一筋に、 素材本来の風味を生かして

「動物ビスケット」や「クリームサンド黒ごまビスケット」は、安心して食べられる、子どもに人気の焼き菓子だ。山梨県甲府市にある、生活クラブ連合会の提携生産者、「カニヤ」は、香料や着色料など不要な添加物は使わず、国産小麦粉などの、素材の風味を生かした製品を作っている。なかでも防災用品として取り組む「乾パン」は、パンと同じように生地を発酵させてから焼く、味わいのあるビスケットだ。
シンプルな素材

ビスケットの生地に金型が押し当てられると、25種類の動物の形が抜かれ、次々とオーブンの中へ移動していく。飽きずに見ていると、香ばしく甘い香りが漂い始め、ほぼ10分後には、ふっくりとした動物ビスケットが焼き上がる。「ご近所からは、パンを焼いているのですか、とよく聞かれますよ」と、取締役の石崎みどりさんがほほ笑む。
カニヤでは動物ビスケットをはじめ、英字ビスケットやクッキー夏みかん味、乾パンなど、甘さを控え、素材本来の風味を生かした焼き菓子が作られる。使う材料は主に、小麦粉、油脂、砂糖、食塩、膨張剤と、いたってシンプル。香料は使わず、製品を焼き上げた後、表面につやを出すために行う油がけ(オイルスプレー)もしない。素焼きのままなので酸化しにくく、日持ちがする。
原材料の7割から8割を占める小麦粉は、北海道産や埼玉県産など国産のものを使う。小麦粉は含まれるたんぱく質の量により、薄力粉、中力粉、強力粉などに分類される。
カニヤでは動物ビスケットをはじめ、英字ビスケットやクッキー夏みかん味、乾パンなど、甘さを控え、素材本来の風味を生かした焼き菓子が作られる。使う材料は主に、小麦粉、油脂、砂糖、食塩、膨張剤と、いたってシンプル。香料は使わず、製品を焼き上げた後、表面につやを出すために行う油がけ(オイルスプレー)もしない。素焼きのままなので酸化しにくく、日持ちがする。
原材料の7割から8割を占める小麦粉は、北海道産や埼玉県産など国産のものを使う。小麦粉は含まれるたんぱく質の量により、薄力粉、中力粉、強力粉などに分類される。
「製品の特徴に合わせて粉を選びますが、産地や品種によっては、小麦粉の性質が同じというわけにはいきません。自分たちでそれぞれの小麦粉の特徴を見極め、それに合わせて加える水の量や練り方を変え、砂糖や油脂の配合の比率を決めています」と、専務取締役の石崎竜太さん。国産の小麦粉を使うために、製造方法をさまざまに工夫している。
動物ビスケットには、埼玉県産の中力粉に近い小麦粉を使う。カニヤが40年以上前に生活クラブと提携した時に初めて取り組んだ消費材だ。
「子どもの頃に食べて育ち、親になって子どもといっしょに食べている組合員も多いと聞きます」と、石崎みどりさん。変わらない製法で作られ、飽きのこないシンプルな味わいに加え、家族や友達と、お気に入りの動物を探す楽しさもある。長い間愛されているビスケットだ。
動物ビスケットには、埼玉県産の中力粉に近い小麦粉を使う。カニヤが40年以上前に生活クラブと提携した時に初めて取り組んだ消費材だ。
「子どもの頃に食べて育ち、親になって子どもといっしょに食べている組合員も多いと聞きます」と、石崎みどりさん。変わらない製法で作られ、飽きのこないシンプルな味わいに加え、家族や友達と、お気に入りの動物を探す楽しさもある。長い間愛されているビスケットだ。

取締役、石崎みどりさん。「素材の風味を生かした焼き菓子を作り続けています」

練り上がった生地を平たく延ばす

金型で25種類の動物形を抜く

クリームサンド黒ごまビスケットの金型。鉄製の金型は約200キログラム。製造する焼き菓子ごとに交換する

抜かれた生地はオーブンへ。残った生地は再び練りなおされる

人の手をかけて製造するクリームサンド黒ごまビスケット。クリームは乳化剤を使わず、油脂と砂糖を練り上げる

保存食の歴史を受け継ぐ乾パン
ビスケットの語源はラテン語のbis coctus。「2度(ビス)焼かれたもの(コクトゥス)」という意味だ。古代ヨーロッパでは、長い航海や遠征に出かける時に、パンを乾かし、もう一度焼いて水分を抜き日持ちのする食べ物として持ち運んでいたという。
本格的に作られるようになったのは16世紀後半で、日本に伝えられたのもその頃だ。種子島に漂着したポルトガル人により、鉄砲と共に伝えられたといわれている。だが、当時の日本人の口には合わなかったようで一般には普及せず、長崎に滞在する外国人向けに作られていた。広く知られるようになったのは江戸時代の終わり。水戸藩が保存のきく食料としてこれに注目し、作り方を研究したという資料がある。明治維新後、携帯できる食料として現在の乾パンの前身が開発されたという。
カニヤの前身である和菓子屋「蟹屋」の歴史は古く、1806年に東京都新橋付近で創業した。ビスケットの製造を始めたのは、1900年頃からだ。当時のビスケットは保存食で、主に官公庁に納品され、その後一般にも販売されるようになった。菓子としてのビスケットの需要が増え、種類も豊富になっていくのは、74年に山梨県甲府市に工場を移し、株式会社カニヤを設立して以降のことだ。
カニヤの黒ごま入りの乾パンは、そうした歴史を受け継ぎ、今も主食としての役割を十分に果たす。長方形で手のひらぐらいの大きさの乾パンは、場所をとらずに保存でき、携行・輸送にも便利だ。賞味期限は3年間と長く、気象災害や地震などの非常時の保存食として活用され、官公庁や全国の自治体などに納められている。
2011年に東日本大震災が発生した時も休むことなく製造を続け、多くの人が利用した。
「甲府市でも計画停電がありました。時間がかかる発酵の工程がある乾パンは、焼くタイミングに苦労しましたよ。計画停電に合わせて仕事の段取りを決め、従業員は早朝から出社しました」と、石崎みどりさんが振り返る。カニヤの乾パンは、非常食ではあっても、空腹を満たすためだけの食べ物ではなく、食べる人の健康を考えて作られたものだ。被災地から届くメッセージからは、その想いが十分に伝わっていると感じられたそうだ。
本格的に作られるようになったのは16世紀後半で、日本に伝えられたのもその頃だ。種子島に漂着したポルトガル人により、鉄砲と共に伝えられたといわれている。だが、当時の日本人の口には合わなかったようで一般には普及せず、長崎に滞在する外国人向けに作られていた。広く知られるようになったのは江戸時代の終わり。水戸藩が保存のきく食料としてこれに注目し、作り方を研究したという資料がある。明治維新後、携帯できる食料として現在の乾パンの前身が開発されたという。
カニヤの前身である和菓子屋「蟹屋」の歴史は古く、1806年に東京都新橋付近で創業した。ビスケットの製造を始めたのは、1900年頃からだ。当時のビスケットは保存食で、主に官公庁に納品され、その後一般にも販売されるようになった。菓子としてのビスケットの需要が増え、種類も豊富になっていくのは、74年に山梨県甲府市に工場を移し、株式会社カニヤを設立して以降のことだ。
カニヤの黒ごま入りの乾パンは、そうした歴史を受け継ぎ、今も主食としての役割を十分に果たす。長方形で手のひらぐらいの大きさの乾パンは、場所をとらずに保存でき、携行・輸送にも便利だ。賞味期限は3年間と長く、気象災害や地震などの非常時の保存食として活用され、官公庁や全国の自治体などに納められている。
2011年に東日本大震災が発生した時も休むことなく製造を続け、多くの人が利用した。
「甲府市でも計画停電がありました。時間がかかる発酵の工程がある乾パンは、焼くタイミングに苦労しましたよ。計画停電に合わせて仕事の段取りを決め、従業員は早朝から出社しました」と、石崎みどりさんが振り返る。カニヤの乾パンは、非常食ではあっても、空腹を満たすためだけの食べ物ではなく、食べる人の健康を考えて作られたものだ。被災地から届くメッセージからは、その想いが十分に伝わっていると感じられたそうだ。

乾パンは、オーブントースターなどで焼きなおすと、香ばしさが生き返る
原材料を、ひとつひとつ
カニヤでは、生地をふくらませる材料として、パン酵母(イースト)と重曹を使う。重曹は短時間に均一な気泡を作り、安定的に生地を膨張させることができる。焼き上がりは軽く、ザクザクとした食感も出せる。
パン酵母を使う生地で作るのは、「乾パン」と「クッキー夏みかん味」などだ。製造時には、パンを焼く時と同じような発酵の工程がある。時間をかけて一次発酵を終えた後、黒ごまやピールなどの副原料を混ぜてこね、二次発酵を経て焼く。
「生の酵母を使うので、生き物の力を借りて焼き菓子を作っていることになるんですよ」と、石崎みどりさん。発酵により、さまざまなうまみ成分が作られ、重曹を使う製品とはまた別のおいしさがあると言う。
カニヤがある甲府市は標高が約250メートル。南アルプスや八ケ岳など、2千メートルから3千メートル級の山々に囲まれた盆地だ。水道水の原水は、近隣の昇仙峡や、南アルプスを源流とする釜無川流域の地下水を水源とする。
「パン酵母を使うビスケットの生地は、水の比率が非常に多いです。最終的には水分を飛ばしてしまいますが、ミネラルなどの成分が凝縮されて残ります」。水は隠れた原材料だと石崎専務が言う。
カニヤでは、パン酵母を使う技術をこれからも守ると共に、原材料のさらなる精査にも取り組む。英字ビスケットは、パスチャライズド牛乳で練り上げた発酵生地のビスケットだ。おいしさと共に、アルファベットを探して名前や単語を並べる楽しさで、子どもの人気も高い。油脂も、現在使っている外国からの輸入原料由来のものではなく、米油やなたね油など、国産の原料油脂を取り入れる予定だ。食品安全チームリーダー、藤原正光さんの、「生活クラブの提携生産者の米澤製油のなたね油を使い、新しい消費材の開発を進めているところです」との言葉に期待がふくらむ。
カニヤが目指すのは、「おいしいものを食べつくした人が戻ってくる味」だと、石崎専務は言う。シンプルで素朴な焼き菓子を作る想いは、100年以上前にビスケットを作り始めた頃から、変わることがない。
パン酵母を使う生地で作るのは、「乾パン」と「クッキー夏みかん味」などだ。製造時には、パンを焼く時と同じような発酵の工程がある。時間をかけて一次発酵を終えた後、黒ごまやピールなどの副原料を混ぜてこね、二次発酵を経て焼く。
「生の酵母を使うので、生き物の力を借りて焼き菓子を作っていることになるんですよ」と、石崎みどりさん。発酵により、さまざまなうまみ成分が作られ、重曹を使う製品とはまた別のおいしさがあると言う。
カニヤがある甲府市は標高が約250メートル。南アルプスや八ケ岳など、2千メートルから3千メートル級の山々に囲まれた盆地だ。水道水の原水は、近隣の昇仙峡や、南アルプスを源流とする釜無川流域の地下水を水源とする。
「パン酵母を使うビスケットの生地は、水の比率が非常に多いです。最終的には水分を飛ばしてしまいますが、ミネラルなどの成分が凝縮されて残ります」。水は隠れた原材料だと石崎専務が言う。
カニヤでは、パン酵母を使う技術をこれからも守ると共に、原材料のさらなる精査にも取り組む。英字ビスケットは、パスチャライズド牛乳で練り上げた発酵生地のビスケットだ。おいしさと共に、アルファベットを探して名前や単語を並べる楽しさで、子どもの人気も高い。油脂も、現在使っている外国からの輸入原料由来のものではなく、米油やなたね油など、国産の原料油脂を取り入れる予定だ。食品安全チームリーダー、藤原正光さんの、「生活クラブの提携生産者の米澤製油のなたね油を使い、新しい消費材の開発を進めているところです」との言葉に期待がふくらむ。
カニヤが目指すのは、「おいしいものを食べつくした人が戻ってくる味」だと、石崎専務は言う。シンプルで素朴な焼き菓子を作る想いは、100年以上前にビスケットを作り始めた頃から、変わることがない。

食品安全チームリーダー、藤原正光さん

専務取締役、石崎竜太さん。「パン酵母を使う技術を、ビスケット作りに生かしています」
撮影/田嶋雅已
文/伊澤小枝子
文/伊澤小枝子
『生活と自治』2026年2月号「連載 ものづくり最前線 いま、生産者は」を転載しました。
【2026年2月13日掲載】