種子法廃止がもたらす未来 生活クラブ連合会会長に聞きました
日本の種子を守る会副会長 加藤会長
――(2017年)4月の通常国会で、主要農作物種子法(種子法)の廃止が可決されました。
生活クラブ連合会では、種子法廃止が可決されてすぐに反対する声明を出しました。
種子法は戦後日本の食糧安定供給のために、稲、麦、大豆の種子を、食料主権の観点の下、国や都道府県が主導して生産、普及することを目的として制定された法律です。種子法が廃止された場合、農業試験場などの公的機関の予算が縮小されることが懸念され、国民の公共財である種子や関連事業を、外資系を含む民間企業へ払い下げる事態になることを心配しています。
声明を出した後、すぐに農林水産省からクレームのような反応がありました。同法案が参議院を通過した際の付帯決議を見てほしい、生活クラブが心配するような事態にはならないということでした。
付帯決議では、都道府県がこれまで通り種子をつくるための財源は確保すること、多種多様な種子の生産を確保し、特定の事業者による独占によって弊害が出ないようにすることなどが記されています。
だから、種子法が廃止になっても何も変わらないというのが農水省の言い分でした。しかし、変わらないのであるならば、なぜ廃止するのでしょう。付帯決議の順守にも疑問がなくはないので、声明は撤回しませんでした。
「種」から考える農畜産業
――生活クラブにとって種子とはどういうものですか。
生活クラブの共同購入の歴史は、稲、麦、大豆のみならず、畜種などを含めて「種」の問題と向き合ってきた歴史だと考えています。産地ごとに異なる気候や土地柄などをふまえつつ、持続可能な第1次産業を支えるとすれば、種の問題を抜きには語れません。種は生活クラブの共同購入の根幹であり、生産者との重要な協議事項であり続けてきました。
例えば、平田牧場の豚は今では銘柄豚としても有名な「三元豚」ですが、どの豚種をどう交配させるか長年の試行錯誤の結果、あのおいしい肉ができあがりました。
また山形県遊佐町で栽培されている「遊YOU米」は、複数の品種をブレンドしています。同じ品種だと作業が集中してしまいますが、複数にすることで作業が分散し、労働の協同化が可能です。最近は平田牧場の豚が食べるコメ(飼料用米)も加えて労働の協同化が図れないかとも考えました。コメの生産にとって大切なことですが、今のところ難しい課題です。
遊佐町の上高田遺跡から出土した9世紀の木簡には、稲の品種名が書かれていました。
当時は気候変動に備え、いくつもの品種を作付けしていたことがうかがえます。日本の農業は、このように稲作を始めた直後から、種と向き合い、持続的な生産、安定生産に努力してきたのです。農業とはそういうものだと私は思います。
肉用鶏についても同様です。「チャンキー」と「コッブ」という2種類の外国鶏種が世界を席巻している中、生活クラブでは「はりま」という国産鶏種に取り組んでいます。日本の気候風土に合った鶏を育種関係者とともに育ててきました。肉用鶏の業界が一握りの巨大鶏種会社に独占されている事態に、私たちはもっと敏感であるべきです。まさにこの問題は、モンサント社が独占する遺伝子組み換え(GM)食品の問題と同一です。
遺伝子組み換えとの闘い
種子法により、都道府県の農業試験場では、それぞれの地域の特性のある品種が開発されてきました。米国やメキシコのトウモロコシも稲と同じように多様でしたが、GM種子が出てきてから、数種類に減ってしまいました。
GM食品の問題は、巨大企業が独占する種子との闘いだと思います。 一企業の一品種の種子だけが普及し、それ以外の種子がなくなってしまっては、気候変動や戦争、政変などがあった時、その影響は計り知れません。食べ物を自分たちで生産できなくなってしまいます。種子の支配にはそういう危険性があります。
種子は公共財なのですから、利益の対象にして、どこかの企業が独占するようなものではありません。まして主食であるコメについては十全な規制が働くべきで、その根拠となっていたのが種子法です。それが廃止されることは非常に心配です。
――現在、輸入飼料に対抗できる飼料用米の開発が進められていますが、影響はありますか。
心配なのは、飼料用米がGM米になることです。
今、コメの消費量は毎年8万トンずつ減少し、今後高齢化で人口も減っていきます。政府は2018年に作るコメから生産調整(減反)をやめ、主食用のコメの補助金もなくす方針を出しています。そういう状況の中で、補助金のある飼料用米に移行する農家が急増しています。しかしそれでは補助金がかさみます。財務省としてはなるべく削減したいのが本音だと思います。
飼料用米は主食用のコメよりも反当たりの収量が多い品種なのですが、現状では多くても反当たり800キロしか取れません。目標は1000キロ超です。ここまで多収になれば補助金を削減することができるかもしれません。これを可能にする技術としてGM技術が登場することが心配です。
自分が炊いて食べるコメについてはGM米では嫌だと思っている人は少なからずいるでしょうが、飼料用米ならどうでしょうか。人間が食べるコメではないからGM米であってもいいと考える人も出てくるのではないでしょうか。
補助金なしで飼料用米ができるとなると、それは都市部の国民からも支持を得られるかもしれません。
――組合員としては、不安になりますね。
前述した付帯決議が実効性を持てば、ただちに心配というわけではありません。生活クラブの組合員は「食料主権」を守る、種子を守る運動を、これまで通り継続していく必要があります。種子法廃止法案が通過したからもうだめだと思ってはいけません。情報を共有し、警鐘を鳴らすことは運動として不可欠です。
生命工学は日進月歩で、この種子法廃上の問題も含めて、「遺伝子組み換えとの闘い」は、新たな段階に入っていく可能性があります。
私たちは、種という問題について、食べる側も関心を持っていることを生産者にもっと伝えていかなくてはいけません。生産者も組合員がどのような種の作物を食べたいのか議論を深めてもらいたいです。
また他団体との連携も必要です。7月に「日本の種子(たね)を守る会」が設立され、生活クラブ連合会もそこに参加します。運動の輪をとにかく広くしたいですね。
【参考】
「食の未来のために種子を守る運動を 「日本の種子を守る会」設立総会開催」
(生活クラブ活動情報 2017年7月6日掲載)
『生活と自治』 2017年9月号 地域発・夢の素描 より転載
【2017年9月1日掲載】