子ども・若者が希望の持てる未来を
世界各地で戦争が終わらず、差別や排除につながる言葉も広がっている。地域で助け合いながら暮らすことを目指す協同組合の活動自体、難しい状況に陥りかねない。生活クラブ神奈川では「子ども、若者に希望の持てる未来を」と、関連する7団体と共に「2025国際協同組合年フォーラム」実行委員会を結成、今年7月「協同組合発、子ども・若者が豊かに生きられる社会をつくる」というテーマでフォーラムを開催した。広く一般に呼びかけ、オンラインも含め約400人を超える人が参加、子どもたちの未来に向けて大勢が問題意識を共有した。
学校と社会をどう変えるか

左から、佐野めぐみさん、コーディネーターを務めたNPO法人参加型システム研究所の所長・半澤彰浩さん、奥田知志さん、西野博之さん、前川喜平さん。リヒテルズ直子さんは、オランダからオンラインで講演した
「社会にひずみが生じれば、犠牲になるのは弱い立場にある子どもたち、未来に希望が持てない若者も増えています」。そう懸念するのは、生活クラブ神奈川の副理事長で「2025国際協同組合年フォーラム」の実行委員長、佐野めぐみさんだ。問題意識を共有する実行委員メンバーと話し合いを重ね、子どもや学びについて社会的に大きな注目を集める先駆的活動を実践する4人に登壇を要請、フォーラム開催に至ったと言う。
基調講演は、生活困窮者らを支援するNPO法人「抱樸」(北九州市)の理事長、奥田知志さん。これを受け、「川崎市子ども夢パーク」を主宰するNPO法人「フリースペース」たまりばの理事長、西野博之さん、元文部科学事務次官で、今は自主夜間中学校のスタッフでもある前川喜平さん、個人を尊重しながら自律と共生を学ぶオランダの教育モデル「イエナプラン」を日本に紹介したリヒテルズ直子さんが登壇し、各実践を報告、今後の学びの場について意見交換を行った。
奥田さんの講演の主題は「『家族』の機能を社会化させる」だ。心身共に傷つき抱樸にたどりついた子どもたちとの出会いを通して見えてきたのは、親もまた同じ環境に育ち、生きる力を伝えられないでいること。そうした連鎖を断ち切るために奥田さんは、地域が子どもたちにそれを伝えていこうと、「希望のまちプロジェクト」を始めた。子どもたちが「助けて」と言えるまちを目指して進行中の、この活動の背景が語られた。
約40年前から不登校の子どもたちの居場所づくりを進めてきた西野さんは、残された課題は誰もが無償で学べる公立学校の改革だと指摘、協同組合などによる新たな学校づくりも提起した。前川さんも、一斉一律な今の学校は、競争や国家への従属を是とする社会の要請に応える役割を担っているとして、戦前から続くその在り方を変えていく必要があると訴えた。
日本の課題を受け、リヒテルズさんが紹介したのがオランダの事例だ。教育の目的は「市民をつくる」ことだという理念のもと、学校では「対立ではなく対話による解決の道」が追求され、自分の自由を保障するのは、他者の自由を尊重する責任だと学ぶ。その根底に置かれるのは、「差別の拒絶」だ。学校と同時に、社会も変える必要がある、との提起がされた。
「社会にひずみが生じれば、犠牲になるのは弱い立場にある子どもたち、未来に希望が持てない若者も増えています」。そう懸念するのは、生活クラブ神奈川の副理事長で「2025国際協同組合年フォーラム」の実行委員長、佐野めぐみさんだ。問題意識を共有する実行委員メンバーと話し合いを重ね、子どもや学びについて社会的に大きな注目を集める先駆的活動を実践する4人に登壇を要請、フォーラム開催に至ったと言う。
基調講演は、生活困窮者らを支援するNPO法人「抱樸」(北九州市)の理事長、奥田知志さん。これを受け、「川崎市子ども夢パーク」を主宰するNPO法人「フリースペース」たまりばの理事長、西野博之さん、元文部科学事務次官で、今は自主夜間中学校のスタッフでもある前川喜平さん、個人を尊重しながら自律と共生を学ぶオランダの教育モデル「イエナプラン」を日本に紹介したリヒテルズ直子さんが登壇し、各実践を報告、今後の学びの場について意見交換を行った。
奥田さんの講演の主題は「『家族』の機能を社会化させる」だ。心身共に傷つき抱樸にたどりついた子どもたちとの出会いを通して見えてきたのは、親もまた同じ環境に育ち、生きる力を伝えられないでいること。そうした連鎖を断ち切るために奥田さんは、地域が子どもたちにそれを伝えていこうと、「希望のまちプロジェクト」を始めた。子どもたちが「助けて」と言えるまちを目指して進行中の、この活動の背景が語られた。
約40年前から不登校の子どもたちの居場所づくりを進めてきた西野さんは、残された課題は誰もが無償で学べる公立学校の改革だと指摘、協同組合などによる新たな学校づくりも提起した。前川さんも、一斉一律な今の学校は、競争や国家への従属を是とする社会の要請に応える役割を担っているとして、戦前から続くその在り方を変えていく必要があると訴えた。
日本の課題を受け、リヒテルズさんが紹介したのがオランダの事例だ。教育の目的は「市民をつくる」ことだという理念のもと、学校では「対立ではなく対話による解決の道」が追求され、自分の自由を保障するのは、他者の自由を尊重する責任だと学ぶ。その根底に置かれるのは、「差別の拒絶」だ。学校と同時に、社会も変える必要がある、との提起がされた。
横の連携で希望をつなぐ

ごちゃまぜを体感する「川崎市子ども夢パーク」(撮影/小松由佳 2022年2月)
実行委員長の佐野さんは、振り返って最も印象に残っているのは、奥田さんの主張する「家族の機能を社会で」だと言う。互いの家への行き来もせず、家族という小単位で孤立している今の社会では、困難な状況にある子どもたちの厳しさは再生産されてしまうからだ。
子どもが小さい頃、佐野さんはよく西野さんの主宰する広場に通っていた。誰もが入り混じり、どの子が不登校で、どの子の親が誰かもわからない場だった。「『ごちゃまぜ』を肌感覚で学べました。そういう中では、不登校の子も障害のある子も、子どもはそれぞれを個人として認める力があると実感できたんです」。一方、変わりつつあるとはいえ、まだ不登校に向ける世間の目は厳しい。佐野さん自身、どこか大人の都合をぬぐいきれないでいる自分に気づくこともあると言う。家庭内ですべてを引き受けようとするから余裕がなく、不寛容になるのではないか。だからこそ、家庭の機能を社会化することに希望があり、社会の価値感も変えていく必要があると実感する。「リヒテルズさんは、地域の学校、教育をつくるのは自分たちの責任だと、積極的に関わる大人の姿を教えてくれました」
フォーラムの最後、実行委員会では、宣言と共にみんなで作成した提言を公表した。「学校、地域」「協同組合、市民活動」などに向けた具体的なもので、ここで得たものを地域に持ち帰り、何らかの行動に移してもらうことが狙いだ。
生活クラブ神奈川では、2021年、設立50周年記念事業の一環として理事会のもとに子どもの多様な学びを考える調査チームを設置、その後、実施に向けたプロジェクトも設け、勉強会や意見交換など活動を重ねてきたが、実際の学校づくりは課題が大きく、今もまだ検討の途中だ。一方、地域の生活クラブは、子どものための地道な実践を続ける。佐野さんは、この活動をバックアップしつつ、今回出会った団体ともつながり、今後を考えていきたいと話す。
「2025国際協同組合年フォーラム」実行委員会の参加団体/生活クラブ生活協同組合神奈川、福祉クラブ生活協同組合、(一社)市民連帯経済つながるかながわ、(社福)いきいき福祉会、NPO法人参加型システム研究所、(公財)かながわ生き活き市民基金、NPO法人全員参加による地域未来創造機構、神奈川ネットワーク運動
フォーラムの詳細は、下記のURLから見ることができます。
参加型システム研究所 https://www.youtube.com/watch?v=eLyShKoCKLM
実行委員長の佐野さんは、振り返って最も印象に残っているのは、奥田さんの主張する「家族の機能を社会で」だと言う。互いの家への行き来もせず、家族という小単位で孤立している今の社会では、困難な状況にある子どもたちの厳しさは再生産されてしまうからだ。
子どもが小さい頃、佐野さんはよく西野さんの主宰する広場に通っていた。誰もが入り混じり、どの子が不登校で、どの子の親が誰かもわからない場だった。「『ごちゃまぜ』を肌感覚で学べました。そういう中では、不登校の子も障害のある子も、子どもはそれぞれを個人として認める力があると実感できたんです」。一方、変わりつつあるとはいえ、まだ不登校に向ける世間の目は厳しい。佐野さん自身、どこか大人の都合をぬぐいきれないでいる自分に気づくこともあると言う。家庭内ですべてを引き受けようとするから余裕がなく、不寛容になるのではないか。だからこそ、家庭の機能を社会化することに希望があり、社会の価値感も変えていく必要があると実感する。「リヒテルズさんは、地域の学校、教育をつくるのは自分たちの責任だと、積極的に関わる大人の姿を教えてくれました」
フォーラムの最後、実行委員会では、宣言と共にみんなで作成した提言を公表した。「学校、地域」「協同組合、市民活動」などに向けた具体的なもので、ここで得たものを地域に持ち帰り、何らかの行動に移してもらうことが狙いだ。
生活クラブ神奈川では、2021年、設立50周年記念事業の一環として理事会のもとに子どもの多様な学びを考える調査チームを設置、その後、実施に向けたプロジェクトも設け、勉強会や意見交換など活動を重ねてきたが、実際の学校づくりは課題が大きく、今もまだ検討の途中だ。一方、地域の生活クラブは、子どものための地道な実践を続ける。佐野さんは、この活動をバックアップしつつ、今回出会った団体ともつながり、今後を考えていきたいと話す。
「2025国際協同組合年フォーラム」実行委員会の参加団体/生活クラブ生活協同組合神奈川、福祉クラブ生活協同組合、(一社)市民連帯経済つながるかながわ、(社福)いきいき福祉会、NPO法人参加型システム研究所、(公財)かながわ生き活き市民基金、NPO法人全員参加による地域未来創造機構、神奈川ネットワーク運動
フォーラムの詳細は、下記のURLから見ることができます。
参加型システム研究所 https://www.youtube.com/watch?v=eLyShKoCKLM
写真提供/NPO法人参加型システム研究所
文/本紙・宮下 睦
文/本紙・宮下 睦
★『生活と自治』2025年10月号 「生活クラブ 夢の素描(デッサン)」を転載しました。
【2025年10月17日掲載】