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目の前のことを続けていくこと、それが食文化を、そして伝統を守ることに《食をつむぐ人たち・かつお節篇①》

三重県志摩市大王町(だいおうちょう)有限会社山彦鰹節
山下成彦さん(43歳)
▼動画(約5分、音声・字幕つき)
海の幸をもたらす美しいリアス式海岸と緑豊かな自然に恵まれた三重県志摩市。その中の波切地区で作られたかつお節は「波切節(なきりぶし)」と呼ばれ、江戸時代には舌のこえた江戸っ子たちから高く評価されていました。今ではほとんど作る人が途絶えた中で、山彦鰹節(以下、山彦)は古くから伝わる波切節の伝統的な製法を守っています。

豊かな自然の元、昔ながらのかつお節を作り続ける

じっくりと3度にわたってカビ付けをするかつお本節。

「ここは海と山しかないから」そう話し始めたのは社長を務める山下成彦(なりひこ)さん。昨年、父の勝日己(かつひこ)さんのあとを継ぎました。
山彦は、「波切節」発祥の地、波切に隣接する地区にあります。波切でかつお節づくりを習得した成彦さんの祖父が戦後すぐにこの地で創業し、それ以来波切節の伝統的な製法を守り続けています。機械乾燥が主流となっている近年のかつお節業界の中で、信念を持って薪の炎だけでの焙乾(ばいかん、熱を加えいぶしによる乾燥すること)にこだわっています。また、生のカツオを下処理して切って加工するところから、本節作り、さらにけずり加工まで一貫して社内で生産をおこなっているのも特徴です。

加工工場を併設している本社は素朴なたたずまい。徒歩10分程度歩くと海岸につく、のどかな場所にある。

成彦さんの家族と親戚など13人が働く小さな会社ですが、主に生活クラブ向けに昔ながらの本格的なかつお節「かつお本節」をはじめ、「混合けずり節」「L’sパックだし」「かつお細けずり」「かつお厚けずり」などを作っています。

江戸時代の番付表では手本となる「行司」の評価

全国の鰹節が江戸に集まり、舌のこえた江戸っ子たちによって作られた約200年前の「諸国鰹節番付表」の写し。

山彦が守り続ける波切節とはどのようなかつお節なのでしょうか。江戸時代には黒潮にのったカツオが日本近海で豊富にとれたため、かつお節は保存食として全国各地の太平洋沿岸で作られていました。それらのかつお節が江戸に集まってきたため、江戸っ子たちは全国のかつお節を相撲の番付に見立てて品評しました。
「黒潮とともにやってくるカツオは北上するにつれて脂がのってきますが、このあたりでとれるカツオは脂のりがちょうどかつお節に適していたんです。加工技術も優れ、味、香り、形を高く評価され、番付表では手本としたいかつお節として、行司役に選ばれたと聞いています」と成彦さんは波切節が江戸時代から高い評価を受けてきたと話します。

豊かな森の恵みが伝統的なかつお節作りを支える

山彦が作る波切節は、カツオの解凍方法から、切ったカツオをボイルする温度、薪に使用する木の種類など、各工程の細部で長年の経験に基づく様々な工夫が施されています。その中でも特に大切にしているのは、カツオに熱を入れて乾燥させる「焙乾(ばいかん)」と呼ばれる作業を100%薪による炎でおこなうことです。
本社の近くにある薪置き場。約1年分の薪が保管されている。
薪は6か月ほど自然乾燥する。うず高く積まれた薪の積み上げ作業も重労働だ。

地元の木を薪に使用

近所の人に頼まれ、伐採作業を自分たちで行うこともある。
時には大きな木も切り倒す危険な作業。木は再び育つように根元を残して切る。
山彦のかつお節作りに欠かせない良質な薪は、地元で調達しています。「使う薪の量は、かつお節製造に使うカツオの量より多いです。ですので、特定の木の種類にこだわらず、地元の業者から薪を調達しています。それだけでは間に合わないので、近所の人から『木を切って』と頼まれれば忙しい業務の合間を縫って伐採に行くこともあります。頼んだ方は木を切ってもらえて、こちらは木をもらえるので、両者にとって好都合です」。海だけでなく、豊かな森に恵まれたこの地だからこそ、薪だけでの焙乾が続けられています。

薪の炎100%で、香りにこだわる

いくつもの煙突が目印の節加工場は本社から車で数分。焙乾時は大空に煙がたなびく。

「スーパーなどで出回っている市販のかつお節の中には、電気やガスの熱で加熱して乾燥したものも多いと聞いています。また、『薪でいぶした』とパッケージに書いてあっても、途中で香りづけにちょっとだけ薪を使っただけだったりするものもあるらしいです。でもそういうものは、食べてみると香りがしなく、すぐわかります」。薪のみで焙乾をおこなったかつお節の香ばしさは、全く違うそうです。「薪100%での焙乾でこそ本物のかつお節を作ることができます。これは絶対に続けなければいけないと思っています」とそれまで穏やかに話していた成彦さんが語気を強めます。

かつお節作りは職人の仕事、見て覚える

慎重に、でもスピーディーに成形作業をこなす。

父の勝日己さんから「ひと通りできるようになって、もう安心」と、代を譲られたのは2019年5月のことでした。
「子どものころから祖父や父に『あとを継げ』と言われ続けてきたので、自分にとってここで働くのは当たり前でした。『嫌だ』と言ってみたこともありますが、すごく怒られましたね」と成彦さん。高校を卒業してすぐに山彦で働き始め、「ほかの仕事は知らないので、仕事とはこういうものなのだろうなと思っている」と話します。

社長となった今も日々現場を担当しており、主に「けずり」と呼ばれる、本枯れ節を作るために焙乾を終えカビ付けする前に節の形を整える成形作業に従事しています。「削りすぎたらロスが出るし、かといってきれいに表面を磨き、形を整えなければいけないので、経験を必要とする仕事です」。夏は暑く、冬は寒い作業場で、1日に300本近くの「けずり」をたった1人でこなします。

「父は最初にひと通りは教えてくれましたが、あとは『やってみろ』というだけでした。できが悪いと怒られましたが、どこが悪いかは言ってくれないので、自分で考えなくてはいけませんでした。父も祖父からそのように受け継いだのだと思います」。
祖父、父から受け継いだのは「薪を100%使ったこの製法が本物だということ」、そして「楽をしてはおいしいものは作れない」という思いだったのです。

1日300本近くの成形を1人で黙々とこなす。
ウロコが残っていないかなど自分の目で確認しながら、手作業での仕上げもおこなう。

今やっていることを続けていく、ただそれだけ

毎朝カビ付け室で湿度や本節の状態のチェックをすることから1日が始まる。

かつお節という日本の伝統食に携わっている成彦さん。しかし、あくまでも職人として目の前の作業一つ一つに集中し、食文化の伝統を背負っているという気負いはありません。
「その日によって気候も違うし、かつお節作りはまだまだわからないことも多い。今は目の前のことに集中しています」。
 
工場長の奥谷明治(めいじ)さん(左)は10歳年上のいとこ。頼れる存在。

とはいえ、かつお節産業の未来は心配が尽きないのも現実です。
「毎年の気候や海の状態で、原料となるカツオの漁獲量や値段がどうなるかも心配ですし、かつお節づくりの根幹である薪の調達にも不安があります」。地元の木材業者は恒常的な人手不足で、事業の継続が厳しい状況だそうです。いざというときのために、自社で山を確保していますが、「薪が調達できなくなったら、そのときはかつお節作りはやめる」そう心に決めている成彦さん。昔からずっと続いてきたことを同じように続ける厳しさを感じながらも、「とにかく、今作っている品質を守る。そして今やっていることを『現状維持』で続ける」、それだけを目標に、成彦さんをはじめ従業員全員が日々の業務に精進しています。

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