「生活と自治」読者参加企画開催報告:子どもはみんな発達中。茂木厚子さんを囲んで
本紙にて「子育ては『個』育て」を連載中の茂木厚子さんを囲んで、静岡県浜松市で読者参加企画を開催した。保育士や特別支援学校の教師など子どもを支援する人も参加して、情報交換をしあう会となった。茂木さんは長く子どもの発達支援に携わり「問題がある子はいない、問題のある環境がある」と言う。
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脳が「快」の状態のときに発達すると話す茂木厚子さん
茂木厚子さんは発達支援アドバイザーとして個別相談の他、保育・教育現場を回り支援や研修を行う。「この子はまだこれができない」「こんなことをして困る」という相談を受けることが多いという。
「子どもの行動には全て発達上の意味があり、その発達の段階を踏んでいかなければ、大人の理想とするような行動は出てきません。発達段階を知っておくことが大切。子どもはみんな発達途中で、自ら発達する能力を持っています」
誰も教えていないのに母乳が飲める。お座りやハイハイ、歩く、話すなど、時期がくれば発達するようにできている。年齢を基準とするのではなく「できていない状態は、発達途中だから」という視点を持ち、子どもが安心できる環境を整え温かく見守ることで、個々のペースでゆっくり発達していく。脳が不安や不快な状態では学びを習得することは難しい。
「安心があれば自然に子どもは育つので、それを待ってあげる。本能から出る行動を大人は邪魔しない方がいいのです」
茂木厚子さんは発達支援アドバイザーとして個別相談の他、保育・教育現場を回り支援や研修を行う。「この子はまだこれができない」「こんなことをして困る」という相談を受けることが多いという。
「子どもの行動には全て発達上の意味があり、その発達の段階を踏んでいかなければ、大人の理想とするような行動は出てきません。発達段階を知っておくことが大切。子どもはみんな発達途中で、自ら発達する能力を持っています」
誰も教えていないのに母乳が飲める。お座りやハイハイ、歩く、話すなど、時期がくれば発達するようにできている。年齢を基準とするのではなく「できていない状態は、発達途中だから」という視点を持ち、子どもが安心できる環境を整え温かく見守ることで、個々のペースでゆっくり発達していく。脳が不安や不快な状態では学びを習得することは難しい。
「安心があれば自然に子どもは育つので、それを待ってあげる。本能から出る行動を大人は邪魔しない方がいいのです」
発達には順番がある
参加者からは「最近は新生児にスプーンでミルクをあげている動画があります。早くスプーンで飲めてすごい! ということみたいです」と心配する声があった。茂木さんは「私たちは哺乳類なので、新生児に哺乳をさせることは極めて重要です」と言う。
哺乳行動は本能として備わっていて、栄養を取るだけでなく、神経系の発達に非常に重要だ。一定の期間十分に哺乳することで、次の段階である食べる・話すなどの機能の発達が進んでいく。人間は脊椎動物なので、神経伝達の通り道、脊椎を軸に、体の中心から末端にかけて徐々に神経系の発達が進んでいく。バランス感覚や体幹が育ち、つかまり立ちをし、二足歩行が安定してから先端部位である手先の動きが上手にできるようになる。だからまだお座りの段階の子どもに、こぼさないで食べなさいと言っても難しいのだ。
脳の土台となる領域が発達するまでには、7~8年はかかる。そこでようやく読み書き計算など、学習に対応できる能力にたどり着く。挨拶ができる、待てる、謝る、静かに座っていられるなど、行動や振る舞いが身についてくるのも、この脳の土台が発達してからだ。この発達の順番を飛ばして、読み書き数えるなどの知育ばかりに注力すると、土台の領域の発達が阻害されてしまう。
茂木さんの行っている発達支援では、座らせてやらせる知育、読み書きの練習ということより、その前段階の発達を促す「動き」を重要としている。
「子どもの運動というのは、遊ぶことです。遊ぶことでしか脳は発達しないと言ってもいいぐらいです。じっと座ったり、話を聞いたりするのは、次の段階です」
ボールやバット使用禁止の公園は多いが、ボール遊びなど動いているものを目で追う遊びは遠近感など視覚機能の発達を助ける。遠くにあるボールが近くに転がってくると大きく見え、ボールが自分の目の前にいつ来るのかを脳が想像できるようになる。遠近や速度を捉える視機能が未成熟だと、車が近づく速さがつかめず事故につながることもある。
「スマホの画面ではなく生活の中で実物を見ることで、色、形、高さ、奥行き、立体、裏側はどうなっているのかを認識するため脳が忙しく働きます。自分の身を守る感覚スキルを磨くためにも、自然の中での遊びは大切です」
脳が自分の体の部位を認識するボディーイメージの働きも重要だ。5本指の手袋をはめる、帽子をかぶる、後ろのボタンをはめるなどは、自分の体の見えない部分を意識していないとできない。
「車の運転で、後ろのタイヤは見えなくともイメージしながらぶつけないように運転できます。想像力は遊びの中で育ちます。方向認識や空間認知も同じ。自分が空間の中のどこにいるのかを脳が把握していなければ、ノートのマスの真ん中に文字は書けません。空間認知が未熟な子に、はみ出さないように書きなさいと言うだけではできるようにならないのです」
空間認知は、例えばジャングルジムの中やトンネルをくぐるなど、空間を意識する遊び体験をたくさんすることで発達していく。
哺乳行動は本能として備わっていて、栄養を取るだけでなく、神経系の発達に非常に重要だ。一定の期間十分に哺乳することで、次の段階である食べる・話すなどの機能の発達が進んでいく。人間は脊椎動物なので、神経伝達の通り道、脊椎を軸に、体の中心から末端にかけて徐々に神経系の発達が進んでいく。バランス感覚や体幹が育ち、つかまり立ちをし、二足歩行が安定してから先端部位である手先の動きが上手にできるようになる。だからまだお座りの段階の子どもに、こぼさないで食べなさいと言っても難しいのだ。
脳の土台となる領域が発達するまでには、7~8年はかかる。そこでようやく読み書き計算など、学習に対応できる能力にたどり着く。挨拶ができる、待てる、謝る、静かに座っていられるなど、行動や振る舞いが身についてくるのも、この脳の土台が発達してからだ。この発達の順番を飛ばして、読み書き数えるなどの知育ばかりに注力すると、土台の領域の発達が阻害されてしまう。
茂木さんの行っている発達支援では、座らせてやらせる知育、読み書きの練習ということより、その前段階の発達を促す「動き」を重要としている。
「子どもの運動というのは、遊ぶことです。遊ぶことでしか脳は発達しないと言ってもいいぐらいです。じっと座ったり、話を聞いたりするのは、次の段階です」
ボールやバット使用禁止の公園は多いが、ボール遊びなど動いているものを目で追う遊びは遠近感など視覚機能の発達を助ける。遠くにあるボールが近くに転がってくると大きく見え、ボールが自分の目の前にいつ来るのかを脳が想像できるようになる。遠近や速度を捉える視機能が未成熟だと、車が近づく速さがつかめず事故につながることもある。
「スマホの画面ではなく生活の中で実物を見ることで、色、形、高さ、奥行き、立体、裏側はどうなっているのかを認識するため脳が忙しく働きます。自分の身を守る感覚スキルを磨くためにも、自然の中での遊びは大切です」
脳が自分の体の部位を認識するボディーイメージの働きも重要だ。5本指の手袋をはめる、帽子をかぶる、後ろのボタンをはめるなどは、自分の体の見えない部分を意識していないとできない。
「車の運転で、後ろのタイヤは見えなくともイメージしながらぶつけないように運転できます。想像力は遊びの中で育ちます。方向認識や空間認知も同じ。自分が空間の中のどこにいるのかを脳が把握していなければ、ノートのマスの真ん中に文字は書けません。空間認知が未熟な子に、はみ出さないように書きなさいと言うだけではできるようにならないのです」
空間認知は、例えばジャングルジムの中やトンネルをくぐるなど、空間を意識する遊び体験をたくさんすることで発達していく。
作業療法士を学校に
「小学校などでいわれている『発達グレーゾーン』は障害ではないと私は思っています。発達障害が増えたのではなく、子どもの発達段階や支援のノウハウを知らず、対応に困る大人が増えたのです」
そう茂木さんはきっぱりと言う。米国の他にも北欧やニュージーランドなどでは、子どもの発達に特化した作業療法士が幼稚園や学校に常駐している。バランス感覚が未熟な子どもは姿勢を保ちじっと座ることが困難なので多動になる。発達を支援するセラピールームにはブランコなどの揺れ遊具やトランポリンがあり、遊びを通して神経系の発達を促す。バランス感覚が発達することで、徐々に座って集中して話が聞けるようになる。話が聞けないことを怒るのではなく、脳の発達に必要な感覚刺激や動きを楽しく促すことが近道だ。
参加者で作業療法士をしている人からは「学校では座らせよう、文字をマスの中に書かせようとしていて、そのためには前段階の感覚機能が整っていないといけないということを先生は勉強されていないし、そもそもその機会もありません」という声があった。茂木さんは、「幼稚園や学校に今必要なのは発達を支援する場と作業療法士、つまり予算なのです。子どもを大切にしている国々では、そこに予算をかけます。文科省や厚労省にも働きかけましたが、予算がないと言われておしまいでした。保護者の方がSNSなどを使ってどんどん声を上げてほしい」と答えた。
そして、子どもの豊かな発達に一番必要なのが、親支援だ。子どもを育てる親の情緒が子どもの発達に大きく影響する。子どもは親の不安や否定的感情を素早く感じ取り「自分はダメなのかな。困った子なのかな」と心配になる。脳は不安にさらされると発達しづらく、不安からの防衛体制になりパニックや癇癪(かんしゃく)につながりやすい。
「道端で癇癪を起こしている子どもを見かけたら、そっと寄り添い声をかけ、親と一緒に子どもをあやすなど、誰にでもできる親支援があります。社会貢献だと思って思い切ってやれば、周りの人も協力してくれます」
茂木さんは地域の人の口コミで自治体から講演に呼ばれることもある。「浜松市にも呼びかけてみようか」と参加者の間で声が上がった。「いろいろな地域でぜひ呼んでください。共に、子どもを大切にする社会にしていきましょう」と茂木さんは呼びかけた。
そう茂木さんはきっぱりと言う。米国の他にも北欧やニュージーランドなどでは、子どもの発達に特化した作業療法士が幼稚園や学校に常駐している。バランス感覚が未熟な子どもは姿勢を保ちじっと座ることが困難なので多動になる。発達を支援するセラピールームにはブランコなどの揺れ遊具やトランポリンがあり、遊びを通して神経系の発達を促す。バランス感覚が発達することで、徐々に座って集中して話が聞けるようになる。話が聞けないことを怒るのではなく、脳の発達に必要な感覚刺激や動きを楽しく促すことが近道だ。
参加者で作業療法士をしている人からは「学校では座らせよう、文字をマスの中に書かせようとしていて、そのためには前段階の感覚機能が整っていないといけないということを先生は勉強されていないし、そもそもその機会もありません」という声があった。茂木さんは、「幼稚園や学校に今必要なのは発達を支援する場と作業療法士、つまり予算なのです。子どもを大切にしている国々では、そこに予算をかけます。文科省や厚労省にも働きかけましたが、予算がないと言われておしまいでした。保護者の方がSNSなどを使ってどんどん声を上げてほしい」と答えた。
そして、子どもの豊かな発達に一番必要なのが、親支援だ。子どもを育てる親の情緒が子どもの発達に大きく影響する。子どもは親の不安や否定的感情を素早く感じ取り「自分はダメなのかな。困った子なのかな」と心配になる。脳は不安にさらされると発達しづらく、不安からの防衛体制になりパニックや癇癪(かんしゃく)につながりやすい。
「道端で癇癪を起こしている子どもを見かけたら、そっと寄り添い声をかけ、親と一緒に子どもをあやすなど、誰にでもできる親支援があります。社会貢献だと思って思い切ってやれば、周りの人も協力してくれます」
茂木さんは地域の人の口コミで自治体から講演に呼ばれることもある。「浜松市にも呼びかけてみようか」と参加者の間で声が上がった。「いろいろな地域でぜひ呼んでください。共に、子どもを大切にする社会にしていきましょう」と茂木さんは呼びかけた。
撮影/大山克明
文/本紙・佐々木和子
文/本紙・佐々木和子
★『生活と自治』2025年1月号 「生活クラブ 夢の素描(デッサン)」を転載しました。
【2025年1月30日掲載】