ホームタウンみなみ(横浜みなみ生活クラブ生協) 配送センターが地域の人々の生活を支える拠点に
【連載】みんなで広げる たすけあい
生活クラブグループの生協や関連団体では、福祉・たすけあいの活動や事業が各地でとても豊かに展開され、さらに広がりをみせています。これらの取組みを紹介します。
生協の配送センターと聞いて、何をイメージしますか?多くの方のイメージは「注文したものをトラックに乗せて届けてくれる拠点」といったようなものでしょう。その配送センターで、
・居住喪失またはその恐れがある女性への「住まい」の提供
・多世代食堂(こども食堂)やフードパントリーの実施
・親子で気軽に立ち寄れる保育スペースの展開
をしている生協があります。どのようにして可能になったのでしょうか?
2023年4月、横浜みなみ生活クラブ生協(以下、横浜みなみ)の旭センター(横浜市)では、3階を改装し、シェアハウスNagomo(なごも)・多世代食堂Minnade(みんなで)・保育スペースMitete(みてて)を備えた「ホームタウンみなみ」を開設しました。人々の生活を支える拠点として大きな進化を遂げることができました。
横浜みなみ理事長の籠嶋雅代さんにさまざまなお話を伺いました。
「シェアハウスNagomo(なごも)で数か月過ごしたあと、この春に自立していった女性がいます。彼女は『なごもの近くに住みたい』と旭区内にアパートを見つけて暮らし始めました。」(籠嶋さん)
入居していた間だけでなく自立した後も関係を継続したい、という利用者の思い。シェアハウス・多世代食堂・保育スペースが連携しながら、地域の人々にとってなくてはならない存在となりつつあるホームタウンみなみは、どのようにつくられたのでしょうか。
「私は子育てなどで大変な時期に、生活クラブや地域の人たちとの交流が支えになっていました。今は個人主義や核家族化などが進み、地域の子育てが難しくなっていると感じています。地域の中の貧困や孤立なども深刻な状況にあります。生活クラブのたすけあいの活動を地域に開くことで、誰もが安心して暮らしていける社会にしていきたいと思い描いていました」。
実際に籠嶋さんは、生活クラブ生協神奈川の創立50周年記念映画『みんなの一歩~生活から社会を変える~』(2020年)の中で、旭センターの3階の女子独身寮などの使用されないスペースを活用して地域福祉の場をつくりたいと、自らの思いを話していました。
実際に籠嶋さんは、生活クラブ生協神奈川の創立50周年記念映画『みんなの一歩~生活から社会を変える~』(2020年)の中で、旭センターの3階の女子独身寮などの使用されないスペースを活用して地域福祉の場をつくりたいと、自らの思いを話していました。
横浜みなみ理事長・籠嶋雅代さん
認定NPO法人さくらんぼ(以下、さくらんぼ)は、横浜市で30年以上前から保育事業に取り組んできました。保育園を巣立った子どもが、成長後に親に頼るのが難しい状況におかれることもあることを知り女子学生のための下宿をつくり出すなど、地域で必要とされることを事業化してきました。コロナ禍では、非正規雇用の女性たちの不安定な暮らしが顕在化する状況を見て、さくらんぼは「住居を失った女性などのためのシェアハウスをつくりたい」と生活クラブ生協神奈川に伝えていました。
このように、「地域づくりを実践・発信できる拠点を開きたい」と考えていた横浜みなみと、「女性を対象にした居住支援事業をしたい」と考えていたさくらんぼが協働し、さらに生活クラブ生協神奈川が加わり、3者で共同事業体を立ち上げてホームタウンみなみをつくることが決まりました。実際に改装していくためには大きな資金が必要となります。どのようにして準備することができたのでしょうか。
シェアハウスの構想は、居住困窮状態にある女性(母子家庭を含む)に対する自立生活支援の新しいモデルとなると認められ、国土交通省の「住まい環境整備モデル事業」の補助金を受けることができました。その他、生活クラブの「福祉たすけあい活動支援制度」「生活クラブ福祉事業基金」の助成金も活用しています。
福祉たすけあい活動支援制度
生活クラブ福祉事業基金
また、資金面だけではなく、社会福祉協議会・横浜市旭区の子育て支援課・地元の自治会などとのつながりもとても大きな助けとなりました。
「社協や区からの情報提供などは活動を大きく後押ししてくれました。また、自治会長さんたちが地域にとって必要な機能だと応援してくださっていて、生活クラブの活動を地域に開くことができました。私が映画の中で語っていた『妄想』を実現することができました。」(籠嶋さん)
シェアハウスNagomo(なごも)には10~20代の女性が入居し、さくらんぼのスタッフが生活コーディネーターとして相談や見守りをしています。入居者は多世代食堂Minnade(みんなで)にも参加し、少しずつ地域の人たちとも馴染んできています。
「利用者が安心して社会に戻るための場となっていてうれしいです。これからもつながり合って、地域のセーフティーネットの役割を果たしていきます。」(籠嶋さん)
多世代食堂Minnade(みんなで)では、毎月第3金曜日の夕方に多世代食堂を開いています。子どもだけでなく地域の人だれでも立ち寄って、食事ができます。組合員や地域の方などたくさんのボランティアが50食以上を提供。食べる人も作る人もみんなが笑顔になれる場になっています。
「食に困っている方の支援はもちろんですが、独居の人や家族で訪れる人もあり、料理の好きな組合員の方がいきいきと調理していします。いろいろな人がつながる場に広がっています。」(籠嶋さん)
食材は、生活クラブ生協の提携生産者「JA庄内みどり」からお米や野菜が送られてくる他、公益社団法人フードバンクかながわ、生活クラブみんなの農園、地域の方などから寄せられています。
多世代食堂Minnade(みんなで)には、フードパントリーの棚もあります。種類別に並んでいる食品の箱のから、必要なものを持ち帰ることができます。主にフードバンクかながわからの提供品ですが、旭区の資源循環局が実施しているフードドライブや、旭センターの回収箱(入口に常設)に集まる食品などが並びます。このところ来場者がとても増えてきたので、月1回だった開催数を2024年4月からは月2回に増やしました。
保育スペースMitete(みてて)は、親子で気軽に立ち寄れる交流スペースとして自由に過ごせる場です。「子育てひろば」を週1回開催する他 、整体講座などの企画を月1回開催しています。旭センターで働く生活クラブ職員の子どもの保育もしていて、将来的には保育所としての展開を検討しています。
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「ホームタウンみなみ」は開設から1年が経ち、多世代食堂への来場者は回を重ねる毎に増えています。しかし、まだまだ組合員にも地域の人たちにも知られていないと、籠嶋さんたちは考えています。
「参加している人に自分たちの活動が〝すばらしいこと〟だということを改めて伝えることも大切です。多世代食堂Minnade(みんなで)は食事提供ができる営業許可を取りましたので、今後は多世代食堂以外に組合員がカフェや日替わり食堂などを開くこともできます。地域の人が気軽に来られる場所にしていきたいです。」(籠嶋さん)
ここまでお読みいただいた方の中にも、自分の地域で何かを始めてみたいという方もいらっしゃることでしょう。多くの場合、人材や資金、ノウハウなどをどのように得ることができるのか気になるかもしれません。
「まずは始めてみてくださいと伝えたいです。困った時に相談に乗ってくれる、助成金の情報を知っているなど、協力や応援をしてくれる人や団体に必ず出会えます。また、生活クラブの組合員には力のある人がいっぱいいるので、安心して暮らせる地域づくりが進んでいくと思います」と、籠嶋さんはエールを送ります。
【2024年6月5日掲載】