種をまき続け、地域に根差す 生活クラブ生協山梨【後編】
【連載】みんなで広げる たすけあい
生活クラブグループの生協や関連団体では、福祉・たすけあいの活動や事業が各地でとても豊かに展開され、さらに広がりをみせています。これらの取組みを紹介します。
豊かな自然が魅力の山梨県。近年は多くの移住者もやってきます。県内ではさまざまな人々がさまざまな活動をしています。そのような中で、生活クラブ山梨は地域に根差していくため、自ら地域に入りこみ積極的に種をまき続けています。矢崎綾子さん(生活クラブ山梨・理事長)と、矢崎佳助さん(生活クラブ山梨・甲府センター長)にお話を伺いました。
【後編】さまざまな種をまく
組合員が種をまき地域の活動を育てる「たねまき基金」というしくみ。でも、それだけではありません。「たねまき基金」というしくみ全体を、生活クラブ山梨がまいたひとつの種だと捉えてみた場合、生活クラブ山梨はその他にもさまざまな種をまき続けているのです。「たねまき基金」の他の種は、何の種でしょうか?
そのひとつは「にじいろコミュニティファーム」です。食の支援を必要とする人は自ら作物を育てお腹を満たし、子ども食堂などにも作物を提供し、耕作放棄も防ぐという、いわば「一石三鳥」の活動です。さまざまな課題に直面し向き合う中で、生活クラブ山梨はこの取組みにつなげることができました。
話は少しさかのぼり、2019年のことです。山梨県富士川町では、他の地域同様に過疎が進み、孤食になりがちな高齢者も少なくありませんでした。富士川町の行政からは「食堂をやってほしい」との要望が寄せられました。生活クラブ山梨はどう対応したのでしょうか?
関連団体と協力し、多世代の人たちを対象とする「みんなdeごはん」を同年に始めました。2か月に1度、参加者も含めて20~30人が集い、ともに調理し、食卓を囲むことができるようになりました。
みんなdeごはん
さらに、県内で活動するこども食堂のネットワーク「やまなし地域こども食堂グループにじいろのわ(以下、にじいろのわ)」に参加し、生活クラブ以外の人たちとのつながりを広げていきました。にじいろのわへの協力は広がり、地元の農家や「道の駅」が規格外の野菜や余った野菜を分けてくれるようになりました。地元の精肉業者からは600kgの甲州地鷄、県内の乳業会社からは牛乳の寄付もありました。
にじいろのわ
「みんなdeごはん」に多世代が集う中で、子どもたちの状況はどうでしょうか。子どもの貧困は山梨県内でも顕在化し、低所得層やひとり親家庭などへの支援の必要性が高まっていました。ところが、2020年になるとコロナ禍の影響で、人々が集う企画が難しくなり、「みんなdeごはん」を開催できなくなってしまいました。生活クラブ山梨はどう対応したのでしょうか?
にじいろのわの中で、食堂に替わる支援のアイデアを出し合いました。そして、「100円お弁当」と「フードパントリー」を早々に実現することができました。100円お弁当は、寄付された食材などを使ってつくる栄養バランスのとれたお弁当を販売する活動です。フードパントリーの活動では、生活クラブ山梨は組合員に呼びかけて食品や日用品を提供してもらい、30世帯分を届けることができました。
そんな中で気づいたことがあります。物資を受け取る人たちが申し訳なさそうにしているのです。どうしても『与える人』と『与えられる人』という関係になりがちだからです。生活クラブ山梨はどう対応したのでしょうか?
生活クラブ山梨の地域福祉委員会で、食料提供から一歩踏み込んだ活動を検討しました。「作物を育てていれば飢えを恐れずにいられる」ことを、生活に困窮している人たち、とりわけ子どもたちに感じてほしいと考え、コミュニティファームをつくることを構想しました。みんなでたすけあって作物を育て、収穫します。『支援する側』と『支援される側』という関係を超えて自立をめざすしくみです。にじいろのわに提案し、賛同してもらうことができました。しかしながら、農地を持っているわけではありません。生活クラブ山梨はどう対応したのでしょうか?
必要に迫られアンテナを張り続けていたからでしょう。農地を貸してくれる方と出会うことができました。生活クラブ山梨の甲府センターから徒歩10分ほどの場所にある農地です。その方はちょうど農業をやめようと考えていたそうです。耕作放棄地にせず有効活用できることになりました。
にじいろコミュニティファーム
2021年の春に、畑仕事が始まりました。週末には子どもたちが農作業をしています。いつも申し訳なさそうに食料を受け取っている親の姿を見ていた子どもたちが、いまは自分たちで野菜を育てているのです。にじいろコミュニティファームでの収穫物は、支援を必要としている家族に配ったり、子ども食堂の食材として活用したりしています。
豊かな自然に囲まれた山梨県。その立地を生かしつつ、さまざまなつながりの中でそれぞれの長所を結びつけることで、生活クラブ山梨はさまざまな課題を乗り越えてきました。その積極的な姿は、「地域を巻き込む」だけでなく、「地域に入り込む」「地域に巻き込まれる」といってもよさそうなほどで、生活クラブと地域とのかかわり方の、新しいひとつのお手本ともいえそうです。
地域に根差すためにさまざまな種をまき続ける生活クラブ山梨。今回ご紹介した以外の種については、またの機会があればご紹介したいと思います。
【2024年10月22日掲載】