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食と農の未来へ。 実験でつなぐ水田活用

食と農の未来へ。 実験でつなぐ水田活用 提携先 JA庄内みどり・遊佐町共同開発米部会【庄内遊YOU米(ゆうゆうまい)】
7月のコメ作り、「作溝」をする、遊佐町共同開発米部会会長、今野修さん。昨年も開発米部会では、契約数量通りに出荷、契約を上回る申し込みにもできる限り応えようと対応した
 
「令和の米騒動」と呼ばれた一昨年来のコメ不足と米価高騰。落ち着きを取り戻したように見えるが、気候危機や農業人口減少など課題が解決されたわけではない。農業政策は迷走を続け、いつまたどうなるか、先行きは不透明だ。山形県のJA庄内みどり・遊佐町共同開発米部会では、生産現場に迫る多くの課題に向かい、次世代につなぐ道を開こうと、数々の実験を重ねる。力の源泉には、50年以上提携を重ねた、生活クラブ、食べる側との関係がある。

危機を越えてきた提携の歴史

Uターンして今年から就農した息子の峻さん(写真右)と並ぶ今野さん。「消費の現場で話し、次のコメ作りに生かすまでが農業、必死に田んぼに向き合うことで恥ずかしくない話ができる」と常々伝えている。後継者が集まる産業にするためにも再生産できる価格プラス収益は必要だと言う

庄内地方の7月。青々と育ったイネの中をバイクのような乗り物で進むのは、JA庄内みどり・遊佐町共同開発米部会(以下、開発米部会)の会長、今野修さんだ。後方の板が泥をかき分け溝を作っていく。「こうすると田んぼの隅々まで水が均等に行き渡るんですよ」

コメ作りは田植えと稲刈りだけではない。合間の作業や細かい水田管理は実に多様だ。特に「庄内遊YOU米」には、減農薬、有機入り肥料など生活クラブ連合会と協議して決める独自の栽培基準がある。丁寧な管理と対応が品質、収量に影響するから手は抜けない。20年前、20代で就農した開発米部会副会長の阿部健五さんは、親の代からの部会メンバー。「コメ作りのベースは『遊YOU米』。最初から農薬は慣行栽培の半分以下が当たり前でした」と話す。今野さんは、「とことん共生米」(栽培期間中、化学農薬・化学肥料不使用)も手掛ける。雑草、害虫、生育の状況を常に点検し異常の察知と早めの対処が欠かせない。「除草剤を使えれば簡単なのですが」と苦笑する。

生活クラブと開発米部会の提携は1971年にさかのぼる。当時、コメの生産流通は国の管理下にあり、生産者と消費者が直接提携するのは前代未聞だったという。それでも「安心できる栽培基準でおいしいコメ」「再生産を保障する価格で気象条件に合った品種」と、一致しにくい双方の要請をすり合わせ実験と試食を重ね栽培法や品種を見いだしてきた。「共同開発米部会」という名前の由来でもある。

90年、遊佐町にアルミ工場進出の話が持ち上がった際には、生活クラブが反対署名を集め産地の環境保護活動を支援し、93年、冷夏による記録的米不足の折には、開発米部会が自家用飯米を提供する「一俵提供運動」で供給を続けた。一昨年、庄内地方豪雨災害の際の生活クラブの支援活動は記憶に新しく、昨年のコメ不足時も開発米部会は一俵提供を実施した。大きな災害や事件など、生産と消費を揺るがす問題が起こるたび、できる手立てを考え危機を乗り越えてきた歴史を持つ。

鳥海山から湧き出る豊かな湧水が田んぼに注ぐ。おいしいコメ作りにきれいな水は欠かせない

すぐに元には戻らない水田

両者が開拓してきた新たな試みの一つに、豚肉の生産者、平田牧場も交え、96年に三者で始めた「飼料用米」事業がある。自給率3割に満たない畜産飼料の一部をコメに置き換えれば海外への依存度は減り、米価維持のための減反政策(生産調整)のもとでも自由にコメを作れる。徐々にその意義は全国に伝わり、2009年には国の本格的助成制度も始まった。

飼料用米事業の目的の一つは、水田を畑にせず水田として維持することだ。当時は大豆や麦などへの転作が奨励されていたが一度畑にしたほ場でコメを作るのは難しい。「畑にすると、水をためる『耕盤』という土の層が乾燥してひび割れてしまう。保水できないだけじゃなく、周囲の水田にも水が行き渡らなくなります。周りが荒れたら病害虫も発生する。水の管理、草刈り、みんなで整備していかないと守っていけないのが農地。 荒らすのは簡単ですが、水田は荒れたらすぐには元に戻らない」と今野さんは説明する。

今回のコメ不足で多くの農家、農業法人が飼料用米を、買い取り価格が高騰した加工用米、主食用米に切り替えた。すぐに増産できたのも水田として活用してきたためだと言う。一方、これによって窮地に追い込まれたのは、飼料用米の供給が激減した畜産業者だ。「この間、米価はずっと生産原価を割る低価格で推移してきたため、少しでも値段が高い方に誘導される動きを止めるのは難しかった」と、今野さんは言う。それでも、大きく飼料用米生産を減らした近隣自治体や大手農業法人など、周囲に比べれば遊佐町の切り替えは圧倒的に少なかった。今野さん自身は、昨年あえて飼料用米の作付けを増やしている。利益にならないのはわかっていた。それでも、平田牧場の人たちの顔が浮かべば、やるしかないと踏み切った。「ここから始まった事業だし、提携しているのは生活クラブだけじゃなく、同じ生産者組織『生活クラブ親生会』の仲間。家畜のふん尿は堆肥になって水田に戻ってくるのだから、循環型農業を次につなげていきたかった」

図らずも今回、飼料用米の意義が立証された形となったが課題は残る。畜産業にしわ寄せせず、農家も振り回されない方法はあるのか。今野さんは、主食用米はともかく、加工用米の買い取り価格が高騰したことに納得がいかない。「飼料用米も加工用米も同じイネ。転作という扱いなら同価格にできないものか」と疑問を呈す。飼料用米なら豚は必ず食べるし、肉の消費量は今後もあまり減らないはず。堆肥確保のためにも畜産との提携はなくせない。

「肥料も飼料も、国際情勢や為替の変動でいきなり高騰します。畜産業者も減少している。食料自給力を高めるには、国は肥料や飼料の自給まで考えなければいけないのではないか。例えば、農家への補助金じゃなくてもいい。畜産農家を補助して、飼料用米を高く買ってくれればそれでいいんです」と語気を強める。
 
飼料用米ほ場のたて看板

共に立つ、ものづくり最前線

共同開発米部会の副会長、阿部健五さんのご家族。左から阿部千恵さん、健五さん、美津子さん、五志郎さん

長引く円安は、肥料、燃料、資材などの価格を上げ、生産コストに跳ね返ってくる一方、気候危機で作業は一層過酷になる。遊佐町でも高齢者の離農は年々増え、若手農家が受託して生産を続けているのが現状だ。少しでも危機を打開するため、開発米部会では、今もさまざまな実験を手掛け、新たな道を模索する。

前出、阿部健五さんが手掛けるのは、高温でも品質や収量に影響が出にくい、気候危機対応型品種「ゆきまんてん」の栽培だ。山形県が開発し、県内各地で実証実験が行われ、昨年奨励品種に指定された。部会では、遊YOU米と同じ条件で育て、病害虫や生育具合を点検できるよう、一部のほ場で試みる。阿部さんによれば、作りやすく収量もよく食味も申し分ないという。高温による収量低下は今回のコメ不足の要因の一つだ。気候危機対策として大きな期待が寄せられる。
阿部さんが栽培する多様な品種のコメ。実験品種、「ゆきまんてん」の他、鳥海風土の丸餅の原料となる「でわのもち」も栽培している
 
除草剤は使えないため、あぜの草刈りもすべて機械で行う。温暖化により雑草は勢いを増している
一方、開発米部会独自の実験は、環境保全や自給など、生活クラブからの要請に応えるものが多い。水田をかき混ぜ、水を濁らせることで光合成を抑え雑草の発生を防ぐ「アイガモロボ」、適期にほどよく施されるよう肥料を包む、便利だが海洋汚染につながる「マイクロプラスチック」を使わない肥料、畜産飼料への輸入大豆の配合を少しでも減らすための高タンパク質飼料用米などなど。だが、アイガモロボは、今期不調で雑草を抑えることができなかった。マイクロプラスチック対応型肥料も気候によってはうまく機能しない。「正直、中山間地では収益が上がらないですね」と今野さんは苦笑する。部会から多少の補填(ほてん)はあるが、割には合わず実験にはリスクが伴う。それでも、先輩たちがさまざまに実験してくれたから今があると実験に手をあげる部会員は少なくない。

「何が起こるかわからない時代、材料が入手できなくなるかもしれず、代替品の可能性を考え、常に選択肢をふやしておきたいから」と今野さん。何より、食べる約束をしてくれる組合員に応えたいとの思いは強い。「生産者だけで実験をしているわけではない。食べること、予約することで組合員も共に参加する実験」だと言う。阿部さんは就農後3カ月ほどで組合員との交流会に参加した。「コメを食べている人が直接声をかけてくれることに驚いたことを鮮明に覚えています。いいコメを届けたいと思ったことが、今の自分のコメ作りにつながっています」と当時を振り返る。

2000年に比べ、この26年間で農家数は3分の1に減った。農業就業人口は今年初めて100万人を割ったという。「今はコメ余りと報道されていますが、この状況では、今後、気候の悪化やちょっとした変動で、途端に不足する可能性は十分にある。気づいたときには、国産米は貴重なものになっているかもしれません」と、今野さんは警鐘を鳴らす。「付加価値をつけて高価格で買ってほしいわけではない」と今野さん、阿部さんは口をそろえる。願うのは、食べ続けられる価格、作り続けられ、後継者が続きたいと思える価格だ。同時に今野さんは、食べる人が共感を持ってくれるようなコメ作りをしたいとも言う。それにより、生産現場の後継者と同時に、食べる人も育っていくと考えるからだ。

新たな実験には、組合員による支えが欠かせない。その成果を広げるためには、国の農業政策への働きかけも重要だ。生活クラブ連合会を含む6生協は、今年6月、こうした思いも反映させ、農林水産省に「新たな水田政策策定に向けての提言」を届けた※。食べることで実験を支え、現場の手応えをまとめ提言する。食と農の危機が迫る今、開発米部会と生活クラブは、共にものづくり最前線に立つ。

※詳しくはこちらから
生協6グループが共同策定した提言を農林水産省山本政務官へ提出(掲載日:2026年6月23日)

水田は地下水の涵養(かんよう)、貯水と共に、多様な生き物を育む多面的機能を持つ


撮影/高木あつ子
文/本紙・宮下 睦
 
『生活と自治』2026年9月号「連載 ものづくり最前線 いま、生産者は」を転載しました。
 
【2026年9月25日掲載】
 
ニュース記事、読みもの記事は、掲載時点の情報に基づいて制作しています。掲載後の状況の変化により、記事内で紹介している内容が現在の状況と異なる場合があります。掲載から時間が経った記事をお読みになる際は、あらかじめご留意ください。
 

 

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