[本の花束2024年7月]「これ食べて」と差し出す料理は「生きて!」というメッセージ 料理研究家 枝元なほみさん
料理研究家 枝元なほみさん
(著者撮影:尾崎三朗)
(著者撮影:尾崎三朗)
クスッと笑える日々のエピソードからコロナ禍や自身の病気体験など、さまざまな日常を「食べること」を通して見つめたエッセイ&レシピ集『枝元なほみのめし炊き日記』。
著者の枝元なほみさんにお話を伺いました。
──枝元さんのレシピ、美味しくてくり返し作ってしまいます。
本当に? そういってもらえるのが一番うれしい! とにかく作るのが好きでしょうがないの。料理の仕事って、オーダーに合わせてたとえば季節の食材で、とか、安くて早くできるレシピで、とか、考えるものなんです。でも、私の頭にいつもあるのは、台所に向かう人の後ろ姿なの。この人の冷蔵庫の中には何があるのかな? とかいろいろ想像して、今日は何を作るのかなって考える。それが大事な気がします。 『ビッグイシュー』(*)に関わりだしてからは、販売者さんたちにも気軽に作れるレシピ、というのも密かに意識しています。
──「人生なんとかなるレシピ」という副題もとてもいいですね。
私も病気になったりして、あまり食べられなくなった時期があったので……。でも、食欲がなくなるって本当に寂しいし、食べたくなくなると、料理が下手になっちゃう気がして。それがショックでもありました。
──「下手になった」と感じたときの理由は何だったのですか?
これ、おいしくない、って思っちゃう。前はおかわりしちゃおうとかたくさん食べられたのに、残してしまうのがすごく切なくて。だから今は、料理ができることがすごくうれしいです。冷蔵庫をあけて、にんじんの葉っぱ、早く使わなくちゃとか、考えて作るのが楽しくて。
それが生きるパワーになってる感じがします。自分が食べたい、っていう意欲もそうだし、「これ食べて」って差し出すことも「生きて!」ってその人に言っているのと一緒だと思うから。
──それは『ビッグイシュー』の活動で枝元さんが長く実践されていることですね。
『ビッグイシュー』に関わったことはとても大きなことで、それは自分の核になっています。
食べ物を差し上げる、お金をお渡しする、のではなく、仕事を作って一緒にする。そのフラットな関係がすごくいいなと思ったのです。
東日本大震災のときにも、最初のうちは何ができるかもわからなくて、支援物資を送るなどしていたんだけど、何か違うな、と思って。福島県の会津美里町に避難されている方たちを訪ねたときに、みんなでクッキーを作ってそれを東京で売ったらどうかな、と思ったの。それで子どもたちや高校生たちと一緒に作ったら、みんな笑顔になってくれたんです。困ったときに、何かをしてもらうだけでなく、自分も誰かに何かをすることで、人は自分を保つのだなあ、って思ったんですよ。
──枝元さんのレシピにも、自分が食べるだけじゃなく「ねえ、これおいしいの」と薦めたくなる不思議な力がありますね。
旅先で市場に行くと、まあここ座れやとか言われて、いろんなもの薦められたりするじゃない? ヤギの睾丸の刺身とかさ(笑)。たとえば今ここに兵隊が攻めてきたとしても、私きっと「これ食べてみなよ」とか言われたら、生き残っちゃう気がするんです。今の世界の状況を見たらそんな簡単な話じゃないこともたくさんあるけど。でもね、「まあ、食べなよ」って言える環境がある、ということは本当に大事なことに思えます。
──「おとな食堂」や「夜のパン屋さん」などの枝元さんの活動はまさに「共に生きよう」というメッセージですね。
そう。ただ食べ物を配布するのではなくて、誰かと一緒に食べる場があるっていいですよね。
たとえばおむすび一個でも、残り物のおかずでも、それが人を生かすこともあるんです。今の社会には課題が多くあるけれど、その重心は、生活の中、暮らしの中にある。そういうことを忘れたくないな、と思っています。
(*)ビッグイシュー:ホームレスの人たちの自立を支援するプロジェクト。雑誌『ビッグイシュー』を路上で販売し、その売上の半分強が販売者に、残りはプロジェクトをまわしていくお金になる。
インタビュー: 岩崎眞美子
取材:2024年4月
取材:2024年4月
●えだもと なほみ/横浜生まれ。劇団で役者兼めし炊き主任をつとめ、無国籍レストランで働く。テレビ番組、雑誌などのメディアで活躍。「食」を考えるうちに、キッチンが社会とつながっていることを意識するようになり、現在はNPO法人ビッグイシュー基金の共同代表もつとめる。『捨てない未来』『世界一あたたかい人生相談』など著書多数。
『枝元なほみのめし炊き日記 人生なんとかなるレシピ』
枝元なほみ 著
農山漁村文化協会(2023年9月)
18.8cm×12.8cm/178頁
本書の内容
●体と心はくっついている(レシピ:鯵のユッケ丼)
●八粒の豆の豆ご飯(レシピ:ペルー風炊き込みご飯)
●子どもが作る子ども食堂(レシピ:子どもたちと作ったひき肉チャーハン)ほか
枝元なほみ 著
農山漁村文化協会(2023年9月)
18.8cm×12.8cm/178頁
本書の内容
●体と心はくっついている(レシピ:鯵のユッケ丼)
●八粒の豆の豆ご飯(レシピ:ペルー風炊き込みご飯)
●子どもが作る子ども食堂(レシピ:子どもたちと作ったひき肉チャーハン)ほか
「本の花束」40周年を記念して、11月4日にイベントを開催します。
枝元なほみさんが講演します(予定)。
*参加申込み受付けは終了しました(10月19日追記)
図書の共同購入カタログ『本の花束』2024年7月4回号の記事を転載しました。