農業の未来を守るために、私たちの声を届けよう! ―6生協が「食料・農業・農村基本法」改正に伴う学習会を開催
学習会に登壇・出席した講演者、各生協の参加者のみなさん
「農業の憲法」ともいわれ、今後の日本の農政の方向性を示す「食料・農業・農村基本法」が2024年6月、25年ぶりに改正されました。
生活クラブをはじめ全国各地の6つの生協※は2024年10月11日(金)、「食料・農業・農村基本法改正に伴う学習会」をオンラインで開催。改正法の課題を整理し、改正法に基づく今後の基本計画策定に向けて、生協組合員や生産者からの提言を反映してもらうことが目的です。
各生協の組合員や生産者など約530人が参加しました。
※生活クラブ事業連合生活協同組合連合会、東都生活協同組合、生活協同組合連合会コープ自然派事業連合、生活協同組合連合会アイチョイス、グリーンコープ生活協同組合連合会、パルシステム生活協同組合連合会
「農業の憲法」ともいわれ、今後の日本の農政の方向性を示す「食料・農業・農村基本法」が2024年6月、25年ぶりに改正されました。
生活クラブをはじめ全国各地の6つの生協※は2024年10月11日(金)、「食料・農業・農村基本法改正に伴う学習会」をオンラインで開催。改正法の課題を整理し、改正法に基づく今後の基本計画策定に向けて、生協組合員や生産者からの提言を反映してもらうことが目的です。
各生協の組合員や生産者など約530人が参加しました。
※生活クラブ事業連合生活協同組合連合会、東都生活協同組合、生活協同組合連合会コープ自然派事業連合、生活協同組合連合会アイチョイス、グリーンコープ生活協同組合連合会、パルシステム生活協同組合連合会
どう変わった?食料・農業・農村基本法
世界的な紛争や気候危機、円安などの影響で、輸入に大きく依存していた日本国内の食料生産と供給が危ぶまれています。そうした状況を受け、改正法では食料安全保障の確保や食料の安定供給、農産物の適正な価格形成をすすめることなどが基本理念として挙げられました。
「食料・農業・農村基本法」改正法の基本理念
①国民一人一人の食料安全保障の確立
②環境等に配慮した持続可能な農業・食品産業への転換
③食料の安定供給を担う生産性の高い農業経営の育成・確保
④農村への移住・関係人口の増加、地域コミュニティの維持、農業インフラの機能確保
■食料・農業問題に世論を喚起し、解決をめざす
6つの生協では、改正前の2024年3月に院内集会を実施。共同策定した提言を農林水産省に提出しました。しかし成立した改正法は、担い手不足や「稼げない農業」に苦しむ生産者の実態にそぐわない点が多く、課題が多く残されています。このままでは農業が立ち行かず、国産の良質な食べ物をつくり食べ続けることができなくなってしまいます。
生協6グループが共同策定した提言を農林水産省に提出 食料・農業・農村基本法改正に伴う意見交換会(院内集会)開催(2024年3月29日掲載記事)
開会にあたり、東都生活協同組合理事長の風間与司治さんがあいさつしました。
「食料・農業・農村基本法」改正法の基本理念
①国民一人一人の食料安全保障の確立
②環境等に配慮した持続可能な農業・食品産業への転換
③食料の安定供給を担う生産性の高い農業経営の育成・確保
④農村への移住・関係人口の増加、地域コミュニティの維持、農業インフラの機能確保
■食料・農業問題に世論を喚起し、解決をめざす
6つの生協では、改正前の2024年3月に院内集会を実施。共同策定した提言を農林水産省に提出しました。しかし成立した改正法は、担い手不足や「稼げない農業」に苦しむ生産者の実態にそぐわない点が多く、課題が多く残されています。このままでは農業が立ち行かず、国産の良質な食べ物をつくり食べ続けることができなくなってしまいます。
生協6グループが共同策定した提言を農林水産省に提出 食料・農業・農村基本法改正に伴う意見交換会(院内集会)開催(2024年3月29日掲載記事)
開会にあたり、東都生活協同組合理事長の風間与司治さんがあいさつしました。
東都生活協同組合理事長 風間 与司治さん
「今回の学習会は私たちの理解をさらに深め、今後の活動にどう生かすかを考える貴重な機会です。深刻さを増す食料・農業問題について未来に向けどう解決するか、世論を喚起し、私たち6生協は引き続き輪を広げながらすすんでいきます。」
課題は待ったなし!「生産者を守る政策」が必要
学習会では、農業政策を専門とする東京大学大学院の安藤光義教授に、「『食料・農業・農村基本法』と今後の課題-見直しの経過にみる問題点と今後の政策の方向性-」と題して講演いただきました。
東京大学大学院農学生命科学研究科 安藤 光義教授
「今回の改正法には新機軸と呼べる政策はなく、基本理念全体を貫くような旗印もありませんでした。『食料安全保障』の中で、食料を持続的に供給できるように『合理的な費用が考慮されるようにしなければならない』と価格転嫁を促す内容が入っているのは大切なことですが、現在は日々の食費にも負担を感じている人が多いのが実情。もしも値上げとなれば国民の理解を得られるかが難しいところです。
一方、生産者からすると、農産物はそのコストに対して価格転嫁がきちんとなされていない状態が続いています。『食料安全保障』というならば生産者に直接支払い※をできるようにするべきでしたが、設けられませんでした。
さらに改正法では、スマート農業やグリーン化など一次産業の技術革新をすすめることが求められています。しかし、その技術革新の中心となるのは農業生産者ではなく、食品産業や大規模な雇用型の法人経営です。
今求められているのは、農業生産者をもっと重視した政策ではないでしょうか。たとえば有機農業など、環境にやさしい農業を中心にし、生産現場を起点にして農法の刷新をむりなくすすめていけるように、環境保全型農業に対する直接支払交付金を拡充・増額するといった対策が必要です。」
※特定の農産物の販売価格が恒常的に生産費を下回った場合、差額を補助金として生産者に直接払うしくみ
「魅力ある農業」を将来につなぐために必要なことは?
次に、各生協グループと提携する農畜産の生産者が、農業や酪農の現状について話しました。
まず口火を切ったのは、生活クラブと提携する栃木県のお米の生産者JAなすの・どではら会前会長の山口勉さん。そして東都生協と提携する千葉北部酪農農業協同組合代表理事・東都生協産直生産者団体協議会会長の髙橋憲二さん、パルシステムと提携する合名会社宮北牧場代表の宮北輝さん、コープ自然派と提携するのらくら農場代表の萩原紀行さんがそれぞれの実感と課題を語りました。
■農業で稼げなければ、後継者は育たない
まず口火を切ったのは、生活クラブと提携する栃木県のお米の生産者JAなすの・どではら会前会長の山口勉さん。そして東都生協と提携する千葉北部酪農農業協同組合代表理事・東都生協産直生産者団体協議会会長の髙橋憲二さん、パルシステムと提携する合名会社宮北牧場代表の宮北輝さん、コープ自然派と提携するのらくら農場代表の萩原紀行さんがそれぞれの実感と課題を語りました。
■農業で稼げなければ、後継者は育たない
JAなすの・どではら会前会長 山口 勉さん
「生産者がものをつくるにあたって一番重要なのは、やはり『お金にならないといけない』ということです。
私ももう66歳で、経営移譲が間近となりました。ですが、自分が就農したころ盛んだった集落営農※が成り立たなくなっているのが心配です。後継ぎが育たず人がいません。今は何をつくっても生産原価を割ってしまい、集落単位で魅力的な農業をやることが難しくなっているのです。
また、農業政策についても不安はあります。話は変わりますが、改正法と同時に成立した食料供給困難事態対策法では、大幅な食料不足が起きたときに国が生産や出荷などに関する計画の提出や変更を指示でき、計画を提出しない事業者には20万円以下の罰金が科されることになりました。農家に罰をあたえて強制的に生産させるというのは、これまでの農業政策と話が違うのではないでしょうか。」
※集落を単位として、農業生産過程の全部または一部について共同で取り組み、個々の負担を減らす組織のこと
■酪農家の約8割超が赤字を抱えている
千葉北部酪農農業協同組合代表理事・東都生協産直生産者団体協議会会長 髙橋 憲二さん
「千葉県いすみ市で乳牛200頭を育て、トウモロコシや稲WCS(ホールクロップサイレージ)などの国産飼料も生産しています。
一般的に農業は利益をあげられず、新規就農者が増えないのが現状です。たとえば米づくり(水田作経営)の収支は、農業所得※が1万円でも時間あたりに換算すると「時給10円」というデータもあります。
酪農はさらにきびしく、85%くらいが経常赤字。バター不足とインバウンド需要のために国が補助事業や政策融資をして設備投資をすすめた結果、その事業に取り組んだ酪農家が軒並み借金を抱えている状況です。
改正法に基づく今後の基本計画策定に向け、農産物の適正な価格形成は必須です。」
※1年間の農産物に関する収入金額から必要経費を差し引いたもの
■地域の環境に応じて、育てる海外品種にも国の支援を
合名会社 宮北牧場 代表取締役 宮北 輝さん
「北海道で三世代にわたって食肉用のアンガス牛を生産しています。2007年からは国産飼料にも取り組んできましたが、自分たちだけでまかなうには限界があります。そこで企業と連携し、食品工場から発生する食品の副産物を活用して、輸入穀物にたよらずに飼料を確保しています。
たとえばおからや、コロッケ製造時に出るポテト粕などを利用し、牛に負担が少ないものを選び、国産飼料だけで大きな牛を育てられるように努力してきました。
ただアンガス牛は国産品種ではないため、国や北海道からの支援はありません。今後の政策には、地域環境に応じた品種を育てるためにも黒毛和種に偏った政策の見直し、また自給飼料生産に取り組む農家への支援をお願いしたいです。」
■担い手不足が加速し、産地が消えていく
のらくら農場代表 萩原 紀行さん
「中山間地の長野県佐久穂町に移住し、1998年に新規就農。化学合成農薬や肥料を使わず、土壌分析にもとづいて年間50~60品目の野菜を栽培しています。
今後の農業の課題は、労働人口の激減にどう立ち向かうかです。国は『2050年までに有機栽培の取組面積を25%にする』と目標を掲げていますが、2050年には自治体の4割で働き手が半分以下になる見込みです。この佐久穂町でも、12年後には農家の6割が消滅するとされています。
私の周りでも地域のリーダー格となる人が『農業に未来がない』と見切りをつけて廃業し、ほかの産業に行ってしまっています。何をするにも人手が足りず、農村に人がいない弊害が出てきています。」
私たちの大切な一次産業を、諦めずに守り抜こう
「消費者の声」を代表し、グリーンコープ生活協同組合おおいた理事長の薬師寺ひろみさんが、農業など一次産業に対しての思いを伝えました。
グリーンコープ生活協同組合おおいた理事長 薬師寺ひろみさん
「3月の院内集会で、『5年後の日本は農村が消えていく。もう待ったなしだ』という話を聞き、驚きました。さまざまな課題がある中、グリーンコープでも食べ物の生産を守り、生産地域の活性化に取り組むため、生産者とともに国産飼料の製造から乳牛の飼育、牛乳の製造まで一貫して行なえる牛乳工場を2024年内につくる予定です。
しかし、私たちの力には限りがあります。国が農業に対し直接的な施策を打ち出さないならば、間接的にでもさまざまな形で支援をするしくみをつくっていただきたい。一次産業は日本の土台であり、人々の生命線です。これからも諦めずに、国に提言をしていきましょう」
基本計画策定に向けて、提言を続けていく
最後にパルシステム生活協同組合連合会理事長の大信政一さんが、学習会を振り返りました。
パルシステム生活協同組合連合会代表理事 理事長 大信 政一さん
「安藤教授のお話を聞き、3月に私たちが提出した提言と通じる内容も多いと感じました。これから改正法に基づく基本計画の試案が出されるでしょう。本日の学習会で共有した生産者の方々の意見、組合員の声を生かし、みなさんと意見書の提出、院内集会を開く準備をしていきます。」
これからも生活クラブは他生協グループと力を合わせ、大切な食料をつくる農業と生産者を守る活動をすすめていきます。
【2024年11月18日掲載】