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重要目標8:共に生きる社会への模索 生活クラブの考える「非戦」のための「共生」とは(後編)


 
生活クラブ2030行動宣言」は11の目標を掲げ、サステイナブルな未来の実現をめざしています。重要目標8では戦争のない、誰もが安心して自分らしく暮らせる社会をめざし、国内外を問わず多様な交流を行なうことで、母語の違いや宗教・世代・障がいの有無をこえた相互理解をすすめています。
それぞれの考えや背景を持つ人びとが共存する社会において「非戦」という大きな目標を達成するため、一人ひとりが積み重ねるべき「共生」とはどのようなものなのか。今回は「非戦と共生」をテーマに、フォトジャーナリストとして東南アジア、中東、アフリカ、日本国内などで難民や貧困、災害の取材を行なっている安田菜津紀さんと生活クラブ連合会全会長である伊藤由理子さんとの対談を行ないました。

2030行動宣言「重要目標8」についての詳細はこちら

 ACTIONする人 
認定NPO法人「Dialogue for People」副代表 安田 菜津紀(やすだ なつき)さん
生活クラブ連合会前会長、同顧問 伊藤 由理子(いとう ゆりこ)さん
 

共に生きる社会への模索。人権と対話からの希望

途上国に学ぶもの

伊藤 これだけ人手不足で困っているのに、なぜ外国の人への人権侵害がなくならないのか。その根底に、経済大国日本が援助してやっているという意識があるのではないかと思います。ただ、実際にはどうなのか。5月に社会的連帯経済の世界大会で生活クラブの実践について発表するために、アフリカのセネガルに行きました。日本などからの政府開発援助(ODA)で造られた建物や高速道路が多くありましたが、地元の人はほとんど使っておらず、生活に寄与しているとは思えませんでした。そもそもセネガルの経済活動の8割程度が国内総生産(GDP)に換算されない「インフォーマル経済」といわれています。先進国の価値観からは貧しい国なのですが、豊かな文化や明るさを感じました。

安田 GDPに換算する経済重視は根強いですね。

伊藤 国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成を目指す際、先進国の科学技術で農薬や温室効果ガスを減らそうと考えがちですが、インドやセネガルを訪問した今、実は途上国といわれる国や地域の生活や農業、文化から学ぶべきではないかと思い至ります。セネガルの若者は実に誇り高い印象でした。GDPに換算される経済を基準に、貧しいから援助してあげなければという認識自体にゆがみがあり、それが相手国への敬意を損ない、人権軽視や援助の押し付け、さらには戦争にもつながっているように思います。これまでの認識ではもう維持できないのが、今の地球の問題ではないでしょうか。

人権なくして国益なし

安田 経済的つながりを「国益」として優先するために覆い隠されてしまうものもあります。2005年には、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に難民として認められていたにもかかわらず日本で認定されず、強制送還されてしまったトルコ出身のクルド人家族の事件がありました。彼らはその後ニュージーランドに受け入れられ、そこで人生を立て直しています。彼らが日本から送還された翌日に、日本がトルコに巨額の援助をするという報道がありました。それを見て、自分たちを難民と認定するとトルコ政府の人権侵害を追認することになるからしなかったのではないかと、先日お会いしたお父さんは話していました。日本は今もミャンマーの軍事政権と経済的つながりがあります。埼玉県にはクルドの人たちの一大コミュニティーがあり、とても豊かな文化です。入管法が改定されてしまえば、この豊かなコミュニティーは壊滅してしまいます。経済だけに目を向け、こういう文化を切り捨てる方向にかじを切るのか、岐路に立たされている感じです。

伊藤 本当にそうです。人権を尊重しない国が世界から尊敬されるわけがなく、別の意味で日本を危機に陥らせはしないでしょうか。

安田 戦前・戦中は、国益のために人権制限は当たり前とされ、結果として国益も人権も失う悲惨な経験をしました。そこから学ばなければ、同じことが繰り返されてしまいますね。

伊藤 そもそも日本でなぜこれほど働き手が少ないのか。こんなに人口減少が進むのか。将来に希望が持てる社会であれば、自然に子どもは増えるはずです。少子化対策として、目先の対応ばかりを討議しているのではなく、食や農の価値に目を向け、お金に換算されなくても支え合える社会の在り方を、途上国に学ぶ姿勢が今、とても必要ではないかと思います。
 
シリア北部コバニで、クルドの正月ネウロズのピクニックを楽しむ家族(2023年3月 写真提供 D4P 撮影 安田菜津紀)

共生のための非戦、人権

伊藤 世界でこれだけ争いが頻発(ひんぱつ)するようになると、今私たちに何ができるのか、協同組合として真剣に向き合わなければならないと考えています。協同組合は、主権を持つ一人一人が集まって、出資し、利用し運営をする団体です。生活クラブ連合会は全国に33ある各地域の生活クラブ生協が共同で事業をするための組織ですが、物事を決めるのはあくまで一人一人の組合員、という原則を示すために「連合憲章」を定めています。
今回、そのうちの一つ「非戦と共生の立場を貫く」について改めて議論をしました。なぜ、反戦でも不戦でもなく、「非戦」なのか。反戦も不戦も重要な姿勢だと思いますが、日常の自分たちの在り方として考えた時に、「戦うという手段を取らずにどう問題を解決するかを基本と考える」、その姿勢を表現したいと選択したのが「非戦」という言葉です。それは、自分の意見を主張しないということではありません。人でも国でも己を基本にしながら、利害が対立した際、つぶし合いをせずにどう解決するか。その方法は、「ともに生きる」努力以外にありません。この考えを明確にするため、言葉の順を「非戦と共生」から「共生と非戦」としました。人と人とが何か一緒にやろうと思ったら対立があって当たり前。それにどう向き合っていくかが、非戦を貫く第一歩です。そのスタンスを全ての場面で堅持していきたいと考えました。安田さんは非戦や共生について、どうお考えでしょうか。

安田 共生を土台にした非戦、その通りだと思います。日本では意見の対立を悪ととらえる傾向がありますが、意見を言い合う中で生まれてくるものがあるし、たとえ意見が合わなくても、同じ空間を分かち合っていけるという実感を、小さい単位から積み重ねていくことは重要です。違いを認識しながら、その違いとともにそれぞれが存在できれば、呼吸しやすい社会になりますよね。私は、それを醸成するのが、人権教育ではないかと思います。意見の対立や苦手な人、違う背景を持つ人に出会って、どう受け入れていいか戸惑う場面は、実際にいろいろあります。それでもその人が不当な扱いやいじめを受けていればそれは違うと、人権への共通認識を持つことはすごく大事で、単にやさしく、仲良くしようというだけの教育ではできないことだと思います。

伊藤 そう。共生とは、ただ仲良くするだけではありませんよね。人が集まれば、たとえ、ルーツや立場が同じ集団であっても、すぐその中に、上下関係や派閥ができ、排除や差別が起こります。どうしても譲れない場面もあります。その時、声の大きさや仲間の多さで決めるのではなく、とことん話し合って一致点を見いだし、その合意のもとに共に行動していく。その積み重ねが共生だと考えています。個々の意見を尊重すること、相手への敬意、人権の認識はそのベースになるのかもしれません。

一人一人に希望を託して

安田 負の連鎖が続くような今の社会ですが、2年前には今回と同じ入管法の政府案が廃案になりました。大勢の若者たちが活躍した結果です。「初めてのデモなんです」という大学生や高校生がたくさんいて、気が付いたら高校生たちが自ら企画、行動していました。廃案になった時、その高校生が「私にも声があるんだ」と言っていたのがとても印象的でした。彼女たちは、友達やアルバイト先に外国ルーツの人が当たり前にいて、この問題をとても身近に感じています。冷笑がまん延する社会ですが、彼女らの行動に希望を見いだせるように思います。一方、そうした負担を若者に負わせている大人世代の課題も忘れてはいけないと思います。次世代にどうバトンを渡せるか、大人が問われていますね。

伊藤 今は、子どもたちが育つ過程で触れ合う大人の数が、昔に比べとても少なくなっています。だから親や周囲の大人がどう生きるかは、子どもにとってより重要になっています。大人になると自分の本音を言う場は持ちにくいけれど、あえてそういう場をつくって話し合い、社会にどう働きかけていくか見せていく責任もあります。生活クラブは、大人が自分らしく生きられる社会をつくるための場をつくっていきたいと思います。それは子どものためでもあるけれど自分の問題でもある。遠回りかもしれないけれど、今、それが必要ではないかと思います。

安田 つくっていきましょう。先日は、静岡地裁で生活保護費の引き下げ取り消しを求めた訴訟で原告が勝訴し、名古屋地裁では同性婚を認めないのは違憲だと明確な判決が出ました。司法が的確に判断したことはうれしい結果です。これをどう社会に組み込んでいくか、まだ課題はありますが、当事者含め、多くの人の努力の積み重ねの結果として、この判決があります。そう思うと、少しずつでも社会は変えられるし、一人一人にできることは大きいと思います。
 
名古屋入管で亡くなったウィシュマ・サンダマリさんのビデオ開示を求める署名を提出する大学生と遺族


■安田菜津紀(やすだ・なつき)さん 
1987年神奈川県生まれ。東南アジアや中東などの海外及び日本国内で、難民や貧困、災害を取材、発信する活動をすすめる。「あなたのルーツを教えて下さい」(左右社)など著書多数。
■伊藤由理子(いとう・ゆりこ)さん
東京都生まれ。大学卒業後生活クラブ東京に入職。生活クラブ東京常務理事、同連合会長を経て、2022年から現職。共著に「イタリア 社会協同組合B型をたずねて はじめからあたり前に共にあること」(同時代社)、「西暦二〇三〇年における協同組合―コロナ時代と社会的連帯経済への道 ダルマ舎叢書Ⅲ」(社会評論社)。

■撮影/御堂義乗(みどう・よしのり)
1955年大分県生まれ。人物のほか、舞台写真、仏像なども多数撮影。歌手、俳優の美輪明宏さんの写真はすべて任されている。
■構成/生活クラブ連合会・宮下 睦


 
記事本文は『生活と自治』2023年8月号特集「共に生きる社会への模索。人権と対話からの希望」より転載。
 


生活クラブでは誰もが安心して自分らしく暮らせる社会をめざし、共生のために必要な相互理解と対話を積み重ねています。
多様な国や民族との相互理解を深めるために、経済的な指標に頼らず、世界中の市民や地域との交流をすすめています。
 
2023年に韓国で開催した「アジア姉妹会議・代表者会議」。1999年に姉妹提携を結んだ生活クラブ連合会と台湾の主婦連盟生協、韓国の幸福中心生協連合会から総勢30人ほどの組合員代表が参加しました。

2023年 韓国との「アジア姉妹会議・ウェブ交流会」の開催記事はこちら

2023年 インド・デラドゥン市での「多様性を求める多様な女性たち」国際イベントの開催記事はこちら

また、母語の違いや宗教・世代・障がいの有無に関わらず、誰もが安心な食やコミュニティにアクセスし参加できるよう、生活クラブ連合会公式WEBサイトの多言語化や、生活クラブのインターネット注文「eくらぶ」の視覚に障がいのある方向けに音声読み上げソフト対応など、より多くの人へ情報を届けるための整備をすすめています。

2030行動宣言紹介動画公開中&「わたしのアクション」募集中!

重要目標8の達成のため、自分が取り組みたいアクションを宣言してくれたのは音訳ボランティアグループYomu²の皆さん。
 

Yomu²では視覚に障害のある方や文字を読みづらい方でも食をはじめとする暮らしに必要な情報にアクセスができるよう、生活クラブ連合会が発行する情報誌『生活と自治』や生活クラブ東京が発行する『ジョイエス』などの音訳に取り組んでいます。

Yomu²による『生活と自治』リーディングサービスについての詳細はこちら
※リーディングサービスの配信方法について…地域により、クラウドサービスでの配信に変更している場合があります(2023年7月末時点)

現在、Instagramではみなさんが考えた「わたしのアクション」を募集中!
2030行動宣言の重要目標を達成するためにあなたが実践したい、もしくは今実践している取り組みをSNSで発信しませんか。あなたが考える普段の暮らしの中で実践できることや、これから実践してみたいことをぜひご投稿ください。

 
【2023年8月15日掲載】
 

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