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「それって政治だよ!」。実践! おしゃべりから始まる民主主義

和田靜香さんを囲む対話の会 in 生活クラブ愛知

「男女同数議会=パリテが20年以上続く町」。2024年の本紙6月号で、ライターの和田靜香さんが紹介した神奈川県大磯町の事例には多くの共感が寄せられた。「どうしたらそんな夢みたいなことが実現できるのかと思った」と言うのは、本紙編集委員の小坂礼子さんだ。和田さんの主張する「おしゃべりから始まる民主主義」を実践しようと、生活クラブ愛知の仲間と共に、3月10日、名古屋センターに和田さんを招き、対話の会を開催した。


ケアの視点で社会を見直す

政治の意思決定の場に女性がいないとどんな問題があるのか。

和田さんは、香川県のある町を取材したときのことが忘れられないと言う。参政権を得てから70年もの間、女性議員が一人もおらず、2015年に初めて誕生したという町だ。初めての女性議員は、保育園からのおむつ持ち帰りは、衛生上やめてほしいと要望したが、議会でなぜそんなことを取り上げるのかと、聞く耳を持ってもらえなかったという。そもそも結論ありきで、議論をしない。一度も委員会で発言しない議員もいる。「一事が万事この調子。生活上の困り事を議会で話し合って解決するという発想が男性議員にはないんです。もう一人女性議員がいればどんなに心強いことか、と彼女は言っていました」

これは決して特別な町の話ではない。和田さんが重要だと指摘するのは、多くの男性に「ケアの視点」が抜け落ちている点だ。ケアとは、家事育児、介護など誰かの世話をする仕事のこと。社会に不可欠なのにこれまでは女性が担うものとされ、男性にはその視点が薄く、政策決定の場でも議題にされてこなかった。ケアの存在は家の中に隠され、ないものという前提で、家長である男性を中心に社会の仕組みがつくられている。年金や税制、雇用から住宅政策にまでそれは及び、そのことが多くの女性の生きづらさ、分断につながっていると和田さんは指摘する。

「音楽評論家の湯川れい子さんの事務所でアルバイトをしていた20代の頃、分刻みのスケジュールで働く湯川さんが家事育児をしないのが嫌で仕方なかった。当時は何も知らず、性別役割分業が当然と思っていたんですよね」と和田さんは苦笑する。結婚、就業、子どもの有無で女性は分断されがちだが、いずれもケアを担うか否かで対立させられてきた構造がある。

「日本男性の長時間労働は世界でもトップクラス。それを減らし家事育児をシェアすればいいし、短時間しか働けないから低賃金、社会保障なしの非正規労働に甘んじるのもおかしい。ドイツでは短時間でも正社員は当たり前です」

ケアの大切さを胸の真ん中に置いて政治を見直したら社会の仕組みは大きく変わるはず、と和田さんは提案する。「例えば、石破さんもプーチンさんもトランプさんも、世界中の政治家がケアを胸に置いて考えたらどうでしょう。『今夜は会議だけれど、うちの子のご飯はどうしよう』とか『高齢の親の介護を手配しなければ』とか。そんなこと考えていたら、まず戦争なんてできないですよね」

個人的な事は政治的な事

どこかおかしい社会に声をあげたいと思うものの、知り合いと政治の話をするのはハードルが高い。どう話題にすればいいのだろうか。

和田さんは「実はみんな、気づかないうちに政治の話をしているんです」と言い、地域の猫を介した同世代の知り合いとのエピソードを紹介した。常々「政治の話は苦手」と言っていた彼女だが、家族が闘病中だったため、高額療養費制度の限度額引き上げの動きにはとても怒っていた。すかさず和田さんは、「それって政治の話だよ」とつぶやいたと言う。

「フェミニズムのキャッチフレーズに『個人的な事は政治的な事』という有名な言葉があるんですが、私たちの生活ってすべて政治につながっている。だから自然にそんな話になったときはそう伝えるようにしているんです」。そこから深く話し込むわけではないが、そのうち「これ、聞いてくれる?」と相談されるようにもなる。生活上の困り事はそのままにしないのが重要だ。「区議会議員さんに聞いてみよう」と動いてみれば、それが政治につながっていく。

路上にホームレス状態と思われる人がいるときは声をかけるという和田さん。「勇気がなければ支援団体の連絡先を渡すだけでもいいんです」。絶望しているときは政治になんか関心を持てないし、場合によっては過激な主張に同調しそうにもなる。自分も生活が苦しかったから社会を恨みたくなる気持ちはよくわかると言う。和田さんにはそんなときお米をくれる友達がいた。誰かが寄り添ってくれることが社会に目を向けるきっかけにもなる。だから困っていそうな人には声をかけるし、それを誰かが見ていれば、他にも広がっていくかもしれない。絶望にある人の話に耳を傾ける社会でありたいと和田さんは言う。

足元から民主主義

参加者からは「専業主婦と就業女性、見つめ合わずにらみ合ってしまいがち。なぜかと思ってきたけれど、誰かがそう仕切ってきたんですね」「これまで不満や困り事は自分で変えるか、あきらめるかだったけれど、みんなで変える社会にすればいい」など、新たな気づきを得たという発言が続いた。

世帯収入の主な担い手だという女性からは「育児休業のたびに収入が半減。女性だから減らしても生計に影響しないという前提はおかしい」、幼稚園に子どもを通わせている女性からは「みんなの憩いの森に道路建設計画が復活、住民に十分な説明もない市のやり方に憤っている」。身近な問題が報告されるたびに会場からは「それって政治だよ」のコール。「一人一人の怒りが大事。まず声に出し、それが広がって行政を動かしていくのが政治ですよね」と和田さんもエールを送った。

一方、女性議員は増えているが首長が少ない現状から「女性リーダーへの男性の反発は根強い」という課題も提示された。「女子は控えめに、とつい思ってしまう自分の固定観念払拭も難しい」との本音も。こうした声に和田さんは「自分も社会問題に気づいたのは50代以降。意識を変えるのは自分の間違いを認めることでもあり、誰にとっても苦しいこと」と理解を示しつつ、時間がかかっても少しずつ変えていこうと呼びかけた。

実際、社会の変化は着実に進んでいる。「学校では男女混合名簿が実現した」「提出文書には夫の名前ではなく自分の名前を書くようになった」「自治会の女性役員、女子の児童会長、生徒会長も増えている」。改めて周囲を見回せば希望は持てるとの声が相次いだ。

まずは足元から。身近な集まりで話し合い「それって政治だよ」とつぶやきながら、共に生きていく実践を重ねよう。市議会にも注目しよう。参加者全員が発言してそう確認し合い、おしゃべりからの民主主義が始まった。
 

ライター 和田靜香(わだ・しずか)さん。
千葉県生まれ、静岡県育ち。猫とカステラときつねうどんが好き。独立型オンライン報道番組「ポリタスTV」にも出演中。「時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。」など著書多数。
撮影/永野佳世
文/本紙・宮下 睦

★『生活と自治』2025年5月号 「生活クラブ 夢の素描(デッサン)」を転載しました。
【2025年5月23日掲載】
 

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