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重要目標8:共に生きる社会への模索 生活クラブの考える「非戦」のための「共生」とは(前編)


 
生活クラブ2030行動宣言」は、11の目標を掲げ、サステイナブルな未来を目指しています。
重要目標8では戦争のない、誰もが安心して自分らしく暮らせる社会をめざし、国内外を問わず多様な交流を行なうことで、 母語の違いや宗教・世代・障がいの有無をこえた相互理解をすすめています。それぞれの考えや背景を持つ人びとが共存する社会において「非戦」という大きな目標を達成するため、 一人ひとりが積み重ねるべき「共生」とはどのようなものなのか。 今回は、情報紙「生活と自治」との共同企画として、「非戦と共生」をテーマに、世界各地で困難な状況にある人々を取材するフォトジャーナリストの安田菜津紀さんと、生活クラブ連合会前会長、伊藤由理子さんとの対談を行ないました。
「生活と自治」8月号に掲載された対談の様子を、前後編に分けて掲載します。

2030行動宣言「重要目標8」についての詳細はこちら

 ACTIONする人 
認定NPO法人「Dialogue for People」副代表 安田 菜津紀(やすだ なつき)さん
生活クラブ連合会前会長、同顧問 伊藤 由理子(いとう ゆりこ)さん
 

共に生きる社会への模索。人権と対話からの希望

ロシアによるウクライナ侵略から1年半がたとうとしている。ウクライナだけでなく、シリアやミャンマーなど世界各地で紛争、混乱が続く。誰もが回避したいと思うのに、なぜ戦争は頻発してしまうのか。本紙に「対話する日々の中で」を連載する、認定NPO法人「Dialogue for People」の副代表、安田菜津紀さんは、多様な人を取材し、その背景を伝えることで、互いを尊重し、学び合う関係づくりを模索する。生協運動もまた、一人では実現できない自分の思いを、他者と力を合せて実現しようとする活動だ。戦争を回避し、共に生きる社会を目指すために何ができるのか。安田さんと、生活クラブ連合会前会長の伊藤由理子さんが、それぞれの実践の中から思うところを語り合った。
 
写真提供/認定NPO法人「Dialogue for People」(D4P)、撮影/安田菜津紀

食と農、地に足をつけて考える、暮らしの在り方

体験が伝える実感

安田 私がフォトジャーナリストとしての活動を始めたのは、高校2年生の時に、認定NPO法人「国境なき子どもたち」が主催する「友情のレポーター」の一人としてカンボジアを訪れたことがきっかけでした。それまでは、遠い国に大変そうな問題があるというぼんやりとした認識だったのが、実際に話を聞き、あなたと私という関係性ができたことで、友達が抱えている問題なんだと一気に距離が縮まりました。友達に対して自分は何ができるのかと考えるようになったのです。誰もがすぐ海外に行けるわけではないですが、なるべく出会った感覚に近い伝え方ができないかと模索し、人が見えるような発信を心がけていきたいと思うようになりました。伊藤さんは、今年インドに行かれたということですが、現地ではどのような体験をされたのでしょうか。

伊藤 今年の3月に環境活動家、ヴァンダナ・シヴァさんの招待でインドの農村地域を訪れました。シヴァさんはご存じでしょうか。もともとは物理学、量子理論、科学哲学の博士号を持つ科学者でしたが、1960年代にインドで行われた「緑の革命」の弊害を目の当たりにして以降、種子や環境を守る活動を世界的に展開している環境哲学者です。インドでは人口増に対応しようと、先進国の支援で農薬や化学肥料を大量に投入して増産を図ったのですが、当初は収量が増えたものの70年代に入ると土壌が疲弊し大打撃を受けてしまったんですね。シヴァさんは93年に、もう一つのノーベル賞といわれる「ライト・ライブリフッド賞」を受賞しています。最近では気候危機を訴えるグレタ・トゥーンベリさんも受賞した賞ですが、実は生活クラブ生協も89年に受賞しているんです。

安田 そういう賞があったのですね。シヴァさんはどのような活動をされてきたのでしょうか。

伊藤 開発のもたらす矛盾を指摘し環境を守ると同時に、貧しい人や女性を主体とする活動を進めています。自分の生家である広大な農地を有機ファームにして地元の女性たちと運営するなど、女性の自立にも力を注いでいるんですよ。科学技術の危険な側面も知るシヴァさんは、遺伝子組み換え(GM)作物にも強く反対しています。生活クラブ生協も、国内流通が始まる際にGM作物を使わないと方針を定め実践してきていますが、その活動の中心が一般の女性たちだということをシヴァさんはとても評価してくれています。何年かに一度、世界の女性の運動家や学者たちを集めて「多様性のための多様な女性たちの集い」を開催しているのですが、今回はそこに参加しました。

安田 土地や環境を守るために声を上げる女性たちの集いですね。

伊藤 そうなんです。その地域では、子育て中の女性たちが、銀行に自分の口座を持ちお金を借りて農地を取得、農園主として農業を行うスタイルが定着していました。彼女たちが地域の収穫祭を再現してくれたのですが、作物の収穫ではなく、種が採れたことを土の神様に感謝するお祭りだったのがとても印象的でした。

安田 その土地に根付いている価値観が現れていますね。

伊藤 種が採れれば来年も農業ができて食べ物が得られ、次の世代にもつながっていきます。インドの農業に関する書物は多数あるけれど、現地に行き、共に過ごすと伝わるものが全然違います。種を自治することの意味や、農業の主人公は農民なんだと改めて実感できました。
 
「多様性のための多様な女性たちの集い」で話すヴァンダナ・シヴァさん(写真提供 生活クラブ東京)

日本の食と農を見直す

安田 私も2018年頃、児童労働の問題に取り組む日本のNPOと一緒に、インドのテランガナ州を訪れたことがあります。綿花の産地で安価な労働力として子どもが働かされていて農薬で体調を崩す子も多く深刻な状況でしたが、地元のNGOと連携してオーガニックコットンの栽培を始めるなど、新しい活動を進めていました。そこで感じたのは消費者とつながることの重要性です。購入する際、生産の状況や背景を知って選択する消費者が増えることが大事だと思いますが、どうでしょうか。

伊藤 とても重要なことです。それは、海外との関係だけでなく今の日本で、より求められることだと思います。ウクライナが侵略されてから「食料の安全保障」という言葉が聞かれるようになりました。日本では、国会でいざという時の食料確保の問題として論じられ、多くの人もそのように理解しています。一方、米国農務省や国連食糧農業機関(FAO)などの定義は、「常にすべての人が(物理的・社会的・経済的に)健康に生活するために必要となる安全かつ栄養価が十分な食料を得ることができる状態」としていて、そのための教育も含まれています。基本的人権に近い考えですね。先日、農林水産省は、有事の際には、園芸農家や遊休農地に米などの穀物を作るよう国が指示できるという案を発表しました。畑地や遊休地ですぐに稲が育つわけはなく、農業への理解が全くない計画です。インドでは日々の営みを通じて、自分たちの権利や存在に誇りを持つ人々に出会いましたが、日本ではそうした食や農への共通認識が希薄な社会に向かっているように思います。まずは、日本における食料の価値を高め、権利への認識をつくっていくことが重要だと思うのです。

国内産業をどう支えるか

安田 食が基本的人権というのはとても大事な考えですね。確かに日本社会でそれがどこまで共有されているのか疑問に思うことがあります。日本の農業、特に第1次産業における技能実習生たちの人権侵害は深刻です。今年3月に最高裁で逆転無罪判決が出ましたが、遺体遺棄の罪に問われたベトナム人技能実習生が働いていたのは、熊本県のみかん農家でした。妊娠したら帰国させることが慣例化していたため誰にも打ち明けられず、たった一人で双子を死産し、名前をつけ弔いの言葉を書いて段ボールに入れて安置していたことが、一審、二審で有罪とされました。そもそもなぜ罪に問われたのか。なぜそういう環境で働かなければならないのか。同じような事件は後を絶ちません。そういう構造に頼らざるを得ない日本の第1次産業を、どうすれば共に生きる場にしていけるのかは、とても大きな課題だと思います。

伊藤 その通りですね。農業だけでなく漁業の現場も多くの外国人に支えられています。介護業界もそう。私たちの提携産地でも深刻な担い手不足を痛感しています。最近は農業や農村へ関心を寄せる人や若者は増えていて、そうした芽を大切に育てていく必要は感じながらも、外国の人に頼らざるを得ない現実も見なければなりません。今の仕組みに問題がある以上、自分たちで適切な体制をつくり、サポートすることも必要かもしれません。ただ、このままでは日本で働きたいという人はどんどん減ってしまいそうです。

安田 SNSなどで、日本の労働現場の情報もすぐに共有されてしまいます。収入面でも円安だから、ますますそうなりますね。

人権軽視の先に

安田 技能実習制度は、これからどう新しい制度をつくっていくか、過渡期にあります。建前としては、日本が技術を教え、国際貢献するという制度でしたが、実際には、安価な労働力の補填(ほてん)として利用されてきました。でも、機械を輸入するのではなく人間に働いてもらうわけですよね。それなのに「一定期間終了したら帰ってください。家族は連れて来ないでください」という規定は、生活し、人権を持つ人への扱いではありません。管理、監視下におく対象であり、さらには「潜在的な犯罪者」という見方をする人たちさえいます。

伊藤 一昨年、東京都武蔵野市で外国人の住民投票権を認める条例を制定する動きがありましたが、その反対運動の激しさに驚きました。なぜこれほど抵抗を示すのか、不思議に思うと同時に、それを許容するような社会の空気がとても恐ろしいと思いました。

安田 ただ単に差別とか言葉の暴力という問題にとどまらず、放置すると、身体的な暴力につながるリスクがあります。ナチス・ドイツによるユダヤ人大量虐殺の現場である、ポーランドの「アウシュビッツ=ビルケナウ強制収容所」跡の博物館に中谷剛さんという日本人の公式ガイドの方がいらっしゃるのですが、彼は案内した後、参加者にこう言います。「ここにはヒトラーの肖像は1枚もありません。大量虐殺はヒトラーという一人が起こしたものではなくて、ユダヤ人は出ていけ、障害者はいらないという街角のヘイトスピーチから始まっていたんです」。今の日本社会が街角のヘイトスピーチと、大量虐殺の間のどこに位置するのかを、日本に戻ったら改めて考えてほしい、と言われた時に、ものすごくリアリティーのある言葉だと思いました。第1次産業に携わる方々に対する今の扱いを放置してしまった先に、搾取や身体的な暴力につながる懸念が募っていくのではないかと思うのです。
 
アウシュビッツ博物館(2017年9月)。大量虐殺は、街角のヘイトスピーチから始まった(写真提供 D4P 撮影 安田菜津紀)


■安田菜津紀(やすだ・なつき)さん 
1987年神奈川県生まれ。東南アジアや中東などの海外及び日本国内で、難民や貧困、災害を取材、発信する活動をすすめる。「あなたのルーツを教えて下さい」(左右社)など著書多数。
■伊藤由理子(いとう・ゆりこ)さん
東京都生まれ。大学卒業後生活クラブ東京に入職。生活クラブ東京常務理事、同連合会長を経て、2022年から現職。共著に「イタリア 社会協同組合B型をたずねて はじめからあたり前に共にあること」(同時代社)、「西暦2030年における協同組合―コロナ時代と社会的連帯経済への道 ダルマ舎叢書Ⅲ」(社会評論社)。
■撮影/御堂義乗(みどう・よしのり)
1955年大分県生まれ。人物のほか、舞台写真、仏像なども多数撮影。歌手、俳優の美輪明宏さんの写真はすべて任されている。
■構成/生活クラブ連合会・宮下 睦

 
記事本文は『生活と自治』2023年8月号特集「共に生きる社会への模索。人権と対話からの希望」より転載。
【2023年8月15日掲載】
 

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