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[本の花束2025年12月]本を通して「さまざまな幸せのかたち」を知ることが生きる力に 翻訳家 小宮 由さん

本を通して「さまざまな幸せのかたち」を知ることが生きる力に

古典的名作から話題の新刊まで、さまざまな児童書の翻訳を手がけ、ご自宅で家庭文庫「このあの文庫」を主宰する小宮由さん。
翻訳家だった祖父、北御門二郎さんのエピソードとともに、子どもの本と平和への思いを伺いました。

──「このあの文庫」とても素敵な空間ですね。

いろいろな子が来るんですよ。ずっと本を読んでる子もいれば、私と遊んでばかりの子もいる。どの子ものびのびしています。
ここは、学校でもない、塾でもない。評価したり、されたりしない場です。年齢も立場も関係なく、ただお互い本が好きで、貸したり借りたりするだけの関係。そういう利害のない対等な関係が、子どもにとって心地いいのかもしれません。

──ご両親が子どもの本のお店(竹とんぼ)と家庭文庫もやっていらしたのですよね。

そうですね。気づけば本が身近にあって、そこにあるから読んでいたという感じでした。自分の意思で本を読みあさり、本気で本を一生の仕事にしようと決意したのは、大学生の頃でした。祖父の影響がとても大きかったと思います。

──トルストイの訳者として知られる北御門二郎さんですね。

高校3年の冬に、トルストイの3部作『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』『復活』を読み始めて。頭を殴られたような衝撃を受け、その後、大学時代に祖父が訳した本をすべて読みました。
戦争中に徴兵拒否した祖父は、どんな思いでそれを貫いたのか。読むほどにその信念が伝わってきました。この世界は、なんて欺瞞に満ちているのだろう。なぜ、戦争はなくならないのだろう。自分には何ができるのだろう、と悶々としていました。

──その後、子どもの本の世界へ進まれたのですね。

進路を模索していた大学時代に、トルストイや聖書、孔子、ソクラテスなどを読み切って、その後に、「竹とんぼ」の書棚に戻ってきたんです。どれもおもしろくて、片っ端から読みました。そして、読んでいるうちに、両親は、児童書を通じて、祖父の思いを受け継いでいたんだ、ということに気づいたのです。

──その思いとは何でしょう。

戦争がいかに愚かなもので、平和がいかに尊いものであるかということです。祖父は、そのことをトルストイをとおして、大人たちに訴えてきました。竹とんぼは、絵本をとおして、子どもたちに伝えていたのです。
だからと言って、竹とんぼに戦争がテーマの絵本が並んでいるかというと、そうではなく、むしろ一冊もありません。私が翻訳した本にも然りです。その代わり、さまざまな形の幸せが描かれた本が並んでいます。子どもの頃に必要なのは、たくさんの幸せの形を知ること。多様な幸せの形が心にあれば、その子が大人になった時、それを脅かす戦争を選ぶでしょうか? 子どもの本における真の反戦とは、良質な幸せが描かれた本を、読者に手渡すことなのです。

──翻訳の言葉選びは、どのようなことを意識されていますか。

翻訳は、作者の「エックス」を掴まなくてはいけない。その「x」とは、作者への「愛情と理解」だと祖父が言っていました。ですから、訳す前に作者のことをできる限り調べます。そうすると、行間に作者の気持ちが見えてきます。
『クリスマスのまえのよる』はサンタクロースのイメージを作り上げたと言われる古典ですが、作者はいつ生まれ、どんな環境で育ったのかなどを調べて訳しました。
『怪談』の小泉八雲についても、著作をすべて読み、所縁の地を巡り、関係者に取材しました。

──小宮さん訳の『怪談』にも、語り言葉の呼吸を感じます。

昔話はもともと口伝えされてきたものですが、八雲はそれを美しい言葉で文学にしました。その美しさを保ちながら、再度、子どもたちへの語りに適した文章にできないかと考えました。
収録されている10の話は、子どもに語るということを意識して選び、訳したものです。なので、そこまでおどろおどろしくなく八雲のユーモアや温かさも感じられるんですよ。

──最後に、小宮さんが「本選び」で大切にしていることとは?

「人の喜びをわが喜びとし、人の悲しみをわが悲しみとする」ということです。子どもは主人公になりきって本を読みます。
そして、悲しかったり、楽しかったりということをわがことのように体験し、自分ではない他者の心をもらうのです。私の本選びは、それができるかどうかです。それがあれば、読者は自分なりの幸せを形作ることができて、多少の挫折ではくじけなくなる。それこそが、生きる力なのですから。

──私たちがどれだけ本に人生を支えられてきたかを実感します。どうもありがとうございました。

インタビュー: 岩崎眞美子
著者撮影:尾崎三朗
取材:2025年8月

●こみや ゆう/1974年、東京都生まれ。大学卒業後、児童図書出版社勤務。その後、子どもの本の翻訳・編集に携わる。東京・阿佐ヶ谷で家庭文庫「このあの文庫」を主宰。訳書に『イワンの馬鹿』『ロバくんのみみ』など多数。祖父はトルストイ文学の翻訳家・良心的兵役拒否者である故・北御門二郎。

 
『クリスマスのまえの よる』
 
『クリスマスのまえの よる』
●クレメント・クラーク・ムーア 詩
ロジャー・デュボアザン 絵
こみやゆう 訳
●主婦の友社(2011年11月)
●34.4×16.6cm/32頁
●幼児
《アンコール絵本》
★2023年12月1回で377冊
『怪談 こわくて不思議な10の話』
 
『怪談 こわくて不思議な10の話』
●小泉八雲 作 小宮由 選・訳
●アノニマ・スタジオ(2025年6月)
●20.2×15.5cm/106頁
●小低~大人
図書の共同購入カタログ『本の花束』2025年12月1回号の記事を転載しました。
 

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