますね。

人間関係で、苦手だなと思う人や自分とは全然違うカルチャーの人に出会って驚くこともあると思います。でもその人たちが、虐げられているときに、その行いは違うでしょうと言えるのが、差別をなくしていくために必要な人権教育だと思います。

また、どんな人でも、ある一面ではマジョリティ、ある一面ではマイノリティである混在性があります。だからこそ差別や偏見に気づいたとき、なぜ、自分はそれに今まで気づかなかったのか、知らないでいることができたのかを考えてみること。
それが第一歩なのだと思います。
 
インタビュー: 岩崎眞美子
取材:2022年10月

●やすだなつき/1987年神奈川県生まれ。認定NPO法人Dialogue for People(ダイアローグフォーピープル)フォトジャーナリスト。同団体の副代表。東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で難民や貧困、災害の取材を進める。著書に『写真で伝える仕事―世界の子どもたちと向き合って―』など。「生活と自治」でフォトエッセイを連載中。
書籍撮影:花村英博
『あなたのルーツを教えて下さい』
安田菜津紀 著 左右社(2022年2月)
18.8cm×13cm 319頁
図書の共同購入カタログ『本の花束』2023年1月4回号の記事を転載しました。

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