本文へジャンプする。
本ウェブサイトを利用するには、JavaScriptおよびスタイルシートを有効にする必要があります。
生協の食材宅配【生活クラブ】
国産中心・添加物削減・減農薬
安心食材をお届けします
ここからサイト内共通メニューです。

旬の魚の旨味が凝縮した 上質の干物


 
伊豆半島の付け根に位置する静岡県沼津市は、国内有数の干物の産地として知られる。だが、食品添加物である酸化防止剤を使わずに干物をつくる生産者となると、その数は極端に少ない。提携生産者・奥和(おくわ)がつくる干物の原材料は、国内で水揚げされた旬の魚と塩だけ。経験豊かな職人が、見事な包丁さばきで魚を一枚一枚、丁寧に開き、真心を込めてつくっている。

提携の条件は食品添加物不使用

奥和の干物と一般の干物の違い
 
奥和の創業は明治初期。創業者である奥村和助(おくむらわすけ)の頭文字をとって奥和商店としてスタートした。有限会社奥和と名を改めた後、生活クラブとの提携が始まったのは、1981年。元沼津市長の井手敏彦さんが4代目・奥村吉明さんに生活クラブを紹介したのがきっかけだ。井手さんは、市長時代に沼津市にごみの分別排出・分別収集の仕組みを確立するほど、環境問題への意識が高かった。それゆえ東京のイベントで「せっけん運動」をしていた生活クラブに興味を持ち、ブースを訪れたという。人体や自然環境への影響を考えて「合成洗剤ではなくせっけんを使おう」とアピールする組合員と意気投合した井手さんは、新たな提携生産者として奥和を紹介したのだった。その後、井手さんは、87年の生活クラブ静岡の立ち上げに携わり、初代理事長に就任することになる。提携が始まった当時は、とにかく商品をたくさんつくって、たくさん売って、という時代。スーパーマーケット主導ですべてが決められてしまう状況だったと、現社長で5代目の奥村太郎さんは説明する。
「例えば、スーパーからは、トレーに干物が2枚入って298円で売れるものを、と言われるわけです。そこから逆算して、輸送費、人件費、容器代を引いていくと、必然的に原材料にかけられる金額が限られてしまいます。そうなると、それ相応の質の魚を仕入れるしかなくなってしまうんです」

しかも、スーパーでは、棚に長時間置いても色が変わらない、見た目のよい干物が求められる。酸化防止剤をはじめとする食品添加物が干物に使われるようになったゆえんだ。奥和も仕方なく安い魚を買い付け、添加物を使って干物をつくっていたが、そのことに不満や疑問を感じていた。そのため、生活クラブが提示した「添加物を使わない」という提携の条件は救いだった。こうして時代の流れにあらがうように、奥和は魚と塩だけで干物をつくるようになった。
 
奥和の代表取締役・奥村太郎さん。奥和の直営レストラン兼直売所「ひもの和助」にて。「ひもの和助」では、真あじやさんまなどの干物を備長炭でふっくら香ばしく焼いた定食が味わえる

職人技と細やかな管理の融合

生活クラブで扱う品は、「消費してはじめて価値がある材」という意味を込めて「消費材」と呼ばれ、生産者と組合員が協議しながら納得できるものをつくっていく。「この意義は計り知れない」と太郎さんは言う。まず、長期的な提携によって、年間の生産量の予測が立てやすくなるため、魚の旬の時期に原材料1年分を一括で仕入れられるようになった。しかも、生活クラブは、持続可能な生産と消費を大切にするため、一般の干物のように販売価格から必要経費を引いて原材料費をはじき出すことはしない。生産に必要な原価を積み上げる「生産原価保障方式」をもとに、食べ続けられる組合員側の状況も考慮して適正価格を決定する。おかげで奥和は、原材料費を削ることなく、旬の上質な魚を仕入れられるようになった。「いかに鮮度の良い、脂の乗った魚を仕入れて、その旨味を凝縮させるか。これが、本来の干物屋の技術なんです」と太郎さんは言う。

例えば、日々の食卓で親しまれる「真あじ開き」には、奥和の技術と経験が詰まっている。1年分の原材料は、4月から7月にかけての旬の時期に、上質のあじが取れる対馬漁場を中心に、福岡、唐津、松浦、長崎などの九州で水揚げされたものを一括で仕入れる。取れた海域とその日付、船名、水揚げした港などを明記した「産地証明」付きの安心・安全なあじは、現地で凍らせたまま奥和に届くと、冷凍庫で保管される。それを解凍しながら製造するので、年間を通して旬の味を届けられるというわけだ。

 
凍ったあじに海水をかけて少し溶かしたら、冷たい海水を張ったコンテナの中で、手作業でほぐしていく。冬場は特に大変な作業だ

 

 
冷凍のあじは、井戸水で解凍する(写真①②)。「海に近い工場の井戸水は低温の海水なので、鮮度を保ちながら旨味を逃さずに芯まで均等に解凍できます」と工場長の山田嘉彦(よしひこ)さんは説明する。解凍したあじは、職人が熟練技で一枚一枚、丁寧に開いていく(写真③)。開いたあじは、海水で雑味のもととなる血などをきれいに洗い流す。さらに、海水を張ったシンクをくぐらせて、細かな汚れを流したら、いよいよ漬け込みだ。

あじを漬け込む塩汁(しょしる)は、消費材の「真塩(ましお)」と真水を約40年間継ぎ足しながら使ってきたもので、あじの旨味が蓄積された、奥和の歴史の結晶とも言える(写真④)。魚体の大きさによって漬ける時間を分単位で微調整するほか、こまめに塩と水を継ぎ足して、塩分濃度と水温を調整・維持するなど、管理を徹底している。漬け込んだあじは、表面の塩水を真水で洗い流し、それ以上、塩が入らないようにする。それを一枚一枚、丁寧にせいろに並べ(写真⑤)、涼風除湿乾燥機でじっくり乾燥させる。ここにも奥和の経験が生きていると太郎さんは言う。
「魚種や魚の大きさによって、温度、湿度、干す時間を微調整しながら、長時間かけてしっかり旨味を凝縮させています。最近は、作業効率を優先させるため、高温の熱風乾燥で10分程度しか干さないところも多いんです。ただ、干す時間が短いと、やっぱり旨味が凝縮しないんですよね」

干し終わったら、一枚ごとにバラ凍結させて「真あじ開き」はできあがる。バラ凍結は、短時間で冷凍できるので、より鮮度を保てるうえ、消費者は、使いたい枚数を取り出しやすい。使いやすさを追求した消費材ならではの工夫だ。
 
工場長の山田嘉彦(よしひこ)さん。「ひとり1日約1000枚開きます。1日の生産量は約1万枚です。その道50年の職人もいますよ」

「食を自治する」ということ

多くの提携生産者と同様、奥和は、生産者交流会や組合員による製造工程確認活動(消費材Step Up点検)を通して組合員との対話を大切にしてきた。組合員との交流は、自分たちの仕事を見直す機会になると太郎さんは感謝する。

「干物づくりは、職人の世界。良くも悪くも、経験で培った勘で仕事をしている面がありました。ところが、組合員からは『塩はどれくらい使うの?』『乾燥時間はどれくらい?』などと次々に質問がきます。職人の勘を言葉や数値に置き換えなければいけなくなったわけです。そこで、実際に数値を出してみると、それが科学的にも理にかなっていることがわかってきました。思いもよらず、受け継いできた味が裏付けられたんです」

一方で、時代とともに組合員の意識の変化も実感していると太郎さんは言う。
「以前は、素材や添加物への質問が多かったのですが、それに加えて、近年は、自然環境に配慮しているか、といった質問が増えました。例えば、弊社では生活クラブでんきの再生可能エネルギーを使っていますし、排水はフィルターで残渣(ざんさ)を除去したものを下水道処理しています。こうした現状を伝えていくことで組合員との信頼関係が築かれてきました。ここにも消費材の意義があると思います。つまり、組合員が『きちんとわかって食べ続ける』ということです。言い換えると、『食を自治する』ということなんですよね。生活クラブの良さは、こんなところにあると思います」

奥和は、これからも組合員との対話を大切に、旬の魚の旨味が凝縮した上質の干物を届けてくれる。
 
撮影/伊藤大作
文/本紙・山本 塁
『生活と自治』2025年12月号「連載 ものづくり最前線 いま、生産者は」を転載しました。
 
【2025年12月19日掲載】
 

生活クラブをはじめませんか?

42万人が選ぶ安心食材の宅配生協です

生活クラブ連合会のSNS公式アカウント
本文ここまで。
ここから共通フッターメニューです。
共通フッターメニューここまで。