一口に「未利用魚」というけれど……捨てずに活用、貴重な資源を食品原料に―宮城県―(前編)
午前7時台のNHK ニュース番組「おはよう日本」を見ていたら、国内屈指の水産基地の石巻港と気仙沼港を擁する宮城県が、ナナント!「未利用魚」の加工食品開発にチャレンジしているというではありませんか。サケにスルメイカ、サンマといった手頃な価格でおいしい魚介類がもはや捕れなくなり、かわりに水揚げが増えているのがブリにトラフグ、タチウオといった「高級」とされた魚だと多くのメディアは報じています。さっそく宮城県石巻市に向かいました。それにしても未利用魚ってどんな魚なのでしょう。
いまや輸入が主流の魚介類 大いなる海に相次ぐ異変
かつては「代替魚」が話題に。人が食べなきゃ、エサか肥料? !
「おすしが回って驚きました」と高らかに歌うのは、米国ネバダ州から日本に初めてやってきたという設定のボーカルグループ。お笑い芸人とミュージシャンが扮(ふん)していて、意味深にしてユニークな歌詞の曲を歌います。その歌詞が印象に残ってしまい、自然と口ずさむようになっている、何とも釣られやすい自分が情けなくもあり……。
さて、回転すし店で人気なのは中トロ、マグロ、サーモン。イカにタコ、エビ、カンパチで通はコハダでイワシなど。これらのネタがドンまではいかないまでも酢飯のシャリのうえに乗せられた握りでしょう。これらが皿に乗ったままレーン上を回転するわけですから、遠い異国からやってきた方々のみならず日本人も当初は驚き、物珍しさも手伝って社会的なブームとあいなりました。そのモットーは「安い、早い、明朗会計」です。
なぜ、回転ずしが「安く」食べられるのかといえば、その圧倒的大多数のネタ(魚介類)が輸入品だからです。たとえばタコはもっぱらアフリカのモーリタニアの海で現地の人がせっせと獲ったものとされます。なぜなら現地では英語でデビルフィッシュと呼ばれるタコを食べる習慣がないからだそう。マグロは獲った稚魚を外海に設置した巨大ないけすで丸々と肥育された「畜養もの」で、主にヨーロッパの地中海沿岸のクロアチアなどから空を飛んでやってくるものもあれば、各国の漁船が洋上で採捕したものを船上凍結して日本の港に運ばれてくるものが大半です。これらは馴染みのある魚たちですが、世界的ファーストフード店の人気メニューのフィッシュバーガーに「ホキ」という見たことも聞いたこともない深海魚、ヒラメのエンガワに「カラスガレイ」なるカレイの一種が使われ、「エボニシ」という貝が「サザエ!」の名称で販売されていた時代があります。
これらはいずれも「代替魚」と呼ばれ、それをヒラメのエンガワにサザエとして客に提供しても、それはあくまで「商標」であり、併せて正式名称を表示しさえすればよろしいと農水省が業界に通達して一件落着しました。それまで「シシャモ」として販売されていた魚が実は「キャペリン」で「タラバガニ」が「アブラガニ」であることが多いというのは業界では当たり前と見なされていたことも知る人ぞ知る事実とあいなりました。この背景にはカラフトシシャモの漁獲量が減って資源枯渇が懸念されたことや、食味では「タラバに引けをとらないアブラガニ」という高い評価が漁業関係者に浸透していたとの事情があります。
むろん、これらを食べて健康に悪影響があるはずもなく、単に正式名称( 本名) が知られていなかっただけのことといえそうです。とはいえ、魚介類にはフグの肝に含まれる「テトラトドキシン」のような生命にかかわる急性劇症を引き起こす神経毒を持つものもいますし、海外からの輸入ウナギに「マラカイトグリーン」という抗菌剤の一種や残留農薬成分が検出されることも少なくありません。そうしたなか、検査体制が万全かといえば「少数精鋭」の検疫官が職務執行を余儀なくされているのが現状と指摘する人もいます。とすれば、なんとも悩ましい現実に日本の消費者は直面しているといえるのかも。
気になる「検疫体制」と国内漁業関係者の減少
水揚げした経験なく、食べ方も販売方法も霧の中と漁業者
今年3月末のメディア報道によれば、大手製薬会社が販売していた健康食品やサプリメント原料の紅糀( べにこうじ) に腎臓疾患を引き起こす毒素を含んだものがあり、重大な死亡事故の要因とされています。いまや製薬会社や酒造会社がサプリメントの開発販売にしのぎを削っていますが、腐敗などによる食中毒などを起こさない限りは法規制による摘発の対象になりません。こうなると豊富な経験知を持つ市場関係者( 目利き) に加工・流通事業者の存在が何より重要になるのはいうまでもないでしょう。ところが、この肝心かなめの漁業者と市場関係者が着実に減少しているというのですから、まさしくギョギョではないですか。それも日本人の魚離れが進み、肉肉お肉になったからだとか。
1984 年の( バブル経済期) を境に日本の水産業は衰退の一途をたどり、ウナギやマグロの資源枯渇が声高に叫ばれるようになり、盤石とされてきたサンマにスルメイカが絶滅危惧魚種といわれる水準まで減ってしまいました。そうはいっても大いなる海は「慈愛」に満ちた存在です。サンマが減ればマイワシが戻り、スルメイカは獲れなくとも別のイカは持続的に水揚げされていると聞きます。何とも摩訶不思議なのがサケの不漁です。背景には気候危機による海水温の上昇があるとされ、この間はサケに替ってブリの豊漁が続いています。もともと暖かな海( 暖流域) に生息していたブリが冷たい海( 寒流域) に屋移りしてきたのかとそれらの主産地となった地域の漁業者と水産加工業者も首をひねって嘆息苦笑いを浮かべます。
1984 年の( バブル経済期) を境に日本の水産業は衰退の一途をたどり、ウナギやマグロの資源枯渇が声高に叫ばれるようになり、盤石とされてきたサンマにスルメイカが絶滅危惧魚種といわれる水準まで減ってしまいました。そうはいっても大いなる海は「慈愛」に満ちた存在です。サンマが減ればマイワシが戻り、スルメイカは獲れなくとも別のイカは持続的に水揚げされていると聞きます。何とも摩訶不思議なのがサケの不漁です。背景には気候危機による海水温の上昇があるとされ、この間はサケに替ってブリの豊漁が続いています。もともと暖かな海( 暖流域) に生息していたブリが冷たい海( 寒流域) に屋移りしてきたのかとそれらの主産地となった地域の漁業者と水産加工業者も首をひねって嘆息苦笑いを浮かべます。
東京湾ではアカエイが大量発生しているようです。同様の傾向が宮城県でも見られ、「これまでは生息していなかったタチウオやサワラの水揚げが増えてきています。イセエビも少量ながら獲れるようになってきて……。困るのは漁師の自分たちも扱い方がわからないことです。どんな調理法ならおいしく食べられるのか見当がつきません。何より従来はいなかった魚がワカメやコンブを食べてしまい、漁業者が放流したアワビの稚貝が育ちにくくなってきています。サケが不漁で定置網漁の収入は減少する、ブリは捕れても販路は限られるわで、気持ちの持っていき場がない状態です」と宮城県石巻市十三浜の漁業者・佐藤清吾さん(82)は嘆息します。マスメディアは気候危機に端を発する海水温の上昇に注目していますが、「コンクリート護岸に海砂採取、防災のための河川整備によるコンクリート魚道の整備、原発の温排水に森林荒廃と人為的理由は山積しています。今年は三陸では養殖カキが数多く死滅するという被害に見舞われました。やはり、複合汚染ならぬ複合破壊がいけないのです。とにかく私は女川原発の再稼働だけは止めなければいけないと思って活動を続けています」と指摘するのは、長年漁業を調査研究してきたシンクタンクの研究員です。
海には1万9000 種を超える魚介類が生息し、海藻だけでも数千種類あるといいます。となると、先の代替魚のように、「未利用魚」とは単に食経験がなかっただけのものともいえそうです。これに該当するのはアカエイなどですが、食べてこられなかったのに背びれに毒が骨あり、魚肉にアンモニア成分を含むなどの理由があるようです。要は「工夫して食べてもおいしくない」ということでしょうか。
当方の郷里の伊豆半島ではワタリガニを取ろうと仕掛けをすると、胴体が丸々太ったウツボが何尾も集まってきては仕掛けの先につけたサバの頭に食らいつくのがお決まりでした。しかし、ウツボを狙って取り、食べる人は寡聞にして知りませんでした。それが近年は事情が変わってきたようで「大量の小骨を取り除くのにはハモ並みの手間がかかるのですが、一度食べたら病みつきになります」と説く人もいて、漁港に隣接した直売所では調理済み加工食品が販売されるようにもなっています。
こうしたなか、高齢の漁業者夫婦が苦労して水揚げし、産地市場に卸した魚が大きさが規格外であるとか、同じ魚種が一定量揃っていないなどの理由から買い手が現れず、ただ同然の価格で取引されることも多々あります。水族館の魚や養殖魚のえさとして出荷されるものもあります。こうした魚を消費地市場に出荷するには「集荷と配送のためのコストがかさむにもかかわらず、利益にならないから」と打ち明けてくれた市場関係者がいます。ゆえに消費者の手に届くことはないのです。これも「未利用魚」の一つといえそうです。この現実の隣に、安くて早くておいしい「食」のメリーゴーランドがあり、そのエンターテイメント性を大量に輸入される外国産魚介類が支えている。そう思うと何やら気持ちの持っていき場を失いませんか。
(文責 生活クラブ連合会 山田衛)
撮影/ 魚本勝之 取材構成/ 生活クラブ連合会 山田衛