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電気メーターのこちら側から社会を変える
~東京のど真ん中で発電所を作ろう

ルポ 金子勝の「行った、見た、聞いた」―「再エネ社会」の足音―


再び石油ショックがやって来た。2026年2月28日に、アメリカとイスラエルが国際法違反のイラン攻撃を仕掛けたからだ。イランは対抗してホルムズ海峡を封鎖し、アメリカもイランを逆封鎖したため、ホルムズ海峡経由の石油・ガスの輸送が途絶した。そのため石油ナフサの供給不安が生じ、石油・ガスの価格が高騰している。とくに中東の石油に8割ほど依存する日本は、医療用手袋や人工透析のチューブ、住宅断熱材、ユニットバスや塗装用シンナー、食品の包装容器、エンジンオイル、NC旋盤の切削油、農業用の肥料や農薬など、石油化学製品が次々と値上げしたり供給不安が表面化したりしている。
イラン戦争が長引いている。仮に、早めに戦争を終結する停戦が実現したとしても、ホルムズ海峡に敷設された機雷の除去に半年はかかり、破壊された石油施設の復旧に年単位で時間を要すると言われている。
 
発電電力量に占める自然エネルギーの割合

出所:環境エネルギー政策研究所「自然エネルギー白書」より

一般家庭にとって大きな問題は、ガソリン代だけでなく、電気代やガス代の値上げが家計を直撃し始めていることだ。2026年4月から電気料金引き上げが始まっているが、三ヶ月平均で燃料費調整が行われるため、6月には火力発電の燃料費高騰が家計を直撃する。これで夏の猛暑に乗り切れるだろうか。

福島第一原発事故であれほど痛い目にあったのに、政府と電力会社は地域独占を維持するために原発を最優先して、再生可能エネルギー(以下、再エネと略す)と蓄電池を妨害してきた。発電量が固定される原発再稼動を優先すれば、電力の需要変動を埋め合わせるために化石燃料による火力発電の比率がいつまでたっても低下しない。実際、日本は欧州諸国と比べても再エネの普及率が著しく低い。図1が示すように、2024年時点で発電量に占める自然エネルギーの割合を見ると、デンマーク、オーストリア、ポルトガルは9割近く、ドイツやスペインで6割近いのに対して、日本は約26%。化石燃料による火力発電が約65%を占めている。

深刻な福島第一原発事故を引き起こしたにもかかわらず、東京電力も経産省資源エネルギー庁も事故の責任をとらず、自民党政権のエネルギー政策はコストが非常に高い原発を最優先して、そのために再エネや新電力を潰しにかかってきたからである。2013年から2022年の10年間に、日本原子力産業協会を通じて自民党は原子力ムラから70億円を超える政治献金を受け取っていることが一つの背景になっている。

東京の「真ん中」で自宅を発電所に

2026年2月7日に、生活クラブ生活協同組合・東京では、新しいソーラー(太陽光パネル)、蓄電池、ゲートウェイ(スマートメーター)を共同購入するプロジェクトをスタートするとともに、この事業を契機として、再エネ普及に向けた世田谷区との連携が始まった。どういう仕組みなのだろうか?守本香さん(生活クラブ生活協同組合・東京副理事長)に基本的な仕組みを説明してもらった。

*アークタイムズの動画参照:
https://www.youtube.com/watch?v=52XF45nLSTM
 
守本香さん

2026年2月7日に、世田谷、生活クラブ生協・東京、23 区南生活クラブの3 者が「再エネに関する連携協定」を締結した

通常の住宅メーカーで設置すると、蓄電池の容量などにもよるが、ソーラー・蓄電池・ゲートウエイの設備総額は400万円を超えるが、共同購入方式だと、設備総額を約305万円まで節約できる。そこで時間が一定かかるが、東京都の補助金(ソーラーと蓄電池)が約169万円ほどあるので、設備総額の一部をカバーできる。自己負担額は約150万円になる。

つぎに誰もが参加できるように、初期費用ゼロで、この約150万円を20年間の借入金で賄うとする。実際には、子どもがいる家庭ではもう少し電気を使っているかもしれないが、導入前の電気料金を約19万円と見積もると、導入後には費用負担は約17.5万円になる。つまり年間1.5万円の節約になり、20年間では約30万円のメリットになる。

 
もちろん、この石油ショックで電気料金が上がれば上がるほど、メリットは大きくなる。さらに東京都から補助金を得た時に、家計に余力があれば、補助金額以上の借入金を返済すれば、借入金の金利負担も減るのでメリットはもっと大きくなる。太陽光パネルの寿命が30年近くなら、償却が済んだ残り期間の電気代は急激に減少し、非常に廉価な電気をえることができるようになるのだ。

そのうえで、自家発電で電力が余れば、生活クラブエナジーに売り、他の家庭に供給する。自家発電で電力が足りなければ、生活クラブエナジーから自然エネルギー由来の電気を買う。こうして各家庭が屋根で太陽光パネルを使って発電しながら、各家庭が生活クラブエナジーを中心にして結びつく。そうすると、やがて東京中の屋根を太陽光パネルで埋め尽くせれば、東京自体が巨大な発電所になる。東京の真ん中に原発を作れば、猛反対がおきるだろうが、東京の屋根ソーラーで結びついて巨大な発電所を作るなら、逆にそれは実現可能な夢物語に変わるだろう。

しかも各家庭が次々と自宅屋根に太陽光パネルと蓄電池を購入して設置していけば、どんどん太陽光パネルと蓄電池の値段が下がっていくだろう。そうすれば、徐々に補助金なしで東京以外の各都市で「まちなかソーラー」プロジェクトが成り立つようになるだろう。

石油ショックは電気代の高騰をもたらしている。個別の家庭が電力自給を高めることはささやかな生活自衛行為にすぎない。しかし、石油ショックで高騰している電気代を払わないという個別家庭の選択肢が集まっていけば、思わぬ巨大な効果を発揮するのである。

重ねた話し合い 共同購入方式へ

この東京の真ん中に発電所を作るという構想は、生活クラブ生活協同組合・東京が話し合いから生まれてきた。プロジェクト立案にかかわってきた阿部達哉さん(生活クラブ生活協同組合・東京の政策調整部長)によれば、2024年8月に、世田谷区から家庭部門での脱炭素(CO2削減)に協力してほしいとの要請を受けて、生活クラブ館で世田谷区とISEP(環境エネルギー政策研究所)を加えて一緒に検討を始めた。

阿部達哉さん

山形県遊佐町で試みようとしているオンサイトPPAを、世田谷区でも始めようという話になった。2025年4月に、生活クラブ生活協同組合と生活クラブエナジーのメンバーが、すでにレポート(下記参照)で紹介した宮古島に見学にも行った。そして2025年9月に、生活クラブ東京「まちなか市民ソーラー株式会社」を立ち上げた。宮古島という離島から始まったエネルギー「周辺革命」が、いよいよ東京の真ん中を変えつつあるのだ。

エネルギー周辺革命 沖縄の離島が生んだ「比嘉システム」前編
エネルギー周辺革命 沖縄の離島が生んだ「比嘉システム」後編

だが、話し合いから宮古島のオンサイトPPAとは違った形になってきた。23区南生活クラブ生協の加瀬奈穂子理事長は、オンサイトPPA方式は事業者が資金を融通して組合員のお宅の屋根にソーラーを設置する仕組みだが、「生活クラブの資金調達力には限界があります。巨額の資金を調達し、それを借金返済で回収するのに時間がかかり、経営的に無理があります。これでは資金的限界から参加者を増やしていけません」という。
 
加瀬奈穂子さん

さらに、自身が住宅メーカーを通じて屋根に太陽光パネルをはり、蓄電池を設置していった経験から見て、「オンサイトPPAは組合員のメリットを実感しにくいのではないか」という。自身でお金を出して太陽光パネルや蓄電池を所有し、それを電力の自給や売電収入で回収し償却していく方が、メリットが分かりやすい。しかも、野菜や肉を共同購入してきたので、組合員には共同購入方式はなじみが深い。「原発や火力の危ない電力でなく、安全で安い電力を買う」と考えると、「組合員の理解が得やすい」という。守本さんも「原発の汚いエネルギーは使いたくないんです。分かりやすく言うと、これってエネルギーの地産地消なんですね」という。
 

当初の段階では、4.5kWhの発電量の太陽光パネルと12.8kWの蓄電池を設置し、東京都ほ補助金が207万円あった。現段階では、補助金が169万円に縮小したこともあって、設置面積が50~75㎡で4.1 kWhの発電量がないと、なかなか採算はとれない。そのために採算上、設置できるかどうか検証作業が行われている。ペロブスカイト太陽電池を使えれば、ベランダや壁面も設置化膿できるが、まだ共同購入の対象にはなっていない。

最初に参加する8人がいま進行中だ。坂部美恵さんは、その最初の参加者の一人になった。坂部さんは生活クラブの消費者運動に加わって37年たつ。「よい牛乳を飲むから始まって、原水爆禁止の署名運動もやりました。しかし、子どもに危ない物を食べさせないという思いからやってきたので、無理をしてこなかったつもりです」と述懐する。それでも、今回の共同購入プロジェクトは、初期費用はゼロであっても設備総額が大きく、もう少し様子を見てからという人もいるので、あえてファーストペンギンを買って出ようと思った。「ある先輩に3.5%が変れば、世の中は変わると言われました。これまで先輩たちの先人としての努力に乗っかってきたけれど、今度は自分の番だという思いからです」という。
 
坂部美恵さん

実は、生活クラブエナジーが再エネに取り組んだのは、福島第一原発事故より前で、取り組みは歴史が長い。守本香さんはじめ多くの役員たちは口をそろえて、チェルノブイリ(チョルノービリ)原発事故で、生活クラブ生協で共同購入していたお茶に放射能が検出されたことがきっかけになったという。自分たちで安全なエネルギーを創らなければならないと、秋田県にかほ市に市民風力として風力発電「夢風」を建設した。「夢風」は福島第一原発事故以前の2010年6月に構想がようやく実現に向かい、東日本大震災の後、2012年3月に稼動した。その後、定期的に地元との交流会を催している。「夢風」は出力1990kWhで発電量は年間473万kWh(1300世帯分)の計画でしたが、昨年(2025年)、第2号出力1990kWh「千颯(ちはや)」も完成し、落成記念のイベントも開かれ、私も参加した。そして、2014年10月に生活クラブエネジーが設立された。生活クラブエナジーは、いまや74箇所の再生可能エネルギーの発電所を持ったり、出資したり、供給先を確保したりしている。

足元からの「エネルギー革命」

再生可能エネルギーは一つ一つが小規模で分散型のエネルギーである。それゆえに、地方自治体のイニシアティブなしには進まない。日本のように官僚と天下りと政権政党のトライアングルが政治献金で固く結びついた原子力ムラの支配が強い国では、なおさらである。実際、生活クラブの電気自給の試みは、東京都世田谷区の粘り強い脱炭素事業の取り組みなしには実現しなかっただろう。保坂展人さんは衆議院議員を3期つとめた後、福島第一原発事故直後の2011年4月に行われた世田谷区長に立候補し当選した。保坂展人氏は「私は原発事故がなければ、区長選に立候補しなかった」という。その理由の一つとして「今までの巨大発電所による中央集中型から地域分散型の電力システムに変えたいという思いが強かった」ことをあげる。その後、保坂さんは世田谷区長になるや否や、再生可能エネルギーへの転換を促す政策を次々打った。

2013年から、世田谷区が事業者に区の公共施設の屋根等を貸し出し、太陽光発電事業を行い始めた。区営上祖師谷一丁目の第二アパート1号棟、区営八幡山三丁目の第二アパート、区営上祖師谷一丁目の第二アパート2号棟、世田谷区事務センター、子ども子育て総合センター、宮坂区民センターで次々屋根貸しソーラーを実施していった。また神奈川県三浦市にある区有地(三浦健康学園跡地)に開設した太陽光発電所で、年間で一般家庭の約160世帯分の電気を発電して収入をあげている。

つぎに、群馬県川場村(木質バイオマス発電)、青森県弘前市(雪国対応型太陽光発電)、長野県(水力発電)、新潟県十日町市(地熱発電)、新潟県津南町(小水力発電)といった地域の再生可能エネルギーを区が買って、区の学校、保育園、区民、事業所に供給する事業を行っている。世田谷区の中では、成城地区で脱炭素をテーマとしたまちづくりを展開している。

さらに、2019年以降、FIT(再エネの固定価格買取制度)が終わった(卒フィット)太陽光発電を東京電力より1円高い1kWh=9.5円で買いり、それを一般家庭に供給する「世田谷でんき」プロジェクトも始めている。


保坂区長は元衆議院議員であることもあって、常に国の行政の失敗を意識し、対抗的政策をとることで地域から全国的な政策革新をもたらそうとしてきた。新型コロナウィルスの大流行に際しても、政府と厚労省に先んじて高齢者施設中心にPCR検査を実施し、罹患率を大きく引き下げた。世界で起きているエネルギー転換に逆行する政府と経産省に対抗して、政策革新をもたらそうとしているのである。

もちろん世田谷区の「世田谷でんき」や生活クラブの「東京まちなかソーラー」も「限界」がある。マンション住まいだと、壁や屋根は共用部分になるので、マンションの管理組合の合意が必要になる。アパートやマンションの賃貸で住んでいる人は、設備資金の回収年数がかかるために、参加しにくい。家主がやるしかない。その場合、ソーラーと蓄電池について減価償却できるので、かなり有利になるが、家主がエコと安い電力料金を“売り”にしなければいけない。まだ時間がかかるだろう。

電気メーターの「こちら側」から社会を変えよう!

これまで見てきたように、生活クラブの共同購入方式は、新規に屋根にソーラーを乗せて自ら発電所になる動きだとすれば、世田谷区の卒フィットによるソーラー活用はすでに一定期間使った既存の屋根置き太陽光発電を集めて大きな発電所にする試みである。現在、160名ほど参加しているが、保坂区長は、卒フィットの屋根置きソーラーを保有する世帯は5000名ほどになると見積もる。それをまとめられれば、そして、この石油ショックを契機にして生活クラブの新たな屋根置き太陽光発電が増えていけば、本当に東京のど真ん中に発電所が生まれる可能性は高い。

これまで政府は、再エネや蓄電池の普及を妨げるような圧力を加え一貫して原発推進の政策をとってきた。だが、彼ら「原子力ムラ」の支配が及ぶのはあくまで電力会社の送電網、私たちの家の電気メーターの向こう側までである。メーターのこちら側、すなわち自宅内で太陽光パネルや蓄電池を設置することは家電製品を買うのと基本的に同じである。それゆえ誰にも止められない。

原発由来の電気は使いたくないと考える人々は、不足分の電力を再エネ割合が非常に高い電気供給する新電力会社「生活クラブエナジー」と契約すればよい。そうすることで、大手電力会社との契約から離れ、自然エネルギー由来の電力だけでほぼ自宅の電気を賄うことが可能になる。多くの人々が原発優先の電力会社からイチ抜けしていけば、残る電気利用者に原発の高コストはしわ寄せされていく。みなイチ抜けしなければ、残る電気利用者はどんどん損することになる。その一方で、利用者たちの大量購入によってソーラーと蓄電池のコストは低下していく。あるところで、ティッピング・ポイント(臨界点)を超えていき、雪崩を打っていく。

こうして、たとえ私たちは一人一人は小さい存在であっても、電気メーターのこちら側から消費者として自分たちの手で社会を変えることができる。そのために何か大げさなスローガンは必要ない。一人ひとりの消費者が自分の生活を防衛するという目的のために行動すればよいだけ。そして消費者個々人の主体的行動によって原子力ムラの支配から解放されることができるのである。


金子勝(かねこ・まさる)
1952年、東京生まれ。東京大学経済学部卒業。法政大学経済学部教授、慶應義塾大学経済学部教授などを経て、現在、慶應義塾大学名誉教授。著書多数。近著に『平成経済――衰退の本質』(岩波新書)、『岸田自民で日本が瓦解する日』(徳間書店)、『高校生からわかる日本経済なぜ日本はどんどん貧しくなるの?』(かもがわ出版)、『裏金国家――日本を覆う「2015年体制」の呪縛』(朝日新書)、元農水官僚で農政アナリストの武本俊彦氏との共著『「食料・農業・農村基本法」見直しは「穴」だらけ!?』(筑波書房ブックレット)、『フェイクファシズム』(講談社)がある。

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