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動き始めた国内3位の水産県 県内の水産加工会社を支援 未利用魚を加工食品原料に(後編)

国内屈指の水産基地の石巻市と気仙沼市を擁する宮城県が県内で水揚げされる「未利用魚」の加工利用に向けて動き始めました。その実務に取り組む「宮城県水産技術総合センター」を訪ねました。
 

中心的役割担う「加工チーム」の三人衆
若き力で試作重ね、加工業者との協業目指して

宮城県水産技術総合センターは県の試験研究機関で、「総務班」「企画・普及指導チーム」「環境資源チーム」「養殖生産チーム」「水産加工開発チーム」の他、気仙沼水産試験場、内水面水産試験場から組織されています。水産資源や海洋環境の調査をはじめ、養殖生産技術の研究、水産物の利用加工に関する研究、成果の普及が主たる職務です。

特に、水産加工開発チームでは水揚げされた魚を加工し、消費者に提供するための試作品開発などに取り組んでいます。具体的には魚をおろして開き、ものによっては乾燥させて燻製にしたり燻蒸(くんじょう)したり、焼いたり蒸したりフライにしたりとさまざまな調理加工ができる46種類の機械を活用しながら、水産加工企業を支援するための公的ラボ(実験室)といえる機関です。水産加工開発チームのリーダーの永木利幸さん、阿部真紀子さん、菅原幹太さんに職務の現状について聞きました。
 
左から、永木利幸さん、阿部真紀子さん、菅原幹太さん

――テレビのニュースでは、陸上養殖される魚のうち販売先のない「規格外品」を使った、つまり買い手がつかないという意味での「未利用魚」を使った食品開発にチャレンジされていると聞きました。

永木 それもありますが、我々が最も重きを置いているのが宮城県内の水産加工企業のサポートです。むろん漁業者ともつながりが深く、養殖生産者が生産したカキやホヤを燻製にしたりもして、六次産業化を目指す漁業者支援にも取り組んでいます。

――いわば「よろず相談承ります」ですか。

永木 そうですね。水産物の加工に関して何かお悩みがあれば我々もいっしょに考えます。県の試験研究業務のために加工機械46種類を整備しましたが、県内の加工企業、漁業者などが商品開発する際にも使えってもらえる体制をとっています。使用する際は、当然、お金はかかりますが、宮城県の水産業のサスティナブル(持続可能)な発展のために必要なものであるとご理解をいただけていると思います。

魚に「未利用魚」というカテゴリーはない
未知の魚を原料に使いたがらない事業者も

――ニュースではチームの中心は阿部真紀子さんとお見受けしたのですが。

永木 正確にはチーム全体ですが、特に、阿部と菅原の若手二人のフレッシュコンビが中心です。菅原はいろんな部署を異動しながら、昨年4月に当チームに着任し、今年3月で1年目の技師。技術屋です。阿部は2023年度の入庁で2年目です。
二人とも水産技術職としての採用です。

――阿部さんは?

阿部 東京海洋大で海洋生物を専攻しました。

――いまはどんな課題に挑んでおられるのですか?

阿部 宮城県内で水揚げされる「暖水性魚種・低未利用魚」を対象にした加工原料化の試験に取り組んでいます。そういった魚種をどう加工原料化していくかという事業に今年度から着手しました。対象は大きく2つに分けて「暖水性魚種」「低未利用魚」です。暖水性魚種の担当が菅原、低未利用魚は私が受け持っています。
暖水性魚種のほうはタチウオ、チダイ、サワラ。今まで宮城県では揚がることが少なかった魚種ですね。低未利用魚ではアカエイ、ギンザケの稚魚などが中心です。まずどんな魚種が水揚げされているのかを市場関係者や漁業者、水産加工企業から伺い、対象魚種に選定したら、その魚に含まれる栄養成分、グルタミン酸などの呈味成分の量を分析したりします。水産加工企業にとっては魚からどれぐらい身が残るのかという情報も大事ですから、そういったデータも収集しています。

千葉県でアカエイの利用についての話を聞いてきたのですが、そのように先進地で対象魚種がどう利用加工されているかについても情報を積極的に集めます。そうした一連の分析結果をもとに素人ながらせんべいを作ったりするなど試作を繰り返し、情報を県内企業はもよりSNSで発信しています。暖水成魚種の水揚げは、タチウオが増えています。こういった情報も県の水産行政情報システム上で活用し、どれぐらいの量が揚がっているかを見ています。チダイ、サワラも同じように水揚げ量が増えてきています。そうしたなか、「チダイのレトルト鯛めし」を初めて試作してみました。幸いにも県内の加工会社に情報提供したら石巻の店で販売していただき、実際の商品化につながったのです。
 
試作加工品の数々 SNS ではレシピ等も紹介している

――なるほど。漁業者も漁の経験がなかった魚が「未利用魚」であり、だから調理経験もなければ食経験もないということですよね。まさに「未知との遭遇」「未知魚」といえそうです。

永木 それだけじゃありませんよ。たとえばサンマが獲れなくなったら、これまでサンマの缶詰やレトルト食品を作っていたメーカーに「イワシでやったらどうですか」と勧めると、「やらない」と言います。「なんで?」と聞くと「大手流通に買い叩かれることが少なくない。サンマなら1 パック500円なのにイワシは500円で売れない」と言われることが少なくありません。ペイしない。イワシを使って商品化し、お客さんに食べてもらいたいけどペイする金額で売れなきゃ誰もやらない。そんな問題もあります。

さらにもうひとつ。たとえ魚が小さくても加工品は作れるのですが、同じ労力をかけて加工しても、大きな魚なら身が200グラム取れるけれど小さいと50gしか取れません。生産性が悪くなっちゃう。となると単価を高くしないとペイしないわけですが、そうすると売れないから、そんなに高くはできない。結局、企業としてやっていけないわけです。その魚が食べられるのは分かってるし、加工もできる。けれど採算が合わないというという話はよく聞きます。

阿部 そこで小さいマイワシも今後は対象魚種にすることも想定しています。あれこれやっても分析に手が回らないことになるので、なかなか全部は網羅できませんが、今年度はこれ、来年度はこの魚種でといつもアンテナを張って情報収集しています。

――宮城でも伊勢エビやタコが揚がり、扱いに悩んでいると聞きました。

永木 伊勢エビについては、関係者がたくさん獲れる千葉県を視察しにいくそうです。2011年の大震災の直前まで宮城県でガザミ(ワタリガニの1種)はほとんど獲れなかったのですが、震災後にたくさん獲れるようになり、一時期よりは減少したもののいまでも獲れています。一時期は日本一の水揚げになったことまであるんですよ。当初は、ガザミが獲れすぎることに漁業者はすごく困っていて「なんとかしてくれ」と言うんです。刺し網に大量にかかり、網から外すのがとんでもなく大変で、しかも網が壊れてしまう。売り先も加工方法も分からない。消費者にも食べる文化がない。「タダでやるから使ってみて」と漁業者から頼まれる加工企業もいるぐらいでしたが、いまでは県内でも普通に食べられるようになり、また流通網も確立されてよい値段で取引きされるようになってきました。

「未利用魚」という言葉は便宜的なものだと考えています。利用しているか利用していないかは地区にもよりますし。ある地区では普通に食べている(加工原料として利用している)けど、別の地区では食べない(原料として利用していない)ということがある。ある地区では未利用だけど、別の地区では未利用ではないということがある。だから、ある魚種を指して「未利用魚」ということはできないのだと思います。

菅原 そもそも研究対象魚種を何にするかというのがいちばん悩ましいです。私は西日本で獲れている魚種の研究を担当しております。西日本では使われていますが、宮城県ではなかなか使われていない魚種でして、加工となると、まとまった水揚量が無いとなかなか製品化に踏み出せないのが現状です。いまは獲れていても先が見えず、今後も確実に水揚げされるかどうかが見通せない。漁業者さんからすると「どうにしかしてほしい」ということになるのはわかりますが、加工企業としてはせっかく商品化しても、いつ原料がショートするかわからない不安を抱えたまま製造することは苦渋の決断だと思います。

阿部 「こういう魚種があってこういうふうに加工できますよ」と加工企業に話を持っていくのですが、「この魚種、来年もちゃんと獲れるの?」「どれぐらい海に資源があるの?」と聞かれます。結局どれぐらい原料があるのか皆さんいちばん気になるところなんですが、そういうところがまだ調べ尽くされていないというか、調べ尽くすことができてない。さらに資源量の把握も進めていかなければと痛感しています。

昨年度はエイの煮付けを石巻の飲食店でおせち料理に使ってもらいました。県内で揚がるのがカスべ、アカエイ、ホシエイの3魚種。煮付けに適しているのがカスべ。石巻の飲食店にお持ちしたら「使ってみたい」と言ってもらえたのが励みになりました。とてもうれしかったです。「すごく美味しかった」「良かった」という評判がお客さんからあったようで、500食ぐらい販売されたと聞いています。
アフターケアもあります。「どこで原料を買えるの?」「使ってみたいけど、どこで買えるの?」というご相談にも対応させてもらっています。アンテナショップにはまだ置いてないんですけど、置けるような商品を作ってもらうというのも1つの目標です。
 
水産加工公開実験棟 水産加工企業や生産者が商品開発目的の試作試験で利用出来る

漁業者と加工・流通・販売事業者の「つながり」がカギ
陸上養殖と沖合養殖の漁業者間の価値観がそろえば

――アカエイはアンモニア臭が強く食べられないとか?

阿部 そこが1つ問題でした。サメの肉も同じアンモニア臭があります。サメで匂い軽減のために水さらしという水に漬けておく工程があるんですが、そういった工程をエイでやると匂い軽減できるんじゃないかという話を先進地の千葉県から伺い、それにならって実際に水さらしをしてみたら、そこまで匂いが出ませんでした。そんな情報も飲食店さんとかにお伝えしています。

――最後に「ギンザケ養殖」の現状と課題について伺いたいのですが、いかがでしょうか。

永木 「ギンザケ養殖」の現状と課題については、当センターに担当部署があるので詳細はそちらで聞いていただくとして、あくまでも水産加工開発チームの立場で考えていることを申し上げます。ギンザケ養殖の工程では、内水面(淡水)から海面に稚魚を輸送する場面で選別が行われます。そのとき「小さ過ぎる稚魚は要らない」と、海面の養殖業者から受け入れを断られることがあり、その処理が課題になっています。海面の養殖業者にとっては、より大きな稚魚のほうが生き残りも良いし、成長も早いのでやむを得ないところがあります。一部の内水面養魚場では、対策として、水族館の動物の餌として出荷し、釣り堀用に生きたまま出荷するなどしているようです。

阿部 内水面(陸上養殖)でギンザケを育てている漁業者の胸中は複雑です。「自分は人の口に入るものを人のために作ってるんですけど、動物園の餌になってしまうのは…」と悩まれ、何とか加工に回せないかと相談がありました。ギンザケは山中の養魚場で卵から孵化させ、ある程度大きくなったら県内の養魚場に連れてきて150グラムに育て、それを海に持っていって大きくして出荷されています。
山中にある養漁場で2 センチぐらいの稚魚を15 センチぐらいまで育て、それを海面に出荷して3 キロぐらいまで育てます。

永木 例えば、内水面で生産できた稚魚の尾数が不足する場合など、選別されずに全量が海面に輸送される年もあるのですが、多くの場合は選別されて小さい稚魚は不要となりますので、それを加工原料に使おうと考えました。

菅原 私は暖水性魚種の未利用魚を担当していますが、暖水性のチダイとかいくつか商品化になっている魚種があります。できるかぎり県内で水揚げされたものは県内で消費できるようにできないかと思っています。まだ認知度が足りないと魚種もあると思うので情報発信を続けながら県内の水産業の発展に繋(つな) げられればと思います。

阿部 加工会社や消費者が知らないような低未利用魚がたくさんあります。そういったものをみんなに使ってもらえるように、食べてもらえ、これまではほとんど値が付かなかった魚が加工に使われるようになり、漁業者も仕事を続けていけるという風に、うまくサイクルが繋がるような仕事をしたいと考えています。

永木 私は横浜出身ですが、宮城県に来た時に、生活環境に恵まれていること、食べ物がとてもおいしくて安いことに感激しました。ですが、宮城県の人にとっては、そのことが当たり前すぎて、認識していない人が多いように感じます。宮城県の皆さんが、自分たちが食べている魚介類や水産加工品は豊かな宮城の自然環境の中で生産されたものであるということを認識し、そのことに幸せを感じてもらえるような仕事ができれば良いなと思っています。
 


撮影/ 魚本勝之 取材構成/ 生活クラブ連合会 山田衛

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